時緒🍴自家通販実施中 短い話を放り込んでおくところ。SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。無断転載禁止。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 192
ALL 狡宜版深夜の創作60分勝負 文体の舵をとれ ワードパレット 夏五版ワンライ 800文字チャレンジ 時緒🍴自家通販実施中TRAINING5/21ワンライお題【喝采/踏切/稲光】ちょっとしたホラー夏五です。夜蛾先生に頼まれて踏切の怪異に挑む二人です。雨が降る 踏切で奇妙なことが起こると高専に電話があったのは、じめじめとした梅雨の時期で、その日も雨が降っていた。 「行ってくれるか」そう夜蛾先生は教室に俺と傑を呼び出して言った。踏切で何が起こっているのか俺たちも先生も知らされていない状態だったから正直不安だったが、電話の主人はもっと取り乱していて、一体何が起こっているのか知れそうにもなかったのだという。ただ先生は拍手をする人間がいる、いや、人間じゃあないかもしれない、とだけ言った。俺はそこでなぜか嫌な予感がしたが、呪術師はこの世ならざるものを恐れてはならないし逃げてもいけない。俺はそれを思い出し、薄暗い部屋でサングラスを掛け直した。 「傑も行くの? 俺一人でもいいけど?」 1468 時緒🍴自家通販実施中TRAINING5/14ワンライお題【祝福/胡蝶の夢/ふりがな】幸せで、怖い夢をみる五条のお話です。高専時代のお話。毎夜みる夢 繰り返し何度も見る夢がある。俺はその中で高専の教師をしていて、硝子や、面倒だが可愛らしい生徒たちに囲まれている。そしてそんな俺の隣には髪型を変えた傑もいて、彼もどうやら俺と同じく教師らしいことが分かる。俺たちはその夢の中では呪術師を続けていて、やはり友人であり恋人同士だった。 ここまではよくある俺の願望なんだろう。でも不思議なのは、見たこともない小さな女の子の双子二人が傑になついていることで、彼女らは俺にひらがなで書かれた肩たたき券(肩の部分には可愛らしいふりがながふられている)をくれる。「傑さまと仲良くしてくれてありがとう」「傑さまは寂しがり屋さんだから」そんなふうに俺に言った後、「結婚式は私たちがお花を撒いてあげるからね」なんてませたことを言ってきゃーって叫びながら走り去ってゆく。どうやら彼女らは俺たちの関係を知っているようで、傑も俺もここにいる人々には隠していないようだった。俺が面倒を見ている生徒たちも笑っている。「早く結婚しなよ先生」「見てるだけで恥ずかしいから早く結婚したら」「傑さんと一緒にいたらちょっとはマシになるんじゃないですか」生徒たちは口が悪かったが、俺たちの仲を祝福してくれる。いやあ、僕もそろそろ結婚したいんだけどね、傑が恥ずかしがってさぁ。——僕? あれ、俺は今僕って言った? なんで? そういえば傑がせめて僕って言えって言ってたよな。俺って言うのはよしたほうがいいって。夢の中でそれを思い出してるのかな。俺はまばたきをする。しかし次の瞬間双子が消え、傑が消え、生徒たちも消え、結局残ったのは硝子だけだった。そして彼女は言うのだ。「また気づいちゃったね」と。「気づかなきゃ夢を見てられたのに」と。俺は混乱する。僕は混乱する。そしてまばたきをして、ぼんやりと天井に向かって手を伸ばす。この部屋には、最後まで残ってくれた硝子ももういない。僕は、いや俺は、自分の部屋でどうでもいい夢を見ていたことに気づく。すぐにどっちが夢なのか分からなくて、携帯電話を触る。表示された年月日から、まだ自分が高専生であることに気づく。良かった、俺はまだ高専生だ、傑もいる、硝子もいる、見知らぬ生徒たちや双子の少女たちもいない。俺は吐きそうになりながら着替え、傑の部屋を訪ねる。するとそこにはまだ眠っている彼がいて、俺はその横顔の尊さに泣きそうになりながらベッドの脇に座り込む。 