美しい世界幼い頃。産まれたばかりの弟を見た時に母に言われた言葉を今でも覚えている。
最初こそ煩わしかった弟も、成長していくにつれ母に言われた言葉に従ってみようと思える程愛らしいと感じられてきた。
私の後をついて歩き、舌足らずな口調で私を呼ぶ。撫でれば心から嬉しそうに笑い私を見上げる。
尊敬される兄であり、この幼い弟を守れる兄であろうと心に決めた。
我が家のため。
弟のため。
私のため。
総てを手に入れるための力を手に入れ、我儘の許される立場を目指し続けた。
顔を合わせる度小さく弱かった弟は成長していった。それでも私にとっての弟は守るべき者で、私を崇拝してくれる相手だった。私達以外には解らない関係。
私が望んだ世界は悪魔が悪魔足らしめる美しい世界。そこでなら母の頼みを叶えられる筈だと思えた。
ある日上がってきた報告書に書かれたイルマと言う人間の事。悪魔学校へ通っていると言う内容に苛立ちを覚えたのは、単純に私の弟に不純物が近付いている事に腹が立ったせいだ。
何物にも汚されぬよう大切に育ててきた弟。直ぐにでも排除してやりたいと思った私を引き留めたのは新13冠の選出の噂。合法的に排除できる手段が目の前に現れた時。ようやく巡ってきた幸運。手に入れたそれは決して手放してはならないもの。
もうこれ以上私の魔界に不純物がのさばる事を赦さぬよう。
私の弟を汚されぬよう。
そう。全てを美しく正そう。間違いの始まりも全て。弟の心を傷付けない間に。