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    兵士

    しえる🍙

    MOURNINGさんくえる君と帝国の兵士の話眩い月明かりの下、必死に救いを乞う兵士を男が静かに見下ろしている。
    「し、しし、仕方がなかったんだっ!俺だって本当は嫌だった!でも、でも命令だったんだよぉ!!」
    「それで?」
    かぶりを振って後退る兵士に、男はゆっくりと歩み寄り確実に退路を塞いでいく。
    ついにはその背には壁のみとなり、完全に逃げ場を失った兵士は半狂乱になり泣き叫ぶ。
    「いっ……嫌だぁアァァ!!死にたくない!!
    何でもする、何でもするから命だけは…!」
    地べたに額を擦り付け、必死に許しを乞うその姿に男は舌打ちをする。
    「お前は、そうやって命乞いをする人間をこれまでに何人嬲り殺してきた?」
    怒気を含んだ声音に、兵士はビクリと大袈裟に肩を震わせる。
    「そ、そんな……だって彼奴らは蛮族だぞ!?
    属州民にかける情けなんて……ギャアッ!!」
    恐怖故か開き直る兵士の腕が、宙を舞った。
    「痛いか?痛いよな。……お前が殺してきた人々は、それよりも更に酷い苦痛を味わってきた。」
    憤怒と憎悪を滾らせた隻眼が、激痛に呻く兵士を見下ろしている。
    「お前が踏み躙ってきた大地は、そこに暮らす人々が大切に受け継いできたものだ。
    お前が殺した子供達は、こ 909

    きたまお

    TRAININGただそこにいた兵士の話その男が動くたびに、鎖がじゃらじゃらと鳴った。左の手首と両足首が太い鎖でつながれている。男には右腕がなかった。巨人に食われたのだと噂で聞いた。
     調査兵団第十三代団長エルヴィン・スミス、その人だ。
     兵士は憲兵団に所属していた。巨人がいる壁外へ行こうとする調査兵団のやつらは彼には理解できなかった。なにを好き好んでわざわざ食われに行くというのだろう。訓練兵団同期で調査兵団へ進んだものは、一握りの変わり者と、成績が悪くて憲兵団に入れず、駐屯兵団に入るためのくじ引きに負けたものだけだった。そのほとんどがもう死んでいる。五年前のウォール・マリア崩壊後の奪還作戦、その後のマリアルート確立のための壁外調査で命を落とした。
    「処刑台に連れて行け」
     宰相の言葉でエルヴィン・スミスの身体が、兵士の上司の手で引き起こされる。兵士は上司に手を貸すために近くに寄った。エルヴィン・スミスの顔が見えた。今、死刑を宣告された男は、薄ら笑いを浮かべていた。拷問で左目をつぶされ、あごにも無数の傷を負った男が笑っている。兵士はギョッとして動きを止めた。死の恐怖のあまり、この男は頭がおかしくなってしまったのだろうか。
      1867