前略、100日後に絶対あんたを抱きます。七種茨は画策していた。
一体どうやってあの男、漣ジュンを抱こうかと。
【前略、100日後に絶対あんたを抱きます。】
さてさて。この話のヒロイン、漣ジュンは過去に宣っていた。
『 やっぱり王道展開ってアツいっすよね 』
主人公、七種茨は考えた。
( ならば最も王道の攻略法でいきましょう )
と。
これは報告という形にはなるが、主人公である七種茨は漣ジュンに心底めたくそ惚れている。ちなみに二人は同い年、同じアイドルユニットEdenの構成メンバーである。そう、たったそれだけの関係。それが如何にして色恋沙汰に至ったかと言えば、その理由は単純。これまでの人生において損得抜きの関係などは犬の糞以下として蹴散らしてきた茨にとっては、ユニット単位で何かと紆余曲折を経てきた結果とはいえ現在、自分に掛け値無しの信頼を預けてきてくれるSo Purely Angelなジュンの存在というのは最早唯一無二と言ってもまったく過言ではなく。友情愛情慕情劣情もろもろすっ飛ばした走り幅跳びにも近く、まあまあ包み隠さず今の茨の心情を吐露するとすれば、「ジュンかわいい」「大好き」「付き合いたい」「セックスしたい」、以上、解散。ということであり。
そんなわけで、茨は考え始めた。
どうやったら自分が意中の相手、ジュンと無事に同衾することができるのか、と。
元々茨は権謀術数に長けた頭脳の持ち主、目的達成までの計画表を立てるのなんて朝飯前以前の話である。
一度抱くと決意した後の行動はリニアよりも早かった。
通常業務を終えた後の深夜に高笑いと共にキーボードを叩き続け、完璧なスケジュールを組み上げるまでは二徹、三徹も苦にならず。そして、
「 …………できましたね。 」
最後のエンターキーを軽やかに叩き終える頃には茨の顔面はほぼほぼ夜●月の〝計画通り〟の作画になっていた。
計画目標【100日後にジュンと寝る】
オペレーション、開始————。
「 なんかすげぇ気合い入った眺めっすねぇ。……茨、会計大丈夫なんすか? 」
「 ええ、当たり前です。基本コースで物足りなければ好きなだけ追加注文していただいて結構ですよ 」
「 うへぇ……、 」
はい、こちら某くそくそ高級ホテル最上階のくそくそ高級レストランよりお送りしております。現在の気温は24度、暑くもなく寒くもなく絶好のデート日和となっております。
さて、ここまでの60日間において茨は多忙すぎるスケジュールの中にあっても大体の基本的なデートコースは全て完璧に押さえることに成功していた。ディ●ニーも行った。シーも行った。み●とみらいも行った。水族館で生まれたてのゴマフアザラシも見たし、動物園でゴリラがうんこを投げるところも見て、ジュンは大はしゃぎしていた。まさに順調。まさにパーフェクト。
しかし、茨本人は綿密すぎるくらいだと信じて疑わなかったが、実際のところ彼の計画とやらはお粗末且つ杜撰すぎるものだった。
下記のプランをご覧いただきたい。
①雰囲気のいい店の高いもので餌付けする
②部屋に連れ込む
③セックスする
無理があるにも程がある。
もちろん茨は成功すると思っている。
性交もすると思っている。
現に今も余裕の面で黒革のメニューをぱたんと閉じ、
「 今日はひと月に100頭しか出荷されない幻の黒毛和牛だそうですよ 」
この言い草である。
「 んなこと言われてもなぁ……、 」
オレ普通にい●なりステーキでも美味いと思っちまうんで難しい味とかあんまりわかんねぇすよぉ、おひいさんに連れてかれた店でも高そうな匂いするってくらいしかわかんなかったですし、とジュンは居心地悪げにぼそぼそ言って、
( 人の金で飲み食いしておいて堂々と他の男の話をするとはまったく良いご身分ですねぇ!!!! )
内心ブチ切れながらも表面上の茨は冷静そのものだった。次はあなたの口に合うところにしましょう、などと大変物分かりの良い振りをしている。当然、この後セックスするためである。
ちなみに正直なところ、幼い頃には土を食って生きていた茨のほうも高級食材に関しては一切の〝理解り〟がなかった。基本は低カロリーでエネルギーチャージできればそれでいいという合理性に基づき、日々ゼリー飲料を爆速で吸引している愚か人なので仕方がないといえば仕方がない。現に今も万が一エリンギをポルチーニ茸と偽られていても、さすがですな!シェフを呼んでください!くらいは言ってしまいかねないレベルの自覚はあったので、敢えて食事の感想なども自分からは口にしないようにしていた。
「 満腹になったら途端に眠みぃ〜……、 」
ジュンは19歳の赤ちゃんである。何とかデザートまで漕ぎ着けた直後に発された台詞がこれだった。何ですかそれ。かわいい。抱きたい。ちんちん痛い。遅れてきた思春期真っ只中、劣情でバグっている茨の脳内ボキャブラリーは底の底になっている。
「 ところでジュン、この後どうします? ……あの、自分、万が一に備えてこのホテルのスイートを押さえてありますのでこのまま泊まって行っていただいても、 」
これだけデートを重ねたんですからもうそろそろいい頃ですよね、の意。席を立とうとする相手に対し、下心丸出しのそんなお誘いを前のめりの早口で捲し立てるように茨は投げ掛ける。しかし、So Purely Angelジュンは当然自分の貞操が狙われているなどとは夢にも思わない無垢な仕草できょとんと小首を傾いで見せ、
「 あぁ〜、ありがたいんですけどここに泊まっちまったら明日の朝はどこで走り込みしたらいいのかわかんねぇんでオレは帰りますよぉ〜 」
「 ………………えっ。 」
何の根拠もなく、高くて美味い飯を食わせておけばちんこも咥えてもらえるだろうと思っていた茨は完全に虚を突かれてしまって、咄嗟に「では自分が明朝のランニングコースを設定しましょう」との提案をお出しすることもできなかった。そして、
茨は泊まって行くんですよね?
ごちそうさまでした、オレも今度肉まんとか奢りますねぇ〜。
え、タクシー?眠気覚ましとロードワークがてら走って帰るのにちょうどいい距離なんで大丈夫です。
それじゃ、おやすみなさ〜い。
( ……………………は? )
お疲れさまでした〜。と無邪気に去っていくジュンの背中を猫ミームの面で見送るこの展開を、このあと5回ほどは繰り返すことになる茨なのだった。
つづく(しらんけど)