ちょりりん万箱
DONE暁月夜「藍湛、夜明け前の月だ。綺麗だな」
さっきまで腕の中で散々乱れていたのに、窓辺に立つ魏無羨は月の光を浴びて淡く輝きを放っていた。
かるく上着を羽織っただけのその姿は、気だるさと色香を漂わせ、簡単に藍忘機の理性を狂わせる。
ほかの誰も見たことのない魏無羨を藍忘機は無言で見つめていた。
「藍湛?」
黙って見つめてくる藍忘機に魏無羨は手を伸ばす。
手はすぐに藍忘機に掴まり指先に口づけられた。
「君の方が綺麗だ」
静室にくすっと笑い声が響く。
「いつから、含光君はそんな世辞が言えるようになったんだ?」
本気の言葉をそのままの意味で受け入れてもらえず、藍忘機は首を振った。
「魏嬰、世辞ではない」
「藍湛の方が綺麗だよ」
それこそ世辞ではないかと藍忘機は更に首を振る。
1024さっきまで腕の中で散々乱れていたのに、窓辺に立つ魏無羨は月の光を浴びて淡く輝きを放っていた。
かるく上着を羽織っただけのその姿は、気だるさと色香を漂わせ、簡単に藍忘機の理性を狂わせる。
ほかの誰も見たことのない魏無羨を藍忘機は無言で見つめていた。
「藍湛?」
黙って見つめてくる藍忘機に魏無羨は手を伸ばす。
手はすぐに藍忘機に掴まり指先に口づけられた。
「君の方が綺麗だ」
静室にくすっと笑い声が響く。
「いつから、含光君はそんな世辞が言えるようになったんだ?」
本気の言葉をそのままの意味で受け入れてもらえず、藍忘機は首を振った。
「魏嬰、世辞ではない」
「藍湛の方が綺麗だよ」
それこそ世辞ではないかと藍忘機は更に首を振る。
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DONE秋さる空が茜色に染まる刻限。
雲深不知処の門へと下る階段前で魏無羨と藍景儀はばったりと出会った。
「あれ?魏先輩、どちらに?」
もう門限まであと四半刻もない。これから街へ下りるなどありえず、藍景儀は尋ねた。
「藍湛と思追の迎えだよ」
「あ~、魏先輩もですか!」
1週間ぶりに藍忘機と藍思追が雲深不知処に帰ってくる。
仙督となった藍忘機は多忙を極め、あちらこちらへと飛んで回っており、そのお付きとして今回藍思追が同行したのだ。
「静室で待ってたけど、なかなか帰らないから出てきた。お前も?」
「そうです。俺も思追を寮で待っていたけどなかなか帰らないから」
「なら、一緒に行くか」
「はい!」
思わぬ同行者に魏無羨はクスッと笑うと、階段を下り始める。藍景儀も大人しく後ろをついてきた。
5945雲深不知処の門へと下る階段前で魏無羨と藍景儀はばったりと出会った。
「あれ?魏先輩、どちらに?」
もう門限まであと四半刻もない。これから街へ下りるなどありえず、藍景儀は尋ねた。
「藍湛と思追の迎えだよ」
「あ~、魏先輩もですか!」
1週間ぶりに藍忘機と藍思追が雲深不知処に帰ってくる。
仙督となった藍忘機は多忙を極め、あちらこちらへと飛んで回っており、そのお付きとして今回藍思追が同行したのだ。
「静室で待ってたけど、なかなか帰らないから出てきた。お前も?」
「そうです。俺も思追を寮で待っていたけどなかなか帰らないから」
「なら、一緒に行くか」
「はい!」
思わぬ同行者に魏無羨はクスッと笑うと、階段を下り始める。藍景儀も大人しく後ろをついてきた。
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DONE夏の終わり 師匠編「夏じゃないと入れないよな~」
弟子たちが去った後、靴を脱ぎ衣服を膝まで捲り上げた魏無羨は冷泉の端に腰掛けた。
その水の中に足を浸けると頭の先まで冷たさが走り、一気に体温が下がった気がする。
「冷た〰️!」
残暑と言えども暑さはまだ厳しく、弟子と夜狩りで動き回っていた魏無羨の額にはうっすらと汗が浮いていた。
だが、冷泉に足を浸けるやいなやその汗もどこかに消え去り、時間が経つにつれ逆に寒気を催す。
冷泉の冷たさに魏無羨が震えている横で、藍忘機は下履き1枚の姿になるとその身を冷泉に沈ませた。
その淡々とした動作に躊躇いはない。
昔、魏無羨は1度この冷泉に入ったことがあるが体を浸けるなど正気の沙汰じゃないと思っている。
1933弟子たちが去った後、靴を脱ぎ衣服を膝まで捲り上げた魏無羨は冷泉の端に腰掛けた。
その水の中に足を浸けると頭の先まで冷たさが走り、一気に体温が下がった気がする。
「冷た〰️!」
残暑と言えども暑さはまだ厳しく、弟子と夜狩りで動き回っていた魏無羨の額にはうっすらと汗が浮いていた。
だが、冷泉に足を浸けるやいなやその汗もどこかに消え去り、時間が経つにつれ逆に寒気を催す。
