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    sabasavasabasav

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    2主とルック(少しだけ坊ちゃんとルック)が会話する話。ルックは傍観者。序盤で既にオチが分かるのはご愛嬌で……

    #腐向け
    Rot
    #主坊
    mainPlace

        ▽        ▽


     ノックもせずに部屋に足を踏み入れたルックの目の前に広がっていたのは、身動ぎもせず応接用のソファに沈み込んだ、情けない軍主の姿だった。取り柄とも言える跳ね返るほどの溌剌さも今は鳴りを潜めている。
    「……何やってるの。だらしないな」
     その姿に、ルックは思わず声に苦渋を滲ませた。
     ルックの声が僅かに反響した執務室内は静寂に包まれており、辺りに人の気配は感じられない。目の前に寝そべるリアン以外の人物は席を外しているようだった。少なくとも、その姿からして軍師兼お目付役であるシュウがものの数分では帰って来ないことだけは察することができる。
     勝手知ったるなんとやら、ルックはリアンが寝転がっていない、テーブルを挟んだ先にあるソファへと勢い良く腰掛けた。
    「仮にも軍主なんだから、目につくところでダラダラしないほうがいいんじゃないの?」
    「来たのがルックだから見せてるの。僕だって外聞は気にするよ」
     ルックが吐いた辛辣な言葉に、リアンは迷い無く噛み付いてきた。ただ、その声は覇気がない。
    「へえ。ここに来るのがよく僕だと分かったね」
    「服の装飾、結構音が立つんだよ。で、ルックがわざわざここまで来るのは珍しいけど何かの用事?」
     幾ら馴染みの顔とはいえ、寝転がる姿をまじまじとは見られたくないものらしい。しかし、渋々体を起こしたリアンの動作は重い。
     気だるそうなリアンはそのまま立ち上がると、どこか覚束ない足取りで山積みの書類に近付いた。綺麗な箱を手にして元の場所へと腰掛けると、テーブルに頬杖を付く。言葉もなくそのまま差し出された箱の中には、いかにも誰かの手で作られただろう焼き菓子が入っていた。
     そういえば、数日前に女性陣が厨房に篭って何かをしていたのを思い出した。大した影響はないだろうと見過ごしていた、城の小さな出来事だった。一応、貰い物の菓子を与えられる程度には歓迎されているらしい。
     物を食べる気分ではなかったが、ルックはなんとなく箱の中から一枚、クッキーを摘み上げた。
    「調子悪いなら、早めに言いなよ」
     菓子を齧りながら、先程リアンに尋ねられた質問の返答をした。
     ルックにとっては急ぐ用事はなかった。先程見かけた姿がどことなく覇気がないように見え、体調不良を隠しているのかもしれない。そんな気まぐれのような発想だった。
     今し方注いだばかりの水を差し出すリアンの指が僅かに震え、合わせてカップの水面がゆらりと揺れた。
    「わ、悪くないよ」
    「本当に?」
    「……うん」
    「……調子が悪いなら倒れるより前に休んで、より早く治すほうがいい。軍主の顔色が悪かったら、全体の士気に関わる。戦争は長丁場なんだから」
     リアンは目を大きく見開いたかと思うと、気怠げな動きとは裏腹にはっきりと口角を上げた。
    「ありがとう。大丈夫だよ。ちょっと体が痛いだけだから」
    「体のどこ?」
    「本当に大したことじゃなくて……」
    「どこ」
    「……いや、その」
    「早く言いなよ」
    「……腰」
     トントンと大げさに腰を叩くジェスチャーをしてみせるリアンに、鸚鵡返しに言葉を反芻させる。
     元気印が板についているリアンに腰痛など、本人の口から聞いた今でも想像すら湧かない。
    「どこかで痛めた?」
    「まあ、その……」
     クッキーを咀嚼するたびに、歯切れの悪い言葉を発するリアンの頬が、みるみるうちに朱に染まる。
    「ああ、そういうこと?」
     合点が付いたルックは、焼き菓子の最後の一欠片を口に放りながら呆れ顔を浮かべた。
