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    おもち

    @mochichi12_

    成人済み/今は94で藻掻いてます。

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    おもち

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    黒い杭後に書いた同棲中のノスクラの話です。
    書いた時期はまだ二人は会話どころか再会していなかったため、ノースへの二人称が「きみ」になっております。「お前」呼びも美味しいけど、「きみ」も好きだったので、そのままにしています。だいぶノースが浮かれポンチだけど、仕方ないんです。年下の恋人が可愛くて仕方ないです。

    #ノスクラ
    nosucla.

    香り高い紅茶に、少しいびつな形のアイスボックスクッキーをお茶請けに、夜の二人きりのティータイムを過ごす。
    さくり、と音を立て口の中でほろりとクッキーがほどけていく。見た目は及第点だが、味は十分に美味と言えた。
    少し前までは想像もしなかった穏やかな時間に、ノースディンは向かいに座る緊張した面持ちの男を見る。
    「どうだろうか?」
    「上出来だ」
    ノースディンの言葉にクラージィは安堵の息を吐き、骨ばった指先でクッキーを一つ抓み口へと運ぶ。
    いつもは難しい顔をした男が、顔をほころばせる姿につられて微笑みそうになり、ノースディンは誤魔化すために完璧な所作でティーカップを口元へと運ぶ。
    「君やドラルクの作ったものには到底及ばないが…うまいな」
    続いたクラージィの言葉に、ノースディンは弟子の煽りの幻聴が聞こえたが、すぐさまそれを打ち消した。
    何せ、吸血鬼を以てしても短いとは言えない時を経て再会した相手が目の前にいて、手に入れたのだからノースディンの心は、この数百年で最も安定していると言っても過言ではない。
    こうして修行の合間の息抜きに、クラージィの淹れた紅茶を飲み、彼の作った菓子を食べるのは至福の時である。
    ノースディンに食物を食べる必要性は無いが、可愛い子どもが作った菓子は何よりも美味く感じる。

    「…ひとつ質問があるんだが、良いだろうか?」
    「なんだ?」
    人であった時も真面目だった男は、吸血鬼としての生を受けてからも相変わらず生真面目で、優秀な子どもである。
    こうして、疑問に思ったことは積極的に尋ねてくる。クラージィが求める問いには、出来る限り知り得る全てを与えている。
    もちろんクラージィに不必要であろう情報は伏せているが。過保護と言われようとも、そんな言葉は今のノースディンには痛くも痒くもない。
    「もし、失礼な問いだったらすまない。今さらではあるが…君は吸血鬼と聞いているが、それは夢魔の類とは別物なのだろうか」
    「夢魔?いや、正真正銘私は高等吸血鬼だが」
    「そう、なのか」
    いまいち得心がいっていない様子のクラージィに、彼の問いの意図することを考える。
    まだ彼は赤子同然で、吸血鬼としての能力と言えば、少々の念動力が使えるくらいだが、己の血を分けた子なのだから何かしらの能力に目覚めてもおかしくない。
    それがもし、夢に関する能力であるとすれば、ノースディンから遺伝したものとクラージィが考えるのは不思議ではない。
    「何かあったのか?」
    子の能力の開花となれば、何か祝い事をしなければならない、と表情を変えないままノースディンは様々なプランを即座に考える。
    だが、クラージィの反応はノースディンが思うものとは異なっていた。
    何事かを言おうと口を何度か開いては閉じを繰り返し、その頬は赤く染まっている。
    「……君は、魅了の使い手だろう」
    「ああ」
    言い辛そうに、だが生来の真面目さが災いして、無言を貫くことが出来なかったのだろう、クラージィは口を開いた。
    いつもは朗々とよく通る声は、今はか細い。
    「クラージィ?」
    「君と、夜を過ごすようになって暫く経つが、体がおかしいと思うんだ」
    「は?」
    雲行きが怪しい。けして、悪い意味ではないが。随分と遠回しな言い方だが、クラージィが何を言わんとしているかは徐々に理解出来てしまった。
    「私はそういったことには不慣れなのに、どうも…体が意図していない反応をしてしまうというか」
    「なるほど」
    「時々だが、君が夢に出てくることもある」
    「……もしかして、夢魔とは淫魔のことを言っているのか?あと、念のために言っておくがお前相手に魅了を使ったことは一度たりとて無い」
    ノースディンの言葉に、クラージィの紅潮していた頬がさらに赤く染まり、人間とは異なる形の耳が垂れ、そのとがった先端まで赤くなる。
    居心地が悪そうに膝の上で指を組み、俯く姿はノースディンの被虐心をあまりにも煽ったが、がたんと音を立て立ち上がるクラージィに我に返った。
    「紅茶が冷めてしまったから、淹れ直してくる」
    嘘を吐き慣れていない男の、あまりに露骨な誤魔化し方を指摘する前に、クラージィはそそくさとティーセットを回収し足早に部屋を出て行こうとする。
    「クラージィ」
    その背に呼び掛けると、常にぴんと伸びた背筋はびくん、と震えてから律儀に振り返った。
    「あとで、その話を詳しく聞かせてもらえるか?」
    酷く意地の悪い声に聞こえただろう。ノースディン自身にも自覚がある。
    どんな時もノースディンの言葉に応えるクラージィは、その時ばかりは頷くことすらせず頬を紅潮させたまま部屋を出て行った。
    ノースディンはひとりくつくつと笑い、可愛い愛しい子の帰りを待つことにした。
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