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    住めば都

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    住めば都

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    #aknk版深夜の創作一本勝負 よりお題をお借りしました。
    使用お題「魔法みたいだね」
    ロノ夢。美味しい料理を作ってくれるロノの手は魔法の手だね、という話です。

    #aknkプラス
    aknkPlus
    #aknk夢
    #あくねこ夢
    cats-eyeDream
    #ロノ
    lono

    魔法の手 自身の城とも言うべき厨房で、包丁を握り、フライパンを振り、お玉で鍋をかき混ぜる。ロノにとっては、悪魔執事となり調理担当の仕事をもらってからというもの、毎日繰り返した作業だ。
     慣れた手つきで料理を作りながら、ロノは落ち着かない気持ちだった。厨房内をくるくると動き回る彼の背は、じっと注がれる視線を受け止めている。視線の主がほかの執事たちであれば歯牙にもかけないが、ロノの動きを熱心に見つめているのは、彼にとって唯一無二の主人だ。
     ロノは浮ついてしまいそうな気持ちを押さえつけるために、平常心、平常心と口の中で唱える。しかし正直に言えば、効果は無いに等しかった。
    「主様、お待たせしました! 簡単なもので申し訳ないですけど、夜食ができましたよ」
     朝食のために仕込んでいたスープをアレンジしたリゾット。よく焼いてサイコロ大に切った豚肉をトッピングしたので、夜食といえど食べ応えがあるはずだ。
    「十分だよ〜。ありがとう。いただきます!」
     主人はリゾットをスプーンですくって、ふうふうと息を吹きかけた。そうしてそれを、大きく開けた口の中へ。途端に幸せそうに目を細めるものだから、ロノは彼女から目を離せなくなってしまう。
     もぐもぐ、ごくん。よく噛んでから飲み込むと、主人はロノに花のような笑みを見せた。
    「すっごく美味しい!」
    「イシシッ……だろ〜?」
     惜しげもなく与えられる賛辞を受け取って、ロノは鼻を擦った。照れ隠しをするときの、彼の癖だった。
    「いや〜、それにしても、主様はなにを作っても本当に美味しそうに食べてくれるんで、作りがいがあります。こっちこそ、いつも美味しく食べてくれてありがとうございます!」
     ロノの主人には嫌いな食べ物というのがない。食物アレルギーもない。作ってもらえたらなんでも美味しくいただくよ、というのが、まだ出会ったばかりのころ、食べ物の好みを訊ねたロノに返された彼女の言葉だった。
     この屋敷では、主人より、使用人たる執事たちの食事を考えるほうが、骨が折れるくらいだ。彼らは野菜はダメだの、魚は嫌だの、キノコは無理だの、要求が多いのだ。
     ロノの見守る中で、主人は黙々と、しかし幸せそうに夜食を食べ進めた。しっかりと完食して、両手を合わせる。彼女の世界、彼女の国での食後の挨拶だ。
    「ごちそうさまでした! 美味しかった〜」
    「ありがとうございます! これ、食後のお茶です」
    「わ、なにからなにまでありがとう! いただくね」
