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    まもり

    @mamorignsn

    原神NL・BL小説置き場。

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    まもり

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    少女漫画第二弾。
    頑張る蛍と小悪魔押せ押せ万葉が見どころ。

    #万蛍

    今日、告白します「え、いいの!?」

    稲妻に平和が訪れ、抵抗軍が解体されてから一週間後の元屯所にて。
    次なる目的地は決まっているのだが、まだ私にはどうしてもここにいなければならない理由があった。

    「うむ。明日であろう?構わぬよ」

    少年が朗らかに笑いながら持っていた荷物を地面に置く。解決したとは言え国家レベルで大規模な問題だったのだ、色々と後片付けが残っているらしくゴローの手伝いをしているのだそう。
    彼の名は楓原万葉。稲妻を巡る旅で知り合い共に戦った仲間だ。とにかく優しい男の子で、惹かれていくのにそう時間はかからなかった。
    率直に言う。私は彼が大好きだ。

    (だから……)

    新天地に向かう前に気持ちを伝えたい。これからは会う機会もあまりないだろうし、思い出が風化してしまわぬ内に告白、しなければ。そう考えて勇気を出し、彼を買い物に誘ってみたのだ。
    で、今に至ると。

    「そうだな……巳の正刻。待ち合わせ場所は此処で良いか?」

    朝十時。万葉の為に必死で勉強した稲妻知識の一つが役立った。

    「う、うん!でもほんとにいいの?疲れてない?」
    「全く。こう見えて体力には自信があるでござるよ。でなければ一流のお尋ね者にはなれぬ」

    冗談めかした言い方に噴き出したが確かにその通りだ。追手という追手を蹴散らし逃げ続け、時には野宿もして……中性的な容姿であるがその実強健なのだろう。

    「すごく説得力あるね。女の子より綺麗かもって思うのになー、指とか美しすぎるよ」

    そう言って彼の手に触れると、ぎゅうっと握られた。驚いている内に手首を掴まれ、手のひらを合わせられる。

    (あ……)

    大きい。
    指も……私のそれより節くれていて。
    不意打ちで男女差を見せつけられ硬直した。ぎこちない動きで目を合わせると、少しだけ首を傾けて万葉が笑った。

    (ず、ずるい)

    曲がりなりにも稲妻での日々を共にした仲だ、彼の意図が分かってしまった。敢えて何も言わずに意識させるのが一番効くと……判断したのだろう。分からなければ、良かった。

    (お望み通り、大ダメージだよ)

    ぷしゅう、と音がしそうな勢いで真っ赤な顔を俯けた私は、こんなので告白なんてできるのか、明日生還することができるのか。心の底から心配になった。




    次の日。

    (あああ緊張してきたぁ〜っ……!)

    もうすぐ十時。待ち合わせ場所で一時間前からウロウロしている私は、胃を引き絞られる感覚のせいで吐き気を催していた。

    (あ、あと数時間したら、万葉のものになってるかもしれないんだよね!?)

    いくらなんでも気が早過ぎるがその可能性がゼロでないという事実に発狂しかける。どうしよう、今日から「万葉と付き合ってます」って言えちゃうかもしれないの?そんな権利を有してしまえるのか……うう、更にお腹が痛く……!
    取り敢えず気分を落ち着けようと屈伸する私。周囲には畑仕事でもするのかと思われているに違いない。

    (前髪、左分けの方が良かったかな?)

    確実に男性にとって果てしなくどうでもいいポイントを気にしだして後悔していると。

    「すまぬ、待たせたな」
    「か、万葉っ……!」

    至っていつも通りの彼が現れた。だがしかし無駄にエフェクトがかかってキラキラの王子様みたいに見える。デートパワー恐るべし。早朝から薪割りを頼まれた、などと言っているが輝きはそのまま。斧を持った王子様だっている、多分。

    「ぜ、全然待ってないよ。今来たの」

    定石はこれだろう?一夜漬けだが勉強はしてきたのだ、余裕の一言を返す。
    が。

    「そうなのか?あちらの御老人に"あんたが恋人かい?あの子、半刻も待っとるぞ"、と言われたもので」

    ばっと右を向く。御老人とやらがニヤニヤとこちらを見ている。おじいちゃん……!
    言い逃れはできない。観念して正直に告げた。

    「……万葉と逢えるの楽しみ過ぎて結構早くに着いたの」

    気にしなくていいからね、付け足して言うのも忘れない。
    こっぱずかしい。もう帰っていいだろうか?それかやり直したい。
    砂になる方法を必死に考えていると万葉が笑った。

