しっと 年下組2人で出演したバラエティ番組で下の名前で呼び合うという罰ゲームのもとクイズを解くという企画があった。いつも下の名前で呼びあっているオレたちは、それじゃ面白くないだろうということで、別々のチームになり他の共演者と組んで企画を進行した。内容は謎解きやフリップ問題など三段階のクイズ構成をチーム3人で協力して回答するものだった。
一段階目は早押しでチームの誰かが答えれば得点になるもので、茨がばんばん答えていた。
二段階目は謎解きでチームの人たちと話し合いながら回答していく。謎が発表され相談タイムに入った時、ふとチームの人の肩越しに見える後ろ頭の赤紫が目に止まった。ガチで優勝を狙いにきているのであろう茨のチームはマイクに入らないように少しだけ身を寄せあって小声で話し合っている。内心、その距離感近くないっすか?小声で話す必要あります?と不服を述べつつ、平常心を保ちながら問題を解いていたら。
「 」
共演者を下の名前で呼ぶ茨の声がして、思わずまた丸い後頭部を凝視してしまった。
その気配に気づいたのだろう、サラサラと髪を揺らしながら周囲を観察するように振り返った茨と目が合う。きょとんとした青色の瞳に何か言いたくて、視線を逸らさないでいると、すぐさま集中しろ!とでも言いたげに目が細められてすっと視線を逸らされた。逸らされた青い瞳は共演者にうつって、また小声で話しつづける。
オレは何事もなかったかのように自分のチームの回答を見るしかなかった。
「今日の収録、集中が切れているような場面をお見受けしましたが?」
「うっ⋯⋯」
収録が夜遅くに終わったこともあり、一緒になって帰る帰り道。いつもは晩ご飯何にするかとか何時に寝るかとか雑談とも呼ばれるだろう会話を楽しんでいるはずなのに⋯⋯
こころなしか街灯もすぐ先の道を照らすほどの明るさがない気がする。
「何か不都合や嫌なことでもありました?」
「⋯⋯なかったです」
茨はプロデューサーとして真面目に聞いてくれているのだから、オレも同じように答えなきゃいけないのに、声のトーンは枯れ葉が舞い上がるようには上がってくれない。
「ありましたよね?」
「ないです!」
「あっただろ!」
さっさと吐け、と睨まれたらどうしようもなくなった。時間稼ぎも兼ねて声のトーンが元に戻るように咳払いをした。
「⋯⋯」
「⋯⋯はぁ。二段階目の謎解きの時です」
「ああ、一瞬目が合いましたね。すぐに注意したつもりでしたが」
「それは伝わってましたよぉ。でも⋯⋯」
「なんです?」
「う〜、小声で話し合ってんのが、なんか⋯⋯嫌でした。あと、下の名前で呼びあってんのも⋯」
「え。罰ゲームでしたよね?」
「そうでしたけどぉ。今日やけに耳が良かったんすよぉ」
そう、罰ゲーム。企画だ。オレたちは仕事をしていただけなんだ。だけどもやもやとした気分はずっとあって、収録中も何回も呼ぶ機会なんてあったはずなのに、2段階目のあれだけはどうも無理で⋯⋯茨のチームが優勝した時なんか嬉しそうに大声で読んだりしてて⋯⋯そんなのを茨に言うのはなんだか違う気がして⋯⋯
名前くらい小さなことだと思う。今だって茨は驚いてるし――
「!」
「手、繋ぎましょうか」
茨はオレの手を勢いよく掴んで、半歩前を歩き出した。車道を走る車のライトが眩しい。
「⋯⋯ふふっ」
指を絡めて機嫌よく笑う。そんな姿につられてオレも茨の手を握り返す。隣に並ぶと薄がかった霧が晴れた気がした。自分のことなのに単純だと思う。そんなタイミングで茨が
「いい人たちでしたね。--」
そんなことを言うから。
茨が他の人を下の名前で呼びすてで呼ぶなんて珍しいことで、オレは「ジュン」って呼ばれるのにいつからか優越感を感じていた。⋯伏見さんは自分なりに納得しているつもりではいたのに⋯⋯今日のはダメだった。てか、限界だ。オレはこんなに堪え性がなかったんだろうか?たまに茨に言われるけど、あまり自覚はしていなかった。
「あ、そういえば--がジュンとも共演してみたいと言って――わっ!」
グイッと繋いでいた手を引っ張って、歩幅を大きくした。一瞬前のめりになった茨は直ぐに姿勢を正して不満げな視線を飛ばしてくる。それを払いのけるように歩くスピードを早めた。
