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    リヒト

    okdeeer

    DONE【リヒト】小話①
    enchant 木々の葉が明るい緑に染まり始めた五月の初旬。地上ではまだ肌寒さの残る頃ではあるものの、地下の気温はきっちり二十四度に管理されている。人々は上着を既にクローゼットの奥へと仕舞い込んでいるはずだ。
     桜の木の下に人が集うことがなくなって久しいが、日本人というものはどうにもこの花が好きで仕方がないらしい。花見の文化は仮想現実内でひっそりと形を変えて継承されている。とうに地上の桜は散ってしまっているというのに、まだ地下市民たちの桜シーズンは終わらない。デジタルサイネージは絶え間なく桜の花びらを散らしているし、コンビニでは桜をモチーフにした新商品の発売ラッシュがいまだに続いていた。
     背を預けている大型のモニターからは、さっきからずっと来週公開されるという恋愛映画の動画広告が流れ続けている。十代から二十代に人気の少女漫画を人気のアイドルと女優を主演に実写化したもので、待望の映画化と銘打ってはいるものの、その実態は少々危ういらしい。確かにキャストの公開当初から、同僚の乙女(自称)は「マコトくんは三次元に連れてきちゃいけない存在だって私ずっと言ってるのー!」と大層ご不満な様子だった。やだなぁやだなぁと言いながらも、しかし彼女は一人でもこの映画を観に行くだろう。そういう子だった。そして理想とは違うマコトくんに打ちひしがれながら結局最後まで観て、号泣して帰ってくる。その足で話を欠片も聞いていない親友にわぁわぁ感想をぶちまけに行って、寝て起きてスッキリした頭で出勤して、残りカスみたいな「まぁ脚本は認めてやらなくもないの」という強がりだけを俺に話すのだろう。今までも何回かそういうことがあった。
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    BNC_AOT

    DOODLEトロスト区ぶらりひとり散歩
    なんでも無い話 文章書くの苦手ですが漫画にするのも億劫だったので
    その日はよく晴れていて、一応と羽織った上着が邪魔になってしまうほどの暖かさだった。

    同期の中でも身長が高い彼は脚が長かった。
    誰かと歩くときは無意識に歩幅を相手に合わせていたが 今日は1人。
    普段より少し速い速度で市場を歩けば最近少し短くなってしまったズボンの裾から生暖かい風が入る。

    今朝収穫された果物や焼きたてのパン、塩漬けされた小さい干し肉がぶら下がってたり(今や高級だ)食器などが売っているのが見えた。
    店主と世間話をしながら自分の子供がどこかへ行かない様に手を握る母親、仕事の合間にこっそり酒のつまみを買う駐屯兵、タバコをふかしながら新聞を読む男、その男とはどういう関係かわからない隣の女。
    平日の昼間ながらそこそこの賑わいがあった。話の内容は意識を集中しないとわからない程度の人間の音に包まれている。



    「明日のことなんだが、すまん 雑用を回されたから俺は行けない。」
    「あ.......そう、わかった。」
    「別のやつに任せようとしたが...」
    「うん、わかったよ。」
    「調整日は別にもらえるらしいが...」
    「うん、わかった。1人で大丈夫だ。」
    「....ああ。」



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