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    村人A

    @villager_fenval

    只今、ディスガイア4の執事閣下にどハマり中。
    小説やら色々流します。

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    村人A

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    魔王アルマースとまだ魔王になれてないマオのお話し。
    魔王になったアルマースはどこか冷めてるといいなぁと思って書きました。

    魔王と魔王見習いつまらない。
    空虚で孤独な玉座は、いつも空っぽのように空気を感じて、温度なんて感じないのに、少しばかり寒いように思う。

    魔王。

    そんな呼称で呼ばれるようになってから、どれ程経っただろう。
    元々は人間の勇者見習いだったというのに、いつの間にか悪魔の、それも頂点の魔王となってしまったのは、いつからだったか。

    (……もう、覚えてないや)

    暇を持て余し、心に穴が空き、虚ろな目で座るアルマースは、ぼんやりとそんな事を考えていた。
    かつての仲間たちは、自分が魔王になると途端に立場を変えた。
    幸い、寝返ったり軍門に下るような者こそ居なかったものの、己を魔王として扱うようになったのだ。
    想い人との結婚も夢のまた夢と成り果てた。
    周りの悪魔たちも「魔王様」と崇める始末。そんな状態が気持ち悪くなり、嫌になり、周りのお世話をと意気込んでやって来る悪魔たちに「誰も来るな」と言って、魔王は本当に孤独になった。

    本当なら、自分が魔王を倒すべき立場だったのに、ともう戻らない日々を恋い慕う。

    (……姫様を守るんだ、と訓練をしていた時期が懐かしいなぁ…)

    今、彼が鍛えた技の数々は、大切な人を守るためのものではない。
    目を閉じて、何度目か分からないため息を零す。
    その時だった。

    「──!!」

    自分が間違えるはずがない。
    寄ってくる気配に高揚感を覚えたアルマースは、抑えきれない嬉しさを込めて、魔力を溜める。
    ドアが開くと同時に当たったはずの魔法は、相殺されたのか、爆発を起こして周りに白煙を撒き散らす。
    先程の死んだような顔など影も見ない、ウキウキとした顔を隠さず、白煙に声を投げる。

    「来てくれたんだね!」
    「〜〜ッ、貴様!いきなり魔法とは、やってくれるではないか!」
    「キミも撃ったんだから、お互い様でしょ?ねぇ──マオ!」
    「チッ……奇襲は失敗か」
    「やっぱり奇襲のつもりだったんじゃないか」

    白煙の中から現れた少年──前魔王の実の息子、マオ。父親から魔王の座を受け継ぐはずだったのに、自分を倒したからと、ただの人間の勇者に魔王の座を明け渡す羽目になってしまった。
    あの日から、マオは度々こうしてアルマースに挑みに来ていた。
    その座を奪うため、己のために。
    だが魔王の座につき、アルマースは人間だった頃とは比にならない程に力をつけていた。
    それこそ、邪悪指数180万のマオの頭脳とそこからの戦闘力を差し引いても、だ。

    「でも、折角キミが来てくれたのに、魔法じゃつまらないね」
    「結局それか。…だが、悪魔は互いの力をぶつけ合ってこそ…力こそ全て。その考えは、否定はせん」
    「フフ…さ、出来るだけ長く闘お(遊ぼ)うね?」
    「ふざけおって……今にそのすました顔、床につけてやる!」

    剣同士がぶつかる音。
    そのたった一音に、アルマースは違和感を覚えた。

    「……マオ、もしかして何か秘密がある?」
    「…もう見抜いたか。そうだ。我の服は、筋力強化スーツだ。貴様とは、どう足掻いても体格差があるからな。貴様は、やたらと真っ向勝負を好むからな、対策だ」
    「ふーん…?確か、2年5ヶ月と6日前に挑みに来た時も強化スーツ着てなかった?」
    「な、なぜそんなに正確に覚えているのだ…気持ち悪い…」
    「元々記憶力はいい方なんだよ、ボク」

    嘘だった。
    もう、いつ魔王になったかも覚えていない。だが、マオのことは事細かに覚えている。
    こうなってしまった今、アルマースの日々の楽しみはマオと手を合わせることだけ。
    だから、マオのことだけは覚えているのだ。

    「…確かに前も着てきたが、今回は改良型だ。簡単に我を退けられると思うなよ!」
    「それは…楽しみだね!」

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    弾かれた剣が宙を舞い、床に刺さった。
    木の床などではない場所に刺さる物は、余程の切れ味だろう。だが、傷一つ付かなかった。
    合った目は酷く冷たい色をしたまま、口元だけが笑っている。
    『期待外れ』──そう言いたいのが、ありありと伝わってくる。

    「──終わり、だね」

    剣を鞘に収めると、そう静かにアルマースが言う。

    「でも、前に斬り合った時より長かったよ?そのスーツ、すごいね。さすがだよ」

    マオが弱い訳では決してない。
    彼も魔王の息子として、類まれなる血と才能がある。だが、なぜか、アルマースとの力の差が離れていく。

    (何故だ…!?コイツは元々人間だぞ!!)

