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    住めば都

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    住めば都

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    あくねこ、ミヤジ夢。
    手を離すことが愛ならば、自分が抱えている感情はなんなのだろうかとぐるぐるするミヤジ先生の話。

    薄暗くなってしまったけど、ネタがネタなので仕方ないと言えばそう。
    穏やかで自分より周りを優先するひとに見えるけれど、実際は、頑固だし愛情が重いし我を通しがちな先生が好きです。

    #aknk夢
    #aknkプラス
    aknkPlus
    #あくねこ夢
    cats-eyeDream
    #ミヤジ
    oldMan

    愛の出来損ない「次はわたし!」
    「ぼくが先だよ!」
     子どもたちの騒ぐ声が聞こえて、ミヤジは慌てて部屋のドアを開けた。今回、教室として使わせてもらった孤児院の一室には、まだ生徒たちと彼の主人がいるはずだった。
     ミヤジは休日を利用して、子どもたちに勉強を教えるため街を訪れていた。
     教室となる場所はその時々によっていろいろだが、今日は以前から、町外れにあるこの孤児院の部屋を使わせてもらう約束になっていた。ひととおりの授業のあと、ミヤジは子どもたちを主人に任せ、挨拶と次回の約束のため院長の元を訪ねていたのだが。
    「なにかあったのかい!?」
     思いのほか大きな音を立てて開いた扉に、中にいた者は皆、驚いたようだった。言い争っていた二人の子どもも口を噤んで、ぽかんとミヤジを見つめている。
    「さあ、二人とも。そんなに引っ張ったら痛いから、一度離してくれる?」
     部屋の中央で、穏やかな声がした。声の主はミヤジの主人だ。
     二つの世界を行き来して二重生活を送る彼女は、なんでもあちらの世界では子どもを預かる仕事をしているらしい。ミヤジの授業に興味があるからと言って、予定が合えばこうしてついてきてくれる。幾度かを経て、子どもたちもすっかり彼女に懐いていた。
    「でも……でも!」
    「だってさあ!」
     言い争っていた子どもたちの手は、主人を掴んだまま。彼らも我に返ったらしく、再び声高に主張を述べようとする。
     子どもの力とはいえ、強く掴まれ引っ張られれば、それなりに痛いはずだ。これ以上、大切な主人をそんな目に合わせるわけにはいかない。ミヤジは子どもたちを彼女から引きはがすため、大きく一歩、足を踏み出した。
     だが。そんなミヤジに、主人は微笑んで見せた。大丈夫だから、見ていて。言葉はなくともそんな声が聞こえた気がして、彼はハラハラしながらも踏み出した足を下げる。
    「大丈夫。ちゃんとそれぞれの言い分を聞くから。まずは離して。ね、お願い」
    「う〜……」
    「でも……」
    「せーの、で離してね。せーの、ぱっ!」
     ぐずる子どもたちに、主人は若干強引に話を進める。それでも彼らは、掛け声に合わせて手を離した。子どもらしい、不満を隠さない表情を向けられて、主人はからりと笑みを浮かべる。
    「二人とも、離してくれてありがとう」
     お礼を言われ、ほっそりした指先で髪を撫でられて、先ほどまでのむすっとした顔はどこへやら。二人の子どもたちは照れくさそうにはにかんでいた。


