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    村人A

    @villager_fenval

    只今、ディスガイア4の執事閣下にどハマり中。
    小説やら色々流します。

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    村人A

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    首絞め未満のお話です。未満なので絞めてません。ちょっとギスギスしてる?ので、そこだけ注意です。

    手のひらから伝わる、感情部屋の中。ベッドが軋むのは、ふたり分の体重のせいだ。
    しかしそれは、フェンリッヒの首にヴァルバトーゼが手を重ねている、なんとも物騒な現場だった。

    簡単なこと。
    ヴァルバトーゼは、今日のプリニーたちの質が殊更悪く、イラついていた。
    イラついているということは、判断能力が鈍っている。フェンリッヒもイラついていたのか、普段仕掛けないタイミングで仕込んだ。
    ──人間の血を。

    「血は飲まぬ、と──何度言ったらわかるのだ」

    そう言ったヴァルバトーゼは、フェンリッヒを自室に連れ込み──今に、至る。
    自分から連れてきて首を絞めようとしていたというのに、ヴァルバトーゼはどこか苦悶の表情を浮かべていた。
    目も口も閉じて首を差し出すように顎を上げていたフェンリッヒの、口が開く。

    「──どうされました、閣下」
    「……ッ」
    「言うことを聞かぬシモベの首など、さっさと絞めた方がよろしいのでは?」
    「…お前は、逃げぬのか」
    「わたくしは、月が輝き続ける限り─そう、この命ある限り、あなたにお仕えするという約束を結んだシモベでございます。ここであなたによって終わらせられるのであれば、それも約束を守ったと言えましょう。閣下の気の済むように──どうぞ?」

    命ある限り仕える。
    そう、今ここで主によって生を終える様なことになれば、シモベは約束を守ったことになる。
    とあらば、約束を破るのは主の方。
    すでに一度、違う者との約束を破っている。約束を絶対に守るという彼の信条が、これ以上傷付けられる訳にはいかない。
    このシモベは賢い上、頭が回る。きっと、手にかけることが出来ないと分かってこう言っているのもあるのだろう。
    ある意味、いい信頼の気持ちを持っている。

    「……ッ、俺は…」
    「お好きなように。あなた様の選択なら、わたくしは喜んで受け入れましょう」

    目は開けない。首は差し出されたまま。
    本当に手にかけない保証などないのに、まさに成すがままのシモベの首にかけた手に、力が僅かに込められる。
    どうこう出来る力では無い。力を入れるか迷っている、すぐに逃げ出せる程の力。
    苦虫を噛み潰したような顔をし、手を離したヴァルバトーゼは、歯を食いしばったまま、フェンリッヒの上から退く。

    「…よろしいので?」
    「……俺はもう、約束を破る訳にはいかぬ…それに、失ったあの痛みをもう一度味わうのは…ごめんだ」
    「ご自身で手を下されるのに、痛みですか?」
    「俺自らの手で約束は破れん、と言っておるのだ。…今回は、不問にしてやる。やるのは構わんが、機を見てやれ」
    「おや、悪魔的には万全な機だったと思いますが…まぁ、主の言うことなら、従いましょう」
    「なら血を仕込むのをやめろ。…と言った所で聞かんだろう」
    「もちろん。それとこれとは、話が別でございますので」

    約束を破り、後悔から来る胸の激痛を知っているヴァルバトーゼは、そう言ってフェンリッヒに背を向ける。

    (あの女のように、わたくしを喪うことで、あなたの心に永遠に住まうことが許されるのなら─と思いましたが、そうなればもうお仕えすることが許されない…疲れから、判断能力が鈍ったか)

    合理的ではなかった考えに、フェンリッヒは軽くため息を吐いた。

    「…悪かったな。もういい、下がれ」
    「いえ、こちらこそ申し訳ございません」

    悪かった、などと謝罪の言葉を口にする。
    不機嫌な時にシモベが要らぬことをしたというのに。
    顔が見えないため、何を考えているかは分からない。だがフェンリッヒは、小さくなったその背中を不敵な笑みで一瞥し、色々な感情を込めて──ただ一言、小さな言葉を返した。

    「…お優しいことで」

    それは皮肉か、敬念か。
    言葉の真の意味は、吐いた執事のみぞ知る。

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    last_of_QED

    CAN’T MAKE11/5新月🌑執事閣下🐺🦇【俺の名を、呼んで】今、貴方を否定する。
    「呼んで、俺の名を」の後日談。お時間が許せば前作から是非どうぞ→https://poipiku.com/1651141/5443404.html
    俺の名を、呼んで【俺の名を、呼んで】



     教会には、足音だけが響いている。祭壇の上部、天井近くのステンドグラスから柔い光が射し込んで、聖女の肌の上ではじけた。神の教えを広め、天と民とを繋ごうとする者、聖職者。その足元にも、ささやかな光を受けて影は伸びる。
     しんと凍えそうな静寂の中、彼女はひとり祭壇へと向き合っていた。燭台に火を分け、使い古しの聖書を広げるが、これは決してルーチンなどではない。毎日新しい気持ちで、彼女は祈る。故に天も、祝福を与えるのだろう。穢れない彼女はいつか天使にだってなるかもしれない。真っ直ぐな姿勢にはそんな予感すら覚える眩しさがあった。

     静けさを乱す、木の軋む音。聖女ははたと振り返る。開け放っていた出入口の扉がひとりでに閉まるのを彼女は遠目に見つめた。風のせいだろうかと首を傾げれば、手元で灯したばかりの蝋燭の火が揺らめき、何者かの息によって吹き消える。不可思議な現象に、彼女の動作と思考、双方が同時に止まる。奏者不在のパイプオルガンがゆっくりと讃美歌を奏でればいよいよ不穏な気配が立ち込める。神聖なはずの教会が、邪悪に染まっていく。
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