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    住めば都

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    住めば都

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    あくねこ、ハウレス夢。
    夏の終わりにセンチメンタルになってしまった主様とハウレスの話。

    企画「貴方が紡ぐ物語_弍」参加作品。「もうすぐ、夏が終わる」という書き出しで作品を作るという企画でした。楽しく参加させていただきました。ありがとうございました!

    #あくねこ夢
    cats-eyeDream
    #aknk夢
    #aknkプラス
    aknkPlus
    #ハウレス
    howles.

    愛しき日々よ、続け もうすぐ、夏が終わる。
     私たちはフガヤマでの滞在を終え、屋敷に戻ってきていた。かの地での賑やかなお祭りは、夏という季節の楽しさを凝縮したようで、慣れた場所へ帰ってきた安心感より、寂しさのほうが勝ってしまう。
     夏の終わりは、どうにもセンチメンタルになってしまっていけない。
    「主様、大丈夫ですか?」
    「え?」
    「いえ、ため息をついていらしたので」
     傍に控えてくれていた担当執事のハウレスは、そう言うと心配そうに眉尻を下げた。私は元気そうに見えるよう笑顔を作って、大丈夫だよと答える。きちんと誤解を解いておかないと、この過保護な執事はどこまでも心配を加速させてしまうのだ。
    「ただ……ちょっと寂しいなって思っただけなの。フガヤマで過ごした時間が、とても楽しかったから」
     浴衣。ひしめく屋台に盆踊り。温泉。剣舞の観劇。そして夜空に咲いた大輪の花火。今年の夏も、たくさんの思い出ができた。
     けれど人間というのは欲張りで、もっと、もっと夏のうちにやりたいことがあるのにと、そんなふうに思ってしまう。夏よ、終わらないでと、詮無いことを願ってしまう。
    「そうですね。俺も……この夏は主様とたくさんの思い出を作ることができて、楽しかったです」
    「……うん」
     増えた記憶を愛しむように微笑んで、ハウレスは「ですが」と逆接を続けた。
    「夏には夏の楽しさがあるように、秋にも、冬にも、それぞれの楽しさがありますよ」
     しんみりと俯いてしまっていた気持ちが、その言葉で上を向く。ハウレスの言うとおりだった。
     ハロウィンにクリスマス、お正月、バレンタイン。去年、十三人と一匹の執事と過ごした秋も冬も、とても楽しかった。今年はさらに、三人の仲間が増えている。きっと、去年よりもっとずっと素敵で楽しい時間になるに違いない。
    「それに……夏は来年もまたやってきます」
    「そう……そう、だよね。一度で全部終わらせたらもったないよね。楽しみは、次にとっておかないと」
    「はい。……主様」
     声の調子で、今度こそ本当に元気を取り戻したことが伝わったのだろう。ハウレスはやっと安堵を浮かべた。かと思うと、今度はどこか切なそうな表情になる。
    「ハウレス?」
    「来年も、その次の年も……叶うならば、この先ずっと。あなたのお傍に、仕えさせてくださいね」
     祈るような言葉だった。私はずっと傍にいる、と。確かに伝えたいのに、胸がいっぱいになってしまって、返せたのは首肯のみだ。
     夏が終わるのを寂しく思うのは、それだけこの季節が活気に満ちているからだろうか。この季節を境に草木が枯れ、虫たちが死にゆき、いのちの終わりを彷彿とさせるからだろうか。
     ああ、まったく――夏の終わりは、物悲しくていけない。
     大きく深呼吸をしてから、私はしんみりした空気を吹き飛ばすようににっこりと笑った。元気が出ないときこそ笑顔を浮かべるのだと、気持ちはあとから着いてくるのだと教えてくれたのは、他でもないハウレスだ。
    「ハウレス、笑って」
    「主様……?」
    「ねえ、笑って。そうしたら、秋の楽しい予定を、一緒に考えようよ」
     いつまで一緒にいられるだろう。執事たちが時折、そんなふうに確証のない未来を不安がっているのを知っている。私だって、時々は考えてしまう。なにしろ私の大切な執事たちは、人類の脅威と最前線で戦っているので。
     喪うことを考えると、恐怖で足が竦んでしまいそうになる。彼らも、きっと同じなのだろう。そんな私たちだからこそ、一緒に過ごす楽しい思い出が必要だ。不安に溺れてしまわないように。心を強く持ち続けるために。
    「フッ」
     息を吐き出すようにして、ハウレスは笑みを湛えた。
    「楽しい予定……というのは、具体的に考えようと思うと、少し難しいですね」
    「え、そうかな? 私はみんなとやりたいこと、色々あるよ」
     さつまいもを掘って、焼きいもパーティーをしたらきっと楽しい。以前、各階ごとにいちごのスイーツを作ったときのように、さつまいものお菓子を作ってもらうのも楽しそうだ。夜にみんなで庭へ出て、天体観測をするのも素敵だろう。それぞれにおすすめの本を持ち寄って、読書会をするのも良いかもしれない。
    「いえ、その……俺たちはきっと、主様が一緒なら、なにをしても楽しいので……」
     視線を逸らして言うハウレスの頬は、ほんのりと赤く染まっていた。こうして照れてしまうのに、言葉にして伝えてくれるのが嬉しい。
    「ふふっ。そんなの、私だって同じだよ!」
     どんな季節だって、どんなことをしたって、執事のみんなが一緒なら、絶対楽しいに決まっている。
     夏が終わる。そして秋が去り、冬が来て、春を迎え、やがてまた夏が巡る。そのひととせの間に、どれだけの新しい思い出が増えるだろう。
     終わりは、始まりだ。次の予定の話をしているうちに、季節が去るのを惜しむ心はいつしか、次の季節の訪れを期待するものに変わっていたのだった。
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    住めば都

