初雪「深津サン!!起きて!!」
何やら騒がしい様子に重たい瞼を薄く開くと、ふかふかのニットにダウン、マフラー、耳当てと完全防備の恋人。興奮したように目を輝かせる姿は、耳をピコピコ動かし短い尻尾をブンブン振る小型犬さながらである。
「…」
「だめッスよ、起きてください!」
あまりの眠さに聞こえないふりをしても、今日のリョータは引いてくれないらしい。冬の朝は特に苦手だ。眠さに加えて深津の冷えた手先をリョータが拒むときた、動き出す気力が湧くまでに時間がかかるしそりゃあ目蓋も簡単には開かない。
「うるさいピョン」
「外見てくださいよ!雪かき、雪かきしましょう!」
目を輝かせて興奮した様子のリョータを撫でながら、開かれたカーテンの奥に目を凝らせば確かに、こんこんと雪が降っている。この様子じゃ相当積もっているだろう。
「今日は平日だし無理ピョン」
「深津サンのスマホに電話来てましたよ」
「⁈」
「俺が出ました」
「⁈⁈」
「交通機関見込めないから有給使ってって」
「…どいつもこいつもどうかしてるピョン」
スマホを受け取り、社内メーリスで出勤なしの連絡を確認する。そのまま流れるようにウェブニュースをひらけば、全線運転見合わせの文字が大きく右から左へ流れていた。
悪戯が成功ししてやったりと鼻を鳴らすリョータの重力に従った柔髪を掻き分け、額に唇を落とす。
秋田と違い、雪かきの道具すらない家でどうする気だったのかはわからないが、思い切って今日のために買ってしまうのもいいかもしれない。
「宮城、ホームセンター行くピョン」
「!!」
少し浮かれた突然の休日。なんだかんだ年甲斐もなく雪をぶつけ合い、小さな雪だるまを二つ並べた。
2人で選んで買った雪かき用のスコップは、雪が溶けた後も仕舞われることなく、でかい面をしてしばらく玄関先に立てかけられていた。