カプセルコーポレーションに頼まれていたハロウィン用の菓子を届けに行ったときのこと。
イベント毎は全力で楽しむブルマに笑顔でチチはハロウィンパーティーへの参加を誘われた。悟天はすでにお呼ばれされていて、テレビかなにかのヒーローの装いをトランクスをさせてもらっており、窮屈な恰好は好きではないという悟空もおいしいお菓子や料理と気心のしれた友人らが参加するパーティーであればと仮装をすることを了承して男性陣の方へと行ってしまった。
そうなると、ひとりだけ自宅に戻るのも仮装を断るのもためらわれて、チチは落ち着いたものでお願いしますと苦笑した。
はずだった。
確かに。確かに、落ち着いてはいる…気はする。露出は少ないし、チチがリクエストしたおとぎ話ベースのそれではあるけれど。
「ブルマさ……」
「駄目よ、チチさん。ちゃあんと「おとぎ話」なんだから」
「そうだけんど……」
困ったように、会場の一部にそれ用に用意されたテラスのようなそこに座しているのは、十二単を纏ったチチである。複数の色ではあるが落ち着いた色合いのそれを重ねており、もともとの艶やかなチチの黒髪も生かしたそれは、「かぐや姫」だ。
なお、ブルマも「羽衣」というお話の天女の衣装をまとっている。こちらは薄くも上質なオーガンジーで作成された羽衣と艶やかな絹の衣装は肩口の肌の露出はあるものの、上品な印象を与えてくる。
「お姫様って柄ではもうねぇですだよ…」
「あら、夫のいる女はいつだってそいつにとってお姫様じゃない。まぁ、場合によっては女王様かもしれないけどね」
悪戯っぽく笑うブルマは少し早いけど、と言った上で周囲に合図をし、見知った面々が誕生日を祝う歌を歌いだした。
驚いて眼を丸くしているチチに、サイズは大分と変わってしまったけど、結婚式をあげたときと同じ白のタキシードを着た悟空が大きなケーキを軽々と運んでやってきた。
「チチの誕生日はウチでちゃあんとまたやるけどよ、ブルマ達がお祝いしたいって聞かなくてさぁ」
「いいじゃない。チチさんのバースデー当日は、アンタ当日絶対ゆずらないんだもの。まぁ、そんなわけでちょっと早いけど、チチさん誕生日おめでとうっ」
「あ、ありがとうございますだべ…っ!」
次々とあがるお祝いの声に、チチははにかみながらも嬉しそうに微笑んだ。
ハロウィン衣装に楽しそうな面々の中、隣に胡坐をかいて座る悟空にチチは微笑み何か話しかけたのか悟空が眼を細めて苦笑し、首元のタイを少し緩めていた。
会場にいた誰もが思う。あのかぐや姫は月になどは帰ることはないのだろうと。