Recent Search

    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

    好きなとこやご感想を教えていただけたら嬉しいです!!!
    リアクションくださる方々いつもありがとうございます😊
    https://wavebox.me/wave/lf9rd0g4o0hw27qn/

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍖 🍩 🔆 ☕
    POIPOI 116

    okeano413

    DONE甲操 ぬくもりから消えていく※いなくなる話




    「ここでいいよ。降ろしてくれ、来主」
     一人で歩きたがる甲洋を強引に抱き上げて辿り着いたのは、海岸近くの何もない場所だった。成長し続けているきれいなアショーカの幹を眺められるし、人の営みの灯火を遠くに感じられる、良い場所だ。でも、なにもない。大きな樹も、花畑も、照らしてくれる灯台も。甲洋と一緒にいてくれるものが、なんにもない場所なのに。
     こんな日が来ることを、甲洋はとっくに覚悟していたのかもしれない。もしも、幸運が重なって戦場以外で眠ることができるなら。もっと運が良くて、守りたい人々のいる島でいなくなれるなら……そんな日の為に、自分が最期にいたい場所を見つけて、悟られないように、心の部屋に隠していたんだろう。悲しませない為の準備を悟らせようとない、ずるい男だから。
    「来主。降ろして」
     もう一度、安心させてくれる時と同じ優しい声で促されて、いやなのに、従ってしまった。もう、僕の手を掴まなければ立てないくせに。僕に攫われてしまえば、楽になれるはずなのに。無理に持ち上げられた格好のまま降ろされて脚を伸ばす。まわりをぺたぺたと触って確認する姿は無邪気でさえある。これ 1713

    okeano413

    DONE甲操 小春の奏
    飾り付け方がわからないので覚えたての文字を書いた
    2020.12.31

     扉を開く。手放されたボウルが直下する。中身があたりに散らばって、短い悲鳴と金属音が重なった。コメディかのような流れだが、ツッコミ役は誰もいない。無言の間でぐるぐる回るボウルだけが騒がしい。
     今日は月に二度の定休日だ。一騎からは総士の要求に応える為にあの子から離れないと聞いていた。俺も調整の為にアルヴィスへ赴いていたから、キッチンを惨状にする男は一人しかいない。待機場所兼自宅ではなく楽園の厨房を選ぶくらいには考えたらしかったが、どうにも間が悪かった。俺にとってはよかったが。縦結びのエプロン姿が嬉しくないはずはない。
    「……出直そうか?」
    「いいようもう……早かったね……」
     ああ、生クリームだらけの手で顔を隠してしまった。俺の名前が書いてある、いびつなパンケーキらしきものを飾り付けて仕上げだったんだろう。手先はだいぶ器用になったが、こういうアドリブはどうにも弱いままだ。
    「他の家でこっそりやればよかったのに」
    「ここで作りたかったの。ここに思い出を増やしたくて、それで」
     指の隙間から覗く瞳にちゃんと嬉しいと伝わるように笑いかけてやると、諦めて手を離した。そこ 616

    okeano413

    DONE甲操 ゆわひのあいらし2020.11.21

     困った。一体どうしたものか。ウンウン唸れども解決策は湧いてこない。なにせ悩みの原因は理解していても、今すぐどうこうできるたぐいのものではないからだ。
     悩みの原因である、接客に勤しむ甲洋の後頭部でやたらと硬そうに光るもの。バレッタという名前らしい。開店寸前に最後のヘアゴムをだめにして困っていた甲洋へ、彗と朝食デートにやってきた里奈があたしはもう使わないからあげますよと与えたものだ。波模様の黒いやつ。(なんで持ってるのと聞いたら、オンナには秘密があるものよって誤魔化された)無理やり引き剥がせば怒られるに決まっているので、だんまり階段の踊り場に座り込んだまま、ふわふわ揺れる茶色を縛り付ける留め具を睨む。
     普段の一つ結びと比べれば首にかかる髪は多いし、半端にまとめるものにしか見えないのに、どこからか聞き付けたらしい客が増えているのもなんだか気に入らない。
     さて、本題を言おう。僕は今、無性にあのふわふわへ顔を埋めたかった。真剣な悩みだ。バレッタさえ無ければ、今が営業時間でさえなければ飛び付いてやれるのに。澄まし顔で注文を捌いている甲洋が毎晩僕の髪にもふ、と顔をうず 1225

