意外なゲスト1名以上(鬼でも鬼殺隊でもそれ以外でも) それはキメツ学園の近くにある小さな骨董品店。黒死牟が覗くと店主の炭吉が何やら忙しそうにしている。
「あ、お兄さん、いらっしゃい!」
奥から妻のすやこも出てきて黒死牟に挨拶をする。
「縁壱さん、今、配達に行ってくれてるんです」
「そうですか……では、出直します」
「いや、すぐ帰ってくると思うから、ここで待っていてください」
すやこに引き留められ、店の奥へと案内され茶まで出された。
ここは双子の弟縁壱の友人がやっている骨董品店で、縁壱も時々手伝いに来ている。
縁壱はイギリスの大学を卒業後、考古学者として世界中を飛び回っており、炭吉から「面白い品が入った」と聞けば帰国し、その品を持って所属している海外の大学の研究室に戻るという生活を続けている。
その為、この炭吉の店にいる時だけが会えるチャンスなのだ。
双子の兄弟だが長い時は数年会えないこともあるので、自分も偶然ここにいて縁壱に会える時は会いに来ていたが、思っていたより縁壱の帰りは遅く、ちょうど無惨からの電話も入ったので黒死牟は席を立った。
「お茶、ご馳走様でした」
「すみません、縁壱さん、きっとまたどこかで人助けしてるんだと思います」
炭吉がすまなさそうに話す。縁壱はそういう男だ。迷子の子供を見たら交番に届けるし、大きな荷物を持ったお年寄りを見れば自宅まで送り届ける。それは世界中どこにいてもやっているようで、危険な目に遭っていないか兄としては非常に心配だが、縁壱が神に愛された才能を持っていることは知っている。少しばかり嫉妬してしまうが、それが彼の安全に役立っているなら良かったのかもしれない。
早く帰らないと無惨の機嫌も悪くなる。そう思い事務所まで急いで帰った。
「遅かったな」
「申し訳ございません。縁壱が帰国しているので会いに行きまして」
「あの化け物がか?」
あー、嫌だ嫌だと露骨に嫌そうな顔をするが、無惨の実家は縁壱の研究室に多額の出資をしており、いわば無惨はパトロンである。優秀な人間を愛する無惨は天敵である縁壱も例外ではなく、そして無惨自身、政治家にならなければ大学院に残って研究を続けたかったと時折ぼやいているので、フィールドワークで世界中を飛び回っている縁壱が羨ましいようである。
「で、会えたのか?」
「いえ……アルバイトで配達に出ていたようで」
「アルバイトなどせずに、たまには出資者である私の元に挨拶に来いと、あのボンクラに言っておけ。今度帰国した時は飯にでも行くぞ」
「有難うございます」
兄弟水入らずで過ごせる時間を作ろうとしてくれている無惨の優しさに胸が温かくなるが、そうこうしているうちに店に戻った縁壱からメールが入った。無惨に言われたことを伝えると、すぐに返事が来た。
「無惨様、縁壱が今夜暇だから伺いますと言っておりますが……」
「断れ!」
やっぱり苦手なんじゃん……と思いつつ、今日は予定があるとやんわり断り、空港に見送りに行くとだけ返事をしておいた。