「お、男子高校生してんなぁ」
「なんですソレ」
「お疲れ様です」
ラウンジの一角で弁当箱を広げる二人の後輩に、太刀川が片腕を掲げて歩み寄る。後輩の側も軽く会釈して迎え入れた。
「お前らいつも弁当?」
「オレはだいたい。今が作ってくれることも多いので」
「凄いな。ていうか贅沢だな鈴鳴」
「オレもそう思います」
「水上は?」
「俺は普段は買うこと多いですね。これカゲの弁当なんです」
「ああ…影浦隊と荒船隊が呼ばれてたか」
高校生の二人がなぜボーダー本部で食事を摂っているのかといえば、通う高校付近で警報が鳴った為である。間も無く本部から出動した隊員のほとんどが夜勤の担当者であったので、事後処理は別の隊にと割り振られた。休校となった学生達にも役割が分担されている。しかし、全員が全員というわけでもない。
「状況はともかく、せっかく平日昼間から村上が本部に来てんだ。ランク戦しようぜ」
「はい。食べたら向かいます」
「おう。じゃーな」
太刀川は現在、村上達と同じく生身の姿だ。疲労している隊員も見かけるなか、長時間本部で過ごしているにもかかわらず足取りが軽い。流石と思い眺める村上をよそに、水上は箸を止めて口を開いた。
「あ、太刀川さんさっき風間さんが探してはりましたよ」
「…どっち行った?」
「真っ直ぐ。攻撃手のブースにいてはらへんかったら、多分いったんそこまで行って引き返してはります」
「ブースにいる奴に聞いてみるわ。ありがとう水上助かった〜」
「いいえ〜」
心なしかゆっくりと、進行方向を変える。それが吉と出るか凶と出るかは未来視のSEを持たない人間にはわからないことだ。
「風間さん、移動してるかな」
「多分な。警報鳴ったし、太刀川さんの勉強絡みにあんま時間とらはらへんやろ」
「来馬先輩も支部で自分の課題に取り組んでるみたいだったから頼れないだろうな…」
村上が心配とも苦笑ともとれる言い回しをするなか、水上は既に違うことを考え始めていた。太刀川と水上の好物は同じ物なのだ。
「コウく〜ん」
「どうしたんだ」
間延びした呼びかけを面白いと言わんばかりに笑って受け止める。水上に限った話ではないが、そういった対応に少しばかり癒される。影浦と手軽な惣菜パンと交換し獲得したおかずを咀嚼してから、水上は相談を持ち掛けた。
「あったかいもん食いたならん?」
「ああ、わかる」
「うどん買うて半分にしようや」
「半分でいいのか?」
「一杯は無理」
決して量を食べられる体質ではないのだが、水上も育ち盛りの男子高校だ。自分よりもよく食べるらしい村上なら可能な提案だろうと判断したうえでのこと。それに村上がこういった相談事を楽しむ傾向があるとも知っていた。
「じゃあ食べる。あ、お金どうする」
「俺が出す。気になるんやったらブース行く前にペットボトル買うて」
「わかった」
決まったのなら、と水上が立ち上がる。律儀に言葉をかけてくれる村上につい"良妻"という文字が浮かんだが伝えたところで本人は困るだけだろうと黙っておいた。耳に入ってしまうと面倒な男こと村上の師匠の存在があるのも本音だ。注文した食事を盆に乗せながら割り箸を二膳手に取っていると、自身の隊長が姿を現す。
「仲良しやなぁ」
隊長四人にS級経験者が一人。夜勤明けで働きっぱなしの者もいるなか、同い年の五人で同じテーブルに収まりパウンドケーキとぼんち揚げをつまみながら課題に手をつける人達に言われたくない。と水上は思った。