ポイパスで絵文字100連打!

一月

torinokko09

できた三月三週目「ひみつ」 ツードロくらいになった
あいまいな返事で一彩と付き合うことになった燐音が、事務所の一室を借りてメルメルと仕事してる時の話。

一月連作、3月導入と一、二週目読んでからだと解像度が爆上がる。むしろ読んでからがいいまである。全部ポイしてある。
一燐要素すくなめ(前提にあるだけ)
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ワンシーンを漫画に書き起こしてぽいぴくしてるので是非見てね
「ひみつ」

「先ほどからスマホばかり気にして、どうしたんですか」
「えっ」
 HiMERUに指摘され、燐音は無意識に触っていたスマートフォンを伏せた。何気ないふりをして「競馬見てた」というと、あからさまな視線を向けられて、ため息を一つ。燐音は内心、まずったなと後悔した。

 事務所ビルの一室を借りて企画していたライブやコラボ仕事の事務作業中だった。ニキはバイト、こはくはダブルフェイスの仕事があるから、こういった事はHiMERUと二人きりになるのが常だった。燐音は改めて手元にあるライブハウスの資料を見た。初めて借りるライブハウスは、なかなか個性的なつくりをしていた。そのためにいつものように、がうまくいかず、年明けから企画が難航していたのだ。
「まぁ、仕事に影響がないようにお願いします。次のライブハウス、なかなか癖がありますので」
「分かってるって。……俺っちそんなにスマホ触ってた?」
「えぇ。HiMERUの話が耳に入らないくらいには」
「……マジで?」
「マジ、ですよ、あなたらしくない。どうしたんですか」
 向かいに座っていたHiMERUが燐音の顔をのぞきこむ。その瞳には心配の色が浮かんでいて、それに答えるように燐音はわざとらしく肩を落としていった。
「最近負け続きでさァ、おれのギャンブル用通帳の残高がよォ……」
「違うでしょう」

 強く言い放ったHiMERUの言葉に、燐音はわずかに目を見開いた。ビジネス以外は俺に関わらないほうが吉なんじゃないのか。言外に向けた視線はしかしつっぱねられて、さきほどの燐音のまねをするように大げさにためいきをついたHiMERUは話し出した。
「我々の、crazy:Bの企画が立ち上がって、話がきたのはちょうど去年の今頃、正確に言えば四月ごろでしたね。あなたには先に話が上がっていたのではないでしょうか。それから、まぁいろいろと、えぇいろいろとありましたが」
 HiMERUは「いろいろ」のあたりでじろりと燐音をにらんだ。思い当たる節がある燐音は視線だけそっぽへ向けた。
「我々は、……、我々は「仲間」だと思っていますよ。少なくともあなた以外の三人は」
「まさか。俺っちだってお前らのこと、大切な仲間だと思ってる」
 噛みつくように否定したが、HiMERUはすげなくきりすてた。
「半年ちょっとじゃ完全な信頼の回復は難しいのです」
「手厳しいな」
「桜河など、たまにあなたを見ていますよ」
「メルメルもだろ」
「おや、そこまで見てはいませんよ。それで、誰からの返信を待っているんですか」
「ひみつ」
「おや、HiMERUにそのワードを使いますか」

 燐音はその返事に笑って返した。HiMERUは挑戦的な笑みを浮かべ、手に持っていた資料を置いて考え始めている。少し休憩だ、と燐音は伏せたスマートフォンを手に取って、HiMERUの前に掲げて見せた。
「あてたら、相談にのせてやるぜ」
「秘密を教えるから相談に乗ってください、でしょう。当てて見せます」

 きらりと光るレモンの瞳に、燐音はとある人を思い浮かべた。思い出すのは先週の出来事。人気のない公園で、バレンタインにもらったマロングラッセのお礼に渡した金平糖。たっぷり入っていたからまだ食べきってはいないはずだが、あれはいつまで大切にするのだろうか。そう考えたところで、HiMERUが質問を投げかけた。

「返信を待っている」
「イエス」
「それはビジネスですか」
「ノー」
「それは一人からの返事である」
「イエス。……大ヒントだぜ」
「えぇ、ほとんど絞れましたよ。あとは内容です」
 そういうとHiMERUは足を組みなおした。顎に手を当て、探偵らしく考えて見せる。アイドルらしい表情で悩む素振りをするが、その瞳は答えを知っているようだった。
「では最後にひとつ。その人との関係に悩んでいる」
「……」
「沈黙は肯定ですよ、あなたが知らないはずがない。ずばり、弟さんですね」
 はっきりと言い切ったHiMERUに、燐音は表情を崩さずに尋ねた。
「燐音ちゃん、メルメルの質問が曖昧過ぎて答えらんなかっただけなんだけどなァ。確かに弟からの返信を待ってたけど、関係は兄弟しかないっしょ」
「いいえ、そんなことはありません」