    「いえいえ。これがオレの仕事ですからね!」
     ロノは空になった食器を下げて、手際よく片づけをする。夜食の調理に使った器具もキレイに洗って、それから朝食の仕込みを再開した。今夜中に、もう少し進めておきたいところだ。
     動き始めた途端、ロノはまた背中に視線を感じた。嫌ではないが、どうにもむず痒い。ついに我慢できなくなって、ロノはのんびりとお茶を楽しむ主人を振り返った。
    「あ、主様、あの……オレの作業なんて、そんなに面白いもんでもない……と、思うんですが……」
    「あ、ごめんね。邪魔をするつもりじゃなかったんだけど」
    「いや、邪魔とか、そういうんじゃねーけど……」
     言い淀んで、ロノは鼻を擦る。主人はそれでだいたい察して、淡く笑みを浮かべた。
    「魔法みたいだなあと思って」
    「え?」
    「だって、同じ食材を使って、同じ料理を作っても、作る人によって全然違う出来栄えになるでしょう?」
     主人の言葉に、ロノの脳裏にはなにを作ってもだいたい黒焦げにしてしまう先輩執事の顔が浮かんだ。ハウレスはかなり極端な例だろうが、彼のおかげで主人の言葉の意味するところはよく理解できた。ロノは胸の中で小さく礼を言うと、彼の顔を頭の中から追い出す。
    「だから、どんな料理もすごく美味しく作るロノの手が、魔法の手みたいに思えて。ついじーっと見ちゃった」
     料理はロノの仕事で、趣味でもある。食べた人に一言「美味しい」と言ってもらえればそれで満足で、それ以上を求めたことはなかった。
     魔法の手。それは、間違いなく賞賛の言葉だった。それを世界でいっとう大事なひとからもらって、嬉しくないはずがない。
    「あ、でも、魔法だなんて、失礼な言い方だったかも。ロノの料理が美味しいのは、ロノが食べる人のことをいっぱい考えて、寝る時間を削ってレシピの研究をしてるからだもん。ロノのそういう、優しくて、地道な努力を積み重ねられるところ、すごいと思ってる」
    「あ、主様」
     賛辞ばかり飛び出す主人の口を止めたくて、ロノは慌てて手を前に突き出した。もう片方は、真っ赤になった顔を隠すように覆っている。
    「そんなに褒められたら……オレ、困っちまうよ」
     本当に参ったと言わんばかりのロノの声に、主人はぱちりと目を瞬かせた。とりあえず褒め言葉の嵐は止まったので、この隙に少しでも気持ちを落ち着けようと、ロノは深呼吸する。
    「褒めてくれんのも嬉しいけどさ。オレは、主様がオレの作った飯を美味しそうに食べてくれたら、それが一番なんで」
    「うーん……私はまだまだ全然褒め足りないんだけど」
     そう言って不満そうに唇を尖らせる主人が可愛らしくて、ロノは自然と笑みを浮かべていた。
    「へへっ、ありがとうございます! 明日の朝飯も張り切って作りますからね!」
    「楽しみにしてる。でも、無理はダメだからね。仕込みもレシピ研究もほどほどにして、ちゃんと休んで」
    「はい。お気遣いありがとうございます」
     食後のお茶を飲み終えて、主人は厨房を去っていった。ちゃんと休むように言われたばかりだったが、ロノは仕込み作業を再開する。
    (オレの手は、魔法の手……)
     そんなふうに言われたら、誰だって張り切ってしまうに決まっているではないか。