    踵を返したアルマースは、項垂れて両手足を床につけた状態のマオにゆっくり歩み寄り、膝をつく。

    「ねぇ、マオ。この『魔王の称号』──渡そっか?」
    「………は?」
    「もしかしたら、ボクのココロの中に、ココロ銀行から入れるかもよ?そしたら──」
    「──ふざけるなッ!!」

    激昂したマオは、横に刺さったままだった剣の切っ先をアルマースへ向けた。

    「敗者への侮辱か!?そんなものは受け入れんと、何度言わせれば分かる!?魔王の称号が欲しいのならば、貴様から力ずくで奪い取ってみせる、そう言ったはずだぞ!!」

    もう闘う力はほぼ残っていないはずなのに、それでも衰えない眼光をバッチリ目に入れ、アルマースは微笑む。

    「…そうだね、キミはそういう人だよね。分かった。じゃあ、また挑んで来なきゃね?」
    「……余裕綽々か。お前こそ、我の前に誰かに殺されたら許さんぞ」
    「うん。この称号も──首も、キミに置いておくから、早く奪いに来てよ?」
    「フン、何を言っている。称号を取り戻したら、お前を死ぬまでこき使ってやるに決まっているだろう!わざわざ殺しなどせんぞ」

    まるでいい考えが浮かんだ子供のような顔で、マオはそう言い放つ。
    その言葉に、アルマースは堪えきれない笑いを零した。

    「なっ、何が可笑しい!?」
    「あはは…ごめんね、あまりにもキミらしいから、つい」
    「バカにしているだろう…?」

    ジト目で言うマオに、「バカにしてないよ」と返す。

    (あーあ…こんな風に声を上げて笑ったのなんて、いつぶりだろ)
    「とりあえず、今日の所は帰る」
    「うん。また来てね」
    「……次こそその顔を歪ませてやる」

    捨て台詞の後に踵を返し、ドアを開けた後に、もう一度振り返る。

    「…人間は守るものがあると強いなどと聞いたことがあるが、お前みたいに守るものがなくてもなれるものだな」
    「……」

    それが言いたかったことで、答えなど求めてなかったのか、マオはその言葉を最後にドアを閉めた。

    「守るもの、か…」

    踵を返し、また玉座へと向かう。
    マオは恐らく、アルマースが人間だった頃に姫様という守るべき者が居たが、今は居ないのに、といったことが言いたかったのだろう。
    再び誰も居なくなった部屋の中に、答えを告げる声が響く。

    「あるよ。守りたいもの。キミがボクを討つまで、ここは譲れないでしょ?」

    ──だから、早くここまでおいで。

    孤独な魔王は、今日もひとり玉座に腰掛ける。
    いつか友がこの日常を、輪廻を終わらせてくれることを願い、彼は来る者を退け続ける。


    「ここは、キミ以外に譲る気は更々ないんだからね、マオ」

    そう呟いて、魔王は冷たい笑みをひとつ、零した。

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    last_of_QED

    DONEディスガイア4で悪魔一行が祈りに対して抵抗感を露わにしたのが好きでした。そんな彼らがもし次に祈るとしたら?を煮詰めた書き散らしです。【地獄の祈り子たち】



    人間界には祈る習慣があるという。どうしようもない時、どうすれば良いか分からぬ時。人は祈り、神に助けを乞うそうだ。実に愚かしいことだと思う。頭を垂れれば、手を伸ばせば、きっと苦しみから助け出してくれる、そんな甘い考えが人間共にはお似合いだ。
    此処は、魔界。魔神や邪神はいても救いの手を差し伸べる神はいない。そもそも祈る等という行為が悪魔には馴染まない。この暗く澱んだ場所で信じられるのは自分自身だけだと、長らくそう思ってきた。

    「お前には祈りと願いの違いが分かるか?」

    魔界全土でも最も過酷な環境を指す場所、地獄──罪を犯した人間たちがプリニーとして生まれ変わり、その罪を濯ぐために堕とされる地の底。魔の者すら好んで近付くことはないこのどん底で、吸血鬼は気まぐれに問うた。

    「お言葉ですが、閣下、突然いかがされましたか」

    また始まってしまった。そう思った。かすかに胃痛の予感がし、憂う。
    我が主人、ヴァルバトーゼ閣下は悪魔らしからぬ発言で事あるごとに俺を驚かせてきた。思えば、信頼、絆、仲間……悪魔の常識を逸した言葉の数々をこの人は進んで発してきたものだ。 5897

    last_of_QED

    BLANK【5/24 キスを超える日】ほんのり執事閣下【524】



     かつてキスをせがまれたことがあった。驚くべきことに、吸血対象の人間の女からだ。勿論、そんなものに応えてやる義理はなかったが、その時の俺は気まぐれに問うたのだ。悪魔にそれを求めるにあたり、対価にお前は何を差し出すのだと。
     女は恍惚の表情で、「この身を」だの「あなたに快楽を」だのと宣った。この人間には畏れが足りぬと、胸元に下がる宝石の飾りで首を絞めたが尚も女は欲に滲んだ瞳で俺を見、苦しそうに笑っていた。女が気を失ったのを確認すると、今しがた吸った血を吐き出して、別の人間の血を求め街の闇夜に身を隠したのを良く覚えている。
     気持ちが悪い。そう、思っていたのだが。
     ──今ならあの濡れた瞳の意味がほんの少しは分かるような気がする。

