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    小さくなっちゃった鶴丸の話

    #くりつる
    reduceTheNumberOfArrows

    手のひらの上 鶴さんが小さくなっちゃった!

     遠征から帰還したばかりの大倶利伽羅を出迎えたのは慌てた様子の太鼓鐘と、そんな言葉だった。
    「どういうことだ」
     鶴丸は確か、大倶利伽羅が出立するよりも先に出陣に出ていたはずだ。大倶利伽羅は遠征先で手に入れてきた資材を仲間に預け、太鼓鐘とともに足早に移動する。
    「鶴さんが出陣先で負傷してさ。それ自体は軽傷だったんだけど。手入れ部屋に入って、手入れ終わってもなかなか出てこないなと思ったら鶴さんの身体が縮んでたんだよ」
     ほら、前、別の本丸でも太刀が短刀くらいちっちゃくなったっていうバグがあっただろ。ああいう感じでさ。
     そう言われ、そういえばと記憶を掘り返す。あれは半年ぐらい前のことだっただろうか。時間経過とともにまた元の大きさに戻ったという話だが、注意喚起として本丸に通達があったのだ。
    「俺も出陣に出ちゃうからさ。鶴さんの面倒を見て欲しくて」
    「別に構わないが。小さくなったこと以外に支障はないのか」
    「多分な。流石の鶴さんも大人しくしてるけど、ひとりきりにはさせられねえよ」
     伽羅が戻ってきてくれてよかったと太鼓鐘が笑う。燭台切も今は長期遠征中だ。誰に面倒を頼むか悩んだのだろう。鶴丸はあれでいて誰かに頼るのを酷く嫌う。身内相手にでもそうだが、太鼓鐘も燭台切もそんな鶴丸に対しては素直に言うことを聞かないで踏み込んでいくし、大倶利伽羅も付き合いが長い分、距離の測り方くらいは知っている。
     それにしても、小さくなったとは。
     大倶利伽羅はどこか落ち着かない気分になった。
     あの地で鶴丸と出逢ったとき、鶴丸は既に付喪神としては成熟していて、対しての大倶利伽羅は幼い身体をしていた。そのせいで、何百年経っても鶴丸は大倶利伽羅のことをいつまで経っても可愛い坊や扱いなのである。
     だからこそ、鶴丸の幼い姿を見られるかもしれないという期待は、災難に見舞われた鶴丸には悪いがどこか浮き立つ気持ちになってしまう。
    「鶴さん、入るぜー」
     太鼓鐘が鶴丸の部屋の前に立ち、声を掛ける。返事はないが、遠慮無く部屋へ足を踏み入れた。大倶利伽羅は太鼓鐘に続き部屋の中へと入り、その光景に目を見開いた。
    「おい、貞」
     ん、と太鼓鐘が振り向く。大倶利伽羅は視線の先、下を指で示した。
    「小さいが」
    「だから、小さくなったんだよ」
     話聞いていなかったのかと呆れられるが、話はちゃんと聞いていた。
     ほら、前、別の本丸でも太刀が短刀くらいちっちゃくなったっていうバグがあっただろ。ああいう感じでさ。
     ああいう感じ。それと同じ、とは確かに言っていない。
     鶴丸の部屋の中央には卓袱台が置かれており、その上に鶴丸はいた。
     大きく手を振り、ぴょんぴょん跳ねている。
    「主の部屋にある、なんだっけ、フィギュア? ドール? そのくらいのサイズだよな」
     神妙な顔で太鼓鐘は語る。大倶利伽羅も主の部屋を思い出した。壁一面にガラス張りのケースがあり、そこに飾られている人形の大きさと、今の鶴丸の大きさは同じである。
     か、ら、ぼー!
     小さいからなのか、声も小さい。耳を澄ませば、僅かにだが鶴丸の声が聞こえてきた。本人は至って楽しそうである。
    「というわけで、鶴さんと面倒頼むな! うっかり卓袱台から落ちたら怪我するけど、床に置いてもプチッと潰されたら大変だから、ちゃんと見守っててくれよな」
    「おい」
    「じゃ、行ってくる!」
     手を振り、元気に太鼓鐘は走り去っていった。手を伸ばしても空を掴むのみである。
     大倶利伽羅は改めて鶴丸に向き直る。卓袱台の上には、おそらく主の部屋から持ってきたであろう、今の鶴丸にちょうど良さそうなサイズのソファが置かれていた。こうしてみると、鶴丸の容姿も相まって、人形らしさが増してくる。
