※いなくなる話
来主がボレアリオスミールに還った。命の循環を、自分たちの根っこに教える為に。重い身体を引き摺りアバドンを降りる。器からこんなにも離れたくなったのはいつ以来だろうか。苦戦はしなかったというのに、ところどころに目立つ擦過傷をみるに、自覚するより動揺していたらしい。以前から「僕もいつかミールに還る」と言い聞かされていたというのに、とうとう彼の最期まで、別れの言葉が浮かばなかった。
「甲洋くん。まだ、整理がつかないと思うけれど、渡しておくわ。私も、次はいつあなたに会えるかわからないから」
泣き腫らした羽佐間先生から渡された真っ白の封筒は、どこにも記名されていない。宛先も、差出人も主張しないそれの主の見当は、つくけれど。
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