 HiMERUはテーブルに用意したクッキーの包装を破りながら、推理を披露し始めた。
「事の始まりは、一月です。弟さんと食事をしていたあなたが、私の電話に慌てて事務所に飛んできたとき。あの時はすみませんでした、HiMERUもまだ新しいスタッフに慣れていなくて。ひと段落したとき、弟さんへことわりのメールをする際にひどく困惑した表情を見せましたね」
 そこまで言ってHiMERUはひとつ息をついた。
「確かに電話先で妙に言葉が切れた瞬間がありました。ここでまずひとつ、何かしら弟さんからのアクションがあったのでしょう」
 場を沈黙が支配する。二人きりの狭い部屋で、HiMERUは言葉をつづけた。
「それから目に見えて弟さんからの『お誘い』が増えました。食事や、おでかけや…。レッスン前後によくあなたが話してましたので、それはみんなが知っています。そして二月。あなたは弟さんから呼び出しを貰った」
 一口大に割ったクッキーを取り出すと、HiMERUはクッキーについたチョコチップを燐音の方へかざして見せた。
「バレンタイン。想い人へ愛を伝える日です。マロングラッセ、もらったのでしょう?」
「…なんで知ってンの」
 その言葉は、燐音が悩んでいる『関係』を答えたも同然だった。燐音は、弟から永遠の愛を誓うマロングラッセをもらったのだ。当時はその意味が分からなかったが。
HiMERUは燐音の行動を見透かすように笑った。
「ま、あなたは何も気にせずお返しをデパートで買ったようですが」
「げ、ばれてる」
「ばれてるも何も、仕事帰りに普段よらないところに寄ったことは知っていますから。あとはただの推理ですよ」
「そもそも、なんでマロングラッセって知ってンの」
「簡単です。椎名から『教えるついでにいっぱい作ったんすよぉ』と桜河とHiMERUとで『二人分』貰ったからです。誰に教えたとは言いませんでしたが、すごくおいしかったのです」
 けろりと答えた言葉に、燐音は思わずため息をついた。

「そして、三月のはじめのことです。あなたは桜河にこそこそと和菓子のお店を聞いていましたね。3月にお菓子といえばホワイトデーです。『永遠の愛』を意味するマロングラッセを『誰か』から貰い、律儀なあなたはお菓子で返事を考えたのでしょう。他のお菓子なんて、イベント用にとってつけたようなものですがね」
「お菓子屋さんが頑張って考えたのに、言うねぇ」
「そんなことどうでもいいのです。和菓子で意味を持たせてもおかしくないもの。長期保存がきく砂糖の塊なんでどうでしょうか」
「答えを知ってるような物言いだな」
「えぇ。桜河から聞きましたから」
「もう推理じゃねぇじゃん」
「聞いたこと、も推理材料ですよ。ま、見栄えが良くて、若者向けと言ったら金平糖が無難でしょう。長期保存で『とわの愛』ですし」

 さくり、とHiMERUがクッキーをほおばった。一通り咀嚼してから、「それで、」とくちをひらく。
「ま、逸話のない金平糖なら恋愛の意味を含まない『とわの愛』を誓うこともできますから、あなたはそれであいまいに返事をしたというわけです。あぁ、なんてひどい男」
HiMERUは嘆かわしい、と首を振ってみせた。燐音はHiMERUの推理に拍手を送ってひとつ尋ねた。
「メルメルは気づいてたわけ? …弟クンが俺っちにアタックしてたことに」
「年明けから妙に仲がいいなとは思っていましたが、そこまでとは思いませんでした。そうかもしれないと思ったのが桜河から金平糖のくだりを聞いてマロングラッセを思い出した時、確信したのは今です」

 残りのクッキーをほおばるHiMERUに、燐音は両手を上げて降参の意を示した。
「だいせいか~い、メルメルってば天才。っつーことで、相談乗ってくれるよな」
「俺で良ければ」
「誰でもいいよ、いや、口が堅い人がいいからメルメルがいい」
「みんな口は堅いでしょう」
「そうだけどさ。んで、どうすればいいんだろうな」
「付き合うことになったんですか」
「んー、いや、あいまいな感じ。でもちゅーはされた」
「おや、結婚しなくてはなりませんね」

