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    あらむらとみずいこが好き

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    影と村と出遅れた荒のお話。

    (カゲとコウくんがお付き合いしています注意。悲しいお話ではありません。三角関係の皮をかぶった笑い話。)

    #荒村
    desertedVillage
    #影村

    「鋼くんとカゲ、順調にお付き合いしてるみたいだよ」

    高校時代の生徒会長の結婚式に呼ばれ、同じテーブルを囲んだ犬飼が発した台詞には衝撃を受けた。内容もさることながら、一番の衝撃は当人達の口からよりも先にこの場で事態を知ったこと。顔に出ていたのか、意外そうに笑いながらも犬飼はわからないでもないといった様子だ。人差し指を顔の横で揺らして愛想のいい様相を崩さずにいる。

    「鋼くんの一人暮らしに便乗してカゲも一人暮らし始めたのは聞いたでしょ」
    「それは聞いた」
    「近所に住み始めて、なんか流れでそうなったみたい」
    「なんだよ流れって」
    「まあまあ。あの二人なりの付き合い方って話だよ」

    やけに微笑ましげな様子は、荒船の解釈する付き合いと定義が少し違うからということらしい。できるだけ静かにと置いたはずの食器の音がやけに耳に響いた。

    「すごくプラトニックみたい。僕はあの二人らしいって思うけど」
    「二人とも友達大事にするし、お互いその中に特別を作って世間の形に倣って名前をつけたって感じかな」

    何を思ってか隣席の王子が続きを促し勝手に納得している。
    内情が語られたことにも意外性を覚えたが、あの二人だ。事実であるから出回っているんだろう。それはまた変わった試みに手を出したなあいつら。そんな当たり障りのない台詞を発したいのに上手くいかない。頭を占めるのは耳から入ってくる内容よりも、喉に迫り上がってくる疑問だ。

    「二人とも世渡り下手なとこあるしね。性格もお似合いだし、長い付き合いで気心まで知れててお互い安心感あるんじゃない」

    拍手が響き、談笑は止まる。今日の主役の姿を目に映して素直に良い光景だと思う。思いながらも荒船は相変わらず自分がそこに立つ姿を想像できない。どうしてか、それは話題にあがった友人二人も同様のものだと思い込んでいた。薄情だと責めるつもりは毛頭ない。そんな真似はあまりに理不尽だ。

    「おめでとう。お幸せにな」

    だからまあ、友達の枠の中で見出した特別ならオレでも良かっただろ。なんて台詞は流石に飲み込んだ。







    久しぶりに半ばプライベートで三門市に来たとあり、荒船は結婚式の後から次の日にかけて実家へ戻った。引き出物を両親とありがたく食し来客用の真新しい布団を借りて眠った。これほど睡眠をゆっくりとることが出来たのは久しぶりだ。怠けた気がしなくもなくて、運動代わりに外食することにした。職場の本部がある土地だ。見慣れていないというほどではないが、散歩がてら歩くのは久しぶりになる。翌朝には現住所に帰る。その前にと学生時代よく通ったお好み焼き屋を訪れれば、見知った顔に出迎えられる。相手も帰省中だったらしい。

    「よォ」
    「おう」

    手を掲げ短い応酬。遠慮のない物言いに気付いたかげうらの店主が奥から姿を見せる。愛想よく出迎えられ、目の前に立つ店の息子と同じ席に着くことになった。賑わっていないわけではないようだが、あっさりとエプロンを外した旧友に続いて上着を脱ぐ。

    「何でもいいか」
    「任せる」

    勝手に温めておいた鉄板のもとに二人前になるだろう材料を運んできて、油を押し付けられた。慣れたものなので支度をすすめていると目の前にはビールジョッキと烏龍茶入りのグラス。自営業をしているの両親を持つからか、粗暴に見えて気が利く。偶に感心することもあるほどだ。気の優しい男と上手くやっていけるはずだろう。ありがたくビールを受け取って顔をあげると、そこに立つ影浦は歪な表情をしている。原因に思い当たり、納得して口を開けた。