冷泉の冷たさに魏無羨が震えている横で、藍忘機は下履き1枚の姿になるとその身を冷泉に沈ませた。
その淡々とした動作に躊躇いはない。
昔、魏無羨は1度この冷泉に入ったことがあるが体を浸けるなど正気の沙汰じゃないと思っている。
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DONE夏の終わり今回の夜狩りはよく吹っ飛ばされ、姑蘇藍氏の若い弟子たちのほとんどの者が打ち身や切り傷だらけで満身創痍だった。
只今、沢蕪君から許可をもらい、冷泉に浸かっている最中である。
「イタタ……」
「冷たいね……」
冷たい水が、体にも心にも凍みる。
それを、冷泉の外から冷ややかに夷陵老祖が見下ろしていた。隣で苦笑しながら藍思追も。
「陣形が悪いからああなるんだ。もう少し考えてやらないと」
夷陵老祖は腕を組んで、竹にもたれながら人差し指を立てた。
「陣を組んで終わりじゃないんだぞ、特に大人数の場合は……」
「わかってますよ!」
藍景儀ががんばって反論する。
夷陵老祖・魏無羨は指先に念を込めるとピッと藍景儀に向かって投げた。
「あたっ!!」
2187只今、沢蕪君から許可をもらい、冷泉に浸かっている最中である。
「イタタ……」
「冷たいね……」
冷たい水が、体にも心にも凍みる。
それを、冷泉の外から冷ややかに夷陵老祖が見下ろしていた。隣で苦笑しながら藍思追も。
「陣形が悪いからああなるんだ。もう少し考えてやらないと」
夷陵老祖は腕を組んで、竹にもたれながら人差し指を立てた。
「陣を組んで終わりじゃないんだぞ、特に大人数の場合は……」
「わかってますよ!」
藍景儀ががんばって反論する。
夷陵老祖・魏無羨は指先に念を込めるとピッと藍景儀に向かって投げた。
「あたっ!!」
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DONE酔妃蓮「今日も空が青いな~……」
照りつける太陽を遮るように手を翳して魏無羨は空を見上げた。
「いつもの空だ、魏嬰」
同じように空を見上げた藍忘機は素っ気なく言う。
「藍湛……何でそんなに冷静なわけ?」
「君がどうしてそんなに緊張しているのかわからない」
魏無羨は隣で悠然としている藍忘機を恨めしげに見上げた。
雲夢から届いた蓮の花は、環境が違う土地に連れて来られたが、ストレスがないのか今日も綺麗な花を咲かせた。今のところ、枯れる心配はまだ無さそうだ。
さすが雲夢の蓮の花、なかなか図太いと藍忘機が思っていることは、魏無羨に内緒だ。
朝早くに花弁を広げる蓮の花は、早朝から動き始める者の目を楽しませていた。
寒室と執務室に置かれた蓮の鉢には、誰が入れたのかいつの間にか小魚が泳いでおり、蓮の花が閉じた後でも涼しげで1日の疲れを癒す。
10122照りつける太陽を遮るように手を翳して魏無羨は空を見上げた。
「いつもの空だ、魏嬰」
同じように空を見上げた藍忘機は素っ気なく言う。
「藍湛……何でそんなに冷静なわけ?」
「君がどうしてそんなに緊張しているのかわからない」
魏無羨は隣で悠然としている藍忘機を恨めしげに見上げた。
雲夢から届いた蓮の花は、環境が違う土地に連れて来られたが、ストレスがないのか今日も綺麗な花を咲かせた。今のところ、枯れる心配はまだ無さそうだ。
さすが雲夢の蓮の花、なかなか図太いと藍忘機が思っていることは、魏無羨に内緒だ。
朝早くに花弁を広げる蓮の花は、早朝から動き始める者の目を楽しませていた。
寒室と執務室に置かれた蓮の鉢には、誰が入れたのかいつの間にか小魚が泳いでおり、蓮の花が閉じた後でも涼しげで1日の疲れを癒す。
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DONE贈り物それが届いたのは、魏無羨が雲夢への旅を終えて1ヶ月後の事だった。
「うわあ、綺麗ですね!」
弟子の誰もが感嘆の声を上げる。
正午を回った時刻、昼食を取って寛いでいた所に届けられた物に皆の視線が注がれた。
直径が洗濯用の盥の大きさで深さが大人の膝丈の巨大な鉢からは、長い茎の先にある瑞々しい大きな緑の葉々と、やや閉じた蓮の花々が天に向かって伸びている。
「これが雲夢から!?」
受け取り主である魏無羨は、蓮の花が突然贈られてきたことに驚いた。
簡単には運べそうにない大きさとその重さ。
それを雲夢から姑蘇まで陸路で運ぶとなると、労力は半端ない。
片道だけだが、姑蘇から雲夢へ歩いた魏無羨はその大変さがわかる。
まして、開花時期の蓮の花だ。慎重に運んだところで途中で枯らしてしまう確率の方が高い。
3607「うわあ、綺麗ですね!」
