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    かがり

    @aiirokagari の絵文置き場
    司レオがメイン

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    かがり

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    ぷらいべったー引っ越し(2019.10.28)
    あいさつ冬会話と草野心平の「秋の夜の会話」を少し下敷きにしてます。

    (2023.6.25再録集発行に伴い微修正)

    #司レオ
    ministerOfJustice,Leo.
    #小説
    novel

    冬の夜の会話:司レオさむいな
    ええ、さむいですね





    「『凍えそう』だなんて、それだけをメッセージで送ってくるのはやめて下さい」

     弓道場の射場に正座をして、そんなことをじとりと唱えてみたところで、あまり手応えもなく、彼の後頭部に当たって跳ね返ってくる。

    「ごめんごめん! メッセージ入れてたの忘れててさ!」

     しんと冷えた空気の中で、レオの明るい声がうわんと反響し、その響きはゆっくりと時間をかけて収束した。

    「寒いなぁって思ったら、何だか会いたくなっちゃって!」

     そんな風にあっけらかんと笑う、能天気な調子のレオは、寒波の注意報が出ている今日のような日であっても普段と変わらない。この人は、こと作曲において、自身の身体を顧みるということをしない人だ。だからこそ、司は常々彼を心配していて、その動向を気にかけている。
     少し前に得た「レオの恋人」という立場は、司のそうした態度へ、ある種の正当性を与えてくれたように思う。かと言って、レオの何が変わると言うでもなく、やはり事あるごとに、身体を大事にしてほしいというもどかしさをぶつけずにはいられないのだけれど。

     もやもやと渦巻く感情を抱えながらも、「会いたくなった」だなんて言葉に毒気を抜かれてしまうので、自分も大概単純だ。ただ、そんなことを言うわりに、司からの着信には応えてくれないのだからタチが悪いと思う。せめて場所を教えてくれさえすれば、学院中をばたばた探し回らずに、すぐに向かえたのに。
     そんな苦情もどこ吹く風で、レオは、正座した司の膝をクッションのように抱き込んで、そのまま器用に五線譜へ音符を書き込んでいる。

    「私はあなたのカイロでも湯たんぽでも無いんですけれど」

     毅然と言い放ったはずの言葉がどこか形無しなのは、きっとこの体勢のせいだ、と司は小さく嘆息した。
     冬の日暮れは早く、そして弓道場の射場は吹きさらしだ。すでに矢道には濃い闇が満ちていて、時折こちらまで届く風は冷たい。だというのに、先程から「書き終わるまで待って!」の一点張り。これでは、こちらの肝が冷えるというものだ。
     持参したカイロを彼の背中に貼り付けたのち、寒さを少しでも何とか出来ないかと身体のあちこちを撫でるように摩る。次からはブランケットか……もしくはいっそ寝袋なんかを用意しておこうと心に決めた。
     膝の上のレオは、司がぺたぺたと触れることを気にする様子もなく、作曲作業に勤しんでいる。彼の身体はどこもかしこも、何なら纏う衣服まで芯から冷たかったが、ここまで走ってきて火照っている司の身体には、丁度良いくらいだった。

    「ほんとに寒くってさ、動けなくなってたというか、これが冬眠か⁇ みたいなっ」
    「そんな訳ないでしょう、人間は冬眠しません。とはいえ、体温が低下しているのは間違いないので、防寒をしっかりしてください」

     レオは豪快に、わはは気を付ける、だなんて笑って見せたが、本気で思っているのかは怪しいところだ。

    「でも、実際冬眠ってどんな感じなんだろうなっ! じっと動かずに土やら何やらの中で眠り続けるだなんて、ちょっと死んでるみたいだ! それなのに、春の息吹によって目を覚ます! わはは、なんだか王子様の目覚めのキスみたい! 生命の停滞! 仮初めの死! 死から生への流転! あああ『霊感』っ! が……っ」

     捲し立てていた勢いは急に失速し、ゆらゆらと動いていた彼の頭は、司の膝の上へと着地する。

    「駄目だ……『霊感』は湧いてるのに……」

     そうしてレオは、膝を枕のようにして顔を横たえながら、「ちょっとあったかくなったから眠くなってきたのかも」なんて呟きを、低いトーンのままで零した。

    「もうっ、ほら帰りますよ」

     どうせ眠るなら、自宅の布団の上できちんと寝るべきだ。どうにか肩を揺さぶってみたものの、膝へ乗られていては、司も満足に動けずにされるがままになってしまう。
     もぞもぞと動きながら鼻先を擦り付ける動きは、どことなく小動物を連想させた。つい最近まで、ここで匿っていたネコの親子のような。

    「ううう、今なら安らかに眠れそう……」
    「それ、dramaの雪山とかで『寝ちゃ駄目だ』って言うやつでしょう」
    「だいじょうぶ、これは冬眠だから……」
    「大丈夫じゃないですよ、全く」