     そっと手を差し伸べると、嬉々とした様子で鶴丸が大倶利伽羅の指にしがみついた。少し、くすぐったい。その背中を親指で軽く撫でてみると、ぴゃっと飛び上がる。思わず口の端を上げると、鶴丸が怒ったようにぺしぺしと指を叩くが、全く痛くはなかった。
     しばらくそうやっていると、鶴丸が大倶利伽羅の方を指さし、なにかを叫び始めた。あまり聞こえないので、落とさないようにそっと持ち上げて顔へと近づける。ここまで来れば聞こえるはずだ。しかし鶴丸は叫ぶのを止め、ぺち、と大倶利伽羅の頬へ触れる。そうして、少し時間が経った。
    「……全然見えない」
     おそらく、キスをしたのだ。ということには流石に気づいたが、この大きさだと見えるはずもない。声に不満の色が滲んだのがわかったのか、鶴丸が笑う気配がする。
     手をまた卓袱台へと戻したが、鶴丸は手のひらから降りようとはせずにそのままころりと寝転がってしまった。おい、と声を掛けるが気にせず寝始める鶴丸に呆れてしまう。太鼓鐘が用意してくれた人形用のベッドがあったというのに、大倶利伽羅の手のひらの上がお気に召したらしい。
     普段は身内にすら頼ることを厭うのに、たまにこのような態度を取るものだから、鶴丸の手のひらの上で転がされているのは大倶利伽羅の方だった。
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    DOODLEドッペルゲンガーだった鶴丸と一振り目の大倶利伽羅の話
    ドッペルゲンガー、恋を知る。第四話 窓辺に吊したてるてる坊主がこちらを見ている。
     鶴丸が顕現した春から季節は過ぎ、本丸には梅雨が訪れた。遠征先で雨は体験していたものの、毎日続く雨には驚きもなくうんざりとさせられる。じめじめとした湿気は気分を憂鬱にさせられるし、気晴らしに外へ出ることもできない。なにより、いつもの習慣であった大倶利伽羅との手合わせができないのは辛かった。道場は手合わせの相手を求める刀剣男士たちでいつもより溢れかえっていて、彼らと一汗流すのもよかったが、やはり大倶利伽羅との手合わせが鶴丸にとって格別なのだというのを再認識してしまうのだった。
    「ええと、これは、美術の棚か」
     書庫の中、鶴丸はワゴンを押す。
     青江の勧めに従って、鶴丸は書庫の管理人となった。司書と呼ぶには知識は足りないので、本当にただの管理人に近い。それでも返却された本を棚に戻したり、今まではなかった貸し出し管理簿を作ったり、やることはそれなりにある。特に、書庫の書籍をリスト化する仕事はなかなかやりがいがあった。鶴丸が顕現するまで本は適当に管理されていたらしいというのは青江から話には聞いていたが、終わるまでにどれくらいの時間がかかるものか。
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    忘れ草③進捗 耳を劈く蝉の鳴き声、じめじめと肌に纏わりつく湿気、じりじりと肌を焼く灼熱の陽射し。本丸の景色は春から梅雨、そして夏に切り替わり、咲いていたはずの菜の花や桜は気付けば朝顔に取って代わられていた。
     ここは戦場ではなく畑だから、飛沫をあげるのは血ではなく汗と水。実り色付くのはナス、キュウリ、トマトといった旬の野菜たち。それらの世話をして収穫するのが畑当番の仕事であり、土から面倒を見る分、他の当番仕事と同等かそれ以上の体力を要求される。
    「みんな、良く育っているね……うん、良い色だ。食べちゃいたいくらいだよ」
    「いや、実際食べるだろう……」
     野菜に対して艶やかな声で話しかけながら次々と収穫を進めているのは本日の畑当番の一人目、燭台切光忠。ぼそぼそと小声で合いの手を入れる二人目は、青白い顔で両耳を塞ぎ、土の上にしゃがみ込んでいる鶴丸国永だ。大きな麦わら帽子に白い着物で暑さ対策は万全、だったはずの鶴丸だが仕事を開始してからの数分間でしゃがんで以来立ち上がれなくなり、そのまますっかり動かなくなっていた。燭台切が水分補給を定期的に促していたが、それでも夏の熱気には抗えなかったようだ。
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