1454 時緒🍴自家通販実施中TRAINING5/7ワンライお題【ドーパミン/ペルシャ猫/征服】夏油が五条より薬に頼るお話です。ちょっとうす暗い感じです。オーバードーズ 傑は基本的にどんな依頼でも断らない。知らない男が部屋の隅に見えて困っているっていう事故物件のような軽いものから、山中に打ち捨てられた土地神のような、郷土史を調べて挑まねばならない入り組んだものまで、彼はどんな依頼でも断ることがなかった。俺はそれをアメコミの超人的なヒーローの正義感のような、完璧なもののように、つまり欺瞞のように思っていたし、傑もそう見られていると分かっていただろうけれど、それでも彼は自分のスタンスを変えず、俺はそんな彼を一番側で見るのをやめなかった。 だって傑は不安定だったのだ。もう俺たちはその頃をとっくに通り過ぎてるっていうのに、彼はまるで自我が出来上がり、それを疑い出す思春期の少年みたいだった。俺はそんな彼を見ずにはいられなかった。 1971 時緒🍴自家通販実施中TRAINING4/23ワンライお題【心筋梗塞/依存症/いっぱい】世話になった呪術師の寝ずの番をする五条と夏油のお話です。微糖。寝ずの番 呪術界の大家が死んだ。それは御三家にも影響が及ぶほどで、もちろん俺たち高専生も、幸せに心筋梗塞で死んだ彼の実家に通夜に行くことになった。そしてどういうわけか俺は、いや、俺と傑は寝ずの番の一人に選ばれることとなったのだった。 寝ずの番をすると言っても、いっぱいの花に囲まれた彼を見つめる以外にはすることはなかった。あとは輝く刀に自分の顔を映し出したりとか遊ぶくらいだ。葬儀で刀を置くのは、猫を避けるためだそうだ。猫は古代より悪と描かれていて、ちょっとした隙に故人の身体を奪ってしまうのだという。でも、この人の命はまた奪われる。自然死をした呪術師は、身体の一部を奪われたら呪詛師に呼び出される可能性があるため、自然死ではない方法で二度死ぬよう、今は忙しく御三家の呪術師たちが走り回っている。滑稽だ、馬鹿らしい。でも、俺も世話になった人だった、さまざまな呪法に通じたあの人が、誰かに利用されては困る。 1396 時緒🍴自家通販実施中TRAINING4/16ワンライお題【マーメイド/生霊/胸】さしす。八百比丘尼を保護しろという任務を命じられた三人のお話です。人魚と紫陽花 人魚の呪霊が流す涙を体内に取り込むと、長生きが出来る。 そんな噂が非合法の骨董マーケットの間で立ったのは、俺たちがまだ高専一年の夏に差しかかった頃のことだった。古式ゆかしい八百比丘尼が現代に現れたのなら、伝承通り肉を食えばいい。でも何故今回は肉でなく涙なのか。俺にはそれが分からず、傑も不思議そうな顔をしていたように思う。 「それで今回の俺たちの任務は?」 「八百比丘尼の保護」 「あぁ、面倒臭そうだなぁ……」 そんなこんなで、俺は傑と二人で八百比丘尼を探す羽目になったのだった。 でも、八百比丘尼は、人魚はすぐに見つかった。彼女が自分から、俺たちが学ぶ高専に近づいてきたからだ。彼女は教室で多分涙なのだろう、透明な液体が入った瓶を下げた胸元にナイフを置いて、生霊みたいな顔をして、「もう、私を殺してください」と言った。いや、俺たちが命じられたのはあんたの保護でそういう物理的な殺害じゃない。というか不老不死なのにナイフで刺せば死ぬのか。俺はそれを疑問に思ったが、教室にいる誰もがそれを尋ねなかった。 2176 時緒🍴自家通販実施中TRAINING4/9ワンライお題【鬱血/閉世界仮説/フラスコ】さしすがちょっと辛い任務にあたるお話です。しゃべっているのは五条と夏油だけです。仄暗い感じです。光を灯す 桜が散ろうとする頃、フラスコや、シリンダーが並ぶ部屋にその少女はいた。手錠をかけられて机に繋がれた腕は鬱血していて、だが彼女は明るくこう言った。 「お兄さん、あの方は?」 あの方はどこに行ったのです? 約束したのに。 俺はその問いにすぐに答えられなかった。答えたのは傑だった。あなたの言うあの方は私たちに捕らえられました(私たちが殺しました)。