    DONEあくねこ、ルカス夢。
    いつもドキドキさせられて悔しい主様が、意趣返しのつもりで「ルカスは冗談ばっかり」と返したら、実は全部本気の本心だったと暴露される話。

    交渉係を務めて長い男が、自分の思いに振り回されて本音を隠せず、苦し紛れに冗談だよって見え見えの誤魔化し方しかできないのめちゃくちゃ萌えるなと思うなどしました
    いっそ全部、冗談にしてしまえたら 目の覚めるような美人ではない。愛嬌があるわけでも、聴衆を沸かせる話術を持つわけでもない。
     至って普通。どこにでもいそうな、地味で目立たないタイプ。――それが私だ。
     おおよそ三十年かけて築き上げた自己認識は、異世界で出会ったイケメン執事たちに「主様」と呼ばれ大切にされたところで、簡単に揺らぐようなものではない。
    「フフ、主様といられる時間は、本当に幸せです♪ この時間が、永遠に続けばいいのになあ……」
    「はいはい。全く……ルカスったら、冗談ばっかり言うんだから」
     上機嫌に微笑む担当執事を、私は半眼で睨みつけた。
     ルカスとアモンは、口説くようなセリフをよく言ってくる。恋愛経験の少ない私はそのたび顔を赤くしてドギマギしてしまうのだが、彼らの思惑どおりに翻弄されるのを、最近は悔しいと感じるようになっていた。
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    住めば都

    DOODLEあくねこ。ナックとハンバーグの話。友情出演、ロノとテディ。
    執事たちの話題に上がるだけですが、美味しいもの大好き自称食いしん坊の女性主様がいます。
    後日、お礼を伝えられた主様は「私が食べたかっただけだから」と苦笑したそうです。

    お肉が苦手なナックに豆腐ハンバーグとか大根ステーキとか食べさせてあげたい気持ちで書きました。
    美味しいは正義 今日に夕食のメニューは、ハンバーグだ。
     食堂に向かう道すがらで会ったテディが、鼻歌混じりで嬉しそうに言うのを聞いて、ナックは落胆の気持ちを曖昧な笑顔で濁した。
     ナックは肉全般が苦手だ。メインが肉料理の日は食べられるものが少なく、空腹のまま夜を過ごすことも多い。
     だが、ハンバーグを心から楽しみにしているらしい同僚に、それを伝えることは憚られた。食事は日々の楽しみだ。テディには心置きなく、好物を味わってほしい。
     食事の時間は一応決まっているが、執事たちは全員揃って食事を取るわけではない。一階や地下の執事たちはそろって食べることが多いようだが。
     決められた時間内に厨房へ顔を出し、調理担当に、食事に来たことを告げる。そうして、温かい料理を配膳してもらうのだ。
    2130

    住めば都

    MEMO2023クリスマスの思い出を見た感想。
    とりあえずロノ、フェネス、アモン、ミヤジ、ユーハン、ハナマルの話をしている
    執事たちが抱く主様への思いについて現時点で、あるじさまへの感情が一番純粋なのはロノかなという気がした。
    クリスマスツリーの天辺の星に主様をたとえて、でもそこにいるのは自分だけじゃなくて、屋敷のみんなも一緒でさ。
    主様と執事のみんながいるデビルズパレスを愛してるんだなあということがとてもよく伝わってきて、メインストのあれこれを考えると心が痛い。ロノの感情と愛情が純粋でつらい(つらい)

