Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    村人A

    @villager_fenval

    只今、ディスガイア4の執事閣下にどハマり中。
    小説やら色々流します。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 32

    村人A

    ☆quiet follow

    魔王アルマースとまだ魔王になれてないマオのお話し。
    魔王になったアルマースはどこか冷めてるといいなぁと思って書きました。

    魔王と魔王見習いつまらない。
    空虚で孤独な玉座は、いつも空っぽのように空気を感じて、温度なんて感じないのに、少しばかり寒いように思う。

    魔王。

    そんな呼称で呼ばれるようになってから、どれ程経っただろう。
    元々は人間の勇者見習いだったというのに、いつの間にか悪魔の、それも頂点の魔王となってしまったのは、いつからだったか。

    (……もう、覚えてないや)

    暇を持て余し、心に穴が空き、虚ろな目で座るアルマースは、ぼんやりとそんな事を考えていた。
    かつての仲間たちは、自分が魔王になると途端に立場を変えた。
    幸い、寝返ったり軍門に下るような者こそ居なかったものの、己を魔王として扱うようになったのだ。
    想い人との結婚も夢のまた夢と成り果てた。
    周りの悪魔たちも「魔王様」と崇める始末。そんな状態が気持ち悪くなり、嫌になり、周りのお世話をと意気込んでやって来る悪魔たちに「誰も来るな」と言って、魔王は本当に孤独になった。

    本当なら、自分が魔王を倒すべき立場だったのに、ともう戻らない日々を恋い慕う。

    (……姫様を守るんだ、と訓練をしていた時期が懐かしいなぁ…)

    今、彼が鍛えた技の数々は、大切な人を守るためのものではない。
    目を閉じて、何度目か分からないため息を零す。
    その時だった。

    「──!!」

    自分が間違えるはずがない。
    寄ってくる気配に高揚感を覚えたアルマースは、抑えきれない嬉しさを込めて、魔力を溜める。
    ドアが開くと同時に当たったはずの魔法は、相殺されたのか、爆発を起こして周りに白煙を撒き散らす。
    先程の死んだような顔など影も見ない、ウキウキとした顔を隠さず、白煙に声を投げる。

    「来てくれたんだね!」
    「〜〜ッ、貴様!いきなり魔法とは、やってくれるではないか!」
    「キミも撃ったんだから、お互い様でしょ?ねぇ──マオ!」
    「チッ……奇襲は失敗か」
    「やっぱり奇襲のつもりだったんじゃないか」

    白煙の中から現れた少年──前魔王の実の息子、マオ。父親から魔王の座を受け継ぐはずだったのに、自分を倒したからと、ただの人間の勇者に魔王の座を明け渡す羽目になってしまった。
    あの日から、マオは度々こうしてアルマースに挑みに来ていた。
    その座を奪うため、己のために。
    だが魔王の座につき、アルマースは人間だった頃とは比にならない程に力をつけていた。
    それこそ、邪悪指数180万のマオの頭脳とそこからの戦闘力を差し引いても、だ。

    「でも、折角キミが来てくれたのに、魔法じゃつまらないね」
    「結局それか。…だが、悪魔は互いの力をぶつけ合ってこそ…力こそ全て。その考えは、否定はせん」
    「フフ…さ、出来るだけ長く闘お(遊ぼ)うね?」
    「ふざけおって……今にそのすました顔、床につけてやる!」

    剣同士がぶつかる音。
    そのたった一音に、アルマースは違和感を覚えた。

    「……マオ、もしかして何か秘密がある?」
    「…もう見抜いたか。そうだ。我の服は、筋力強化スーツだ。貴様とは、どう足掻いても体格差があるからな。貴様は、やたらと真っ向勝負を好むからな、対策だ」
    「ふーん…?確か、2年5ヶ月と6日前に挑みに来た時も強化スーツ着てなかった?」
    「な、なぜそんなに正確に覚えているのだ…気持ち悪い…」
    「元々記憶力はいい方なんだよ、ボク」