さぁ、怪我を治してもらいましょう。傑の言葉を聞いていた硝子が足を踏み出す。俺はそれを見ていられず、することも出来ることもなく、連続殺人犯のアジトから出たのだった。 呪術師の娘が連続殺人犯、正しくは呪詛師にさらわれたのは、今から一週間前のことだった。俺たちがそれを助け出したのは昨日の話。彼女の残穢をたどって探し出したから任務はそう難しくなく、むしろこんな簡単な仕事を他の呪術師が早急にしなかったことが不思議だった。ただ呪詛師は呪いをかけていたから、最強の俺たち以外の他の呪術師は、そのトラップにひっかかったのかもしれない。それより不思議なのは、少女が今も男を待っているということだ。伝え聞いたところによると、彼女は例の男をいまだに慕って待っているらしい。高専に戻って食事をとって傑の部屋に帰る途中、まるでロミオとジュリエットみたいだなって言う彼に、俺はロマンチストすぎると友人の部屋の扉を開きながら言った。 2420 時緒🍴自家通販実施中TRAINING4/2ワンライお題【ダージリン/壁/窒息死】眠れずに夏油の部屋に行った五条が、自分たちの終わりについて考えるあまじょっぱいお話です。世界が終わるとしたら 深夜二時、眠れなくて傑の部屋にゆくと、彼は俺が実家からの土産だと渡したティーカップを片手に、優雅に文芸雑誌を読んでいた。彼の好みは知らないが、そんなに趣味がいいものでないことは察しがつく。いや、今はそんなことどうでもいいな。きっと眠っていると思っていたのに、彼が起きていて、恋人が起きていて、俺はそれが嬉しいのだ。 「なんで起きてんの?」 「それはこっちの台詞。私は今日の仕事で疲れてかえって眠れない、からかな」 傑はそう言って額をかいた。今日の任務は確かに疲れた。精神的にも、肉体的にも。これについては今度話すことにしよう。あまりにもな事件だったから、俺の中でもまだ整理がついていないので。 「俺にもそれちょうだい」 2324 時緒🍴自家通販実施中TRAINING3/26ワンライお題【泡立つ/殉教者/投影】不穏な夢を見た五条が、夏油と一緒にその夢に重なるような任務に行くちょっと寂しいお話です。波の花 こんな夢を見た。 その夢の中での季節はぎらつく夏で、夏油傑はなぜか袈裟を着た殉教者だった。足元は泡立つ浅い海辺であり、砂浜の転がる白い波の花が十字架にかされる彼の美しい身体を汚していた。そして彼はついにエリエリレマサバクタニとつぶやく。神よ、どうして私をお見捨てになったのですか、と。俺はそこでこれは夢だと気づいた。それほどに真に迫ったものだったから、勘違いしそうだったのだ。考えてみればキリスト教徒は袈裟なんて着ない。これは多分、きっと昨日二人で見た映画を夢に投影したのだろう。キリストが苦しむばかりの映画を見て、俺は恋人を脳内で苦しめようとしたのだろう。昨日ちょっと喧嘩をしたし。俺はそう思い、いやそう思ったところで、目が覚めたのだった。 2819 時緒🍴自家通販実施中TRAINING3/19ワンライお題【種/ゴシック体/燃やす】傑の元に不幸の手紙が来るお話です。最後はイチャイチャしています。透き通った煙草 傑の部屋に、パソコンでプリントされたゴシック体の手紙が届いたのは、俺たちが二年に上がるころ、ちょうど高専の花々が花霞にある昼時のことだった。 最初のうちはラブレターかと思った。だが宛名もパソコンでプリントされ、差出人の名前もなく、中身もパソコンでプリント、となると、デジタルなのかアナログなのか分からないそれは、よく読めば不幸の手紙であったのだった。今時メールじゃないのがまた強い効果を呼びそうで、俺はそれに舌を出して嘔吐物をこぼす格好をした。正論吐いて呪われてちゃ世話ねぇな。それは傑に対するからかいだったのだが、通じたのかは分からない。 「傑も隅におけないなぁ。こんな熱烈なラブレターをもらうなんてさ」 3477 時緒🍴自家通販実施中TRAINING3/12ワンライお題【三途の川/キャリーオーバー/腹いせ】訓練で渋谷に行ったさしすが色々おしゃべりしてる甘ったるいお話です。