    なぜロノの贈り物にこんなに純粋さを感じているかというと。
    手元に残るものを贈っている面々は、そもそも根底に「自分の贈ったものを大切に持っていてほしい」という思いがあるはずで、贈った時点である意味主様からの見返りを求めているのと同じだと思うんですよね。
    ただ、消え物にするか否かは思いの重さだけでなくて、執事たちの自分への自信のなさとか、相手に求めることへの拒否感とか、なにに重きを置くかの価値観とか、いろいろあると思うので、消え物を選んだ執事がみんなロノほど純粋な気持ちではいないんだろうなと思っている。
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    住めば都

    DONE #aknk版深夜の創作一本勝負 よりお題をお借りしています。
    「おかえり」ユーハン夢。
    予定の時間を過ぎても帰ってこない主様を待ち続けるユーハンの話。

    翌朝、ほかの執事からもユーハンがずっと待ってたと話を聞いて、主様は某ワンちゃんを思い浮かべたとかいないとか。
    待てと言うならいつまでも 主人の帰宅時刻五分前になったのを確認し、ユーハンは出迎えのため本邸の玄関へ向かった。
     今朝、主人は「帰宅はいつもどおりだと思う」と告げ出掛けていった。彼女が「いつもどおり」というときは、十分から二十分くらいの誤差はあるものの、だいたいこのくらいの時間に帰ってくる。
     ユーハンは姿勢よく立ったまま、主人の帰宅を待った。だが、十分経っても、二十分経っても、彼女が戻ってくる気配はない。尤も、不思議な指環の力で二つの世界を行き来する彼女の帰還は、予兆も気配もなく、突然であるのが常なのだけれど。
     そのうち帰ってくるだろうと思っていたユーハンだったが、予定の時間から一時間が経って、さすがに不安を感じた。
     事件や事故に巻き込まれたのではないか。突然の病気や怪我で、身動きが取れなくなっているのかもしれない。彼女を狙う不届きな輩に襲われて、恐ろしい目に遭っていたとしたら。
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    住めば都

    DONEあくねこ、ハウレス夢
    本編2章の直後くらいに、セラフィムの騙った主様の処刑を夢に見るハウレスの話。

    始めたばっかりですが、生きてるだけで褒めてくれるあくねこくんにズブズブです。
    本編は3章1部まで、イベストは全て読了、未所持カードばっかりだし執事たちのレベルもまだまだなので解釈が甘いところも多いかと思いますが、薄目でご覧いただければと思います( ˇωˇ )
    悪夢のしりぞけ方 ハウレスはエスポワールの街中に佇んで、呆然と雑踏を眺めていた。
     多くの商店が軒を列ねる大通りは、日頃から多くの人で賑わっている。幅広の通りはいつものように人でごった返していたが、いつもと違い、皆が同じほうを目指して歩いているのが奇妙だった。
     なにかあるのだろうか。興味を引かれたハウレスは、足を踏み出して雑踏の中へ入った。途端に、周囲の興奮したような囁き声に取り囲まれる。
    「火あぶりだってさ」
    「当然の方法だよ。なにしろ奴は人類の敵なんだから」
    「天使と通じてたなんて、とんでもない悪女だな」
    「許せないよ。死んで当然だ」
     虫の羽音のような、不快なさざめきが寄せては返す。悪意と恐怖、それから独善的な正義。それらを煮つめて凝らせたような感情が、人々の声や表情に塗りたくられていた。
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    住めば都

    DONE #aknk版深夜の創作一本勝負 よりお題をお借りしました
    「逃げてもいいんだよ」バスティン夢
    ※秋のホーム会話のネタバレを一部含みます
    向こうでいろいろあった主様が、バスティンと馬に乗っているうちに元気を取り戻す話

    主様といるときか、動物を相手しているときだけ、柔らかい空気を纏うバスティンに夢を見ています。彼は穏やかな表情の奥に激重感情を隠してるのがずるいですよね……
    安息の地を探して 天高く、馬肥ゆる秋。
     近頃の馬たちは元気いっぱいで、よく食べ、よく走り、よく眠る。前後の話の流れは忘れたが、先日バスティンは主人にそんな話をした。
     彼女がいたく興味を引かれた様子だったので、ならばとバスティンは提案したのだ。次の休日に、馬たちの様子を見に来るか、と。
     それを聞いて、元より動物好きの主人は目を輝かせた。馬たちのストレスにならないのなら、触ったり乗ったりしてみたい。そう話す彼女はすでに楽しそうで、無表情が常のバスティンまで、つられて笑みを浮かべてしまうくらいだった。
     だというのに――これは一体、どうしたことだろう。
    「……主様」
    「あ……うん。ごめん、ちょっとボーっとしてた。せっかく時間を取ってくれてるのに、ごめんね。今度はちゃんと聞いてるから、もう一回説明してもらえる?」
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