「竜三、寄り道するぞ」
唐突にそう告げた仁の見やる方には、一匹の狐がいた。仁を待つように、街道から逸れた大樹の根元ではっはっと舌を出しながら忙しなく小さな足を踏みならしている。
竜三の返事も待たずに止めた馬からさっさと下りると、仁は一目散に狐の方へ行ってしまった。
狐は狐で待ちきれなかったのか、仁がたどり着くより早く狐が背を向けて駆け出した。すかさず仁も足を速めて狐を追う。
置いてけぼりにされた馬の上で、慌てて声を上げる。
「っおい!」
「すぐに戻る!」
仁は振り向きもせずにそう答え、竜三が呆然としている間に狐を追って叢の向こうへと姿を消してしまった。
今更追っても無駄だろう。仁の気まぐれに振り回されるのもいつものことだ。
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