小悪魔エゴちゃん「あにうえっ」
パタパタと駆け寄るカルエゴに、ナルニアは腰を下ろしカルエゴの体を抱き留める。
ナベリウス家に珍しく産まれた女悪魔として一族の悪魔全てからカルエゴは可愛がられ育ってきた。特に兄であるナルニアからは溺愛されていると有名でもあった。
一族以外の悪魔には見せる事はしないと言わんばかりに、公共の場に姿を現すことは皆無に近い。何かを買う時にも行商を呼びつけ、カルエゴの欲する物を買うと言う徹底ぶりだった。
抱き上げられたカルエゴはナルニアの肩に手を起き、キラキラとした瞳でナルニアを見つめた。
「あにうえ。きょうはカルエゴといっしょにいてくれますか?」
「勿論だ。何かしたい事があるのか?」
「あにうえにほんをよんでいただきたいです」
「解った。気が済むまで読んであげよう」
「ありがとうございますっあにうえ」
首に腕を回し抱きついたカルエゴに、ナルニアはずっとこのままの可愛い妹で居て欲しいと心から願うのだった。
成長したカルエゴは長く伸びた髪をひとつに纏め、ナルニアに買って貰った髪留めをする。
ナルニアと違い緩やかなウェーブがかかった髪をカルエゴはあまり好いてはいなかった。幼い転から兄上と同じ髪が良かったと口を尖らせる程に。しかしそれも、ナルニアが可愛いと告げればそんな事言った?と態度を変えるのだ。
学生服を身に付け、適度に切り揃えた爪に塗ったマニキュアを確認する。昨晩ナルニアに塗って貰ったものなのだと自慢したい心を抑え、楽しげに鞄を手にした。
学校へ到着すると、待っていたと言うかのように抱きつこうとした叔父をケルベロスで止める。
「ちょっとカルエゴちゃん……酷くない?」
「兄上に許可されてますから。叔父上を止めるなら使いなさいと」
「相変わらずあいつ過保護だな」
「貴方が抱き付いてこなければ良いんですよ。教師なんですから弁えて下さい」
ではと校内へ入っていくカルエゴの後ろ姿を見送りながら、相変わらずのお姫様だなと頭を掻いた。
新入生代表として呼ばれたカルエゴの姿に投げ掛けられた言葉は気の弱い悪魔ならば傷付くであろう暴言にも近い言葉。しかしカルエゴはそんな言葉全てを聞き流すと壇上へ上がり、騒ぐ全生徒へ黙れと口にした。
突然の言葉に生徒達が言葉を失っている間に、準備していた言葉を並べ立てると代表挨拶を終える。
うるさい生徒と関わるのも面倒だと、集められた室内でカルエゴは空いている席を探す。一人本を読んでいる悪魔の周りには誰も居らず、丁度良いと隣に腰を下ろした。
「えっ?」
「なに?」
本を開いたカルエゴにその悪魔はきょとんとした目を向ける。
「いやっえっ……隣……えっと」
「ここが一番静かだから。どこもかしこもうるさくて。嫌なら移るけど」
「あっいやっいいよ」
周りのどの悪魔も近付きたがらなかったのにと、どこか嬉しそうな声をあげた。
「僕バラム・シチロウ」
「…………ナベリウス・カルエゴ」
入学式に居なかったのか?と言いたくなる自己紹介だった。後に本に夢中になってて、気付いたら入学式も退場の瞬間だったのだとバラムから告げられる事となる。
入学式を終え帰宅したカルエゴは、誰も居ない自宅の中でどこかつまらないと言いたげにベッドへ横になる。
折角帰宅前に絡んできた同級生達を黙らせる事が出来たと言うのに、その報告を出来る兄も仕事で居ないのだ。きっと仕事中だろうと理解しながらも、カルエゴはその日あった事。そして変な悪魔と出会ったとバラムの事を文字にしてナルニアへと魔インを送り付けた。
夕食は取り寄せるかとメニューを眺めているとカルエゴのス魔ホが鳴り出す。そこに表示されていたナルニアの名前に、カルエゴは口角をあげた。
「兄上」
『入学おめでとうカルエゴ。怪我は無いか』
「はい。弱い奴等だったので掠りもしてません」
『そうか。それなら良いんだ』
「兄上……今日も帰られないんですよね?」
寂しげな声色になったカルエゴに、ナルニアはどうしたのかと訊ねる。
「今日位は一緒に食事したかったなと思って……」
『すぐ帰るから待っていなさい』