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    かがり

    @aiirokagari の絵文置き場
    司レオがメイン

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    かがり

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    ぷらいべったー引っ越し(2021.11.28)
    第2回Webオンリーで展示していた花を贈る司くんの話の前日譚です。

    (2023.6.25再録発行に伴い微修正)

    #司レオ
    ministerOfJustice,Leo.
    #小説
    novel

    秘する花を知ること:司レオ「ご卒業、おめでとうございます」
     綺麗に晴れ渡ったその日、レオが司と顔を合わせるのは、それが初めてではなかった。
     式の直前まで作曲に没頭していたレオを、講堂まで引きずっていったのは司だったし、式の後にKnightsのメンバーで立ち話をしていた折、隣で感慨深そうに相槌を打っていたのも司だった。更には、さりげなく声を掛けてきた弓弦に、「部活の後輩から」という名目で花束を貰った際、すぐ近くで同様に敬人に花束を渡していたのも司だ。ともすれば式の間以外はずっと一緒に居るような状況だったのにも関わらず、どこか改まった調子で声を掛けてきた司は、そっと細い包みを差し出してくる。それがどうやら、卒業を祝した贈り物であるということは、妄想するまでもなくレオにも分かった。
     添えられた小ぶりなカードには、瀟洒な筆致で「Congratulation」とだけ綴られている。紺のリボンで綴じられた細長い包装は、まるでつるぎのようだとぼんやり思う。透明なフィルムの内側、レースをあしらったトレーシングペーパーを上から覗き込むと、思わず感嘆の声が漏れた。
    「……青い」
     それは、真っ青な薔薇の一輪花だった。
    「きれいだな……! ありがとスオ~! これはKnightsからのお祝い?」
    「いえ、私個人からです」
     その答えを聞いて、レオは少しだけ意外に思った。何となくではあるけれど、この後輩は、もう少し暖かな色合いを好みそうな気がしていたから。
    「顔や服にはあまりくっつけないように気を付けてくださいね」
    「そうなの?」
     ふとそんな風に注意された内容が気になって、どうしてなのかと首を傾げてみれば、司は何ということなく説明をしてくれる。
    「このレベルで青い薔薇というのは、基本染色していますから」
     肌や服に色が付かないように、ということらしい。そして、「品種として青い薔薇は、もっと色が淡いんです」と付け加えられた。
    「ふうん? スオ~ってなんか天然にこだわりそうなのに」
    「そうですか?」
    「うーん、何というか、染色って言っちゃうと、綺麗だけど、本物では無いみたいじゃない?」
    「染色していない品種も、かなり改良した末に作られたものと聞きますし、一概にそうは言えませんよ?」
     まあ、この色こそを贈りたかった、というのはありますが、とぼそりと発せられた言葉はよく聞き取れなくて、はきはきと喋るきらいのある司にしては珍しいように思う。
    「うん?」
    「……でも、まるで私達みたいではないですか?」
     話を変えるように行われた問いかけの中で、「私達」と括った言葉が指すところの単位を、レオは測り兼ねた。
    「……染色した薔薇が?」
    「ええ。stageの上、mediaに乗った姿がIdolの全て。それと同じように、この目に見える有り様全てが、薔薇の美しさそのものなのだと思います」
    「ふうん……」
     そんな言葉を聞いて、「司らしい」だなんて思うようになってしまったから不思議だ。この後輩のことなんて、数カ月前までは何ひとつとして知り得なかったのに。
    「というか律儀なやつだな。弓道部名義の花束も、さっきケイトと二人で受け取っただろ」
    「あちらは伏見先輩と一緒に、弓道部員として贈ったものですから」
     部活の名義と個人の名義では、それぞれ花束の意味合いが異なるのだと言う。確かに人生の節目を大切にしそうなやつではあるけれど、少しだけ仰々しくも感じて、レオは宥めるように笑った。
    「卒業なんてただの区切りだぞ? なんだかいつの間にかすごいビルが生えてるみたいだし、今度はそこにステージが移るだけ。この先も、何かがひっくり返るみたいに変わるわけじゃない」
     Knightsも、アイドルとしての自分も、この先も続いていくのだから、と。ある意味でレオのそんな気持ちに端を発した「返礼祭」も、数日前に無事に終了したばかりだった。三年生の卒業や、ユニットの体制に変化があったとしても、この先もこれまでと同じように、穏やかとはいかないだろうが退屈することもない、そんな日常が続いていくことを、レオは信じている。
    「確かに、決して変わらないものはあるのでしょうが。それでも、何事も不変なんてこともありませんよ? ……それに、変化というものの多くは、きっと喜ばしいものです。……ねえ、『レオさん』」
     まずは一つ、とばかりに、王冠の継承によって変化した呼称をなぞって司は微笑む。いつぞやの子猫にでも接しているつもりなのだろうか。その表情は穏やかで優しく、この後輩がそんな表情を自分に向けるようになったのは果たしていつからだったか、レオは思案した。