    「閣下、私とのキスはそんなに退屈ですか」
    「すまん、少しばかり昔のことを思い出していた」
    「……そうですか」

     それ以上は聞きたくないと言うようにフェンリッヒの手が俺の口を塞ぐ。存外にごつく、大きい手だと思う。その指で確かめるよう唇をなぞり、そして再び俺に口付けた。ただ触れるだけのキスは不思議と心地が良かった。体液を交わすような魔力供給をし 749

    last_of_QED

    DOODLE【10/4】ヴァルバトーゼ閣下🦇お誕生日おめでとうございます!仲間たちが見たのはルージュの魔法か、それとも。
    104【104】



     人間の一生は短い。百回も歳を重ねれば、その生涯は終焉を迎える。そして魂は転生し、再び廻る。
     一方、悪魔の一生もそう長くはない。いや、人間と比較すれば寿命そのものは圧倒的に長いはずであるのだが、無秩序混沌を極める魔界においてはうっかり殺されたり、死んでしまうことは珍しくない。暗黒まんじゅうを喉に詰まらせ死んでしまうなんていうのが良い例だ。
     悪魔と言えど一年でも二年でも長く生存するというのはやはりめでたいことではある。それだけの強さを持っているか……魔界で生き残る上で最重要とも言える悪運を持っていることの証明に他ならないのだから。

     それ故に、小さい子どもよりむしろ、大人になってからこそ盛大に誕生日パーティーを開く悪魔が魔界には一定数いる。付き合いのある各界魔王たちを豪奢な誕生会にてもてなし、「祝いの品」を贈らせる。贈答品や態度が気に食わなければ首を刎ねるか刎ねられるかの決闘が繰り広げられ……言わば己が力の誇示のため、魔界の大人たちのお誕生会は絢爛豪華に催されるのだ。
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    last_of_QED

    DONER18 執事閣下🐺🦇「うっかり相手の名前を間違えてお仕置きプレイされる主従ください🐺🦇」という有難いご命令に恐れ多くもお応えしました。謹んでお詫び申し上げます。後日談はこちら→ https://poipiku.com/1651141/5571351.html
    呼んで、俺の名を【呼んで、俺の名を】



     抱き抱えた主人を起こさぬよう、寝床の棺へとそっと降ろしてやる。その身はやはり成人男性としては異常に軽く、精神的にこたえるものがある。
     深夜の地獄はしんと暗く、冷たい。人間共の思い描く地獄そのものを思わせるほど熱気に溢れ、皮膚が爛れてしまうような日中の灼熱とは打って変わって、夜は凍えるような寒さが襲う。悪魔であれ、地獄の夜は心細い。此処は一人寝には寒過ぎる。

     棺桶の中で寝息を立てるのは、我が主ヴァルバトーゼ様。俺が仕えるのは唯一、このお方だけ。それを心に決めた美しい満月の夜からつゆも変わらず、いつ何時も付き従った。
     あれから、早四百年が経とうとしている。その間、語り切れぬほどの出来事が俺たちには降り注いだが、こうして何とか魔界の片隅で生きながらえている。生きてさえいれば、幾らでも挽回の余地はある。俺と主は、その時を既に見据えていた。堕落し切った政腐を乗っ取ってやろうというのだ。
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    last_of_QED

    CAN’T MAKE11/5新月🌑執事閣下🐺🦇【俺の名を、呼んで】今、貴方を否定する。
    「呼んで、俺の名を」の後日談。お時間が許せば前作から是非どうぞ→https://poipiku.com/1651141/5443404.html
    俺の名を、呼んで【俺の名を、呼んで】



     教会には、足音だけが響いている。祭壇の上部、天井近くのステンドグラスから柔い光が射し込んで、聖女の肌の上ではじけた。神の教えを広め、天と民とを繋ごうとする者、聖職者。その足元にも、ささやかな光を受けて影は伸びる。
     しんと凍えそうな静寂の中、彼女はひとり祭壇へと向き合っていた。燭台に火を分け、使い古しの聖書を広げるが、これは決してルーチンなどではない。毎日新しい気持ちで、彼女は祈る。故に天も、祝福を与えるのだろう。穢れない彼女はいつか天使にだってなるかもしれない。真っ直ぐな姿勢にはそんな予感すら覚える眩しさがあった。

     静けさを乱す、木の軋む音。聖女ははたと振り返る。開け放っていた出入口の扉がひとりでに閉まるのを彼女は遠目に見つめた。風のせいだろうかと首を傾げれば、手元で灯したばかりの蝋燭の火が揺らめき、何者かの息によって吹き消える。不可思議な現象に、彼女の動作と思考、双方が同時に止まる。奏者不在のパイプオルガンがゆっくりと讃美歌を奏でればいよいよ不穏な気配が立ち込める。神聖なはずの教会が、邪悪に染まっていく。
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