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    ズン

    hiromu_mix

    DONEアイスクリームパレット:ラムレーズン(淡い思い出 / 異物 / 背伸びをする)
    あの日、大人になりたかったから部屋に備え付けの戸棚の引き出しを開けると、救急セットや常備薬に混ざって、奥の方。それだけぽつんと異物みたいに、封を切った煙草の箱がコロンと置いてあって、俺は、こんなとこにあったんだなと苦笑した。以前は鞄の奥底に仕舞い込んでいたが、うっかり見つかったらヤバいかも、とさすがに持ち歩かなくなった。それを持っていてもいい年になった今、懐かしい気持ちで俺はそれを見つめ、手に取った。中身はすっかり湿気って、きっともう吸えないだろうけど。
    買ったのは18歳の終わり。勇気を出して封を切ったのは19歳の時。煙草を吸うという行為は、それまでいわゆる悪いことをしようと思ったことのなかった俺に、後ろめたい、という感情を思い知らせた。誰にも見つからないように。部屋のベランダで隠れるように身を潜めて深夜、そっと火をつけた。ファットガムが吸うのを見てると、簡単に付く火がなかなかつかなくて――吸わないと付かないということを知ったのはそれからだいぶ後だった――何度も100円ライターを擦って、やっと煙が緩く経ち上ったときにはホッとした。けど、一気に吸い込んで咽て、俺の煙草デビューは三口吸って終わり。口の中に広がる味が苦くて、胸のあたりがむかむかして、最悪な気分。それに、吸ったらもしかして自分も少しは大人になれんじゃねえかなって期待もむなしく、吸ったところで俺は何も変わらなかった。いくら背伸びしたところでファットガムみたいに、なれるわけもなかった。同じ銘柄の煙草の香りのおかげで、ほんの少し、纏う匂いが彼と同じになっただけで。
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    mu____zi

    DONE課(特に付き合ってない)たざかみ、愛と地獄の新婚旅行編

    たざかみの日のプリズンなブレイクの続編です。
    ◾️◾️




    波間の揺れる一面のコバルトブルー。神永は海の真ん中、木製の小洒落た桟橋の上に立っている。頬を撫でる風に目を細めて、はて。──どうしてこうなった。と、隣で柔らかく微笑む田崎の顔面を見つめながら、答えのない疑問を脳裏に過らせた。


    さて、神永が水上飛行機から桟橋に降機したのは、ほんの1分ほど前の話である。桟橋の専用プラットホームに横付けされたその飛行機に乗り込んだのは、大凡1時間ほど前だっただろうか。因みに、小型水上飛行機へ乗り込むより前の、南国の国際空港に到着したのは3時間ほど前のことで、神永が日本で旅客機に乗り込んだのはそれより更に約15時間前だ。
    この土地に降り立つまでに既に半日以上が経過し、神永の凝り固まった背筋は慣れない疲労を訴えていた。しかし、神永の疲弊は肉体的よりも寧ろ精神的な部分にある。開放的な南国の土地に降り立った人間にしては些か場違いだろう。とはいえ、神永はそんな疲弊の断片を顔色に滲ませることなく、口角を緩めてながら極上の幸福に溢れたバスタブに浸かった顔をする。順風満帆で、今まさに世界が終わりを告げても尚、隣にこの男がいてくれるのなら後悔などない、という顔である。
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