    「……君も本当マメだよネ」
     そんな言葉とともに、ほら、と夏目が差し出したスマートフォンには、試験管の一輪挿しで背筋を伸ばす、青い薔薇の花弁が写し出されている。
     向かいに座る司は、彼がレオとルームメイトであることを思い出し、そうして、薔薇の明け透けな取り扱いに若干の気まずさを覚えた。
     レオ本人はというと、三日ほど前に簡素なメッセージのみを残して、また何処かへ飛び立って行ったきりである。司が詳細を把握できていないということは、プライベート寄りの用事なのだろう。レオは近頃、特に頻繁に海外を行き来していて、また薔薇を手渡せる機会について、司は常々考え込んでいる。
    「どうしてもって時は部屋に置いていってるんだヨ。ちょくちょく『元気にしてるか画像送って』なんて、時差を考えない催促をされるから、ちょっとはその辺考慮しろって伝えておいてくれル?」
     どうやら夏目は度々、司がレオへ贈った薔薇の世話を頼まれているらしい。
    卒業式をひとつの契機としてレオに薔薇を贈るようになり、そろそろ片手を超える程度の回数を数える。別に隠しているわけではないけれど、こうも真っ向から話題にされると、少しばかり気恥ずかしいような、複雑な心境だにもなる。
    「それは……申し訳ありません。しかし、逆先先輩から直接伝えた方が早いのでは?」
    「暖簾に腕押しでネ。君からの言葉なら、少しはまともに取り合うんじゃなイ?」
     夏目のぐったりとした物言いには、不在がちとはいえレオと同室で数カ月を過ごしてきた彼の苦労が偲ばれる。レオに代わって謝罪の言葉を口にしながらも、司は、夏目の言葉へ「任せてください」と豪語することはできずに苦笑を返した。レオのそうした態度が、接する人間によって変わるということはほとんど無いと言って良いし、それは勿論、ジャッジメントだなんだと相争った時期を越えて、少しずつ理解を重ねてきた司に対しても同様である。
     夏が近づく中で、本格的な暑さからはまだ少しだけ遠い。アンサンブルスクエアの施設内でも、好天で過ごしやすい午後のガーデンに不思議と人気(ひとけ)がないのは、夏目が普段から「魔法」と呼んでいる、ちょっとしたテクニックを駆使した結果なのだろう。魔法瓶で持参した紅茶で喉を潤しながら、そろそろ冷たい紅茶に変えてもらっても良い時期かもしれない、と司は思う。
     今日は、夏目と夢ノ咲学院内の「統治」の方針について話をするために、ガーデンの片隅のテラス席を占拠していた。ある程度議論も深まって、雑談も交じり始めた頃合いに、ふと、司がレオに贈った薔薇の話題を持ちかけられたのだ。
    「花を贈るってロマンチックではあるけど、結構大変じゃなイ? あれって毎回生花なんでしょウ?」
    「それほどでもないですよ。自宅用に購入したりとか、家の用事で使う際にも利用させてもらっているお店なので、こまめに連絡を取っていて、入荷状況の報告などについても、良くしてもらってますし」
     そつのない回答に夏目は興が乗って、気になっていたことを問いかけてみる。
    「結局さァ……この贈答って何をきっかけにしているノ?」
     魔法瓶を口元に運んだままの姿勢で、ぴたりと動きを止めた礼儀正しい後輩は、思案するように視線を上方へと向けた。そのまま紅茶を飲み下すと、ゆっくりと口を開く。
    「……きっかけ、と言うのであれば、卒業式でしょうね」
     言葉を選ぶ司の話を静かに聞きながら、夏目は先を続けるよう身振りで促す。
    「……式の際に初めて薔薇を贈ったとき、あの人は存外嬉しそうにしていて。それがとても、印象に残って。その……最低限、花を飾ったり、お水を変えたりですとか、何か生活の上で顧みるものがあれば、自身の身体も顧みることに繋がるのでは、という気持ちにもなって……」
     そういえば、レオは少し前から薔薇を飾る際には、何気なく茎の水切りを行うようになっていたことを夏目は思い出す。水も度々取り換えているようで、生花は毎回そこそこ長持ちしていた。
    「何というか……まるで花を贈ることそのものが『水をあげる』みたいな行為なんだネ」
     だとしたら、目論見は概ね成功していると言えるのだろうと夏目は思う。
    「贈る目的についても聞いてみようかなって思ったんだけど、もう答えが出ちゃったみたイ」
    「……目的、ですか?」
     言葉の意味をどう取るべきかと、司は小さく首を傾げた。
    「『花を贈る』という行為は、『思い』を伝えるための媒体として用いられがちだよネ。例えば母の日に贈るカーネーションは日々の感謝の表明だろうし、お祝い、お見舞い、お供え……もしくは、愛情を伝えたりだとかも、割とスタンダードな感覚ダ。つまるところ、思いを伝えて人間関係を円滑にするためだったり、より親密になるために用いられル。君の目的は何処にあるのかなって思っていたから、だから、一先ず納得したんだヨ」
     夏目のそうした説明に、司は一通りなるほどと思う。自身が花を贈る行為に目的があったとして、それが奔放な先輩を案じるためのものであるとするのなら、周囲もきっと腑に落ちる動機なのだろう。
    しかし、それに素直に納得ができないのは、他ならぬ司自身だったから不思議だ。
    「そんな風に言われると、……何と言いますか、少し違うような気がしてしまいます」
    「……へェ?」
