チチはよく本を読んでいる。
街へ出た際は本屋を覗くことも多く、悟空は定期的に古紙回収に古本を彼女から頼まれることもある。
「本っておもしれぇか?」
「おもしろいだよ」
「ふーん?」
「悟空さ、あんま納得してねぇな? ええっとだな、本はおらに都合がいいんだべ」
ソファに座って本を読んでいたチチはページに栞を挟み、ぱたんと閉じた。どうやら会話をしてくれるつもりらしい妻に悟空の表情は明るくなる。
「悟空さは本よりはテレビの方がお好きな人だべな」
「チチとこんな感じで話す方が好きだけんどな!」
「はいはい、ありがとだべ。でもおらと話すの次に多分テレビだべ。本はあんま好きじゃあねぇだよな」
「んー…だなぁ、別にキライとかじゃあねぇんだけど」
「まぁそこは好みもあるだろうしな。あと、悟空は文字を眼で追うよりは、声や音を耳で拾う方がお得意なんだべ。眼も、悟飯とかと組手するときに動きを視るのはがっつり動いてるけどな」
「へー」
「おらは文字を眼で追うのが生活的にあってるんだべ。テレビとか音楽も好きだけんど、家事やってっとな、テレビの前とかから離れないといけねぇし、その間にドラマとかだとお話わかんなくなっちまうんだべ。だから、こうやって栞挟んだらいつでもまた同じ場所から再開できる本っておらにはあってるんだよ」
「…なるほどなぁ…」
聞いてみると実に納得の理由であった。それであればチチが本を読んでいるときは邪魔しない方がいいのだろうかと悟空が考えていると、それを読み取ったチチがくすくすと笑いやんわりと否定してくれる。
「悟空さおらと話すの好きって言ってくれたべ。おらも悟空さと話すのがすごく好きだから、本を読んでるだけだったら声かけてくれて全然いいだよ」
「そりゃ嬉しいけど、チチの楽しいことの邪魔はしたくねぇなぁ」
「あんれま、悟空さも嬉しいこと言ってくれるだな」
お互い寄り添おうしあう夫婦の姿は微笑ましい。惜しむはそれを見る第三者がその場にはいなかったことだろうか。
だが、その後学校から戻ってきた子供達が見たのは、ソファで黙々と本を読んでいる母親の膝の上で気持ちよさそうに昼寝をしている父親という図だった。