弟子の誰もが感嘆の声を上げる。
正午を回った時刻、昼食を取って寛いでいた所に届けられた物に皆の視線が注がれた。
直径が洗濯用の盥の大きさで深さが大人の膝丈の巨大な鉢からは、長い茎の先にある瑞々しい大きな緑の葉々と、やや閉じた蓮の花々が天に向かって伸びている。
「これが雲夢から!?」
受け取り主である魏無羨は、蓮の花が突然贈られてきたことに驚いた。
簡単には運べそうにない大きさとその重さ。
それを雲夢から姑蘇まで陸路で運ぶとなると、労力は半端ない。
片道だけだが、姑蘇から雲夢へ歩いた魏無羨はその大変さがわかる。
まして、開花時期の蓮の花だ。慎重に運んだところで途中で枯らしてしまう確率の方が高い。
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DONEかたくなにおもう「なあ、藍湛」
書き物をしている藍忘機の横で頬杖をつき、藍忘機を見上げながら魏無羨は声をかけた。
「なんだ?」
低く落ち着いた声で藍忘機は答えるものの、書き物に集中している。
魏無羨は真剣に話を聞いていない相手にむっとした。
いつもよりも藍忘機が仕事から早く帰ってきたので、たまにはゆっくり話がしたいと思い、書き物が終わるのを待っていた。ーーが、藍忘機は終わらせる気配がない。
忙しいのはわかってる。居住している静室に仕事を持ち込むことが滅多になく珍しいことも。
だが、一緒の空間に居るのに何故か遠くに感じて寂しくなる。
そんなことを隣で考えてるなんて、この朴念仁は気づきもしないんだろうなあと、魏無羨は段々意地悪な気分になってきた。
2856書き物をしている藍忘機の横で頬杖をつき、藍忘機を見上げながら魏無羨は声をかけた。
「なんだ?」
低く落ち着いた声で藍忘機は答えるものの、書き物に集中している。
魏無羨は真剣に話を聞いていない相手にむっとした。
いつもよりも藍忘機が仕事から早く帰ってきたので、たまにはゆっくり話がしたいと思い、書き物が終わるのを待っていた。ーーが、藍忘機は終わらせる気配がない。
忙しいのはわかってる。居住している静室に仕事を持ち込むことが滅多になく珍しいことも。
だが、一緒の空間に居るのに何故か遠くに感じて寂しくなる。
そんなことを隣で考えてるなんて、この朴念仁は気づきもしないんだろうなあと、魏無羨は段々意地悪な気分になってきた。
だみぃにゃん
SPUR MEなかなか進まないのでとりあえず🤤景儀と阿願の出会い編
景儀と阿願と羨羨藍景儀はその日、朝から緊張に体を固くしていた。
父上に手を引かれ、来年から座学を教えてもらう藍先生へ挨拶へ行く。
普段、大変元気の良い少年である彼は、今日は黙って大人しく付いてくること、藍先生は非常に厳しい方だからしっかり挨拶をし礼儀正しく振る舞うこと、そして決して傍を離れないようにと言い含められていた。
そうしてやってきた室で相対したのは、にこにこと穏やかな空気をまとった宗主と、その隣で鋭い目を向けてくる藍先生。
目線に竦みつつも、先生が撫でつける度よんよんと揺れるお鬚に釘付けになっていると父上に肩を小突かれた。
慌てて、教えられた通りに拱手する。
「藍宗主、藍先生に藍景儀がご挨拶申し上げます。」
噛まずに言えたし、なかなか上手く出来たんじゃないだろうか。
635父上に手を引かれ、来年から座学を教えてもらう藍先生へ挨拶へ行く。
普段、大変元気の良い少年である彼は、今日は黙って大人しく付いてくること、藍先生は非常に厳しい方だからしっかり挨拶をし礼儀正しく振る舞うこと、そして決して傍を離れないようにと言い含められていた。
そうしてやってきた室で相対したのは、にこにこと穏やかな空気をまとった宗主と、その隣で鋭い目を向けてくる藍先生。
目線に竦みつつも、先生が撫でつける度よんよんと揺れるお鬚に釘付けになっていると父上に肩を小突かれた。
慌てて、教えられた通りに拱手する。
「藍宗主、藍先生に藍景儀がご挨拶申し上げます。」
噛まずに言えたし、なかなか上手く出来たんじゃないだろうか。
ちょりりん万箱
DONE叶わぬ夢「んー?」
「どうされたのですか?魏先輩」
夜狩りの際に使う招陰旗と呪符の作成を皆で集まり作っている最中に、本来なら指導してくれる魏無羨が筆を片手に唸っている。
呪符が書けないのか?と思いながら姑蘇藍氏の弟子たちがその手元を覗くと、白い紙に人の顔や姿が描かれては、墨で消されていた。
「どんなのを描けばいいのかわからん」
「なにを描かれるんです?」
魏無羨が絵を描いている所などいままで見たことがなく、誰もが驚いた。
「美人画を、ね」
「美人画!?」
絵を描くことでさえ驚いたのに、それも美人画!?