    「……あの人が、私の贈った花で生活に張り合いが出ていると言うのなら、それは良いことだと思います。でも、きっと……突き詰めるなら、そんな殊勝な理由では無いんです。だって、そのための方法だとしたら、回りくどいでしょう……? それでも、あの人にこうして花を贈ることがどうしてなのかと問われれば……、それは、ただこちらを見ていてほしいだけなのかもしれません」
     司は、ジャッジメント後の舞台袖で、レオから青い薔薇のコサージュを受け取った。レオの悲しみそのもののようなその薔薇は、それでも、司が勝ち取った「奇跡」の形だった。
     そうして、波乱に満ちた返礼祭を経て、レオの「アイドルを続けたい」という望みを知ったとき、かつての悲しみを塗り替えるような願いを込めて、司は真っ青な薔薇の花を贈ったのだ。
     卒業式の一度きりで良かったはずのその贈り物がこんな風に続いてしまったことは、司自身も想定していないことだった。
     それでも、卒業後に日本にいない時間が増えたレオが、毎回、司の決意表明のような薔薇を、しかと受け取ってくれるから。その度に、司が薔薇の花に込めた意図を捉えようしてくれるから。だから。
    「青い薔薇は私にとって、ジャッジメントで勝ち得た『レオさんがいるKnights』の象徴ででもあったんだと思います。それでも、卒業後のあの人は遠くて。多分、意識的に『王』としての私から一線を引いていて」
     それが嫌なんです、と司は視線を落とす。
     レオが近頃、頻繁に国内外を行き来していることについては、元からの放浪癖の発露でもあるのだろうが、司への気遣いじみた意図も感じ取ってしまう。王が二人いては、国は混乱してしまうだろう。しかし、「それでも」と司は思う。彼が隣にいないことを嫌だと思う。
    「いろいろな思惑は差し置いて、そばでこちらを見ていて欲しい。あなたの王を……、いいえ、私を」
     ふわりと撫でるような風が司の蘇芳色の髪をかき混ぜる。
    「きちんと、見て欲しい、と……?」
     そこでやっと、そっと口元に手を寄せた司は、感情の在り処に今まさに気付いたという顔をしていて、そう言うところがこの優秀な後輩の「可愛げ」なのだろうと夏目は思った。弱み、だなんて、無粋な言い方もできてしまうかもしれないけれど。
    「これからどうしたいの、君ハ?」
     押し黙った司が思考の奔流から戻ってきた気配を察して、それとなく話しかければ、思いのほか落ち着いた声が返ってくる。
    「……『欲』の、有り様に気が付いたなら……そうですね、手を伸ばしてみたく思います」
    「フゥン、誠実だネ」
    「……そうでしょうか?」
    「欲を欲として理解した上で、それに対して向き合おうとできるのなら、それは美徳だヨ」
     夏目はそこで、ちらりと後方に視線をやってから、にっこりとした笑みを顔に張り付けて振り向いた。
    「……で、ごきげんよウ、騎士さま。遠目からだとどっちに声を掛けようか迷っちゃったのかナ?」
    「はッ」
     司が反射的に顔を上げて、夏目の視線の先に向き直ると、そこには話題の渦中の人であるレオが所在なさげに立ち尽くしている。
    「れ、レオさん⁈」
     司の大声に、ばつが悪そうに視線を逸らし、その先にいる夏目を見やる。
    「おまえとスオ~を見間違えるわけないだろ! ……でも、何で一緒に居るのかなって思って!」
    「で、盗み聞きしようとしたノ?」
    「盗み聞きはしてない!」
     心外だとばかりにすぐ傍まで駆け寄ってくるレオは、帰国した直後なのか、普段から使用しているキャリーバッグを引きずっている。
    「というかほんとに最近ちょくちょく一緒に居るの何で⁉ KnightsとSwitchで合同ライブでもするのかっ⁈」
    「合同liveの予定は今の所ありませんが、学院の中のことで、色々と調整をしていたのですよ」
    「そうそう、ボクらは同じ事務所でもあるし、学院の統治において協調しているからネ。用事が一段落した後も仲良くお喋りをしてたんだヨ。……先輩として親身に話を聞いてあげるのは当然だしネ」
    「スオ~はうちの『王さま』だぞ!」
    「別に引き抜くつもりは毛頭無いヨ。でも、彼は宙とも仲良くしてくれているし、話のタネが尽きないんだよネ。それに、騎士王と魔法使いなら、ベストパートナーでしょウ?」
    「マーリン気取りか‼」
     威嚇のように唸り声を上げ始めるレオとどこまでも楽しそうな夏目との間に、どうにか割って入った司は、動物でも宥めるようにレオを落ち着かせようとしていた。
    在学中は少しばかり夏目に刺々しい面があったレオも、ルームメイトとなってからは、そうした態度が鳴りも潜めていたと思っていたのだけれど。
    「あのですね、レオさん。話を聞いてもらっていたと言ってもKnightsの方針などでは決してなくて、ごく個人的なことで」
     だから安心してください、といった調子に、むしろ逆撫でされるようにレオは眉間の皺を深めている。あまりにからかい甲斐がある両者の様子に、夏目は思わず笑みを深めた。
    「……ま、とはいえ流石に此処までかナ。今後ともKnightsとは友好的な関係を築いていきたいしネ」
     そうして席を立てば、視界の端でシッシ、と手を払うレオの動作を司が窘めている。最後の悪戯心から、夏目はくるりと振り返ると、自らが買っている後輩へにこやかに声を掛けた。
    「じゃあまたネ、『ス~くん』」
     ヒラリと片手を振って遠ざかる夏目は、一際大きくなったレオの唸り声を聞いた。