    「鋼となんか、進展してんだってな」
    「…まーな」

    影浦の体質を失念していたわけではない。どちらかといえば思考している内容に無自覚だった。決して静かではない場所だ。だから、多少の言葉にだけ気をつけてそれを確認した。本人はあっさりとしている。荒船はその事実に関し、当人達を取り巻く解釈がどういったものか深く知らない。犬飼と王子くらいだ。正直、参考にならなかった。もしかしたら気を配る必要性がなかった可能性すらある。笑い話として受け入れられているのかもしれない。だが、真剣に受けとめられている可能性だって皆無じゃないわけだ。

    「鋼のヤツ言ってなかったんだろ」
    「お前もだろうが」
    「文句いいにきたんかよ」

    ジョッキが机に触れる音、肉が焼ける音、それ以外の音。溢れているのに影浦の声はやけに通って聞こえた。
    荒船の脳裏に結婚式で用いた食器が過ぎる。

    「言わねえよ。お前らから直接言われなかったのは何か違和感あったけどな。義務でもねえし」
    「オメー鋼に関しちゃ兄貴面するとこあるからな。絶対になんか言ってくると思ってた」
    「ねえっつってんだろ。兄貴面してる覚えもないし…まあ、弟子ではあるけどよ。わけわかんねえ奴に引っかかるよりマシだろ」

    そもそも影浦も村上も信頼に足る友人だ。配属先が離れてしまったが、同じ組織に属して仕事面でもその人柄はよく知っている。けれど恋愛となれば他人事も他人事だ。交際だのなんだの、吹聴して回る性格でもない友人達のことを思えば当然の態度。その筈だ。だが、影浦の歪んだ眉毛は形を変えない。

    「さっきからなんだよ」
    「だから俺こそ違和感あるって話だ。マジで文句いってこねえじゃねえか」
    「それ、首突っ込んでほしい奴の言い草だぞ」

    つられて自分の片眉も吊り上がるのがわかった。
    反抗心を剥き出しにされるかと思ったが、存外冷静さを失わずに切り返される。「んなわけあるかボケ」だの何だのいう口の悪さは通常運転の範囲内だ。

    「どっかの好き者みてえにベタベタした付き合いはしてねえよ。けどな、それでも付き合ってんのは俺だぞ」
    「知ってるっつってんだろ」
    「知ってたとこでわかってるってツラしてねえんだよ」

    ギロリと鋭い目が一瞬だけ怒りを見せた。

    「わけわかんねえ奴に引っかかるよかとか、マシとか、兄貴面以上に何様だお前」

    不貞腐れたように焼けたお好み焼きを勢いよく口に放り込む。理解を求めるかのような相手の珍しさについ観察をする。比例して、互いの口数も随分と減った。それ以降は同じ話題がのぼることはなく荒船も食事に手をつけ始める。前もって声をかけておいた昔の隊員達が現れなければ、気まずい空気になっていたかもしれない。

    「飯を食うと言ってたな 一緒に」
    「そのまま泊まったりとか。前からしてたみたいだけど」
    「へえ」
    「迎えに来たこともある 飲み会の日に」

    かげうらを出て、加賀美を男二人で送り届ける最中。影浦の不機嫌の理由を探る意味も兼ねて本人不在時にあえて話題を振った。飯の最中に穂刈から村上の名前が挙がったこともあって、問題ないと判断できた。
    案の定、影浦と村上の関係について踏み入ることに戸惑いがみられない。ここまで健全でしかない付き合いを笑って受け入れられている。穂刈と加賀美の反応だからこそ改めて確信できた。真摯に幸せを願われるわけでもなく、先行きに言葉を詰まらせるような間柄ではないのだ。同級生やライバルや同僚として問題なく交流を続けてきた同性の友人達。気安い冗談を口にする事があったとして、彼らが間柄に恋愛を持ち込んだ事実は荒船にとっては予想外の驚きだった。にもかかわらず周囲は平然と受け入れている。その理由を探ってしまう。敬遠したくなったというわけではない。疑問が深まるだけだ。それを払拭する術がまだ見つけられずにいる。
    眠る頃には、僅かに晴れない気持ちをすっかり忘れていた。ただ、それは思い込みだったのだと後に知る。