「魏先輩、どうしてそんなことを?」
「清河聶氏の聶宗主から、頼まれた」
「聶宗主から?」
「ほら、あいつ、美術品に目がないだろ?何でも聶家お抱えの絵師で美人画集をつくることになったらしく、俺にも描かないかって」
6780「どうされたのですか?魏先輩」
夜狩りの際に使う招陰旗と呪符の作成を皆で集まり作っている最中に、本来なら指導してくれる魏無羨が筆を片手に唸っている。
呪符が書けないのか?と思いながら姑蘇藍氏の弟子たちがその手元を覗くと、白い紙に人の顔や姿が描かれては、墨で消されていた。
「どんなのを描けばいいのかわからん」
「なにを描かれるんです?」
魏無羨が絵を描いている所などいままで見たことがなく、誰もが驚いた。
「美人画を、ね」
「美人画!?」
絵を描くことでさえ驚いたのに、それも美人画!?
「魏先輩、どうしてそんなことを?」
「清河聶氏の聶宗主から、頼まれた」
「聶宗主から?」
「ほら、あいつ、美術品に目がないだろ?何でも聶家お抱えの絵師で美人画集をつくることになったらしく、俺にも描かないかって」
ちょりりん万箱
DONE記念すべき魔道祖師小説1弾白い衣季節が変わり、またあの時期が近づいてきた。
年に一度、姑蘇藍氏で開かれる仙家世家の子弟を集めた座学である。
姑蘇藍氏の座学は習得すれば修師としての格が上がると世間では認識されていた。
それ故毎年、参加したい者、参加させたい親は後を断たない。
藍啓仁が行う座学は元々、世家を対象に行っていたが、それ以外からの参加希望の声が多く、ならばと広く募集したところ多くの参加希望者が名乗りを上げた。
ただ人数にも限りがあり、各仙家からの推薦と同時に学科試験を行い、毎年の参加者を決めていた。
ところが、今年は恐ろしい確率に跳ね上がった。
理由は明白で、姑蘇藍氏の第二公子の藍忘機が仙督になったからである。
権力に阿るのは人の常で、これを機会に姑蘇藍氏と強いて言えば藍忘機との繋がりを持ちたいと考える輩がこぞって押し寄せた。
3897年に一度、姑蘇藍氏で開かれる仙家世家の子弟を集めた座学である。
姑蘇藍氏の座学は習得すれば修師としての格が上がると世間では認識されていた。
それ故毎年、参加したい者、参加させたい親は後を断たない。
藍啓仁が行う座学は元々、世家を対象に行っていたが、それ以外からの参加希望の声が多く、ならばと広く募集したところ多くの参加希望者が名乗りを上げた。
ただ人数にも限りがあり、各仙家からの推薦と同時に学科試験を行い、毎年の参加者を決めていた。
ところが、今年は恐ろしい確率に跳ね上がった。
理由は明白で、姑蘇藍氏の第二公子の藍忘機が仙督になったからである。
権力に阿るのは人の常で、これを機会に姑蘇藍氏と強いて言えば藍忘機との繋がりを持ちたいと考える輩がこぞって押し寄せた。
kirari_world
PAST香炉幻影webアンソロイラスト2枚です。過去絵ですみません。
乱葬崗に通い夫してくる含光君と、噛み癖のある夷陵老祖in夷陵の宿屋。と、
老祖様、姑蘇に隠されend後、あまりにも故郷を恋しがるので、こっそり雲夢に連れてきてもらった魏嬰。です 2
guchiko
DONE初漫画。ネタバレあり。藍湛が暴走魏嬰連れ去って、33人の藍家の先達に重傷を負わせて撤退させたあとの妄想漫画。
この時、魏嬰はずっと「失せろ」と繰り返してたけど、どうやって止めたのか。っていう妄想。
巨大な石の顔
SPUR MEサンサーラシリーズ番外編。蛍にまつわる藍兄弟の思い出話。またしても兄上と江澄はでてきません。CP要素は忘羨だけになります。竹箒 年若い蘭陵金氏の宗主が、蛍の群れを未だかつて見たことがないというので、その日の夜は急遽夜狩りではなく蛍狩りに変更になった。
金宗主はこの春から雲深不知処の座学に参加していた。義理の甥は、魏無羨がたまに彩衣鎮の料理屋などまで外へ食事に連れ出してやっているからか、はたまた気の置けない友人たちと同じ宿坊だからか、「金麟台へ帰りたい」と根をあげることもなく寺のように規律の厳しいここの生活になじんでいた。唯一の気がかりは金麟台に残してきた飼い犬の仙子だそうだが、時折江澄が見舞って文で仙子の様子を教えてくれるそうだ。その話を聞いたとき、様子見とかこつけてここぞとばかりに大好きな犬を触りに行っているのだろうと魏無羨は頬がゆるむやら歪むやら大変だった。
4656金宗主はこの春から雲深不知処の座学に参加していた。義理の甥は、魏無羨がたまに彩衣鎮の料理屋などまで外へ食事に連れ出してやっているからか、はたまた気の置けない友人たちと同じ宿坊だからか、「金麟台へ帰りたい」と根をあげることもなく寺のように規律の厳しいここの生活になじんでいた。唯一の気がかりは金麟台に残してきた飼い犬の仙子だそうだが、時折江澄が見舞って文で仙子の様子を教えてくれるそうだ。その話を聞いたとき、様子見とかこつけてここぞとばかりに大好きな犬を触りに行っているのだろうと魏無羨は頬がゆるむやら歪むやら大変だった。