チョコレートドリンク 渋谷の街は、三途の川に似ているとよく思う。 もちろん俺は死んでもいないから、そんな場所には行ったことがない。ただの概念としての見解だ。けれど会話のさざめきや、重なる足音、イヤホンをさした耳から漏れる音楽なんかが、どうもこの世のものとは思えない、って俺はあの場所を訪れる度に思った。 これをふとした話題として傑に言った時、傑はそれは地獄じゃないの? と言った。審判を受けた人々が蠢いている場所、それが渋谷なんじゃないかって。そしてあの交差点は、それぞれの地獄に向かっているんじゃないかって。 「地獄ね……」 俺は交差点がよく見えるカフェで、行き交う人を見ながら言った。隣には傑と、珍しく高専の結界の中から出た硝子がいる。今日の任務は細かな弱い呪霊を一度に祓うってものだった。そして夜蛾先生がその実習場所に選んだのが、あの交差点ってわけだ。強いものが出て来た時は高専に連絡するように言われていたが、正直全て祓ってしまった方がやりやすいっていうのが俺の考えだったし、傑も硝子もそうだったろうと思う。 2745 時緒🍴自家通販実施中TRAINING3/5ワンライお題【横断歩道/女遊び/脱臼】任務に行ったら夏油の元クラスメイトに会って、カラオケに行くお話です。五条が不機嫌です。カラオケルームの秘密 今回の任務は簡単なものだった。というのも、最近中高生の間で話題になっているらしい、『横断歩道の幽霊』という単純な祓いだったからだ。 わざわざ東京のど真ん中に行ってまで、数人から話を聞いたところによると、どうも学生のたまり場のコンビニ近くの横断歩道の信号の下に、小さな女の子が立っているのだという。その子は車のひき逃げにあった子だったり、自分から車線に飛び込んだいじめられっ子だったりと、怯える中高生たちから聞く話は色々だったが、小学生の女の子、というのは共通していた。赤いランドセルを背負っている、というのも。それ自体は今のところ何かをするわけではないらしいのだが、こういった話はすぐに大きくなるから、それを事前にとめたい、というのが依頼主であり、窓でもあったコンビニのアルバイトからの言葉だった。 3238 時緒🍴自家通販実施中TRAINING2/26ワンライお題【静止画/マカロン/正気の沙汰】マカロンを買いに行った五条が簡単な事件に巻き込まれて、夏油も巻き込む軽いお話です。少女たちのマカロン マカロンをつまんでいると、珍しく傑が俺の部屋のドアを開いた。手つきはあくまでも優しく、けれど決して逃がさないといったふうに。もしかしたら、彼は夜蛾先生か誰かから、俺を連れて来るように言われているのかもしれない。俺にとってはどうでもいいことだったけれど、彼にとっては大事なことなんだろう。 「あ、傑。何か用?」 振り返りながら俺は言う。すると傑はため息をついて、次のように言った。 「何か用? じゃないよ。学長の呼び出しを無視するなんて正気の沙汰?」 そう言われれば、俺は今朝から昼過ぎに学長室に来るように、大切な用事があると呼ばれていたのだった。理由は知らされていなかったから、また五条家のごたごたか何かだろう。携帯の時計を見ると午後二時になっていた。まぁ、これじゃあ怒られても仕方がない。でも俺にだって用事があるのだ。何でもかんでも怠惰と決めつけて欲しくない。 1479 時緒🍴自家通販実施中TRAINING高専の傑の部屋で一緒に寝ていた夜中、不思議な体験をする夏五のお話です。ある人のために 深夜、カサ、と耳元で音が鳴った。 その時俺は傑の部屋の大きなベッドに彼とともにいて、ささやかな音に気づいたのは奇跡と言っても良かった。正しくはわずかに残穢を感じたからだったが、そこに悪意はなかった。 傑もすぐに起きた。冷えていた足元は絡まってあたたまり、俺たちはぬくもりを求め合って触れ合っていたのを思い出す。もう冬だった。そろそろ来年の進級が決まる頃だ。俺たちにも後輩が出来て、二年生になる。 