    「拙者もでござる。しっかり食べて楽しもうと、朝餉はおかわりまでしたのだぞ」

    前言撤回。帰りたくないしやり直さなくていい。元気に白米を食す彼を想像して悶えた。

    「さて、そろそろ行くか」

    風にのった紅葉がひらりと流れてゆく。
    満面の笑みで頷き、私は大通りの方へと歩きだした万葉の隣に並んだのだった。




    「して、何処へ行きたいでござるか?」
    「えっ……」

    賑やかな町の真っ只中。食べ物屋から呉服屋から簪屋から……買い物をするにはうってつけの場所。本来なら大いにテンションが上がっているはずなのだけれど、肝心なことを失念していた。

    (ぜんっぜんプラン決めてなかった……)

    痛恨のミス。忙しい彼を誘っておきながら、私は滝のように汗をかいて黙り込んでしまった。そもそもモラがない。女っ気の欠片もない話だが武器の鍛錬に根こそぎぶち込んだばかりだった。

    (いやでもそんなの言える?絶対無理、財布にしに来たのかよって思われるじゃん。相手はタルタリヤじゃないんだよ?)

    しれっと惨いことを考える。顔面蒼白になって万葉に背を向け財布の中を見ていると、

    「……一昨日、姉君との酒飲み勝負に負けてしまってな」
    「へ?」

    なんの脈絡もない話が始まり呆けて彼の方へ向くと小袋を逆さにして困り顔をしていた。ふるふると振っているが葉っぱが一枚落ちたのみ。

    「たっぷりと奢らされたでござるよ。……今日は金のかからぬ遊びでひとつ頼みたい」

    なんて優しいのだろう。
    私は知っている。彼が普段使っている財布が別にあることを。私が恥ずかしくないよう……気遣わなくて済むよう、最適な解を出してくれたのだ。
    にっこり笑う万葉を見て、やはりこの人が好きだと改めて実感した。

    「……じゃあ、端から端まで観て回りたい」
    「それは面白そうだ」

    快諾する彼。楽しげに視線を巡らせている。
    ふと横を通り過ぎたカップルが視界に入った。

    (わ……)

    指を絡ませて繋いだ手。こ、恋人繋ぎってやつだ、本に載ってた。

    (わた、しも……)

    チラと万葉の雪みたいに白い手を見つめる。
    ぎゅってしても、いいかな?だけど、付き合ってるわけじゃないし……嫌がるかな?嫌われたらどうしよう。モジモジしている内に、

    「あの風車屋、そそるな。観に行こう」
    「あっ……」

    待って、まだ歩かないで。
    思わずはっしと……握ってしまった。少しだけ驚いた様子の万葉と目が合う。

    (わ、私のばか!せめて許可を得てからっ……)

    慌てて引っ込めようとしたが、ゆっくりと握り返してくれる。「え……」、掠れた声で言うと、

    「すまぬ。気が利かなかったでござるな。……はぐれぬよう、繋いでおこう」

    穏やかに微笑まれて。

    (やった……)

    やったあああ!!勇気出して良かった……っ!
    熱した鉄でもここまで赤くならないだろうと思われそうな顔を晒して、風車屋へと歩を進め出した彼に着いて行く私。好きだ、今すぐ伝えたいこの気持ち。でもやっぱり。

    「お主の手、えらく熱いな」

    そんな風に、慈しむような眼差しを向けられては。

    (言えるはず、ないんだよ……)

    ドキドキする心臓をどうにか鎮めて、ただひたすら歩くことだけに集中した。
    ちなみに、指を絡めるのは冷静に考えなくとも無理だった。




    「わー!色んな模様があるんだ」
    「そのようだな。いやはや、久方ぶりに風車屋を観に来たが実に趣深い」

    カラフルな風車たちがくるくる回るのを見て心躍った。綺麗なものから、可愛いものまで……ああ、モラさえあればクレーに買って渡したのに。ちょっぴり残念。
    買う気があるのではない為離れた所から眺める。万葉が「懐かしいな」と呟いた。

    「風車で遊んだことあるの?」
    「うむ。稲妻の子供にとってはかなり身近な玩具でござる。祭りの日に買ってもらって嬉しかったのを思い出す……」

    ちっちゃな万葉が親にねだっている姿を想像してキュンとした。ふー、と息を吹きかけて、うまく回せて喜んで……。
    いいなぁ、見たかった。好きな人だもん、全部知りたい。
    欲張りな願望を抱いていると万葉が手を引いてきた。

    「なに?」
    「紙芝居屋が来ている」

    紙芝居?
    ぽけっとして歩く私。一人の男性の周りにやたらと人が集まっている。なんだろう?

