声を荒げてる姿は「鬼」のよう。
仲間内で最も早く妻帯者になった悟空の妻であるチチに対して、そう思ってしまった者は正直すくなくない。
孫悟空という人間は名前に「空」の文字が入っている通り天真爛漫でつかみどころがないところがある。戦闘民族であるということも判明し、彼の根っからの修行好きというのは仲間内ではどうしようもないこと、致し方ないこととして、妻であるチチにもその辺りもうすこし理解があればいいのに、と思う者もいた。
しかし、いざかわいいわが子を腕に抱き、その子がわずか五歳という年齢でまるまる一年以上会うことが許されないという状況になったらと考え、ぞっとする。しかも、伴侶は確実な蘇りを約束されているとはいえ、死亡しているのだ。
チチとしては謝罪してほしいわけではないし、夫である悟空に対しても本当的な根っこのところが覆るとすれば老いで自分の身体が動かなくなった後だろうとも思っている。
いうなれば、鬼は時々ひょっこりと顔を出すものの、緩やかに角も牙も丸みを帯びたというわけだ。
「だからと言って観音さまになったワケじゃあねぇだ」
「はい」
鬼に金棒。どうしてだろう、正座している悟空の前に不動の立ち姿を見せるチチは凛々しい。
にっこりと笑顔のチチに、悟空は震えあがるのだった。