四分の三の成分で生き残るなんてことはない二級任務。七海の声を後ろに聞きながら歩いているとその気配が消え目の前にサラリーマン風の成人男性が現れた。日本生まれのNさんと名乗った彼はネクタイを拳に巻きながら進んでいく。一人取り残された僕は慌ててNさんの背中を追う。進んだ先には重い空気が漂い強い呪力を放つ産土神…一級呪霊がいた。等級が上の呪霊に一瞬ひるんだ僕を背中に庇いながら、Nさんはネクタイを巻き付けた拳を振り回し「破ぁ!!」と叫ぶ。Nさんの力でアッー!と言う間に一級呪霊はいなくなった。日本生まれはスゴイ。僕はいろんな意味で思った。
「…私はコピペ改変が聞きたいわけではないのですが」
任務帰りの車の中で僕は七海から尋問されていた。呪霊が祓われた形跡と呆然とする同級生、見知らぬ呪術師の残穢という現場のみを目撃した彼が説明を求める気持ちはわかる。だけど僕の力では某コピペのように話すので精一杯だった。
「七海の口からコピペって単語がでてくるのすごい違和感」
「何を今更」
コピペなどのネット用語は最近高専内で頻出している単語である。顔色の悪い夏油さんに五条さんがインターネットを勧めたのが始まりだった。その結果『ネットの知識』を得た夏油さんは何かに吹っ切れたようで、袈裟を着て呪霊を破ぁ!!したりブーン⊂二二二( ^ω^)二⊃しながら保護した双子と遊んだりと元気な姿を見せるようになった。
「灰原。私に言うことは?」
「………」
Nさんは何者か、彼は何故帳の中にいたのか、そもそもどこから来たのか。その答えはわかっていたが七海に伝える気はなかった。
「…まったく。その頑固さには困ったものだ。…次から勝手に前へ進みすぎないでくれ」
「はーい」
こういう優しさが七海のいいところだと僕はいろんな意味で思…いや、思考までコピペみたいになってる。落ち着け僕。
「等級違いの任務も来るんだね」
「みたいですね」
七海は運転する補助監督を睨む。あれほど山奥に進まないと現れないのであれば調査段階での判断は難しいのかもしれない。
「今日みたいなことがあってもいいように、僕達もっと強くならなきゃね!」
今日みたいなことがあってたまるかと吐き捨てる七海を横目に、今日助けてくれた大人の七海の横に立てるくらいにもっと強くなる、と僕は決意を胸にした。
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なんてことはない二級任務。前を歩く灰原の背中が消えたと思ったら薄暗い森の中から瞬間移動していた。木陰なんて一切ない直射日光のあたる炎天下。目の前には『灰原家』と書いてある墓石。目線を下げると菊の花束などの墓参り用品一式が置いてある。嫌な予感がして裏に回り、書かれている文字を確認する。
「灰原…雄…」
片思い相手の名前があることに動揺しつつ享年を確認する。数え年などを考慮すると17歳で亡くなったことが記されていた。つい先日の誕生日に満面の笑みでプレゼントを受け取ってくれた姿が頭をよぎる。まだこの想いは伝えられていないけれど、私の大切で唯一の人が失われる恐怖。それが目前に迫っていることを知り、視界が黒に染まった。
気が付くと元の薄暗い場所にいた、そこにあったのは呪霊が祓われた形跡と呆然とする同級生と見知らぬ呪術師の残穢。自分の知らぬ間に何かがあったのは確実だ。
「え、えっと…」
「聞きたいことはたくさんある。けど…」
彼の側に駆け寄り正面から抱き着く。困惑の様子が見て取れるが、今はその温もりを感じたかった。
「七海?」
「…とりあえず、無事でよかった」
自分でも驚くほどに情けない声が出る。そんな私を、灰原は抱き返してくれた。
任務帰りの車の中で聞いた灰原の話は荒唐無稽なものだった。だが嘘をついていないことは見ていればわかったし、私は彼の困ったように笑う顔に弱い。今日は見逃そうと話を終わらせると、とんでもないことを言い出した。
「今日みたいなことがあってもいいように、僕達もっと強くならなきゃね!」
今日みたいな…等級違いの呪霊がでたら?今日はよくわからないモノのおかげで助かったが、二人だったらどうだろう。大怪我ならマシなほうだろう。もしかしたら…死…と考えたところで、昼間の光景が頭をよぎった。
「今日みたいなことがあってたまるか」
きみの墓参りなんてもうごめんだ。笑顔を見せる彼を横目にもっと強くなると心に誓った。