デロデロに酔っ払った無惨様を介抱する黒死牟 仕方ない、これは仕方のないことだ。
太りたくないから、なんて馬鹿げた理由で、オードブルには手をつけず、空きっ腹に酒を流し込むから酔い潰れるのだ。その上、後援会、商工会議所、青年局のはしご。最後は意識が朦朧としており「鬼舞辻さん、帰った方が良いのでは?」と周囲から言われる始末。
「見苦しい姿をお見せして申し訳ございません」
深々と謝罪し、負ぶって会場を後にしたのだ。
普段、正体をなくすことはないはずなのに、今日はえらくだらしないものだと思う。疲れて眠っている時はお姫様抱っこをするのだが、今日はとてもそんな気分になれない。本当は道端に捨てて帰りたいくらいだが、すぐに拾われるだろう。綺麗な女性に拾われたら本人としても大当たりかもしれないが、たちの悪い連中に捕まれば後が厄介である。
なので仕方なく自宅に送り届けることにした。
「はい、着きましたよ」
「……うん……」
背中にしがみ付いて降りようとしないので、合鍵でドアを開けて寝室まで運んだ。ベッドに寝かせてから靴を脱がせ、玄関に靴を置きに行った。
そのまま帰ろうかと思ったが、意識が戻ると色々怒って電話してくるだろうから再び寝室に戻った。案の定、転がした状態のまま気持ち良さそうに眠っている。
「脱がないとスーツに皺が残りますよ」
返事がない。本当に面倒臭い男だな、と思いながら、スーツを脱がせ、ボクサーパンツ一丁にした。この後、文句の理由になりそうなもの。洗面所に行き、シートタイプのメイク落としを取り、強くこすらないように注意しながら撫でるように頬や目の周りのメイクをふき取る。産屋敷と同じくらい紫外線が憎いと話すので、この時期のメイクはやや厚塗りである。男なんだから、こんな化粧しなくても……と思うが「男女差別」と文句を言われた。
服を脱いでメイクさえ落とせば、一晩くらい風呂キャンしても死にはしないだろう。あとは風邪をひかないように布団の中に押し込めば自分の役目は終了である。
これなら意識が戻っても怒りの電話を掛けてくることはないだろう。
夜中に喉が渇いた時の為に水の用意をしなくてはと思い、パントリーにペットボトルを取りに行こうとすると腕を掴まれた。
「帰るの?」
「水を取りに行ったら帰ります」
手を振りほどこうとしたが、強い力で引き寄せられベッドに引き摺り込まれた。
「泊まっていけよ」
「嫌です」
「冷たいことを言うな。今からしよう」
「無理でしょ、それだけ飲んだら勃ちませんよ」
「……そうだな」
これで諦めてくれるかと思ったが、ぎゅっと抱きしめられた。
「今夜のお前は抱き枕だ」
そんなめちゃくちゃな……と思うが、ちょっと可愛いなと思ったのが大きな間違いだった。そのまま眠ってしまったので身動きが出来ず、自分も一緒に寝てしまい気付くと朝になっていた。
目が覚めた瞬間から、頭が痛い、喉が渇いた、気持ち悪いと大騒ぎする。こちらはスーツ姿のまま全く身動きできず一晩過ごしたので体が痛いのだ。
「風呂でも入ったらどうですか、すっきりしますよ」
そう言いながらジャケットを脱ぐと、ぎゅっと抱きついてきた。
「一緒に入るぞ、昨日はできなかったからな」
「朝からですか?」
「そうだ、酒のせいで予定が狂った」
どこまでも我儘な男だ。そう思いながら二人分のスマホの電源を落としてバスルームに向かった。