夜。珍しいことにオレンジが丸々一個、冷蔵庫に残っていた。
それに気づいたチチが悟天と悟飯に声をかけたが、ふたりとももうすでに食後の歯磨きを済ませてしまったいたため、食べることを辞退した。寝る前だったというのも理由に入っただろう。
オレンジひとつ。残るはチチと風呂上りの悟空だけ。
悟空に食べるかと聞いてみるとチチも喰えよとはんぶんこが提案された。
とりあえずオレンジを半分に切って、チチは思案する。
「そうだ、悟空さ。お酒飲むだよ」
ふたつのグラスに蒸留酒を少し、そこにソーダ水を加え、チチは悟空に半分に切ったオレンジを手渡す。
悟空が受け取り、意図を察するより早くチチは己の分のオレンジをグラス傍で絞り、果汁をその中へと注いだ。
武を嗜む彼女はもちろん一般女性より力は強い。オレンジの実がむぎゅっと彼女の手の中で小さくなり、溢れる果汁はグラスにとぽとぽと落ちていく。
透明な酒に淡くオレンジ色が混ざり、同時に果実の良い香りが広がる。
「生しぼりオレンジサワーだべ」
マドラー替わりのスプーンで酒を軽く混ぜた後、チチが早速酒を一口飲んだ。
かわいらしい妻の様子に思わず和んだ悟空はふと思いついてチチに己のオレンジを手渡す。
「なんか力加減難しそうだからさ、チチ、オラの分やってくれよ」
「しょうがねぇだなぁ。特別だべよ」
大したことではないが、大げさに言いながらチチが二つ目のオレンジを絞る。
悟空のそれよりもずっと小さな手が生み出した果汁はどことなく光り輝いていて、きっととても美味なのだろうなと悟空を刺激する。
「ほれ、おいしいうちに飲むだよ」
そう言った彼女のオレンジの果汁に少し濡れた手もおいしそうだと思ったが、この後のことを考えて酒と一緒にとりあえず飲み込んだ悟空だった。