    「……本当に、会話は聞いていなかったので?」
    「……聞かれたくない話してたの?」
     少しの間、二人でむっつりと睨み合っていると、瞬間、どちらともなく息を吐いたので、思わず力が抜けるように笑ってしまう。
    「レオさん、お昼はきちんと食べましたか?」
    「う、今日はまだ」
    「あなたはまたそうやって……!」
    「怒るなよ~これから食べようとしてたの! ほんとに!」
     日常的なものとなってしまったそんなやり取りの中で、司は先ほどの夏目との会話を思い出している。
     変化とは、喜ばしいこと。司はそう思うし、また、常々そう思えるようにしていきたいと考えている。それでも、この自覚によって、レオとの間で何か変わるものがあるのだろうか、と。少しだけ不安にも似た感情が、胸を掠めたのだ。
     結局のところ、こうして賑やかに言葉を交わしていると、司が自覚した欲は、これまでの感情――反目、心配、信頼、尊敬、何もかもの延長線上にあったのだという納得があって、杞憂であったことを実感する。
    「……私、これからCinnamonに行こうとしていたのですけど」
    「おっ、そうなの?」
    「よろしければ、レオさんもご一緒にどうですか? 本日から期間限定のSweets Fairが開催されてるので、その」
    「わはは、良いな! セナには内緒でな!」
    「Shhh! 『噂をすれば影』という言葉を知らないのですかあなたは!」
    「あはははっおまえの声もでかいぞ!」
     麗らかな日差しが髪にちかちかと反射して、手を引くレオのことを、司は改めて眩しく思う。結局その後、外部SNSで、パフェを頬張る二人の目撃情報が拡散されてしまったようで、ホールハンズで泉からお小言をもらう羽目になった。