巨大な石の顔
SPUR MEサンサーラシリーズ番外編。蛍にまつわる叔父上の思い出話。藍パパを捏造しています。時系列的には兄上はまだ閉関しています。CP要素なし。蛍火 藍家の二の公子が、読んでいた本を閉じてそろそろ寝ようとしていたとき。彼の居室に二つ年上の兄がやってきた。
兄は人好きのする穏やかな微笑みとともに竹でできた虫籠を弟に向けて掲げた。中では小さな黒い虫が二匹、小さくて狭い床に這っていた。
兄が剣胼胝のできた指で籠の小さな扉を開けると、部屋の明かりもふっと消えた。
すると、籠から二つのとても小さな光がおそるおそる飛んだ。ここはどこだろうと戸惑っているかのようだ。それから光は暗い部屋の中をさまようかのように不安定に飛んだ。
二の公子は、落ち着かないように飛んでいる光のそばに手のひらを差し出す。優美な仕草だが彼の手にも武骨な剣胼胝はできている。
すると光は暗闇に浮かぶ白い手にすっと音もなく止まった。闇色の羽を持った小さな虫は、手のひらの上で緑がかった黄色い光を尾から放った。息を吸って吐くかのように、人の魂魄よりも明るく強い光は二の公子の手のひらで何度も瞬いた。
2148兄は人好きのする穏やかな微笑みとともに竹でできた虫籠を弟に向けて掲げた。中では小さな黒い虫が二匹、小さくて狭い床に這っていた。
兄が剣胼胝のできた指で籠の小さな扉を開けると、部屋の明かりもふっと消えた。
すると、籠から二つのとても小さな光がおそるおそる飛んだ。ここはどこだろうと戸惑っているかのようだ。それから光は暗い部屋の中をさまようかのように不安定に飛んだ。
二の公子は、落ち着かないように飛んでいる光のそばに手のひらを差し出す。優美な仕草だが彼の手にも武骨な剣胼胝はできている。
すると光は暗闇に浮かぶ白い手にすっと音もなく止まった。闇色の羽を持った小さな虫は、手のひらの上で緑がかった黄色い光を尾から放った。息を吸って吐くかのように、人の魂魄よりも明るく強い光は二の公子の手のひらで何度も瞬いた。
guchiko
MOURNINGリスイン限定版。「魏嬰の育乳生活」で魏嬰が藍湛に送った画像。
藍湛になり切って、見てください。
NG忘機ないバージョン
pixiv
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17775964
ポイピク
https://poipiku.com/2398218/6502839.html 3
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。オリキャラ視点の話。原作にはない捏造たくさん。ここから鬱展開のトンネルに入ります。明知不可而為之(五) 新年を迎える準備で江湖はそろそろ浮足立ち始めた。
一時ふしぎと増えていた妖魔鬼怪は降雪をさかいに季節の廻りに従ったのか激減した。領地の陳情も減って蓮花塢では久しぶりにゆったりとした時間が流れていた。若い門弟たちは鍛錬に力を入れているか遠方に実家があるものは帰省を始めている。
そんな中、白蓮蓮は崖の間に通した一本の綱の上でも歩かされているかのように神経を張りつめていた。
姉の白鳳梨(フォンリー)から店で師兄たちが師父と沢蕪君の仲を噂していたと聞いたからだ。姉によれば決してお二人の仲を歓迎している雰囲気ではなかったらしい。
お二人の仲が門弟の間で広まったらどうしようとそわそわしながら、蓮花塢内の様子を少女はこの一月ばかりこっそりうかがっていた。今のところは二人の関係について食客や門弟たちが下世話に噂し合っている様子はなかった。
14798一時ふしぎと増えていた妖魔鬼怪は降雪をさかいに季節の廻りに従ったのか激減した。領地の陳情も減って蓮花塢では久しぶりにゆったりとした時間が流れていた。若い門弟たちは鍛錬に力を入れているか遠方に実家があるものは帰省を始めている。
そんな中、白蓮蓮は崖の間に通した一本の綱の上でも歩かされているかのように神経を張りつめていた。
姉の白鳳梨(フォンリー)から店で師兄たちが師父と沢蕪君の仲を噂していたと聞いたからだ。姉によれば決してお二人の仲を歓迎している雰囲気ではなかったらしい。
お二人の仲が門弟の間で広まったらどうしようとそわそわしながら、蓮花塢内の様子を少女はこの一月ばかりこっそりうかがっていた。今のところは二人の関係について食客や門弟たちが下世話に噂し合っている様子はなかった。
ship_hoko
DONE #MDZS交流会6_白兎#MDZS交流会6_黒兎
女体化魏無羨Webアンソロ企画
初アンソロジーは、にょたで出発します!!よろしくお願いします!!!
