七→←灰(ねこのひ)「七海は猫派ですよね…」
いつも元気な後輩が目に見えて落ち込んでいる。コーラを奢って理由を尋ねると突拍子もないことを言い出した。
「今日の任務先で『灰原さんは犬っぽいですね』って言われたんです。自分ではよくわからないんですけど、そうだとしたら七海の好みとはほど遠いことになるんですよね…」
最近になってようやく自身の恋心を自覚した後輩は、人が好きと豪語するくせに、自分が人から好かれることを想定していない節がある。
「どうやったら僕は七海好みになれるんでしょうか…?」
思い悩んでいるが考えてみてほしい。自分を振り回すわんぱく犬でも、すぐ他の人に尻尾を振る犬でも、そこが可愛いと思うようになってしまったらもう手遅れなのである。
「その必要はないと思うけど」
慰めてもいつもの調子を取り戻さない後輩の頭に昨年親友からもらったとあるアイテムをのせた。
「私の言う通りにやってごらん」
***
「ネコデスヨロシクオネガイシマス」
「犬です!!!」
「え!?」
「犬です…」
「えぇ…?」
言われた通りに七海の元へ向かうと猫耳カチューシャを叩き落とされた上で頭を乱暴に撫でられた。
***
「灰原は犬派ですよね」
生真面目な後輩が目の隈を隠しもせず気が狂った事を言いだした。
「今日の任務帰りに野良猫を見て『猫さんは難しいね』なんて言い出したんですよ。なんですか猫さんって、あなたが大声だすから逃げるだけでしょうに。私なら自分で毛並みを整えてずっと側にいるのに」
最後の方は完全に独り言である。いつもならからかって遊ぶところだが、去年親友に渡しそびれたアイテムをつけてやっても抵抗しない姿に今日は許してやろうと思った。
「そのまま灰原の所に行ってこい」
***
「七海、飼い猫になっちゃったんだ…」
「は?」
「首輪…。そっか、七海には他に帰る場所があるんだね…」
灰原に指摘されたことで自分の首を一周する革製品に気がついた。慌ててそれを引きちぎり床に放り投げる。
「とりあえずねましょう、わたしもあなたもつかれている」
「そうだね…」
疲労は碌な事を生み出さない。彼を自分のベッドに引き込んだ数時間後、健やかな寝顔を見ながら新たな教訓を胸に刻んだ。