     この人は、発言の意味を分かっているのだろうか。
     先ほどレオも言っていたように、冬眠とは、動物が体温を下げて一種の仮死状態になり、そうして冬を越すことだと聞く。「仮初めの死」だなんて言ってみせたことをしようだなんて、どういう了見なのか。
     レオは時折、「満足して死ねる」だとか、こちらがゾッとしてしまうようなことを、事もなげに言ってみせる。彼が経験した悲しみや苦しさについて理解するには、まだ司には知らないことが多く、そうした言葉をどのように受け取るべきかについて、日々考えることしかできない。それでも、例え話の発言だとして、死なんてものに寄り添う物言いはやめてほしいと思う。
     この人のことを理解したいと思うようになってから、そんな歯痒さと切なさの底から、ちいさな灯火のような願望がゆらりと顔を出すようになった。
     いつかきっと、絶対に。隣に並び立ち、言ってやるのだ。

    (――ともに生きていきましょう)

     レオを起こそうと苦心しているうちに体勢は変わり、彼はいつの間にか、司の膝の上で仰向けに頭を横たえている。力の抜けた手がペンを手放したので、ゆるく開かれた冷たい指へ、己の指をそっと絡ませた。

     安らかな微睡みの中にいるときの、どうしようもなく幸せな気持ちなら、司だってよく知っている。彼が享受しているだろう心地よさの邪魔をしたくはない。邪魔をしたくはないけれど、こんなところで冬眠なんてされては、堪ったものではない。
    体温の違いを均すように、冷たい頬を撫でさする。呼吸は深く、それでも、擽ったそうに口角が上がるのが見てとれた。冷たく、白い相貌を瞳におさめて。
     そうして、そのまま屈み込んだ――さながら息を吹き込むように。

     ピクリ、と握っていた手のひらが反応したことを感じながら、とても近い距離で、その眦が大きく見開かれる瞬間を目にする。

    「……春の息吹ですよ、目が覚めましたか?」
    「……ああ、たしかに、スオ〜ってなんかすごく春っぽい、もん、な……?」

     明後日の方向に納得をしながら、「あれ、今……?」と目をぱちぱちとさせている彼は、どうやら眠気からは脱したようだった。





    ……えーーーと、さむいな?
    ええ、さむいですね
    さむいから、おまえ、もうちょっとこっち
    はいはい



    【終】










    月永レオの死と再生について定期的に考えてしまうなぁという短文だったんですが、アニメで突然のコンチェルトにびっくりしました。
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    かがり

    DONE(2025.6.23)
    ラブコレクター・ミニトーク「射止める心」より
    弓道部モブ後輩視点(モブ→司くんは心を寄せているけど恋愛感情ではない)
    司くんが弓道部部長だと捏造しています
    弓道関連用語については薄目で見てください
    正射必中!:司レオ「……朱桜先輩! お疲れ様です!」

     一礼して敷居を跨いだ弓道場で、真っ赤な髪色の人影を見つけた瞬間、反射的に弾んだ声が出た。
     私立夢ノ咲学院の中でも独特の雰囲気を持つ弓道場は、校舎の端に位置しているせいか、その場に相応しい静けさが支配している。思いのほか反響してしまった声を咎めることもなく、その人物は鷹揚に振り返った。スローモーションのように癖のない髪が揺れる。
     ぴしりと背筋を伸ばし、いつも保たれている綺麗な姿勢は弓道着姿がこの上なく似合う。そうして、夢ノ咲学院弓道部の部長たる朱桜司先輩は、悠然と微笑んでこちらに視線を向けた。

    「はい、精が出ますね」

     部で指定している活動日ながら、朱桜先輩以外の人影は見えない。校内ライブが近いから、きっとレッスンを優先している人が多いのだろう。元よりアイドル活動以外にはそれほど力を入れていない校風だし、弓道部も例外でなくそういった雰囲気を持つ部活だ。
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。七夕を楽しむ二人と、夏の風物詩たちを詰め込んだお話です。神頼みができない人にも人事を超えた願いがあるのは良いですね。
    >前作:昔の話
    https://poipiku.com/271957/11735878.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    星渡 折からの長雨は梅雨を経て、尚も止まぬようであった。蒸し暑さが冷えて一安心、と思ったが、いよいよ寒いと慌てて質屋に冬布団を取り戻そうと人が押しかけたほどである。さては今年は凶作になりはすまいか、と一部が心配したのも無理からぬことだろう。てるてる坊主をいくつも吊るして、さながら大獄後のようだと背筋が凍るような狂歌が高札に掲げられたのは人心の荒廃を憂えずにはいられない。
     しかし夏至を越え、流石に日が伸びた後はいくらか空も笑顔を見せるようになった。夜が必ず明けるように、悩み苦しみというのはいつしか晴れるものだ。人の心はうつろいやすく、お役御免となったてるてる坊主を片付け、軒先に笹飾りを並べるなどする。揺らめく色とりどりの短冊に目を引かれ、福沢諭吉はついこの前までは同じ場所に菖蒲を飾っていたことを思い出した。つくづく時間が経つ早さは増水時の川の流れとは比べるまでもなく早い。寧ろ、歳を重ねるごとに勢いを増しているかのように感じられる。
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