デビルズパレスは今日も平和です 主人のためにお菓子を作れるようになりたいハウレスは、今日も今日とて厨房で練習をしていた。だが、どうしても卵をボールに割り入れるところでつまづいてしまう。
割り入れる、というか……力が強すぎて卵を持つなり握りつぶしてしまうのだ。
見かねたロノがアドバイスをした。
「卵を主様だと思って触ってみたらどうだ? いいか、今からこの卵は主様だからな」
ハウレスはりんごも軽々と握り潰せる馬鹿力の持ち主だ。だが、ロノは今までハウレスに触れられた主人から、痛いという言葉が飛び出すのを聞いたことがない。
ということは、主人に対してはうまく力加減ができているのだ。なぜそれを他の物に応用できないのかとロノは思ってしまう。だがその辺りが、ハウレスが不器用たる所以なのだろう。
「で、できた! ロノ、潰さずに持てたぞ!」
どうやらロノのアドバイスは功を奏したようだ。卵はハウレスの手の中で、丸いフォルムを保っている。
「よっし! じゃあ次は、そのまま卵の殻をボールの端っこに当てて、ヒビを入れるんだ!」
「主様に……ヒビを!? お、俺にそんな酷いことができるわけないだろう!」
すっかり手の中の卵を主人だと思い込んでいるらしいハウレスが、ロノの指示に顔を青くする。動揺した拍子に力が入ってしまったのか、ハウレスの手元でぐしゃ、と不吉な音がした。
「あ」
「あ、主様ーーーーー!?」
「いや、卵だよ」
見るも無惨な姿に変わった卵が、ボールの中に崩れ落ちる。ハウレスがお菓子作りをマスターするまで、まだまだ時間がかかりそうだ。