    「あら、レオくんと会うの?」
     真っ青な薔薇を手にした司を見かけて、嵐は何気なく声を掛ける。その日の仕事は珍しく早々に終了して、少しだけスケジュールに余裕ができたこともあり、星奏館の共有ルームで雑誌のチェックをしていた所だった。
    「そうですよ。何か言伝でもありましたか?」
    「そういうわけじゃないけど、ウフフ」
     思わず漏れ出る笑みに、司は不思議そうに首を傾げる。
     司がその花を携えている様子はこれまでにも何度か見ていた。何なら遠目で一度だけ、実際に渡すところも見たこともあって、その健気な有り様は、嵐の好むところだった。
    「お~大きくていい薔薇だねえ」
     傍のソファに横たわっていた凛月が、背もたれからのっそりと身体を起こす。お揃いだったんですね、と司は、突如としてすぐ近くに現れた凛月に目を丸くしている。ふんふんと、薔薇の香りに鼻を鳴らす凛月から、司は花をかばうように抱えなおした。
    「染料がついてしまいますから、あまり鼻を近づけない方が良いですよ?」
    「心配しなくても、ス~ちゃんの想いのこもった薔薇を食べたりなんかしないよぉ」
     くすくすと笑う凛月の言葉に、司の肩が小さく跳ねた。
    「おっ、想いというのは、その」
    「フルール・ド・リス」で薔薇から精気を吸おうとしていた凛月の姿が脳裏をよぎって、懐かしさに浸っていた嵐は、そこで少しだけ、あら、と思った。司はこれまで、似たようなからかいに対して、毅然とした返答をしていたと記憶していたから。
    「……愛の贈答品ってやつなんじゃないの?」
     その変化に凛月も気が付いたのだろう。いつもより少しだけ深く、何気ない様子で探りを入れるような問いかけだった。
    「……そういったことは、伝えたことはありません」
     まだ、と視線を逸らしながら小さく司は言葉を続ける。
     付け加えられたその一言に、嵐は思わず目を細めた。きっかけは分からないけれど、彼の中で何か、明確に花開いた想いがあったのだろう。
    「そうは言ってもさ、月ぴ~だって流石にそういう受け取り方しない?」
    「レオさんはいつも、少し不思議そうな様子で受け取ってくださいます」
     あ〜想像つくなぁ、と凛月は楽しそうに笑う。それでも、せっかちなレオが、何を問うでもなく、毎度贈り物を受け取っているということもまた、何だか律儀で可笑しいと思った。
    「求愛ならちゃんとそう言えば良いのに。秘すれば花、みたいな感じなの?」
    「まあ、でもレオくん実際そういうの好きよね」
    「『言わないで! 妄想するから!』ってやつ?」
     司の横で俄かに盛り上がりを見せ始める二人の会話に、えふん、と咳払いが一つ落とされた。
    「……ちゃんと伝えますよ、いつかは。秘した花は、明かしてこそ意味があるのですから」



    【終】





    【→続く】
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