     現在はここにいない、リアンが憧れているというトランの英雄。マクドール家の嫡男。解放軍の首魁を務めあげた不老の少年。
     そして、大切な人の命を食らう真の紋章をその身に宿している。
     数日前まで滞在していたティアは今朝早く、グレッグミンスターへと帰ってしまったらしいのだと仲間達の雑談で耳にした。確かに、敬意を払っているティアを前にして、リアンがこのような醜態を晒すはずがない。
     良くも悪くも色々と因縁のあるティアの肩書が、今はそれだけではないことをルックは知っていた。だからこそ、彼がわざわざこんな早朝に出立した理由にも辿り着いてしまった。
     そして、この話題は藪蛇だということも。
    「お盛んだね」
     色事に興味が更々なさそうな人畜無害な顔をしていながらやることはやっているのかと、妙なところで感心してしまいそうになる。
    「何その言い方!」
    「今更恥ずかしがってるわけ? ただの事実でしょ」
    「だとしてもはっきり言わなくてもいいじゃないか!」
     ばたばたと両腕を振るリアンの顔は、先程よりも一層朱に染まっている。それが既に、事実を認めているようなものだと、本人は知る由もない。
    「体に負担が残るほどするのはどうかと思うけどね」
    「僕だって、こんなにするつもりは……」
    「一日二日寝たら回復しそうなあんたが、そんなに疲れ切ってるなんて相当だよ」
    「だ、だって」
     一端を担っている自覚があるのか、ルックの台詞に強く返すこともできず、リアンはモゴモゴと言葉を濁した。
    「マクドールさんのあんな顔見たら、つい……」
    「はいはいそういうのはいいから」
     デレッと表情を崩すリアンに、ルックは思わず額に手を当てた。
     そうやって絆されて、何度も体を重ねたことが言われなくとも分かってしまったからだ。
     あの、俗世とは縁遠そうなリアンが、今ここにはいない恋人の事を想像して破顔している。是非、その姿を絵に描いて、本人に見せてやりたい。
    「何回」
    「え?」
    「何回やったの?」
     下品な言い方をした自覚はある。今更、気を遣ったところでどうしようもない。
    「何でそんなこと気に……ま、まさかルック、マクドールさんのこと!」
    「はぁ?冗談も大概にしないと切り裂くよ?」
     思わず手の甲をリアンへと掲げる。
     リアンの恋慕に軽蔑などしたことはないものの、己と同様に男に恋愛感情が湧くと思われては堪ったものではない。
     詫びる気持ちがあるのかリアンは「ごめんなさい」と一言呟いた。
    「で?」
    「……5回……」
    「……よく体が無事だったね……」
     丈夫そうな身なりではあるものの、長時間に渡って体を交えていた負担はさぞかし大きいだろう。
     本来入れられないはずの場所に異物を挿れられるのだから、快感が過ぎた後にはより疲労が残る。男同士での性交に関して、大雑把な知識しか持たないルックですら、リアンの体を気遣ってしまうほどの回数だった。
     相手のことも考えずに事に及ぶような人間には見えないが、ティアも案外、ベッドの上では化けの皮が剥がれて獣になるのかもしれない。実際、未だに腰の鈍痛を負っているリアンの負担は相当のものだと如実に語っている。
    「マクドールさんも大変そうだったんで……お相子です」
    「別に……あんたたちがそれで良いなら、僕は何も言わないけどね」
     不可抗力とはいえ、これだけ体を痛めつけられても、リアンはティアに対して文句の一つも挙げていないのだ。二人の間に特別な愛情は確実に存在しているのだろう。
     気怠そうな雰囲気の中で、リアンは晴れ晴れとした表情を浮かべた。
     それにしても、あいつはこいつの前で一体どんな顔をしてるんだろう。
     先程の様子はどこへやら、「ルックが言うからマクドールさんに会いたくなっちゃった。迎えに行こうかなぁ……シュウさん、怒るよなぁ……」とぼやき始めたリアンを前に、ルックは絶対に解消することのできない興味を、一人頭の隅へと押しやっていた。