    (絵……?)

    子供たちに絵を見せながら喋っているのか。とある男ときつねのお話、らしい。

    「あれも稲妻じゃ身近なの?」
    「そうだな。絵本の読み聞かせみたいなものでござる。毎日いるわけではないから、ああしてやって来ると注目の的になる」

    なるほど。
    吟遊詩人を彷彿とさせる。あれは歌だが。
    また一つ稲妻の知識を手に入れホケーッと見入ったところで、物語は遂に山場を迎える。今までずっと自分に食べ物を持ってきてくれていたのが目の前にいるきつねだとも知らず、撃ち殺して。男が気付いた時には既に……。

    「う、うう……」

    悲し過ぎる。私は子供たちと一緒になって号泣してしまっていた。まさかこんな結末が待っていたとは。グスグス泣いていると万葉にぽんと頭を撫でられた。

    「そのように泣かずとも大丈夫でござるよ」
    「なんで?かわいそう過ぎるよ、万葉は悲しくないの?」
    「うむ」

    思わぬ返答に驚く。
    彼が目を閉じて静かに言った。

    「全ては縁で繋がっている。遠く離れようとも……たとえそれが死別であろうとも、必ずどこかでまた逢える。そこでいくらでも仲直りできよう」

    秋めいた風がさらさらと髪をなびかせる。葉擦れの音が聞こえてきて万葉が心地良さそうに口元を緩めた。
    彼は本当に大人びた少年で……けれどきっと、最初からこうだったのではないと思う。
    涼しい顔の下に秘めた沢山の出来事が今の彼を形作っていったのだ。

    (全部、知りたい)

    また……欲が頭をもたげる。なぜ私は稲妻で生まれなかったのだろう?彼を取り巻く人たちは私の知らない万葉をいっぱい見てきたんだろうな……。

    (いいなぁ)

    それが女の子だったりしたら。羨ましくて仕方がない。こんな自分、絶対彼に悟られたくないが。
    ちょっとばかしシュンとしていると万葉が口を開いた。

    「大層なことを並べ立てておきながら……ふむ、お主と離れるのは寂しいでござるな」
    「え?」

    繋いだ手の……指が、絡まる。
    瞬きひとつできない私の目が、熱を帯びる緋色の瞳を捉えた。

    「稲妻を出たら……拙者のことなど、もう忘れてしまうか?」
    「、そんな……わけ……」
    「同じように……他の誰かとこうして手を繋いで歩くか?」

    万葉の親指がそっと私の指を撫でた。自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる。地に足が着いているか本気で分からなくなってきた。

    (どうして、そんな風に言うの?)

    期待……しても、いいのだろうか?
    いや、してしまう。今だけはいつもの悪戯じゃないんだと、本心から言ってくれているのだと、都合良く考えてしまう。
    薄く笑ってこちらの答えを待つ万葉に……私は。

    「かず、は……その、わたし」

    が、しかし。

    「何してるんだ?」

    ギコギコギコ。油の差されていない歯車みたいな音を出して声の主の方へ向いた。ぴょこんと、可愛らしいお耳が……。

    「ゴロー……」
    「奇遇だな。机もないのに腕相撲でもするのか?」

    立っていたのは抵抗軍の小さな英雄。
    万葉に迫られいつの間にやら胸の位置にあった手にハッとして、羞恥心のあまりブンブン空中で振る私。

    「そそ、そうなんだよ、空気腕相撲!」
    「変わった握り方するんだな」
    「最先端だから!これ!」

    無茶苦茶に腕を振られながら声を上げて万葉が笑った。あああ恥ずかしい。ツボに入っていただけたし笑顔もごちそうさまできたし構わない!いいことにする!