    嘘だった。
    もう、いつ魔王になったかも覚えていない。だが、マオのことは事細かに覚えている。
    こうなってしまった今、アルマースの日々の楽しみはマオと手を合わせることだけ。
    だから、マオのことだけは覚えているのだ。

    「…確かに前も着てきたが、今回は改良型だ。簡単に我を退けられると思うなよ!」
    「それは…楽しみだね!」

    ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

    弾かれた剣が宙を舞い、床に刺さった。
    木の床などではない場所に刺さる物は、余程の切れ味だろう。だが、傷一つ付かなかった。
    合った目は酷く冷たい色をしたまま、口元だけが笑っている。
    『期待外れ』──そう言いたいのが、ありありと伝わってくる。

    「──終わり、だね」

    剣を鞘に収めると、そう静かにアルマースが言う。

    「でも、前に斬り合った時より長かったよ?そのスーツ、すごいね。さすがだよ」

    マオが弱い訳では決してない。
    彼も魔王の息子として、類まれなる血と才能がある。だが、なぜか、アルマースとの力の差が離れていく。

    (何故だ…!?コイツは元々人間だぞ!!)

    踵を返したアルマースは、項垂れて両手足を床につけた状態のマオにゆっくり歩み寄り、膝をつく。

    「ねぇ、マオ。この『魔王の称号』──渡そっか?」
    「………は?」
    「もしかしたら、ボクのココロの中に、ココロ銀行から入れるかもよ?そしたら──」
    「──ふざけるなッ!!」

    激昂したマオは、横に刺さったままだった剣の切っ先をアルマースへ向けた。

    「敗者への侮辱か!?そんなものは受け入れんと、何度言わせれば分かる!?魔王の称号が欲しいのならば、貴様から力ずくで奪い取ってみせる、そう言ったはずだぞ!!」

    もう闘う力はほぼ残っていないはずなのに、それでも衰えない眼光をバッチリ目に入れ、アルマースは微笑む。

    「…そうだね、キミはそういう人だよね。分かった。じゃあ、また挑んで来なきゃね?」
    「……余裕綽々か。お前こそ、我の前に誰かに殺されたら許さんぞ」
    「うん。この称号も──首も、キミに置いておくから、早く奪いに来てよ?」
    「フン、何を言っている。称号を取り戻したら、お前を死ぬまでこき使ってやるに決まっているだろう!わざわざ殺しなどせんぞ」

    まるでいい考えが浮かんだ子供のような顔で、マオはそう言い放つ。
    その言葉に、アルマースは堪えきれない笑いを零した。

    「なっ、何が可笑しい!?」
    「あはは…ごめんね、あまりにもキミらしいから、つい」
    「バカにしているだろう…?」

    ジト目で言うマオに、「バカにしてないよ」と返す。

    (あーあ…こんな風に声を上げて笑ったのなんて、いつぶりだろ)
    「とりあえず、今日の所は帰る」
    「うん。また来てね」
    「……次こそその顔を歪ませてやる」

    捨て台詞の後に踵を返し、ドアを開けた後に、もう一度振り返る。

    「…人間は守るものがあると強いなどと聞いたことがあるが、お前みたいに守るものがなくてもなれるものだな」
    「……」

    それが言いたかったことで、答えなど求めてなかったのか、マオはその言葉を最後にドアを閉めた。

    「守るもの、か…」

    踵を返し、また玉座へと向かう。
    マオは恐らく、アルマースが人間だった頃に姫様という守るべき者が居たが、今は居ないのに、といったことが言いたかったのだろう。
    再び誰も居なくなった部屋の中に、答えを告げる声が響く。

    「あるよ。守りたいもの。キミがボクを討つまで、ここは譲れないでしょ?」

    ──だから、早くここまでおいで。

    孤独な魔王は、今日もひとり玉座に腰掛ける。
    いつか友がこの日常を、輪廻を終わらせてくれることを願い、彼は来る者を退け続ける。


    「ここは、キミ以外に譲る気は更々ないんだからね、マオ」

    そう呟いて、魔王は冷たい笑みをひとつ、零した。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    last_of_QED