 吹き出すように笑ったHiMERUに、燐音は足を蹴って反抗した。夏のイベントの時にキスも婚前交渉だからといった燐音の言葉を覚えていたのだ。一睨みしてからテーブルに残っていたクッキーに手を伸ばすと、燐音は乱雑に中身を取り出した。クッキーをかじりながら、HiMERUに問うた。

「なんで兄弟なのに恋愛感情なんだよ。ていうか、かわいい若者の未来は有意義にあるべきっしょ」
「…あなたは常々自身が年寄りのようにしゃべりますが、そんなことはないと思うのですよ」

 HiMERUは慈しむように燐音の瞳を見た。それはまるで、年長者が若者に語り掛けるようだった。
「HiMERUは飛び級で大学に行きましたが、あなたより年上であなたより稚拙な、…言い方がまずかったです。飛び切り元気な人間を何人も見てきたのです。ですから、あなただって、まだまだ若者なのですよ」
 燐音は自身の知らない世界を語るHiMERUの言葉を否定できなかった。
「恋愛は『とりあえず付き合ってから決める』なんて考えもあるくらいです。あなたも深く考えずに、一度『とりあえず』付き合ってみてもいいのではないですか。『兄弟』であることを忘れて弟と関われば、彼の知らない面を知ることもできるかもしれません。フるのはそれからでも遅くないはずです」
「そうかな」
「第一、兄弟であることを理由にフってない時点で脈があるようなものでしょう」
「……うっせェ」
 耐え切れずにテーブルに突っ伏した燐音の言葉に、HiMERUは今度こそ声を上げた笑った。

///
おまけ
「それで、何の返事を待っていたのですか」
「今度デートしたいから空いてる日を教えてくれって。俺っちが気づいてなかったから、正式にアタックするってさ」
「なるほど、好いた相手からのお誘いメールを待っていたわけですか」
「は!?違うっしょ、いつのオフが埋まるか気にしてただけ!」
「あぁそうですか。白々しい言い訳です。デート日の服装なら相談に乗りますよ」
「余計なお世話だ!」4315 文字
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はちみつ

できた小説書けるようになりたいから一月中は一日三十分小説書こーう!って決めたやつ、とりあえず五日続いたから誉めて。1/1/21 7:48 (628)

寂雷がどぽもちを拾う話(元旦だから)

時刻は午後九時過ぎ。
患者やその付き添いの人たちが忙しなく出入りしていた昼間と違い、シンジュク中央病院は静まり返っていた。こんな時間に正面入り口から病院を訪れる人はほとんどいない。
神宮寺寂雷は、非常灯だけ光る待合室を通り自動ドアを抜け外に出た。
そのままいつもの通り駐車場まで歩こうとし、ふと足を止める。

病院入り口の周りに植えてある茂みに隠すように、所々よれている段ボールが置かれていた。

寂雷が気になったのは、その段ボールから微かに聞こえる声。
まるで小動物のような消え入りそうな声は、子猫や子犬のそれとは少し違う。きっと夜遅くの静かな時間帯でなければ聞き逃していたことだろう。何か生き物が捨てられているのではと思い、駆け寄ってその段ボールの中を覗き込んだ。
するとそこには、申し訳程度に水の入った小皿と、一匹の小さなもちが入っていた。

もちとは、手のひらサイズのぽてっとした体系とまるでお餅のような質感、そして「もち!」という鳴き声が特徴的の生き物で、H歴になってからペットとして買う人が急増していた。

しかしそのもちは、寂雷が普段見ているもちより一回り小さい気がする。
赤茶色の髪の毛は所々泥で汚れており、小さく震える体は痩せていて翡翠色の瞳は濁っている。獣医でない寂雷も、このもちがかなり弱っているのだと一目でわかった。
このままここで朝まで生きているかも怪しい。しかし、この時間に駆け込める動物病院など少ないだろう。

寂雷は、震えるもちにそっと手を差し出した。

「私の家に来るかい?」

1/2/21 6:55 (924)

寂雷はシンジュクディビジョンにある高級マンションの上層階に暮らしていた。この年になると縁組の話が持ち出されることも増えたが、過去に大切な助手を亡くしてからは誰かと必要以上に親しくすることもなく、ここ数年は一人で暮らしていた。

部屋に入り、そっと段ボールを床に置く。その中で震えるもちは、少し力を入れれば簡単に潰されそうなくらいひどく痩せていた。体力もほとんど残っていないのか、少しでも段ボールを揺らすところんと仰向けに倒れてしまう。
寂雷は虚ろな瞳でこちらを見上げるもちに向かって、優しくゆっくりと話しかけた。