    ***










    仕事でミスをした。荒船自身も我ながら珍しい類いの失態だと思い、同僚達にも同じような前置きをつけて見送られる。帰省したばかりの三門市にたったの数日で蜻蛉返りする羽目になった。
    気付けたのは幸いにも早い段階で、優秀な同僚達のおかげだ。ただし事後処理は当然ながら必要である。陸路での移動中、今後の算段をつけながらも一人の男の顔を思い浮かべた。あの男には今回の失敗をあまり知られたくない。だがそれは無理な話なのだろう。

    「来てたんか」
    「ああ。済んだとこだ。一息ついたら帰る」

    本部へ頭を下げに出向いた際、ラウンジで目が合った男は影浦だった。万が一を想定していた荒船は僅かに胸を撫で下ろした。無理だと知りつつ当人でなかったことに救いを感じている。影浦との弾まない会話は定石通りだ。つい最近にも会った。ゆっくり話そうという流れにならないのも然り。しかし、座る荒船の隣を通り過ぎたはずの影浦が飲み物を手に戻ってくる。手にしたそれは一杯だけ。

    「テメェがずけずけ物言わねえの気持ち悪ぃ」
    「…は?」

    疲れと不甲斐なさから、少し前の話を掘り返されていると理解するのに時間を要した。

    「明日までこっちにいんだろ。夕方には連絡取れるようにしとけ」

    そう言って紙コップを置いて去っていく。背中を見送る荒船が向かいの席に手を伸ばす頃には、自動機で注がれた珈琲は冷め始めていた。強引に取り付けた約束に対する前金としては少し安い。そう文句を唱えてしまいそうになる程度には、荒船にとって自分の情け無い姿は村上に見せ難いものなのだ。











    連絡頻度によるところもあるのかもしれないが、電話を掛ければ嬉しげに名前を呼ぶものだから悪い気がしなくて、転居してからも村上とは画面上の文面でのやり取りより通話を選択することが多くなっていた。着信音が鳴ったことに驚きはない。

    「荒船、久しぶり」
    「おう」

    やはり無理な話だったなと、ビジネスホテルの簡易なテーブルセットに腰掛けながら携帯電話を耳にあてがう。時刻は二十時。夕方と示唆されていた為、身構える時間が長く感じた。先刻までと変わりない状態で久しぶりに弟子と接する自分がいる。そのことを悔しく思う自分がいる。こんなことならば、前回の帰省時に会っておきたかった。

    「よかったら会わないか」
    「…あー…」
    「ごめん、タイミング悪かったよな」

    仕事上のミスが理由でこちらに来ていることは知れていると考えて間違いないというのに。

    「実はオレも落ち込んでて…会えたら嬉しいと思っただけなんだ」
    「何かあったのか?」

    オレも、なんて色んな意味で素直な奴だ。だが弱みを晒されたことに悪い気がせず、荒船は体重を預けていた背もたれから体を浮かせた。性格の悪い男だと気づき自嘲したのは数時間後だった。ただ聞いてやりたいという感情があったのは確かであるものの、続けられた声に意識を奪われたのだ。