    「ゴ、ゴローは何してるの?」
    「饅頭を買いに来たんだ。お裾分けしてやるよ」

    ほれ、そう言って彼が箱を渡してきた。普段なら大喜びするところだが、告白のタイミングをぶち壊されたことに今更ながらドンヨリしてきた。

    「味わって食えよー」
    「もうゴローとは話さない」
    「なぜそうなった!?」

    またもやケラケラと笑い出した万葉を横目に、私はもっそもっそと饅頭を食したのだった。端っこまで餡が入っていてとてもとても、美味しかった。




    夕暮れ時。
    店という店を観終わった私たちは、時間的に最後となるであろう次の目的地をどうするか、という話をしていた。

    「オススメとかある?」

    稲妻の地理に詳しくない私は万葉に丸投げするしかなかった。つくづくノープランで来たのが悔やまれる。
    うーむ、若干の間考えた後、彼が明るい声で人差し指を立てた。

    「そうだ、カエデを観に行かぬか?」
    「あ、万葉が好きな木だよね。確か」
    「うむ!見頃なのだ、稲妻を発つ前の思い出を飾るに相応しいでござるよ」

    それ程にか。
    「拙者も今年はまだ観ておらぬ」、ウキウキした様子で言う万葉にぜひ案内してほしいと伝えた。発つ前に……か。少しばかりの切なさを抱きながら。





    「わああ……!」

    圧倒されるとはこのことか。
    町からやや離れた森の中。私は視界を埋め尽くす紅に感嘆の声を上げた。

    「素晴らしいであろう?」

    彼の言葉に何度も頷く。連れて来られたここにはカエデが数え切れないくらい存在していた。万葉の着物の柄と同じ形……散ってゆく様も本当に美しくて。

    (これは確かに……思い出に残る)

    幾度も彼が私に語っていたのだがその理由がよく分かった。こんなにも美しい光景、誰かと共有したくなるのも当然だ。
    開きっぱなしの口を晒した私に万葉がクスクスと肩を震わせ、舞い落ちてきた葉を一枚すっと掴んで渡してくれた。

    「綺麗……ありがとう」

    優しく微笑む彼。少しの間、二人してカエデに見入って……不意に万葉が呟いた。

    「……次にお主と観られるのはいつになるであろうか」

    きゅっと、手渡されたカエデを持つ指に力が入る。同様のことを、考えていた。また長旅が始まるのは容易に想像ができてしまうし、そもそも。

    (全部が終わった時、この世界にいるのかな)

    はたして彼と同じ空の下に立っているのだろうか?そんな保証、どこにもないではないか。

    (私、万葉みたいに強くないから……)

    縁。素敵な言葉だ……でも。
    もっと確かなものがないと不安で仕方がないのだ。彼が私を好きなんだという、証明がなければ。

    意を決するしか、ない。

    「か、ずは」

    彼が……こちらを見る。

    「どうした?」

    いや、ちょっと待て。待ってくれ。

    (む…………無理)

    カエデをバックにした万葉がとてつもなく美しく見えてきた。こんな場面でデートパワーを発揮しないでくれ。

    (え、無理じゃない?期待してもいいのかなとか思ったの、誰?)

    私だ。
    よーく考えてみてほしい。人間がこの世に何人いると思う?全く分からん。要するにそれほど出会いの数があるということだ。
    その中で、好きな人が自分を好きでいてくれる確率って、どのくらいだと思う?

    (し、しかも、万葉だよ?)

    もうめちゃくちゃに優しくてカッコいいんだ。デートフィルターを外してみても大好きだ、その自信がある。

    ──好き。

    たった二文字ではないか。なぜ言えない?早くしろ、早く言え、ほら不思議そうにこっちを見てるじゃないか。あーあ、さっさとしないから。

    (練習しよう、すき、すき、すき、すき…)

    思うだけなら簡単なのに!

    「蛍?」
    「わああ!ごめん、ちょっと待って!」
    「待っておるが?」

    流石に困惑してきたのだろう、万葉にいきなり呼ばれて飛び上がった。

    ("好き"に代わる何かなら……)

    直接的な単語以外を発したい。だが、そんな魔法のような言葉あるはすが……それに。

    (だめだよ、ちゃんと、伝えなきゃ)

    そうだ、誤魔化してはならぬことがある。そして人生には腹を括らねばならぬ時がある。それが今だ、うん。
    ぐっ、と拳を握り締め。

    「万葉!」
    「む?」
    「言うね!」
    「うむ」

    なんの宣言だ。しかし覚悟を決めろ。いよいよ止まれない、止まるな、行け!