「ジュン!ちょっ!待てって!」
――名前呼びすぎなんだよ。茨はわざと煽っている。オレは見事に煽られたらしい。無性にイライラした。もやもやがいらいらに変わる瞬間だった。もう二度と他の人の名前を呼ぼうなんて思わないようにしたくなって。
家の玄関に入った瞬間、鍵をかけてすぐに繋いでいた手を、閉めたドアにそのまま押し付けた。
「ジュン?」
どうしたんですか?みたいな顔でこっちを見つめてくる。苛立つ気持ちが抑え切れず、マフラーを雑に取り払って首筋に食らいつく。
「はっ?!ジュン!⋯離せっ⋯⋯!」
ここまで速足で歩いてきたからか肌は少し汗ばんでいた。しっとりと湿った茨の肌を思い切り吸い上げようと血を一点に集めるイメージを作る。
「ッ跡をつけてはダメです!」
「⋯⋯つけたい」
「んっ⋯やめろって!!」
「おねがい」
「明日撮影あるって⋯んんっ言ってるっだろ!」
茨、こっち、と頭を引き剥がされそうになったから、その手の二の腕の部分を下から持ち上げてなだめるように手を這わせながら冷たい指に辿りつく。その指も絡めて右手同様ぎゅっと力をこめる。
その間も首筋に鼻を擦り付けて茨を堪能する。やめろ!とかなんとか聞こえるけど、今はこの甘い匂いに集中する。シャンプーとも香水とも違う茨自身の香りは、安心する時もあるし、興奮してたまらなくなる時もある。今は後者だった。
「はぁ⋯⋯たまんねぇ」
「っ⋯」
後で怒られてもいい気がしてくる。けど明日は撮影だと念押しされた。だから、唇で跡が付かない程度に、でもいつもより気持ち強めに首筋や耳の裏、首から肩にかけてある筋肉を舐めたり、食んだりを繰り返す。
「⋯⋯いつまでそうしてるつもりですか」
そんなオレに痺れをきらしたのか、不満そうな声が落ちてくる。やっとのことでオレは唇を離してそのまま茨の口に移動した。
「んっ⋯⋯んんっ⋯⋯」
角度を変えて何度もその柔らかさを味わう。途中微かに唇の隙間から漏れてくる甘い声に、もっと、という言葉が浮かんでははじけてまた浮かぶ。
「んんんーー」と訴えてきたので一瞬唇を離すとぷはっと息をして、赤らんだ顔で睨んできた。
「なんですか?」
「なにって!分かってんだろ!」
「でも煽ってきたのは茨じゃないっすか」
「ジュっ、ん⋯⋯!」
「口開けて」
反論しようとする口をもう一度塞いだ。舌先で唇の間をこじ開けて茨の熱い口内に進入して、歯列をざらりと舐めあげる。喉を鳴らしているくせに、体は腕から抜けだそうと微かな抵抗をしていた。
「⋯⋯んっあ、はぁっ⋯⋯」
上顎を擦り、奥に引っ込んだ舌を宥めるように舐め上げ、絡めとる。
「はっ⋯⋯ん⋯⋯ん〜〜」
「茨⋯⋯」
息継ぎの隙も与えない。
「ん⋯⋯は⋯⋯ぁん⋯⋯んー」
爪でカリッと手の甲をかいてきたので、ちゅっとリップ音をわざと出して離れた。まだ離れたくなかったけど⋯⋯
はーはーと2人の呼吸が玄関に響く。扉に茨の髪が張り付いて、ピンク色の部分が多くなる。
「⋯自分はリビングに行きたいだけなのですが?」
「まだそんなこと言うんすねぇ」
「ん⋯⋯⋯んんっ!⋯んーっ!⋯⋯」
余計なことを言う口をまた塞いだ。
触れるほどに"いばら"と頭の中を駆け巡って。どうしようもなくて。頭の後ろに手を掻き入れて、そっとその乱れた髪を梳いて、腰を引き寄せた。同時に舌を甘く吸いあげる。
「あ⋯⋯ん⋯」
すると、じたばたとオレの下でもがいていた茨がだんだん大人しくなる。大人しくなって、胸を押し返してくる腕の力が弱くなった。それをいいことにもっと深く舌を伸ばす。自分の唇を開く動きで茨の唇を押し開かせて、前歯の裏のずっと奥にある口蓋を舐める。抱きしめている体が震えたのがわかって、もっと伸ばした。
「んんッ⋯⋯! 」
苦しそうな声がして、"ガッつきすぎです"といつの日か言われた言葉が茨の音声で再生されるのに、やめられなくて。ふと、茨の手がオレの背中に回された。その手にきゅっと力がこもって、シャツの背中を掴まれる。
驚いて口を離すと、茨の唇はどちらのものか唾液で濡れて光っていて。蕩けた表情と潤んだ瞳に視線を奪われていたら、