    「主様、掴まれたところは大丈夫かい?」
     帰り道。のんびりと馬を歩ませながら、ミヤジは前に座る主人へと訊ねた。
    「全然平気。あの子たちも、一応は手加減してくれてたみたいだし」
     そう言って、彼女はひらひらと両手を振って見せる。痛みを隠している様子はなさそうで、ミヤジはほっと胸を撫で下ろした。
    「しかし、さすがだね。子どもたちの扱いに慣れている、というか」
    「まあ、向こうではそれが仕事だしね」
     あの後。主人は二人の子どもそれぞれから話を聞くと、皆が納得する方法を子どもたち自身に考えさせ、解決してしまった。ミヤジが助けに入る隙も、その必要もない、鮮やかな手腕だった。……助けを必要とされないという点は、ミヤジにとっては幾許か寂しくもあるのだけれど。
    「それにしても、取り合いになったら掴んで引っ張るっていうのは、どこでも同じなんだねえ。私ね、ああいう場面に遭遇すると、いつも思い出す話があるんだよね」
     そう言って、主人は彼女の世界の物語をミヤジに聞かせた。
     一人の子どもに、母親を名乗る女が二人。どちらが本当の母親かを決めるため、奉行は双方の女にそれぞれ子の片腕を引っ張るように告げる。当然、子どもは痛みで泣き出すが、一方の女は、なおも子の腕を引き続ける。もう一方の女は、痛がる子どもが不憫で手を離した。奉行は手を離したほうの女を、親だと認めたという。
    「手に入れることが勝利なら、手を離すことは愛なんだなって、この話を思い出すたびに思うんだ」
    「そう、なんだね」
     応じるミヤジの声は、意図せず暗い響きになった。
     たぶん主人は、ミヤジに彼女の価値観を教えてくれたのだ。二人で授業に出かける道すがら、何気ない話題が主人の考えを知るきっかけとなることは、今までにもたびたびあった。
     そういうとき、主人はいつも少し面映そうにしている。ミヤジはそんな彼女を眩しげに見つめながら、喜びを感じていた。自分の哲学を共有してもいいと思えるほどに、心を許されていることが嬉しかったから。
     けれど今、ミヤジはいつものように喜ぶことができなかった。手を離すことが愛だと言うなら、ミヤジが主人に抱いている思いは、果たしてなんと呼べばいいのだろう。
     長いトンネルを往くような人生の中でようやく見つけた、彼女だけが希望の灯火だ。手を離すことなど、絶対にできない。考えるだけで、胸を裂かれるように辛いというのに。
    「ミヤジ?」
    「あ、ああ。すまないね、少し……考え事をしていた」
     名を呼ばれて、ミヤジは思考の海から抜け出した。取り繕うように応えて、主人の体を支えるため回した腕に、僅かばかり力を込める。
    「少し、スピードを上げるね」
    「うん。暗くなってきたもんね。お腹も空いたし。今日の夕ご飯はなんだろうねえ」
     のほほんと笑いながら、主人はミヤジの胸に身を委ねた。己の執事が、彼女を腕の中に絡めとってしまえたらなどと考えているとは露も知らずに。
     眩いほどまっすぐに向けられた信頼が、痛いほどミヤジの心を刺した。主人の掛け声で掴んでいた手を離した子どもらのほうが、ミヤジよりよほど彼女を愛しているに違いない。
     そうとわかっても繋ぎ止めておくことばかりを考えてしまう。悪魔をその身に宿した遥か昔から、ミヤジは子どもたちや彼の主人のような、無垢な命ではないのだ。
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    住めば都

    DONEあくねこ、ルカス夢。
    いつもドキドキさせられて悔しい主様が、意趣返しのつもりで「ルカスは冗談ばっかり」と返したら、実は全部本気の本心だったと暴露される話。

    交渉係を務めて長い男が、自分の思いに振り回されて本音を隠せず、苦し紛れに冗談だよって見え見えの誤魔化し方しかできないのめちゃくちゃ萌えるなと思うなどしました
    いっそ全部、冗談にしてしまえたら 目の覚めるような美人ではない。愛嬌があるわけでも、聴衆を沸かせる話術を持つわけでもない。
     至って普通。どこにでもいそうな、地味で目立たないタイプ。――それが私だ。
     おおよそ三十年かけて築き上げた自己認識は、異世界で出会ったイケメン執事たちに「主様」と呼ばれ大切にされたところで、簡単に揺らぐようなものではない。
    「フフ、主様といられる時間は、本当に幸せです♪ この時間が、永遠に続けばいいのになあ……」
    「はいはい。全く……ルカスったら、冗談ばっかり言うんだから」
     上機嫌に微笑む担当執事を、私は半眼で睨みつけた。
     ルカスとアモンは、口説くようなセリフをよく言ってくる。恋愛経験の少ない私はそのたび顔を赤くしてドギマギしてしまうのだが、彼らの思惑どおりに翻弄されるのを、最近は悔しいと感じるようになっていた。
    1884