    Deep Desire【悪魔に愛はあるのか】の後日談として書きました。当社比アダルティーかもしれません。煩悩まみれの内容で上げるかどうか悩むレベルの書き散らしですが、今なら除夜の鐘の音に搔き消えるかなと駆け込みで年末に上げました。お許しください…【後日談】


    「やめ……フェンリッヒ……!」

    閣下との「戯れ」はようやくキスからもう一歩踏み込んだ。

    「腰が揺れていますよ、閣下」
    「そんなことな……いっ」
    胸の頂きを優しく爪で弾いてやると、我慢するような悩ましげな吐息でシーツが握りしめられる。与えられる快感から逃れようと身を捩る姿はいじらしく、つい加虐心が湧き上がってしまう。

    主人と従者。ただそれだけであったはずの俺たちが、少しずつほつれ、結ばれる先を探して今、ベッドの上にいる。地獄に蜘蛛の糸が垂れる、そんな奇跡は起こり得るのだ。
    俺がどれだけこの時を待ち望んでいたことか。恐れながら、閣下、目の前に垂れたこの細糸、掴ませていただきます。

    「閣下は服の上から、がお好きですよね。着ている方がいけない感じがしますか?それとも擦れ方が良いのでしょうか」
    衣服の上から触れると肌と衣服の摩擦が響くらしい。これまで幾度か軽く触れ合ってきたが素肌に直接、よりも着衣のまま身体に触れる方が反応が良い。胸の杭だけはじかに指でなぞって触れて、恍惚に浸る。

    いつも気丈に振る舞うこの人が夜の帳に腰を揺らして快感を逃がそうとしている。その姿はあまりに 2129

    last_of_QED

    CAN’T MAKE十字架、聖水、日の光……挙げればきりのない吸血鬼の弱点の話。おまけ程度のヴァルアル要素があります。【吸血鬼様の弱点】



    「吸血鬼って弱点多過ぎない?」
    「ぶち殺すぞ小娘」

    爽やかな朝。こともなげに物騒な会話が繰り広げられる、此処は地獄。魔界の地の底、一画だ。灼熱の溶岩に埋めつくされたこの場所にも朝は降るもので、時空ゲートからはささやかに朝の日が射し込んでいる。

    「十字架、聖水、日の光辺りは定番よね。っていうか聖水って何なのかしら」
    「デスコも、ラスボスとして弱点対策は怠れないのデス!」
    「聞こえなかったか。もう一度言う、ぶち殺すぞアホ共」

    吸血鬼の主人を敬愛する狼男、フェンリッヒがすごみ、指の関節を鳴らしてようやくフーカ、デスコの両名は静かになった。デスコは怯え、涙目で姉の後ろに隠れている。あやしい触手はしなしなと元気がない。ラスボスを名乗るにはまだ修行が足りていないようだ。

    「プリニーもどきの分際で何様だお前は。ヴァル様への不敬罪で追放するぞ」

    地獄にすら居られないとなると、一体何処を彷徨うことになるんだろうなあ?ニタリ笑う狼男の顔には苛立ちの色が滲んでいる。しかし最早馴れたものと、少女は臆せず言い返した。

    「違うってば!むしろ逆よ、逆!私ですら知ってる吸血鬼の弱 3923

    last_of_QED

    MOURNING世の中に執事閣下 フェンヴァル ディスガイアの二次創作が増えて欲しい。できればえっちなやつが増えて欲しい。よろしくお願いします。【それは躾か嗜みか】



    この飢えはなんだ、渇きはなんだ。
    どんな魔神を倒しても、どんな報酬を手にしても、何かが足りない。長らくそんな風に感じてきた。
    傭兵として魔界全土を彷徨ったのは、この途方も無い飢餓感を埋めてくれる何かを無意識に捜し求めていたためかもしれないと、今となっては思う。

