秘書に花(種類はお任せします❤️)を贈る議員 無惨は理由なく花を贈る。いや、正しくは何かの記念日や誕生日など、受け取る側が納得できる理由がなくても花を贈るのだ。
「愛する相手に花を贈るのに、何か理由がいるのか?」
なんと気障な男だ、と最初は少しばかり気色悪いと思ったが、慣れとは不思議なもので貰うと嬉しいと思うようになってきた。それでも受け入れるには、それなりの年月がかかっている。
「花を贈るなんて送別会か開店祝いくらいだと思って生きてきたので」
「色気のない人生だ」
黒死牟が受け入れられなかったように、無惨も黒死牟の発言を聞いて心底驚いていた。しかし、黒死牟にとっては花を贈ることも驚きだが、何もなくても花を買って帰り、玄関やダイニングテーブルに飾るという無惨の習慣が驚きだった。切り花だけでなく、街中に咲く四季の花々もよく見ているので、やはり花を愛でる文化で生きてきた人は違うなと思っていた。
「例えば薔薇だが、色によって花言葉が違うし、本数でも意味が違うのだ」
「そうなんですか」
返事まで色気がないと無惨は嘆いていたが、花束から赤い薔薇を一本抜いて黒死牟のスーツの胸ポケットに挿した。周囲がニヤニヤと自分たちを見守っているので黒死牟は赤い薔薇に負けないくらい真っ赤になった。
「無惨様は薔薇がお好きなのですか?」
「まぁな。それもあるが、お前が多分、薔薇以外の花が解らないだろうからという理由もある」
「失礼な」
黒死牟はムッと拗ねるが、無惨が芍薬やラナンキュラス、グロリオサなどの大振りな花でアレンジブーケを作ってきた時に名前が出てこなくて、こっそりスマホで撮影して調べたことがあるので、解りやすく薔薇を贈ってもらうと助かると思った。
「私は赤い薔薇が好きだが、お前はどちらかといえば紫の薔薇の方が似合うかもしれないな」
「紫の薔薇にはどんな意味があるのですか?」
「気品、誇り。お前にぴったりだと思わないか?」
さらりと褒められ、赤い薔薇を贈られるより、くすぐったい気持ちになる。だが、無惨は何かを思い出して、ぽんっと黒死牟の肩を叩いた。
「もう一色、好きな薔薇の色があった」
「何色ですか?」
「青色だ」
青い薔薇。かつて自然界に存在しなかった色である。
「不可能と言われていた薔薇だ。だからこそ、夢が叶う、神の祝福という大層な花言葉が与えられた」
青い花を追い求める癖は未だに残っているのだな、と苦笑いしてしまうが、あの頃のように幻を追い求めるのではなく、彼はありったけの幸福を享受し神の祝福を受けているような人生を歩んでいる。青い薔薇は彼の人生に相応しいと思ったが、無惨の想いは少し違ったようだ。
「サムシングブルーの意味もあるからな。結婚式では必ずお前に持たせたい花だ」
「え?」
今、さらっとプロポーズされたよな? と思いながらも聞き返せず、青い薔薇を持って祝福を受ける日が遠くないことを願いながら、無惨の花束を受け取った。