     ――翌朝。
     テーブルに並んだいつもより豪華な朝食に、執事たちはそろって首を傾げた。今日は別に、誰かの誕生日でも、なにかの記念日でもなかったはずだ、と。
     食卓についた悪魔執事たちの主は、食事の内容から調理担当の張り切りぶりを察して、こっそり苦笑した。無理せず休んでという彼女の願いは、どうやら叶わなかったらしい。
    「いただきます」
     彼女は食前のあいさつをして、香ばしさが匂い立つ焼きたてのパンを一口食べた。その美味しさに、我知らず顔を蕩けさせる。
    「美味しい!」
     そのときちょうど、ロノが厨房から顔を出した。
    「あ、主様、おはようございます!」
    「おはよう、ロノ。今日のパンも、すっごく美味しいよ」
     それが一番の賛辞だと、彼女の執事が言うから。ほかの言葉の分まで、何度だって、ロノが飽きるほどに伝えよう。
    「ありがとうございます!」
     途端、ロノは太陽のような笑顔を弾けさせた。
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    住めば都

    DONEあくねこ、ルカス夢。
    いつもドキドキさせられて悔しい主様が、意趣返しのつもりで「ルカスは冗談ばっかり」と返したら、実は全部本気の本心だったと暴露される話。

    交渉係を務めて長い男が、自分の思いに振り回されて本音を隠せず、苦し紛れに冗談だよって見え見えの誤魔化し方しかできないのめちゃくちゃ萌えるなと思うなどしました
    いっそ全部、冗談にしてしまえたら 目の覚めるような美人ではない。愛嬌があるわけでも、聴衆を沸かせる話術を持つわけでもない。
     至って普通。どこにでもいそうな、地味で目立たないタイプ。――それが私だ。
     おおよそ三十年かけて築き上げた自己認識は、異世界で出会ったイケメン執事たちに「主様」と呼ばれ大切にされたところで、簡単に揺らぐようなものではない。
    「フフ、主様といられる時間は、本当に幸せです♪ この時間が、永遠に続けばいいのになあ……」
    「はいはい。全く……ルカスったら、冗談ばっかり言うんだから」
     上機嫌に微笑む担当執事を、私は半眼で睨みつけた。
     ルカスとアモンは、口説くようなセリフをよく言ってくる。恋愛経験の少ない私はそのたび顔を赤くしてドギマギしてしまうのだが、彼らの思惑どおりに翻弄されるのを、最近は悔しいと感じるようになっていた。
    1884

    住めば都

    DOODLEあくねこ。ナックとハンバーグの話。友情出演、ロノとテディ。
    執事たちの話題に上がるだけですが、美味しいもの大好き自称食いしん坊の女性主様がいます。
    後日、お礼を伝えられた主様は「私が食べたかっただけだから」と苦笑したそうです。

    お肉が苦手なナックに豆腐ハンバーグとか大根ステーキとか食べさせてあげたい気持ちで書きました。
    美味しいは正義 今日に夕食のメニューは、ハンバーグだ。
     食堂に向かう道すがらで会ったテディが、鼻歌混じりで嬉しそうに言うのを聞いて、ナックは落胆の気持ちを曖昧な笑顔で濁した。
     ナックは肉全般が苦手だ。メインが肉料理の日は食べられるものが少なく、空腹のまま夜を過ごすことも多い。
     だが、ハンバーグを心から楽しみにしているらしい同僚に、それを伝えることは憚られた。食事は日々の楽しみだ。テディには心置きなく、好物を味わってほしい。
     食事の時間は一応決まっているが、執事たちは全員揃って食事を取るわけではない。一階や地下の執事たちはそろって食べることが多いようだが。
     決められた時間内に厨房へ顔を出し、調理担当に、食事に来たことを告げる。そうして、温かい料理を配膳してもらうのだ。
    2130

    住めば都

    MEMO2023クリスマスの思い出を見た感想。
    とりあえずロノ、フェネス、アモン、ミヤジ、ユーハン、ハナマルの話をしている
    執事たちが抱く主様への思いについて現時点で、あるじさまへの感情が一番純粋なのはロノかなという気がした。
    クリスマスツリーの天辺の星に主様をたとえて、でもそこにいるのは自分だけじゃなくて、屋敷のみんなも一緒でさ。
    主様と執事のみんながいるデビルズパレスを愛してるんだなあということがとてもよく伝わってきて、メインストのあれこれを考えると心が痛い。ロノの感情と愛情が純粋でつらい(つらい)

    なぜロノの贈り物にこんなに純粋さを感じているかというと。
    手元に残るものを贈っている面々は、そもそも根底に「自分の贈ったものを大切に持っていてほしい」という思いがあるはずで、贈った時点である意味主様からの見返りを求めているのと同じだと思うんですよね。
    ただ、消え物にするか否かは思いの重さだけでなくて、執事たちの自分への自信のなさとか、相手に求めることへの拒否感とか、なにに重きを置くかの価値観とか、いろいろあると思うので、消え物を選んだ執事がみんなロノほど純粋な気持ちではいないんだろうなと思っている。
    1511