    住めば都

    DOODLEあくねこ。ナックとハンバーグの話。友情出演、ロノとテディ。
    執事たちの話題に上がるだけですが、美味しいもの大好き自称食いしん坊の女性主様がいます。
    後日、お礼を伝えられた主様は「私が食べたかっただけだから」と苦笑したそうです。

    お肉が苦手なナックに豆腐ハンバーグとか大根ステーキとか食べさせてあげたい気持ちで書きました。
    美味しいは正義 今日に夕食のメニューは、ハンバーグだ。
     食堂に向かう道すがらで会ったテディが、鼻歌混じりで嬉しそうに言うのを聞いて、ナックは落胆の気持ちを曖昧な笑顔で濁した。
     ナックは肉全般が苦手だ。メインが肉料理の日は食べられるものが少なく、空腹のまま夜を過ごすことも多い。
     だが、ハンバーグを心から楽しみにしているらしい同僚に、それを伝えることは憚られた。食事は日々の楽しみだ。テディには心置きなく、好物を味わってほしい。
     食事の時間は一応決まっているが、執事たちは全員揃って食事を取るわけではない。一階や地下の執事たちはそろって食べることが多いようだが。
     決められた時間内に厨房へ顔を出し、調理担当に、食事に来たことを告げる。そうして、温かい料理を配膳してもらうのだ。
    2130

    住めば都

    MEMO2023クリスマスの思い出を見た感想。
    とりあえずロノ、フェネス、アモン、ミヤジ、ユーハン、ハナマルの話をしている
    執事たちが抱く主様への思いについて現時点で、あるじさまへの感情が一番純粋なのはロノかなという気がした。
    クリスマスツリーの天辺の星に主様をたとえて、でもそこにいるのは自分だけじゃなくて、屋敷のみんなも一緒でさ。
    主様と執事のみんながいるデビルズパレスを愛してるんだなあということがとてもよく伝わってきて、メインストのあれこれを考えると心が痛い。ロノの感情と愛情が純粋でつらい(つらい)

    なぜロノの贈り物にこんなに純粋さを感じているかというと。
    手元に残るものを贈っている面々は、そもそも根底に「自分の贈ったものを大切に持っていてほしい」という思いがあるはずで、贈った時点である意味主様からの見返りを求めているのと同じだと思うんですよね。
    ただ、消え物にするか否かは思いの重さだけでなくて、執事たちの自分への自信のなさとか、相手に求めることへの拒否感とか、なにに重きを置くかの価値観とか、いろいろあると思うので、消え物を選んだ執事がみんなロノほど純粋な気持ちではいないんだろうなと思っている。
    1511

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    DONEあくねこ、ハナマル夢(?)
    ※本編2.5章、水龍の唄、ワインフェスティバルの内容に触れています。
    時系列的にはワインフェスティバル8話のあと。イベストを読み返していて感じたことをこねこねしました。捏造過多です。
    独白なので夢と言っていいものかわかりませんが、考えているのは主様のことなので一応夢ということにしておきたい。
    ないものねだり 宛てがわれた宿の一室でベッドに身を横たえたハナマルは、酒精が入ったわりに冴えてしまった目で、ぼうっと天井を眺めた。ついと利き手を天に伸ばす。緩く拳を握ると、掴んでおきたかった大事なものの記憶が脳裏を駆け抜けた。
     感傷的な気分になっているのは、ルカスを相手に過去の話をしたからだろう。まさか中央の大地に、燃え尽きた郷里のことを知っている人間がいるとは思わなかった。
    「百年経てば、か……」
     刺青を消したいと相談したハナマルに、刻まれた印は消えずとも人々の記憶のほうが風化すると、ルカスは言った。確かにそうだとハナマルも思った。
     だが、背に負った龍の意味を知るものがいなくなるのにそれだけ年月がかかるのだとすれば、彼が唯一と定めた主人がハナマルの出自を知る日が、いずれやってくるかもしれない。
    1326

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