ウィルシャム あの頃から、別の命を抱きしめると温かいことを知っていた。
光の届かない地下の街。人工的な明かりで保たれ解放されることを知らない澱んだ空間の中。目を閉じても横になっても己の体を包むのが寒々しい空気だけだったが、唯一の相棒であるビゼルが寄り添ってくれるようになってからは、その小さな温もりと鼓動はシャムスの無頼を慰めてくれた。
抱きしめて、頬を寄せればするはずのない日向の匂いがする。暗い世界の中で、ビゼルがいればまだ地に足をつけて歩けるような気がしていた。
「――ビゼル?」
ふと目を覚ますと、いつもすぐ手に触れるはずの毛並みがなくてその名を呼んだ。
にゃお、と想像よりも遠くから返事が返ってくる。
「ん?」
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