    「私っ……万葉が」

    一瞬、怯む。そして。

    「拙者が?」

    彼が……歩いてくる。え、なんで?

    「かず、はが」
    「そこはもう聞いた」

    どうして距離を詰めてくるの?そんなに聞こえない?声小さい?「万葉が」って何回言ってるの私。カズハガ、ああまた……、

    「どうした?続きは」
    「……う」

    いつの間にやらカエデの木を背に逃げ場を失っていた。含みのある笑みを浮かべた万葉が、手を突いてきて。

    「す、すす、す」

    なんで難易度上げてくるの!?限界なのにっ……ええい、頑張れ私の心臓……!

    「、っす」

    言いかけて──視界いっぱいに、目を閉じた万葉がいた。
    ふ…と微笑をこぼされ、

    「……き」

    続きは、持っていかれた。

    「っ……きゃあああ!?」
    「はは、悲鳴は傷つくでござるな」

    何語か分からない叫びを上げる私。ひとしきり笑った後、万葉が頬を指で撫でてくる。

    「すまぬ、やはり拙者から言いたくなった」
    「〜〜っ、え、は!?や、やはりって」

    いかにも意地悪そうな笑顔。そ、そんな。

    「気付いてた、の……?」

    表情を変えないのが何よりの証拠。一体、いつから……。
    ひとり頷きながらしみじみと言う彼。

    「恥ずかしがるお主に言わせるのも一興と思ったが……ふむ、自ら伝える方が性に合っておる」

    何枚上手なのだ、この少年は。
    パニックに陥った私は理性を保つべくこんなことを口走った。

    「な、なにも言ってない!」
    「む?」
    「なにも言ってないし、聞いてない!」

    恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!
    真っ赤になって現実逃避している私に、

    「ほう?」

    万葉がまた、笑って。

    「……ならばもっと近くで」
    「!?」

    ただでさえ近い顔が、また近付いてくるものだから。

    「わー!わーわー!」

    耳を塞いで必死に頭を横に振った。もはや幼児である。
    だが抵抗空しく彼がその手を掴みそっと、どけてくる。無理だ、ドロッドロのチョコレートで溶かされる三秒前。
    ところが。

    かぷ。

    「……っ」

    甘噛み、された。

    「ひああああ!?」

    大爆発。
    私の耳が爆弾でできていたなんて知らなかった、木っ端微塵。
    先ほどより余裕でデッカい悲鳴を上げた私。後ろに木がなければ間違いなく転げていたと思う。
    あっつい耳をむぎゅうと掴んで万葉を見る。

    「聞こえないふりをするからでござる」
    「なな、なんの、ことっ……」
    「この後に及んでまだ知らぬ存ぜぬ……。仕方あるまい」

    少しだけ瞼を伏せた彼が、艶めいた声を出す。

    「目に見えるものなら、観念するか?」
    「目……?」

    私の首筋に、トン…と万葉が指で触れる。待って、ちょっと、嘘だよね?

    「か、万葉」
    「朝起きた瞬間、拙者に愛されていると嫌でも自覚する……そんな証を」
    「わ、わか、った。わかったから、聞こえたから」
    「──もう遅い」

    楽しげに細まった緋色の瞳に射抜かれた刹那。
    ほんの一瞬、僅かな痛みが走って。
    じわりと……甘い痺れが広がっていく。
    言葉を失った。完全に機能停止。両手に白旗。
    やめて、覗き込まないで、今絶対泣いちゃってるから。

    (……くやしい)

    なんなんだ今日は、やられっぱなしではないか。悔しい、悔しいっ……!

    「……し」
    「うむ?」
    「こ、こんなの……消えちゃうし」

    涼しい顔の彼に、精一杯の虚勢。
    けれど。

    「……そう来るか」

    だめだ、余計なことを言った。
    また何か思いついたような表情をした万葉を見て後悔した。やめておけばいいのに。勝てるわけ、ないのに。

    「お主がそこまで大胆だったとは。つけてくれと言っているようにしか聞こえぬな」
    「ち、ちが……」

    ああ、反対側の首筋に指が這って……。

    「いつでも構わぬよ。何度でも、お主の──」

    あの官能的な痛みがもう一回、

    「……望むままに」



    「好き」の二文字さえまだ言えていないのに。こちらの思考などお見通しなくせにそうやって。

    (こんな証明……頼んでない)

    彼の怒涛の攻めになす術もない私が堕ちるまで……あと一秒。
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