※女体化しております。苦手な方はご遠慮ください。
※パスワードは企画HPに記載されています。
はるもん🌸
MOURNING怒らせたい魏嬰とビビる思追【藍思追の心配】魏無羨が弟子数人に集まれと言ったくせに、本人が遅刻する時がある。
そんな時、静室にいる魏無羨を呼ぶのはいつも藍思追の役目となっていた。『魏先輩、迎えにきました』と声を出そうとしたその時だ。
「ああ、悪かった藍湛!もうしない、しないったら許せ!」
「いつも口ばかり。全く反省がない」
今日もやっている、と藍思追は片手で顔を覆った。
「ほらほらそんなに怒るな、藍思追がそこまで来てるんだ。今日の所はひとまず許してくれ、頼むよ」
気配だけで自分の居場所を察知したのかと藍思追は驚く。
****
弟子達が待つ場所へと魏無羨を連れていく際、今度は何を含光君にしでかしたのかを聞いてみた。
すると、魏無羨はいつものようにヘラリと笑って「大人の秘密だ」と言ってごまかすのだ。藍思追はそこまで大人の事情に詳しくはなかった。
992そんな時、静室にいる魏無羨を呼ぶのはいつも藍思追の役目となっていた。『魏先輩、迎えにきました』と声を出そうとしたその時だ。
「ああ、悪かった藍湛!もうしない、しないったら許せ!」
「いつも口ばかり。全く反省がない」
今日もやっている、と藍思追は片手で顔を覆った。
「ほらほらそんなに怒るな、藍思追がそこまで来てるんだ。今日の所はひとまず許してくれ、頼むよ」
気配だけで自分の居場所を察知したのかと藍思追は驚く。
****
弟子達が待つ場所へと魏無羨を連れていく際、今度は何を含光君にしでかしたのかを聞いてみた。
すると、魏無羨はいつものようにヘラリと笑って「大人の秘密だ」と言ってごまかすのだ。藍思追はそこまで大人の事情に詳しくはなかった。
巨大な石の顔
MEMO今日中国語教室で中国人の先生から聞いた衝撃的な現代中国の大学入試事情について記します。魔道祖師でどうしてあんな壮絶な身分社会が描かれているのかおぼろげながら理解できた話だったので魔道祖師沼の方にシェアしたい思います。
注意点として、私の聞き間違いや勘違いも十分あるので、あくまで信憑性はうわさ話程度に留めてくださると幸いです。
現代中国の大学入試事情今日は中国で日本でいうセンター試験、考高がありました。
中国の大学入試はこのセンター試験だけ。二次試験はありません。
人口のこと考えるとそうなるよなと思います。去年は1100万人が受験。
自己採点して三つの希望の大学に申し込めるそうです。上から一流二流三流の大学。一流に落ちたら即二流の大学行きに、そして大学に入れなかったら即ブルーワーカーで一生低賃金の未来になってしまうそうです。大学に行ってない日本の職人さんは車や家買えてるけど中国は買えない様子です。
お子さんの受験の応援に当たってお母さんが勝利を意味する赤い色のチャイナドレスを着る習慣があるとか。
微笑ましい習慣ですが、入試でほぼ自分の社会階層が決まってしまうのかと震えあがりました。
1256中国の大学入試はこのセンター試験だけ。二次試験はありません。
人口のこと考えるとそうなるよなと思います。去年は1100万人が受験。
自己採点して三つの希望の大学に申し込めるそうです。上から一流二流三流の大学。一流に落ちたら即二流の大学行きに、そして大学に入れなかったら即ブルーワーカーで一生低賃金の未来になってしまうそうです。大学に行ってない日本の職人さんは車や家買えてるけど中国は買えない様子です。
お子さんの受験の応援に当たってお母さんが勝利を意味する赤い色のチャイナドレスを着る習慣があるとか。
微笑ましい習慣ですが、入試でほぼ自分の社会階層が決まってしまうのかと震えあがりました。
巨大な石の顔
SPUR MEサンサーラシリーズ番外編。明知不可而為之(四)のつづきになりますが本編とするには短い話。うちの江澄もなかなか兄上を振り回しています。寒室の夜 寒室へ入ると、それまで誰もいなかったそこは外よりも冷たかった。
藍渙は江澄を抱きしめてきた。彼の体臭である花のように甘い香りが鼻をくすぐる。
このまま情事にもつれこむのだろうかと半ば覚悟するかのように江澄は瞳を閉じていたが一向に唇は合わされなかった。
「君は私に体を委ねても心は見せてくれない」
目を開ければ藍渙はみるからに悲しそうな表情を浮かべていた。顔の造りは違うのに、その表情はさきほど見かけた藍啓仁とよく似ている。
彼は江澄をまたしても詰ってきたわけではない。夜空のように深い色の瞳には手で雪をすくって溶けてしまうのを止めたくても止められないかのようなあきらめが浮かんでいた。
かつて父にお前は家訓をわかっていないと首を振られたときのように、江澄は胸が千々に乱れる思いがした。
2012藍渙は江澄を抱きしめてきた。彼の体臭である花のように甘い香りが鼻をくすぐる。
このまま情事にもつれこむのだろうかと半ば覚悟するかのように江澄は瞳を閉じていたが一向に唇は合わされなかった。
「君は私に体を委ねても心は見せてくれない」
目を開ければ藍渙はみるからに悲しそうな表情を浮かべていた。顔の造りは違うのに、その表情はさきほど見かけた藍啓仁とよく似ている。