    「付き合ってる人に別れようって言われた」

    淡々とした声に悲しみは感じられなかったが、衝撃があった。

    「カゲに?」

    濁して伝えられた事実を直訳して聞き返すと、知っていたのかと驚く声がする。つくづく迂闊な真似を繰り返す。村上のことを素直な奴だと思ったが、とても口に出しては言えない有様だ。そして、切り替えるきっかけになればと会うことを了承した。
    選んだのは学生のような待ち合わせ場所。ビジネスホテル近くの公園だ。約束の時刻に合わせて外に出れば、既に村上がそこに居た。軽く言葉を交わして、ベンチに落ち着く。並んで座るだけで妙な安心感を覚えてしまい吐いた息がやけに緩い。きっかけとしての効果は覿面だということか。体裁を保てている気になれた。

    「カゲと喧嘩したのか?」
    「あ?いや、揉めた覚えはねえよ」
    「そうなのか…」
    「カゲに関してならオレよりお前だろ。名前出したついでに話せるなら聞く」

    言葉を選んでいるらしい村上を相手に、あっさりと口が動く。苦く笑った村上が促されるまま何があったのかを明かした。

    「カゲから別れ話を進めていくかって言われたんだ」
    「ショックだったのか」

    交際を知られていることは耳に入れなかったらしい影浦が、荒船との会話を村上に伝えたとは考え難い。恐らくは連絡を取れと促され、その時の様子から察したのだろう。あれは喧嘩などではなかった。荒船はそう受け止めている。そして影浦もその筈だ。杞憂だとはっきり伝える変わりに、話題を流して次に向かわせる。

    「そうだな…寂しくはあるかもしれない。けど、もともと将来的にも付き合ってるままでいるのかって考えることはあったしな。少しおかしな付き合いだし」
    「オレはお前らがお互いの家に泊まったり飯食ったり、世話焼き合うのを変だとかは思わない」
    「そうか。ありがとう」

    知っていたのだなと気不味く思っているようには見えない。むしろ礼の言葉通り、嬉しげだ。村上は肯定された内容にほっとしているのだ。疑問や晴れない気持ちが荒船の中に再び現れる。徐々に、何故か心臓を脈うたせながら、もうすぐ言葉にできる形へと変化していくのがわかった。

    「誰かに聞かれたり何かの呼称が必要な時、もう付き合っているって言い方をしなくなるだけだから。納得したしショックとまではいってないはずだ」

    礼を言いつつ取り繕うように分析を口にする。その様が一層いじらしいものに映った。この横顔を知っている。だが、光景に伴う感情にあえて名前をつけたことはない。

    「本当だぞ」
    「んでも落ち込んでんだろ」

    指摘してやれば戸惑うことなく返事がある。弟子の強さも理解しているつもりだ。心身の逞しさは、荒船自身がそう振る舞えば応えるように示されてきた。嬉しいと感じていたはずだ。

    「実をいうとちょっと楽しかったからだ、きっと」

    だが、そういえばこいつは、寂しがり屋のきらいがあるのだった。
    何時だかは自分との関係の変化を想像し泣いたのだ。良く思われていることに胡座をかいても仕方ないだろう。他人のものになるとは、考えてもみなかった。
    途端に犬飼達の前で飲み込んだ言葉が再び迫り上がってくる。荒船は、理不尽でもあったのかもしれないが、何よりも傲慢だったのだ。感じるべきは本来ならば悔しさや嫉妬のはず。だが、自分には無縁だとどこかで考えていた。村上の寂しさを埋めてやる自信なら、いくらでもあるからだ。

    「鋼、さっきも言ったがオレは変だと思わねえし、寂しくなってんのもおかしいことじゃない」
    「うん」
    「けどな、別れるって聞いて安心してる」
    「……え?」
    「これは今さっき気付いた」