    okeano413

    DONE甲操 年の宿で微睡みを2021.01.03

     空が白み始めた頃、初日の出を見ようと張り切っていた少年は既に夢の中へ沈んでいた。黄色のクッションを抱え、俺の肩に頭を預けたまますっかり眠り込んでいる。どうして起こさなかったのかと抗議されそうだが、新年の始まりからこのぬくもりを手放すのは惜しい。真似して俺も頭を傾げる。一度、二度、擦り付けると、規則的な呼吸が重そうに乱れた。
     年越しと言っても、アーカイブに残される除夜の鐘撞きや歌番組などの恒例行事はなく、各々が家族と過ごすのが島の通例だそうだ。仲間内で集い賑やかに新年を迎えるもよし、出歩かず安穏に過ごすもよし、らしい。今回の俺はと言えば、羽佐間先生の好意に甘えて、小晦日からお邪魔させてもらっていた。御節料理を支度して重箱に詰めたり、先生には手の届きにくい場所の掃除を頼まれたり。三人であれやこれやと家を整えているうちに、年内最後の夕陽はあっという間に姿を消していた。こんなにも心地良い疲労は──この時期を家族らしく過ごすのは、初めてだった。
     余韻を脳裏で噛み締めつつしばらく寄り掛かっていると、階段を降りる足音が聞こえて、そっと身を起こす。明けの挨拶を済ませて先に 1288

    okeano413

    DONE甲操 桂花の香るころ2020.12.19
     
     生まれた日を祝う文化があるらしい。テーブルに好物を並べて、ケーキにろうそくをさして、家族や友人で主役を囲んで、おめでとうと歌う。自分以外の仲間を、家族を、好きな人をめいっぱいお祝いする日なんだって、翔子という人を祝うおかあさんが、手作りケーキを切り分けながら教えてくれた。僕のおねえさんに当たる人、らしい。もう一人は、カノン。みんなをこの未来へ連れてきてくれた女の子。
     今日の主役だという翔子は、薄緑のワンピースを着て、写真立ての中で微笑んでいる。
    「ねえ、おかあさん。それって生まれた日以外はしちゃいけないの?」
    「それって?」
     注いだ紅茶と小さくなったケーキを丁寧に置いて、おかあさんは振り返った。ろうそく付きの猫いちごは翔子に、(飾りならあんまり怖くない)犬いちごをカノンの前に。テーブルに二人分の同じものを並べて僕の隣に座る。僕用の青空色のラインが入ったカップと、翔子とおそろいの、クーのかたちに飾られたいちご付きケーキ。僕が教えてほしがる時はこうして、きれいなものやおいしいものと一緒に、辛抱強く僕の選ぶ言葉を聞いてくれる。この家に来てから生まれた習慣だ。
    3098

    okeano413

    DONE甲操 春告鳥の戀ねがい
    春告鳥二作目
    2021.03.10

     再び春が来る。
     春日井の色男と呼ばれた青年、甲洋──彼が好んだ紅葉の音をもらい、塩の湖を思わせる名を持つ男──は、伴侶と決めた少年へ、一番に春を告げる事にした。
     遠くで楽しく跳ね回っているだろう、 小さな子を探す。二人の住処と定めた若木からよく見える場所で手足を楽しそうにぱたぱたと動かす男の子を見つけて、頬が緩む。未だ肌を冷やす空の下、あの子だけがいつも春の中にいるようだった。
    「操。こっちへおいで」
     呼ばれたことに気付いた子が、背よりもずいぶん大きな蒲公英を抱いて振り向いた。甲洋へ向けて、心を目一杯に込めて笑う。操。あの日、甲洋にふたつめの恋を与えた少年の名だ。あれからもう、一年が過ぎようとしている。
     甲洋の名はかつて他者に与えられたものだが、操は自らそう名乗った。あちこちに殻の名残りを付けっぱなしの晒したままの肌に濃紺の外套を掛けてやり、生まれたての少年を抱き上げ、服を着せてやらねばと逸る甲洋の袖をくいと引き、はくはくと空気を吸い、広げた口に音を乗せて、語る。
     僕には親がない。声無きものたちが甲洋に恋をして、そうした想いがいくつも集い、同じ心を持 3813

    okeano413

    DONE甲操 Buon appetito!
    バレンタイン
    2021.02.28

     島中浮足立っている。年末年始の行事を終え、福を願い、ようやく訪れた俗っぽい行事だからだろうか。移り住んだ料理上手の誰だかが開いたらしい、菓子教室とやらの影響もあるかもしれない。隔たりなく交流できる今日を迎えてから、なんだか地下のアルヴィスまでチョコレートの香りに包まれているような気さえする。
     そんな日にふさわしく、朝から襲撃の予兆もない。皆、思い思いに一日を過ごしていた。
    「甲洋くんはもうもらったのかい?  毎年すごいんだって衛が言ってたんだが」
    「ええ、まあ。有り難い事に、いくつか」
    「なんだ、隅に置けないな。受け取るのも誠意のうちだぞ。なーんてな」
     隅に置けないのはあなただろう、の言葉はどうにか飲み込んだ。からかい混じりの小楯さんも、それなりの「気持ち」を寄せられている。残りの人生はファフナー一筋だと公言している彼に渡す以上、進展を求めてのものではないんだろうが。
     整備に戻る背中を見送ってから、彼の誠意の成果の一角にメモ付きの箱を一つ加える。
    『珈琲楽園海神島店より、ご愛顧ありがとうございます』。休店日ゆえオーナー手ずからお届けしました、なんて。
      3969