    そんな記憶の残滓を振り払って、柔い肉に歯を立てる。食い千切って胃に収めることはなくとも、不思議と腹が膨れて行く。飲み込んだ訳でもないのに、聞こえる水音がこの喉を潤して行く。

    あの頃とは違う、確かに満たされて行く感覚にこれは現実だろうかと重い瞼を上げる。そこには俺に組み敷かれるあられもない姿の主人がいて、何処か安堵する。ああ、これは夢泡沫ではなかったと、その存在を確かめるように重ねた手を強く結んだ。

    「も……駄目だフェンリッヒ、おかしく、なる……」
    「ええ、おかしくなってください、閣下」

    甘く囁く低音に、ビクンと跳ねて主人は精を吐き出した。肩で息をするその人の唇は乾いている。乾きを舌で舐めてやり、そのまま噛み付くように唇を重ねた。
    吐精したばかりの下半身に再び指を這わせると、ただそれだけで熱っぽ 4007

    last_of_QED

    DONER18 執事閣下🐺🦇「うっかり相手の名前を間違えてお仕置きプレイされる主従ください🐺🦇」という有難いご命令に恐れ多くもお応えしました。謹んでお詫び申し上げます。後日談はこちら→ https://poipiku.com/1651141/5571351.html
    呼んで、俺の名を【呼んで、俺の名を】



     抱き抱えた主人を起こさぬよう、寝床の棺へとそっと降ろしてやる。その身はやはり成人男性としては異常に軽く、精神的にこたえるものがある。
     深夜の地獄はしんと暗く、冷たい。人間共の思い描く地獄そのものを思わせるほど熱気に溢れ、皮膚が爛れてしまうような日中の灼熱とは打って変わって、夜は凍えるような寒さが襲う。悪魔であれ、地獄の夜は心細い。此処は一人寝には寒過ぎる。

     棺桶の中で寝息を立てるのは、我が主ヴァルバトーゼ様。俺が仕えるのは唯一、このお方だけ。それを心に決めた美しい満月の夜からつゆも変わらず、いつ何時も付き従った。
     あれから、早四百年が経とうとしている。その間、語り切れぬほどの出来事が俺たちには降り注いだが、こうして何とか魔界の片隅で生きながらえている。生きてさえいれば、幾らでも挽回の余地はある。俺と主は、その時を既に見据えていた。堕落し切った政腐を乗っ取ってやろうというのだ。
    2926

    last_of_QED

    CAN’T MAKE11/5新月🌑執事閣下🐺🦇【俺の名を、呼んで】今、貴方を否定する。
    「呼んで、俺の名を」の後日談。お時間が許せば前作から是非どうぞ→https://poipiku.com/1651141/5443404.html
    俺の名を、呼んで【俺の名を、呼んで】



     教会には、足音だけが響いている。祭壇の上部、天井近くのステンドグラスから柔い光が射し込んで、聖女の肌の上ではじけた。神の教えを広め、天と民とを繋ごうとする者、聖職者。その足元にも、ささやかな光を受けて影は伸びる。
     しんと凍えそうな静寂の中、彼女はひとり祭壇へと向き合っていた。燭台に火を分け、使い古しの聖書を広げるが、これは決してルーチンなどではない。毎日新しい気持ちで、彼女は祈る。故に天も、祝福を与えるのだろう。穢れない彼女はいつか天使にだってなるかもしれない。真っ直ぐな姿勢にはそんな予感すら覚える眩しさがあった。

     静けさを乱す、木の軋む音。聖女ははたと振り返る。開け放っていた出入口の扉がひとりでに閉まるのを彼女は遠目に見つめた。風のせいだろうかと首を傾げれば、手元で灯したばかりの蝋燭の火が揺らめき、何者かの息によって吹き消える。不可思議な現象に、彼女の動作と思考、双方が同時に止まる。奏者不在のパイプオルガンがゆっくりと讃美歌を奏でればいよいよ不穏な気配が立ち込める。神聖なはずの教会が、邪悪に染まっていく。
    6012