「お腹が空いているでしょうから、まずはご飯にしましょう。」

もちの主食は人間と同じだと聞いている。辛い物や酸っぱい物などの刺激物は個体によっては拒絶してしまうが、お米やケーキなどは大体が好んで食べる。
寂雷は、炊いてあったお米をスプーン一杯分掬い、充分に冷ましてからもちに差し出した。もちはすんすんと匂いを嗅いだ後、小さな口で少しずつ食べ始めた。よほどお腹が空いていたのだろう。もちの体の三割くらいあったご飯が、一気にその半分まで無くなった。
人肌まで冷ましたお湯もスポイトで与えると、まるで赤子のように一心不乱に口をつけた。

「ちゃんと食べられて、えらいですね」

これで一先ず命を守ることはできただろう。
しかし、不衛生な段ボールの中にいつまでも泥だらけで放置するわけにはいかない。次は汚れをとらなければ、と段ボールの中からもちを拾い上げようと手を伸ばし、ふと段ボールの隅に小さく手描きの字が書かれているのを見つけた。
擦れているが、ギリギリ読むことができる。

『拾ってください 名前は独歩です』

文字を読んだ寂雷は、らしくなく静かな怒りがふつふつと湧き上がっているのを感じていた。段ボールの中に置かれた小皿を見た時から何となく察していたが、やはり捨てられたのか。先ほどご飯とお水を与えた時の様子も、いくらか人間に慣れているように感じた。今まで飼い主の家で愛されて育てられ、急に僅かな水分だけ与えられ寒い外に放置されたこのもちは、一体どのくらいの絶望を感じただろう。

周りの人に仏とまで言われている寂雷が怒りを露にすることは珍しい。そのくらい、この不憫なもちに愛着がわいていた。

1/3/21 9:02 (862)

寂雷は、怒りは顔には出さず段ボールの中のもちをそっと掬いあげる。
寂雷の手のひらにすっぽり収まった、独歩という名前のもちは、落ち着かないのか目を瞬かせ丸い手足をよじよじと不器用に動かした。

近くで見ると、こちらを見つめる瞳は瞼に半分隠されているが綺麗な翠玉色だ。汚れを落とせば更に澄んで見えるだろう。目の下には、丸っこい顔つきには似合わない隈が濃くしみついているが、いつかこの家に慣れて、安心して眠れるようになってほしいな、と寂雷は考えた。

お風呂場で、洗面器にシャワーでお湯をためる。
溺れないように水位を五センチくらいに調節し、独歩の体をゆっくりお湯の中に下ろした。火傷しないように充分温度をぬるくしたが、それでもびっくりしたらしい。独歩はしばらく寂雷の手の中で、お湯から脱出しようともがいていた。

「大丈夫、気持ちいいですよ」

寂雷が落ち着きのある声で話しかけながら、もう片方の手でお湯を洗面器から掬い上げ独歩の体にかける。
そのうちお湯の心地良い温度に慣れたのか、固くして震えていた体を弛緩させ、支えている寂雷の手にもたれかかる。これ幸いと寂雷は、泥と埃にまみれていた独歩の髪の毛や体を優しく洗った。

独歩がうとうとしゆっくりとまばたきし始めた頃に、ようやく綺麗になった。

寂雷が思った通り、目やにがとれた独歩の瞳はつぶらで、赤茶色の髪とのコントラストのおかげでより清んで見える。少し癖のある髪の手触りもさることながら、所々に瞳と同色のハイライトが入っているのにもまた目を惹かれる。
そんな独歩が、文字通り自分の手のひらの上で無防備にこちらを見上げてくるのは何とも愛らしかった。

ボロボロの段ボールは次の資源ごみの日に出そうと折り畳み、細々とした物を入れるために使っていた背の低いかごにタオルを敷き簡易的な寝床を作る。そこに、冷えないようにとブランケットで包んだ独歩をそっと寝かせた。

温かいお風呂に入り、ぽかぽかの体で毛布に包まれた独歩は既に目がほとんど開いていない。

「おやすみなさい、独歩くん。」

寂雷は、最後にもう一度独歩の頭を撫でた。

1/4/21 6:56 (1010)

こうして、一人暮らしだった寂雷の家に住人が増えた。
寂雷の温かい部屋で充分な睡眠と栄養バランスの良い食事を与えているうちに、独歩の目の下の隈も薄らぎ、拾った当初よりずいぶんと健康的になった。

二週間も経てば、寂雷も少しずつ独歩のことが分かってきた。
ただのご飯よりケチャップライスの方が好きだということや、大きい音が苦手で寂雷がドライヤーで髪を乾かしている間はいつも自分の寝床の毛布の中に隠れてしまうことなど。
寂雷も、一日の勤務の終わりに独歩が迎えてくれると思わず口元がゆるむ。それくらい、独歩は寂雷の生活に癒しを与えてくれた。