    印象は与えたい。ただし、傷つけたいわけではないので確信した答えを直ぐに伝えた。

    「オレもお前と付き合いたい」

    息を呑んでいるが傷ついてはいない。よかった。そう安堵した。

    「つ…付き合っ…え、待て荒船」
    「カゲと同じだって考えてくれりゃいい」

    久しぶりに頭が冴えていく。どう伝えればより正確か、どう出れば最も効果的か。理解したばかりの解答に結びつけるために必要な事象を計算していく。

    「ただ鋼がいいなら世間一般の交際みたいなもんも含みたい」

    身を寄せられ、掬うようにして腕をとられ、顔を覗き込んでくる。
    そんな行為が伴えば発言がなにを指しているのか明白だ。どこまでと名言しない境界線の無さが、村上の優れた脳に混乱を招く。
    荒船としてはそれでよかった。冷静に拒まれるより、目を回しているほうがよっぽど勝ち筋がみえるというものだ。

    「…オレ、まだカゲと別れてないんだが」
    「別れてからでいい」

    漸く荒船は自覚と理解を手にする。
    まるで問題点がただの一つしかないような口ぶりだ。拒まれることを想定していない。傲慢なはずだ。仮にも付き合っている相手がいる人間に対して、自分は一貫してこう振る舞ってきた。漸くと友人の苛立ちを理解できた。自分の恋人相手に、こんな接し方をされれば面白くないに決まっている。

    「鋼、オレの仕事でのミスは自己責任だ。けど不注意の原因はお前とカゲだと思う」
    「え…?」
    「責めてるわけじゃねえからな。原因がわかったから対策してくってだけの話してる」

    荒船が最もよく触れる愛や恋の類いは映画の中のそれだった。創作された主題でない恋愛は、好きになればそこで終わる。現実ではそうはいかないことぐらい理解していた。ただ、想像をしたことすらあまりなかったのだ。荒船のよく知るそれは既に完結して久しかったから。とっくに村上に好意を持っていた自身は、映画と同じようにその先を想像することなどなかった。師弟関係に友情に、仕事仲間としての信用。強いて新しく獲得するまでもなく立場を持っていた。幸か不幸かそれでは足りないと追い詰められる状況に陥ることも、つい最近までなかったのだ。

    「お前がそうしてほしいかはわからないが、落ち込んでるなら慰める。当然だけど付け込むつもりありきでだ。そういうつもりで、今後はオレと付き合ってくれ」

    事は合理的に進めていったほうがいい。足りなくなったなら、追加していくまでだ。



















    「つーわけだ。カゲ、鋼のことはきっぱり諦めてくれ」
    「コ ロ ス」
    「落ち着け」
    「気持ちはわかる」
    「当然だ その怒りは」

    荒船とて当たり前だなと賛同する。だが腹を決めさせたのはその男だ。好きな相手の恋人で、自分にとっても友人。当事者達の中で最も早くから自分と荒船が恋敵に等しい存在だと認識していたというのなら悪びれる必要はないだろう。というのが開き直った男の言い分であるようだ。
    さらに、影浦の両親が村上のことを「息子の面倒を見てくれている親しい友人」として認識していることが発覚したというのも影浦いわくズケズケものを言うようになった一因だろう。

    「言っとくけどまだ別れてねえからな。手ぇ出すなよ」
    「わかってるっつってんだろ」
    「まあまあまあ」

    怒る影浦と彼を宥める北添の様子も意に介さず、鉄板から皿に移した料理を口へと運ぶ。相変わらず美味いと咀嚼する姿は、同期達のよく知る荒船という男そのものだった。

    「出したことないくせに」
    「マジで何もしたことねえとは言ってネー」
    「ハア?」

    影浦としては突然の余裕が癪に障った。元よりそりの合わない犬飼の茶々入れに便乗する形であえて喧嘩腰の台詞で煽れば、荒船は今度は面白いほどに食いつく。この男がこうまでわかりやすく顔に出して反応を示すのはやはり村上のことだ。数年前には気付いていた真実を、当人はつい先日に把握したのだから成績の良さと察しの良さは直結しない。卓についている同期達みなが思ったはずだろう。