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    DONEあくねこ、ハナマル夢(?)
    ※本編2.5章、水龍の唄、ワインフェスティバルの内容に触れています。
    時系列的にはワインフェスティバル8話のあと。イベストを読み返していて感じたことをこねこねしました。捏造過多です。
    独白なので夢と言っていいものかわかりませんが、考えているのは主様のことなので一応夢ということにしておきたい。
    ないものねだり 宛てがわれた宿の一室でベッドに身を横たえたハナマルは、酒精が入ったわりに冴えてしまった目で、ぼうっと天井を眺めた。ついと利き手を天に伸ばす。緩く拳を握ると、掴んでおきたかった大事なものの記憶が脳裏を駆け抜けた。
     感傷的な気分になっているのは、ルカスを相手に過去の話をしたからだろう。まさか中央の大地に、燃え尽きた郷里のことを知っている人間がいるとは思わなかった。
    「百年経てば、か……」
     刺青を消したいと相談したハナマルに、刻まれた印は消えずとも人々の記憶のほうが風化すると、ルカスは言った。確かにそうだとハナマルも思った。
     だが、背に負った龍の意味を知るものがいなくなるのにそれだけ年月がかかるのだとすれば、彼が唯一と定めた主人がハナマルの出自を知る日が、いずれやってくるかもしれない。
    1326

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    DOODLEぽいぴく試し書き。
    💮💍(💮🌸)夢。
    💮の力の代償を捏造しています。
    続きは夜プラ予定。
    #aknkプラス
    ハナマルの力の代償に応えたい「ハナマル…大丈夫かな」
    宿屋の窓越しにすっかり暗くなった外を眺めていた私は思わず彼を思い浮かべそう呟いていた。


    ***

    時刻は3時間程前に遡る。

    ある依頼の為に私はハナマルと二人で街に出ていた。依頼の内容を卒なくこなしたハナマルのリクエストにより街で一杯飲んでから屋敷に戻ろうかと話していた時だった。運悪く天使の襲撃に遭ってしまったのだ。相手は知能天使ではなかったものの、数が6体と多かった。いち早く力の解放を行い、ハナマルは見事天使を倒したのだったが…。

    「…悪い、主様。ちょっと疲れちまった。馬車まで歩けそうになくて…何処か泊まれる宿屋ってありそうかい?」
    天使を倒しホッとしたのも束の間、そう言ってハナマルはよろよろした足取りで路地裏に入ると、壁にもたれ掛かりズルズルと座り込んでしまった。大丈夫?と声をかける私の声が聞こえるのか聞こえていないのか、ハナマルは浅い呼吸をするばかりだ。これはマズイと、私は近くにいた通行人に声を掛け急いで宿屋を探す。幸いにも空きのある宿屋を見つけたため、途中で薬等を買込み宿屋へ向かった。
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    住めば都

    DONEあくねこ、ハウレス夢
    本編2章の直後くらいに、セラフィムの騙った主様の処刑を夢に見るハウレスの話。

    始めたばっかりですが、生きてるだけで褒めてくれるあくねこくんにズブズブです。
    本編は3章1部まで、イベストは全て読了、未所持カードばっかりだし執事たちのレベルもまだまだなので解釈が甘いところも多いかと思いますが、薄目でご覧いただければと思います( ˇωˇ )
    悪夢のしりぞけ方 ハウレスはエスポワールの街中に佇んで、呆然と雑踏を眺めていた。
     多くの商店が軒を列ねる大通りは、日頃から多くの人で賑わっている。幅広の通りはいつものように人でごった返していたが、いつもと違い、皆が同じほうを目指して歩いているのが奇妙だった。
     なにかあるのだろうか。興味を引かれたハウレスは、足を踏み出して雑踏の中へ入った。途端に、周囲の興奮したような囁き声に取り囲まれる。
    「火あぶりだってさ」
    「当然の方法だよ。なにしろ奴は人類の敵なんだから」
    「天使と通じてたなんて、とんでもない悪女だな」
    「許せないよ。死んで当然だ」
     虫の羽音のような、不快なさざめきが寄せては返す。悪意と恐怖、それから独善的な正義。それらを煮つめて凝らせたような感情が、人々の声や表情に塗りたくられていた。
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