彼は江澄をまたしても詰ってきたわけではない。夜空のように深い色の瞳には手で雪をすくって溶けてしまうのを止めたくても止められないかのようなあきらめが浮かんでいた。
かつて父にお前は家訓をわかっていないと首を振られたときのように、江澄は胸が千々に乱れる思いがした。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。モブ門弟たち視点の兄上と江澄の話です。明知不可而為之(三.五) 旗未動、風也未動、是人的心自己在動
(旗未だ動かず風また未だ吹かず。揺らぐは人の心なり)
――映画『楽園の瑕』より
五年ほど前に金魔と呼ばれる肺の病が蓮花塢周辺で猛威を振るって以来、雲夢江氏では家宴の習わしは途絶えた。
以前より他の世家との交流が増え、他家で開かれる家宴のにぎやかな様子を小耳にはさむようになったこともあり多くの門弟たちは再開を望むものの、うちの宗主様は大変厳しい人で再び未知の疫病が発生したときのために備えを徹底していて、なかなか言い出しづらい。
金魔の拡大で蓮花塢を閉鎖中は家宴どころか、『食うに語らず』と姑蘇藍氏のように黙食を誰もが求められた。あのときに比べればまだましだ、と幼い頃匂いにつられ修練場の塀をよじ登って眺めた美味しそうな料理にあふれた家宴に憧れ雲夢江氏の門前に立った門弟たちは悔し涙を飲み込む。
10706(旗未だ動かず風また未だ吹かず。揺らぐは人の心なり)
――映画『楽園の瑕』より
五年ほど前に金魔と呼ばれる肺の病が蓮花塢周辺で猛威を振るって以来、雲夢江氏では家宴の習わしは途絶えた。
以前より他の世家との交流が増え、他家で開かれる家宴のにぎやかな様子を小耳にはさむようになったこともあり多くの門弟たちは再開を望むものの、うちの宗主様は大変厳しい人で再び未知の疫病が発生したときのために備えを徹底していて、なかなか言い出しづらい。
金魔の拡大で蓮花塢を閉鎖中は家宴どころか、『食うに語らず』と姑蘇藍氏のように黙食を誰もが求められた。あのときに比べればまだましだ、と幼い頃匂いにつられ修練場の塀をよじ登って眺めた美味しそうな料理にあふれた家宴に憧れ雲夢江氏の門前に立った門弟たちは悔し涙を飲み込む。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。とうとう兄上と江澄がキスするお話。明知不可而為之(二) 藍宗主が閉関を解いてからときは少し進み、雲深不知処で何年かぶりに清談会が開かれた。当主の誕生日も近くその復帰祝いもかねていたので、暗黙の了解として常よりも仙門百家の人々は着飾って参加していた。
人々が驚いたのは、雲夢江氏宗主が会場へ現れたときである。金凌のように日ごろの厳格な江宗主をよく知る人物ほど今日の彼をみて顎が落ちそうになった。
今宵の江宗主は、普段結い上げている髪をしどけなく下ろし蓮の形をした銀の髪冠をつけ、動きやすさを重視した校服から袖も大きくゆったりとした優美な上衣に袖を通していた。色は夕暮れにかかる雲のような薄紫色で、合わせの隙間から宵闇のような黒い裳裾をなびかせている。人を寄せ付けないとげとげしい雰囲気も眉間に寄せる深い皺も今日は消え、衣に合わせた扇子を片手ににこやかに愛嬌をふりまいていた。
14755人々が驚いたのは、雲夢江氏宗主が会場へ現れたときである。金凌のように日ごろの厳格な江宗主をよく知る人物ほど今日の彼をみて顎が落ちそうになった。
今宵の江宗主は、普段結い上げている髪をしどけなく下ろし蓮の形をした銀の髪冠をつけ、動きやすさを重視した校服から袖も大きくゆったりとした優美な上衣に袖を通していた。色は夕暮れにかかる雲のような薄紫色で、合わせの隙間から宵闇のような黒い裳裾をなびかせている。人を寄せ付けないとげとげしい雰囲気も眉間に寄せる深い皺も今日は消え、衣に合わせた扇子を片手ににこやかに愛嬌をふりまいていた。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。江澄の姿絵をめぐる魏無羨視点の話。ほんのり忘羨があります。明知不可而為之(一.五) 暦の上で夏が終わろうとしていたとき、山深い雲深不知処へ秋はとっくに訪れていた。
月は叢雲に隠れた暗闇で鈴虫が涼やかに鳴いている。それがより一層この人里離れた仙境の静寂を引き立てていた。
宿坊の一室でろうそくに火を灯して少年たち三人は膝を突き合わせていた。就寝時間である亥の刻はとうに過ぎていた。
「お前たち、外叔父上と沢蕪君の続報を知りたいか?」
得意そうな金凌を前に、小双璧はごくりと喉を鳴らした。静粛とした仙境に似つかわしくない下世話な話を彼らは始めようとしていた。
姑蘇藍氏の領地で合同の夜狩りを終えた金宗主は、客坊へはいかずに座学のときのように彼らの部屋に滞在するのがここ最近の彼の習慣だ。金凌にとって時折夜狩りは目的というよりも雲深不知処へ泊まる口実になっている。仙子は雲深不知処にいる犬嫌いの住人のために今宵は金麟台でお留守番だ。