    「いやいや。してないしてない。」
    「わかりそうなもんだけどな」
    「もうやめて。鋼くんが来たらどうするの」

    鶴の一声が発される。学生時代、誰よりも村上と互いの生活を助け合った彼女からの正論に男二人は黙る他ない。今の言う通りだ。こんな話を村上の前で、ましてや第三者や女性陣のいる場でするものではない。
    悔し紛れに睨み合い、優秀さゆえに新設された支部へと配属されたはずの完璧万能手たる男は酷く子供じみた悪態を吐いた。

    「早く別れろ」
    「うわ最低だ」
    「鋼くんにチクってやろ」
    「やめろ」
    「カゲは大事な友人だし仮にも付き合ってる相手なんだやめてくれ、って返ってきそう」
    「暫定彼氏つよいな」
    「暫定じゃねえよ」
    「うるせえよ」

    暫定の意味や手を出すとはといった基準についてああだこうだとお好み焼き屋の次男坊と店の元常連客が小競り合いを始めるなか、周囲は遅れて到着する村上がどちらの隣に座るのか…あるいは座らされるのかを賭け始めていた。

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    oz3011347532190

    REHABILI一緒にカーテンを買いに行く荒と村
    「こういうの見るのわりと楽しいよな」
    「そうなのか」

    肩にかけた鞄を正し、家具を眺めながら荒船が発した一言に、村上は少しばかり驚いていた。その反応を受けて辺りを見渡していた荒船が質問を投げかける。

    「お前はあんまり興味ないのか」
    「楽しいとは思うけど…拘りはないかな」
    「成程な」

    村上は家具を見ることに対してではなく、荒船がこういった場所を楽しんでいることを意外に思ったのだが、伝わらなかったようだ。

    「じゃあ…今日付き合わせて悪いなと思ってたんだけど、良かった」
    「おう。わりと乗り気だぞ」

    しかし、自身の用事に付き合わせてやって来た場所でそう言われれば少なからずありがたかった。
    支部のカーテンが汚れたのは今朝のことだ。明るい布地に本物の悪こと別所太一が珈琲をかけてしまった。洗う為にと外したところ足で踏んだまま持ち上げ更に裂けてしまったのだ。流石に新しいものを買おうと判断が下されされ、村上が出掛けるついでにと購入に名乗りをあげた。近くに大型インテリア用品店があることは知っていたが、入ったことはない。もとから会う約束をしていた荒船が土地勘のある人物だったため頼ることしにしたのだ。申し訳なさそうな後輩の姿が蘇る。荒船の台詞も添えて新しいものを持ち帰ろうと決めた。
    2070

    oz3011347532190

    REHABILI荒の寝顔が気になる村の小話。
    村上はそのSEの性質上、よく眠る。意識がないので断言はできないが寝姿を誰かに見られることなどざらにあるはずだ。勿論、時と場合は選ぶが必要ならば本来は寝床に適さない場所で眠ることだってあった。部隊に配属後、早くに任務に出られたのはその成果といえる。だが、もとより何処でも眠れる性分だったかといえばそれは違う。本部内で眠ることに抵抗がなくなったのは自身のSEを把握し稽古をつけてくれた師匠の意向によるところが大きい。どういったSEでどの程度の再現が可能でどれくらいで反映されるのか。それを見極めながら実地で弧月の扱いを教わったのだ。疲れのせいではなく学習の為に、皆が目に見える努力を重ねる新天地で一人眠ってしまうことに恐れに似た感情があったことは誰にも言っていない。目覚める度に誰かが迎えてくれたことで寝入ることへの抵抗が薄れていった。得られた成果を褒められることで、もはや自然に行えるようになったのだ。支部で自室を与えられていることを思えば、家族を除き村上の寝姿を見た回数が最も多いのは荒船という師匠だろう。だからこそとでも言おうか。目覚めの際に真面目な顔で声を掛けられ、時には笑いながら促された。そんな相手の寝顔は、村上にとってとても貴重なものに感じられたのだ。
    1903

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