「なぁ、傑これってさ」 「……うん」 残穢じゃないか? 俺たちは眠い目をこすって、密やかに言葉を交わした。あたりはまだ暗いが、目が慣れているせいでお互いの表情は見えた。傑はほどいた長い髪をまとめて、ヘアゴムでくくった。俺は一応サングラスを探してみたけれど、どこかに落としたのか見つからなかった。その代わりにベッドサイドの棚に右手で触れると、カサ、と音が鳴った。それはさっき聞いた音だった。かすかに残穢を感じる、そんな紙の音だった。 2351 時緒🍴自家通販実施中TRAINING2/19ワンライお題【いちごオレ/メンチカツ/砂浜】海で任務を終えた後ダラダラしてたら逆ナンされる夏五です。夏油がタラシです。パラソルの裏の秘密 海水浴場での任務が終わったのは、まだ昼にもなっていない頃のことだった。 今回俺たちに与えられたのは、夏場によくある人々を海に引っ張り込む呪霊の討伐で、場所に力を左右されるそれは結構すぐに倒すことが出来た。何せ砂浜まで引っ張っていってしまえばそれは水をなくした魚のようになり、かつての鯨のようには生きていけなかったからだ。 仕事が終わってからは、俺たちは海水浴客に混じってパラソルを立て、そこで各自持ってきた水着を着て横になった。硝子は肌を焼きたくないのか日焼け止めを塗っていたけれど、俺は面倒で何もしなかった。傑はそんな俺を心配していたみたいだったが(俺は肌が白かったので)、女じゃないんだからそんなに皮膚も弱くないと俺は一蹴した。まぁ、これが後で風呂に入る時に後悔することになるんだけれども。 2621 時緒🍴自家通販実施中TRAINING2/12ワンライお題【完成品/覆面/ベランダ】任務で出会った男の子の裂けてしまったぬいぐるみを、夏油が手直ししてあげるお話です。あなたの優しい手 初夏の昼過ぎ、ベランダの扉を開けると、傑が縫い物をしていた。大きな手のひらの中には覆面ヒーローのぬいぐるみ、ただし腕や背中が裂けて、中の綿が出てしまっている。彼は扉が開いても、黙々とそのぬいぐるみを縫い続けていた。マリオカートをやろうと意気込んできた俺は、それに言葉をなくしてしまう。 「それ、いつまでやんの」 最初のうちは物珍しくて見ていた俺も、段々と暇になって訪ねてしまった。でも傑は「あとちょっと」と言うだけで、俺の質問にはきちんと答えてくれない。 「それ、誰の?」 しかしそう尋ねると、傑はようやく顔を上げて、コントローラーをさげている俺を振り返った。切れ長の瞳、さらさらの髪、時間をかけて拡張した大きなピアスに、ほのかに香る昨日の湯の石鹸の匂い。そんな傑を構成するもの全てに、俺はそんな質問、しなくてもよかったなんて思ってしまう。 1952 時緒🍴自家通販実施中TRAINING1/22夏五ワンライ。お題【天井/プルタブ/映画館】映画を見に行った二人がいちゃいちゃするお話です。ライフ・イズ・コメディ! 傑と映画館に行くことになった。これって初デートだなぁ、俺たちも結構恋人らしいことをするもんだなぁ、そう俺は思って、なぜ傑がよりにもよってクレヨンしんちゃんの映画を選んだのか考えもしなかった。チケットまで事前に用意したのも怪しかったが、俺は傑と一緒に映画を観に行く、そんな事実だけに興奮してしまって、やっぱりなぜ傑って奴がクレヨンしんちゃんを選んだんだ?、恋愛映画でもないのに、とは考えなかった。でも『モーレツ! 大人帝国の逆襲』とか『アッパレ! 戦国大合戦』は俺を映画館に連れて行った五条家の呪術師も泣いていたから(俺は情緒の育っていない子どもだったので、結構長い間教育のために分かりやすい勧善懲悪のアニメ映画を見に連れて行かれていたのである)、映画の優しいジャイアンみたいに、クレヨンしんちゃんも映画は大人になると泣けるのかなって思った。それに傑と映画館に行けるんなら別に何の映画でも良かったから、もしこのチケットの映画で泣けなくたって、それはそれでいいだろうって。それで傑だけ泣いたら、ちょっと居心地が悪いかなぁ。 2312 1