5175月は叢雲に隠れた暗闇で鈴虫が涼やかに鳴いている。それがより一層この人里離れた仙境の静寂を引き立てていた。
宿坊の一室でろうそくに火を灯して少年たち三人は膝を突き合わせていた。就寝時間である亥の刻はとうに過ぎていた。
「お前たち、外叔父上と沢蕪君の続報を知りたいか?」
得意そうな金凌を前に、小双璧はごくりと喉を鳴らした。静粛とした仙境に似つかわしくない下世話な話を彼らは始めようとしていた。
姑蘇藍氏の領地で合同の夜狩りを終えた金宗主は、客坊へはいかずに座学のときのように彼らの部屋に滞在するのがここ最近の彼の習慣だ。金凌にとって時折夜狩りは目的というよりも雲深不知処へ泊まる口実になっている。仙子は雲深不知処にいる犬嫌いの住人のために今宵は金麟台でお留守番だ。
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第三章。兄上と江澄がキスしそこなった話。明知不可而為之(一) いちばんになりたかった。
あいつに勝ちたかった。
誰よりも強く秀でていたかった。
ちがう、ちがう。
いちばんになって俺は褒められたかった。
さすが次期宗主だ、自慢の息子だって。
愛されたかった、父さんと母さんに。
庭に侵入者がいると思えば、それは江澄が幼い頃から気にかけている少女だった。彼女は向前看(シャンティエンカン。前を向いていこうという意味)という明るい名前のーー前(ティエン)を銭(ティエン)、尚銭看(お金に目をむけていこう)と実はかけているのではないかと江澄が疑っているーー霊剣へ今にも飛び乗ろうとしていた。
「小蓮!」
少女を見つけるなり呼び止めた。
「雲夢へ帰ったんじゃなかったのか。なぜこんな夜更けにまた金麟台にいる?」
12967あいつに勝ちたかった。
誰よりも強く秀でていたかった。
ちがう、ちがう。
いちばんになって俺は褒められたかった。
さすが次期宗主だ、自慢の息子だって。
愛されたかった、父さんと母さんに。
庭に侵入者がいると思えば、それは江澄が幼い頃から気にかけている少女だった。彼女は向前看(シャンティエンカン。前を向いていこうという意味)という明るい名前のーー前(ティエン)を銭(ティエン)、尚銭看(お金に目をむけていこう)と実はかけているのではないかと江澄が疑っているーー霊剣へ今にも飛び乗ろうとしていた。
「小蓮!」
少女を見つけるなり呼び止めた。
「雲夢へ帰ったんじゃなかったのか。なぜこんな夜更けにまた金麟台にいる?」
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ第二章。兄上が夢から醒めて江澄のために生きることを決意するお話。酔生夢死 月は眉のように細く無数の星が瞬いている夜だった。
雲夢江氏の若い門弟は、戌の刻が終わろうとしているときある高貴な絵師が滞在している金麟台の部屋へやってきた。
大きく燃え上がるろうそくの明かりに少女の満面の笑顔を浮かびあがる。
「白木蓮殿、これがこたびの姿絵の報酬にございます」
江澄の弟子である白蓮蓮が、腰ひもから卓の上にぱんぱんに膨らんだ小さな革袋を恭しくおくなり、じゃらじゃらと特定の貨幣がこすれあう音がおびただしく聞こえた。
その音からおそらくは庶民であれば数か月余裕をもって暮らせるほどの金子が入っていることに藍曦臣は気付いて目を丸くした。たった二枚の姿絵にこんな大金をなぜ。
「こんなにかい?」
8139雲夢江氏の若い門弟は、戌の刻が終わろうとしているときある高貴な絵師が滞在している金麟台の部屋へやってきた。
大きく燃え上がるろうそくの明かりに少女の満面の笑顔を浮かびあがる。
「白木蓮殿、これがこたびの姿絵の報酬にございます」
江澄の弟子である白蓮蓮が、腰ひもから卓の上にぱんぱんに膨らんだ小さな革袋を恭しくおくなり、じゃらじゃらと特定の貨幣がこすれあう音がおびただしく聞こえた。
その音からおそらくは庶民であれば数か月余裕をもって暮らせるほどの金子が入っていることに藍曦臣は気付いて目を丸くした。たった二枚の姿絵にこんな大金をなぜ。
「こんなにかい?」
巨大な石の顔
DONEサンサーラシリーズ番外編。オリキャラに私の江澄への愛を叫ばせている話。時系列は天人五衰の五と六の間です。師父の姿絵「残忍」「気性が荒い」「人の話を聞かない独裁者」「しょっちゅう機嫌が悪くてうっぷん晴らしに子弟を殴っている」「六芸の大会で優勝しなかったら子弟は鞭打ちの刑に処される」「いつも人を貶してばかりでほめることはない」「夷陵老祖が憎くて鬼道を使ったやつをひっ捕まえて殺している」「自分が殺したくせに、気が触れて夷陵老祖は死んでないと思い込んでいる」「よみがえって復讐されるのが怖いから血眼になって探している」「温姓というだけで陳情に言っても門前払いだった」「庶民が困っていてもまったく助けてくれない」「血も涙もない鬼だ」「あんな冷酷でまわりをみていない宗主じゃ雲夢はもうだめだ。江楓眠さまのときが懐かしい」
蓮花塢そばの町の大人たちは酔えば二言目には江宗主のことを悪く言う。
11526蓮花塢そばの町の大人たちは酔えば二言目には江宗主のことを悪く言う。