「うぅぅ〜〜どう考えてもオレっすよぉ!!」
「精神的には茨です!!」
「オレとキスするんすか?嫌です!!」
「ジュン!腹をくくれ!ここから出られませんよ!」
恐る恐る目を開けると、目の前にはオレの顔。
「い、茨は嫌じゃないんっすか?!自分の顔とキスするの」
「嫌ですが、そうは言ってられないでしょう。仕事だと思って!さぁ!キスしろ!」
なぜかやる気な茨(オレの顔)からキスすれば早く済むはずなのだが、この部屋の張り紙にはでかでかと
『受けの顔からキスすると出られる部屋』
と書かれているのだ。
今のオレたちに当てはめると、受けの顔は七種茨なのに、なぜか精神が入れ替わってて、受けの顔(精神:オレ)となっている。
もう一度張り紙に目を向ける。ご丁寧にも『受けの顔』と書かれてあるのが腹立たしい。
「無理ですって!オレとキスするのは!」
「あなたさっきからそればっかりですね。ではこうしましょう。ジュンは目を閉じていてください。あとは俺が言った通りにジュンは行動するだけです!」
「⋯⋯キスするだけですよね?」
「当たり前です。何を怖がっておいでで?」
「いや、すんません。分かりました」
よしっと気合を入れて目をつぶる。真っ暗な世界の中、茨が動く気配がする。するりと頬に熱くて少しかたい指がそわされる。
「ジュン、今から俺が言ったことを繰り返して言ってください」
「⋯は、い」
オレの声なのにどこか色っぽくてその空気に呑まれて、上擦った声がでた。
「俺とキスする覚悟あります?」
「あります!」
「ふはっ。違いますよ、ジュン。同じことを言ってください。ほら」
「--オレとキスする覚悟あります?」
目をつぶる前と状況は変わらないはずなのに、今腰を抱いているのは茨本人だと錯覚してしまう。
「⋯はい」
「っ」
「んっ」
声なんかどうでもよかった。ただ、そこにいるのは茨で、--恋人の茨だった。
がちゃっ
触れるだけのキスをして唇を離したのと同時にドアが開く音がした。
いつも茨の表情が見たくてキスする度に目を開けるから、今も無意識に目を開けてしまう。
「茨!!!」
飛び込んできたのはレンズ越しのコバルトブルー。思わず茨に抱きついて首筋に顔を埋めて赤紫色と甘い匂いを堪能する。よかった、茨だ。
「ジュン、俺まだ開けていいとは言っていませんが?」
「そんなの良いじゃないっすかぁ。茨!元に戻りましたよ!」
「ふふ。そうですね、扉も開いたようなので出ますか?」
「そうっすね。けど、待って」
「んんっ」
今度は茨の感触を確かめるように深く口付けた。