「⋯⋯ジュンだけずるいです」
全身の血が駆け巡るのが分かった。動けないでいると、茨が深いキスを仕掛けてきた。
「ふっ⋯⋯ん⋯」
「ジュン⋯っ」
オレの頭をかき抱きながら首筋にそわされるさっきよりも熱い手と、犬歯をなぞられる感覚、舌の裏にはわされる茨の舌に、どくどくと体中が熱くなる。オレと同じくらいに熱くしてやりたいと、応戦してさっきのよりもっと激しいキスを返す。
「ふ、ん⋯⋯んんーッ⋯⋯!」
「はっ⋯⋯茨っ⋯」
息遣いと真っ赤な顔と悩ましげに歪められた眉に、オレはニットの裾から手を忍び込ませる。
「えッ⋯⋯ジュっっ⋯⋯だめです!っ⋯⋯」
お腹に指を滑らせると、茨の体が逃げようとする。だけど茨の背後にあるのは閉まった扉で、逃げ場のない茨の体はオレにされるがまま。
「ジュン⋯⋯さすがに、ここじゃ⋯⋯ぁっ!」
腹筋の割れ目をゆっくりなぞり上げると、指は胸に辿りついたが、わざと脇の下部分をなぞり上げる。次に触れられる場所を茨の体は期待して、少し強張った。茨は頬を赤く染めて見上げてくる。その顔をじっと見つめたまま、人差し指で突起をクリクリと転がす。
「はっ⋯⋯あ、んんっ!外っ⋯⋯聞こえちゃっ⋯⋯⋯」
「でも、こっちも、たってますよ??」
「ちがっ⋯⋯ジュンだって⋯ん⋯⋯さっきからあたってっ⋯るんですよ!」
「そりゃそうでしょう。だって茨ですもん。ね、⋯⋯いれたい」
吐息を含ませながら耳元で囁くと、茨の頬はこれでもかというほど真っ赤になった。「あいかわらず耳弱いっすね」と追い討ちを立てると涙がこぼれてしまうのではというくらいにうるうるの瞳と目が合った。たまらずせり上がったものを擦りつけると「ひぁう!」と大きな声と共に体を跳ねさせる。「ふふ、ひぁう!って⋯⋯かぁわい」
さらに押しつけながらオレが手を休めずに硬くなった胸の先を左手で弾いたり、抓ったりして、右手でズボンの上から撫でていく。
「ん、ふああっ」
ドアに押し付けて胸と陰茎を虐めながら、気持ちよさそうに悶えるその顔を覗き込む。
⋯⋯茨と小声で話し合っていた共演者も、こんな顔は知らないんだよな⋯⋯。しかも、茨の体はオレ以外に知らなくて、こんな顔を知っているのは、間違いなく世界に自分たった一人だけで、オレだけに色んな表情を見せてくれて、気を許してくれて⋯⋯。
「ジュンっ⋯⋯」
電気もまだつけていない玄関にオレの名前が響く。
「茨、くち開けて。声ききたい」
「んんん〜っ!」
茨は唇を固く閉めようとしていて、オレはその口の中に指を入れ、舌を愛撫する。茨は一瞬噛もうとしたが、まつ毛を少し震わせて歯の隙間を広くしてくれた。押しつけて緩く腰を揺らすと口を閉じることができなくなった可愛い口は甘い声を漏らす。
「好きです⋯⋯茨」
「じゅん、やぁ⋯あ⋯⋯うぅ⋯」
「⋯茨⋯かわいい⋯⋯」
「あっ、あ、や⋯⋯あぁ」
「いばら」
「ふっ⋯⋯うぇ⋯⋯?」
そっと茨の口の中から自分の指を抜き取った。その場からは動かずに、茨をまだ玄関のドアに押し付けたままで、靴すらまだ脱いでいない。服は脱がさず、ベルトに手をかけた。先走りで湿っているのを一撫でしておく。
「あうっ⋯⋯まっ、待て!ほんとにここでするんですか!?」
「うん」
「待てって!ちょっと⋯ぁっ⋯⋯おちつけ!」
「やです。それにもう先走りでぬるぬるじゃないっすかぁ」
「くっ」
茨もしたいでしょ、と今度は潤んだ瞳を見つめながら茨の唇にとんとんと触れて、一応お伺いを立てた。さっきみたいに強引に指を突っ込みたかったけど⋯。そんな目で睨まれても怖くない。数秒見つめあったあと、うっすらと口を開けてオレを招いてくれた。
「い、茨?」
でも開けただけで何も動かなくて、オレの指が無意識に押しているのか前歯にあたる。でも歯だ。歯をこしこししていると、そんなオレに満足したのか前歯の裏からちろっと舌だけ覗かせて人差し指の腹を舐めてくる。
「うぅ〜茨ぁ」
お伺いを立てたのはオレだけど!そんなゆっくり焦らすようなことしないでくださいよぉ!とどこかでオレが不満を言っている。けれど、この蛇みたいに妖艶に誘ってくる茨に目が離せいのも事実だった。