大きな深鍋が台所のコンロの上にあると、孫家の男性陣のテンションはちょっとあがる。
カレーが彼らの大好物ということもあるが、他にもシチューや豚汁などでも同様だ。
帰宅するとそんな鍋の存在に気が付いて眼を輝かせた悟天だったが、ほわほわと台所に漂う香りに小首を傾げる。匂いからしてカレーや豚汁ではない。シチューっぽいような気もするが何か違う気もする。
チチが作っていたのはサツマイモのポタージュだった。
悟天としては少しがっかりしたのは否めないが、味見兼おやつとしてカップに注いでもらったものを口にすると、サツマイモと牛乳の甘みと香りがふわりと身体を包み込むような気がしてほっとする。
カレーやシチューのようにメインには難しいが食卓にあればなんだか笑顔になれる存在で、実際、朝ご飯がパンのときにはこのスープの存在が際立つ。
さて、このサツマイモのポタージュだが、現在孫家の寝室で寝込んでいる悟空のためにチチが作ったものだ。
戦闘民族サイヤ人は怪我の痛みには強いが、風邪などの病気には特別強いとは言い難いようでいつもよりも食欲は落ちている。そんな彼のために作ったものだ。
「甘ぇ」
「サツマイモだからな。でもうちの畑で採れたイモだぞ」
「野菜買ってくれる市場のおっちゃん達もウチのイモは甘くて人気あるって言ってたなー」
「ブルマさも、うちのお芋焼いたやつとかお菓子とか好きだべ」
ベッドでスープ椀を手で持ち中身を食すというお行儀がよいとは言えない食べ方だが、おかわりを要求してくる辺り少し回復してきたようだとチチは思う。熱があるころは今の温めたスープではなく、冷製の方を食べさせていたので、温めることによってでてきた甘みを感じられているというのもいいことだ。
胃への負担を考えておかゆなど消化にいいものを食べさせているが、もともと食べることが好きな彼なので飽きてしまう。チチとしてはおいしいものを作ってやりたいが、それはまだもう少し回復してからだ。
「元気になったら、おいしいものいっぱい食わせてやっからな」
まだ少し体温の高い夫の横に寄り添うと、今は甘いサツマイモのポタージュの匂いがしてチチは少し笑ってしまった。