    「相変わらずのお人好しで」
    「お人好しなんて、ルックから言われるとは思わなかった。声をかけられるまでこうして本を読んでいるだけのしがない旅人なのに」
    「軍主様に強請られて、わざわざ隣国から来るような奴をお人好し以外になんて呼ぶ?」
     後日、リアンが会議に追われている間を見計らい、図書館で本を読み耽っているティアの目の前に紙袋を置いた。
     リアンならいないよ、とこちらを見向きもしないティアの動作を邪魔するように、手に持つ荷物で書物を下敷きにしてやった。
    「ちょっと、ルック」
    「あげるよ」
     ようやく顔を上げたティアに、ルックは口角を上げた。
     眉間に皺を寄せながらも、中身が気になるのか、書籍を脇に置いたティアは紙袋の中を覗き込む。
    残念ながら、見た目に似合わず甘いものが好きである彼が所望しているものは入っていないが。
    「……何これ」
    「僕が手ずから錬成した潤滑油。粘度が高くて香りも良い」
     細長い瓶に入った、仄かに水色に染まった液体。両者とも紛れもなく男で、雰囲気を大切にするようには見えないし、洒落っ気があるようにも思えない。芳香は抑えられたものを選んだつもりだ。
    「……ぼ、僕に……これを使ってくれって言わせるのか?」
     それほどまでに予想外だったのか、目を丸くして湯気が出そうなほどに紅潮しているティアに、珍しいものが見れたとルックはほくそ笑む。
     恋仲になるまでの間、リアンの相談役を務めていたルックが二人の関係を知っていることはティアにも周知の事実だった。現に、こちらが何を尋ねても今までは顔色を変えることもなかった。
     ルックが二人の口からその事実を聞いた際には、しれっとしているティアとは裏腹に、クッションに顔を埋めながらバタバタと暴れていたのはルックに相談をしていたはずのリアンのほうだった。
     ティア・マクドールという人物は、見事なまでのポーカーフェイスの持ち主だ。感情を露にしているところなど、滅多に拝めるものではない。そんな彼が、無防備に頬を染めているなどと。
     観察したい欲求を抑えてティアの手から滑り落ちそうなボトルを抜き取る。その拍子に中身がどろりと揺れた。
    「別に言わなくても勝手に使えばいいじゃないか」
    「だってそれ……」
     錆び付いた機械のように、固い動作で顔を上げたティアは、いやに緊張した面持ちでルックの手の内にある潤滑油を指差した。
    「ルックは、僕に準備しておけって言いたいのか?リアンがそうしてほしいって言った?」
    「これを作ったのは僕の一存さ。あいつは関係ないよ」
     そう言ったものの、ティアは未だ疑いの眼差しを向けている。
    「ルックのことだから、リアンから全て聞いてるんだろ?」
    「まあ、ある程度はね。この前、腰が痛いって喚いてた。あいつはあんなナリでもリーダーなんだよ。軍にとって要だってことはあんたが一番分かってるでしょ。もっと大切にしてやったら?」
     虚空を見詰めながら小首を傾げていたティアは、腑に落ちないといった顔付きでこちらを見つめている。
    抱いた違和感に、ルックも同様に首を傾げた。
    「それはそうなんだけど……」
    「歯切れが悪いな。僕はおかしなことを言ったつもりはないけど?」
     いくら両思いとはいえ、軍主の心身を心配しての言動に何らおかしいことも疚しいこともないはずだった。当てつけに潤滑油を渡してしてしまったものの、彼らの間を裂く気持ちは微塵もない。
    「僕の、返上したい肩書きがあるだろう?」
    突拍子もなく、ティアは言った。
    「ああ、トランの英雄、ね」
    「僕としては不本意だが、それがついている以上、僕の身体はトランの所有物と呼べなくもないだろう?」
    「そう解釈する輩もいるだろうね」
    「ルックはどう思う?」
    「……あのさあ、回りくどい言い方しないでくれる?何が言いたいわけ?」
    「……いや、その……」
     未だに怪訝な顔を浮かべるティアの手が、臀部を撫で擦るように後ろ手に伸ばされた。
    「リアンじゃなくて僕を労わってほしいと思っただけだ」
     思わずルックの手から滑り落ちた瓶が、鈍い音を立てて床に転がっていった。

     卒倒するなど露にも思わず、驚愕に歪めてしまったルックの顔は、巷で有名な美少年では断じてなかったと、別日に一部始終を見ていたティアから聞かされることとなる。


        
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