職場に連れていくことはできないので日中は家に置いていくしかないが、その代わり寂雷が仕事から帰ると寂雷にべったりになる。
ただいま、と声をかけるともち!と元気に返事をし、食事後に日課の読書をする寂雷の肩の上によじ登り一緒にページを眺める。本の内容は理解できていないと思うが、自分を信頼してくれていることが分かる独歩の甘えっぷりが、寂雷は好きだった。

切りの良いところまで本を読み終え、今日はこのくらいにしておきましょう、と本を閉じる。
気が付くと独歩は、寂雷の肩の上で眠りについていた。落とさないようにそっと肩から手のひらに移動する。
綺麗な瞳は今は瞼の下に隠れていて見えないが、その代わり舌が出しっぱなしだ。悪戯心で舌につんつんと指で触れてみると、少し眉を顰め身じろいだが、起きる気配はない。その姿があまりに無防備で、愛らしい。

寂雷は独歩をそっと寝床に寝かせてあげた。

ずっと一緒にいられますように、なんて柄にもなく願いながら。



ある休日の昼、寂雷の元に荷物が届いた。
寂雷がネット通販で注文した医学書だ。寂雷が箱の中から本を取り出していると、ふと独歩が少し離れた所からこちらをじっと見つめているのに気が付いた。

新しい本が興味深いのか、とも思ったが、それにしてはいつもと少し様子が違う。いつもの甘えたな視線ではなく、まるで拾った当初の、警戒と怯えを織り交ぜたような表情で、体も小さく震えている。

「独歩くん?」

思わず寂雷は青ざめる独歩に手を差し出す。
いつもなら、手のひらに乗って良いよという合図なのだが、それどころか独歩は必死に後ずさった。
しばらく見つめあったのち、独歩は寂雷から目をそらし部屋の隅に移動した。

その日はずっと独歩は寂雷と目を合わさず、部屋の隅で震えていた。



それから、独歩の体調が著しく悪化した。

1/5/21 6:59 (907)
「独歩くん、ただいま」

夕方仕事から帰った寂雷は、独歩の寝床となっている小さなかごに向かって呼びかける。
少し前なら、よじよじとブランケットの中から這い出し、寂雷が帰ってきて来た嬉しさを隠し切れない仕草で元気にもち!と返事をしていただろう。
しかし、ここ数日は呼びかけても何も反応がない。寂雷がそっと毛布の塊を撫でると、塊がびくっと震えたので、寝床の中にいることは間違いない。

甘えてこなくなっただけなら、寂雷が寂しいだけで済むのだが、もっと深刻なことに独歩は食欲も落ちていた。
拾ってばかりの頃はお腹が空いていたのか、独歩はよく食べた。体が小さい分一般的なもちよりは食べる量は一回り少ないが、それでも寂雷が与えるご飯は何でも喜んで食べた。
しかし数日前を境に、食べる量がめっきり減ってしまった。好物だった焼き鮭の身を細かくほぐしてスプーンで差し出しても、恐る恐る口を開けて小さく齧りつくだけで、なかなか食が進まない。比較的食べられた時も、しばらくすると戻してしまうことが多々あった。独歩の体重はすっかり出会った頃まで落ちてしまった。

その上睡眠も満足にとれていない。
ある日寂雷が深夜に帰宅し、独歩の様子を見るためにそっとの寝床の毛布を捲ると、怯えた顔の独歩と目があった。前は寂雷の手のひらの上でもすやすやと眠れていたのに、最近は深く眠りについているところを全く見ていない。

どこか悪いのではと思いいくつもの動物病院を訪れてみたが、独歩を診察した獣医は皆、不安やストレスによる不調だと診断した。前の飼い主の事を思い出しているのだろうか、とか、この家は居心地が悪いのだろうか、など考えを巡らせてみたが、解決策は思い浮かばない。
結局、時間が解決してくれるという獣医の言葉を信じて、睡眠薬や栄養剤を与えることしかできなかった。

寂雷が独歩を拾ってひと月経ったある休日の朝、心なしか独歩はいつもより調子が良かった。
相変わらず食べる量は少ないが、昨夜は二、三時間浅い眠りにつくことができたようだ。寂雷は、久しぶりに独歩を手のひらにのせた。

「独歩くん、今日はお散歩に行こうか」

虚ろな目でこちらを見上げる独歩は、思ったよりもずっと軽かった。4586 文字