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DONE初詣いちうり1/1玄関を開けると、キンと冷えきった今年初めての外の空気が頬を掠めていった。
やっぱり、出たくないな。
コートを羽織ってマフラーで口元を隠して、手袋もして、イヤーマフもつけたのに一歩を踏み出せずにいると、先に出ていた黒崎が朝の光の中、振り向いた。
「ほら、石田。早く行こうぜ」
新年の、朝だ。
初詣に行こうと言ったのは黒崎だった。
黒崎と会ってからはなんだかんだとお正月は初詣に行っている。いつもの友人たちと一緒のこともあったし、黒崎の家族と一緒のこともあった。ふたりで暮らしはじめて住む場所も環境も変わったとはいえ、身に付いた習慣はそうそう変わらないものだ。
今年もきっと行くのだろう、と予定を入れていなかった僕は当たり前に頷いた。
2124やっぱり、出たくないな。
コートを羽織ってマフラーで口元を隠して、手袋もして、イヤーマフもつけたのに一歩を踏み出せずにいると、先に出ていた黒崎が朝の光の中、振り向いた。
「ほら、石田。早く行こうぜ」
新年の、朝だ。
初詣に行こうと言ったのは黒崎だった。
黒崎と会ってからはなんだかんだとお正月は初詣に行っている。いつもの友人たちと一緒のこともあったし、黒崎の家族と一緒のこともあった。ふたりで暮らしはじめて住む場所も環境も変わったとはいえ、身に付いた習慣はそうそう変わらないものだ。
今年もきっと行くのだろう、と予定を入れていなかった僕は当たり前に頷いた。
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MOURNING天使いしだくん天使を拾った。
しんと冷え切った冬の朝。
前日の夜から朝方にかけて降った、まだ誰にも汚されていない真っ白な雪の中、俺の家の前にそれは落ちていた。
「……酔っ払い……か?」
季節外れのというべきか、真っ白な布を一枚巻き付けたような服。そういう服なのか、うつ伏せに倒れたその背中に布地はない。だがその代わりに、真っ白な鳥のような羽根がついていた。
飲み会の帰りに行き倒れたのだろうか。
「あの、大丈夫ですか?」
この寒さでこの格好だ。
放置するのも忍びなく、露出している細い肩をゆする。その肌は不安になるほど冷たかった。
だがそれよりも、とんでもないことに気が付いてしまった。
「……ついてんな?」
羽根は、肩から背負っているものだと思っていた。しかし実際にはそこにあるはずのショルダーストラップはなく、よくよく見れば肩甲骨のあたりからごく自然に羽根が生えているようにみえる。
3421しんと冷え切った冬の朝。
前日の夜から朝方にかけて降った、まだ誰にも汚されていない真っ白な雪の中、俺の家の前にそれは落ちていた。
「……酔っ払い……か?」
季節外れのというべきか、真っ白な布を一枚巻き付けたような服。そういう服なのか、うつ伏せに倒れたその背中に布地はない。だがその代わりに、真っ白な鳥のような羽根がついていた。
飲み会の帰りに行き倒れたのだろうか。
「あの、大丈夫ですか?」
この寒さでこの格好だ。
放置するのも忍びなく、露出している細い肩をゆする。その肌は不安になるほど冷たかった。
だがそれよりも、とんでもないことに気が付いてしまった。
「……ついてんな?」
羽根は、肩から背負っているものだと思っていた。しかし実際にはそこにあるはずのショルダーストラップはなく、よくよく見れば肩甲骨のあたりからごく自然に羽根が生えているようにみえる。
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DONE🍫2/14その日、空座第一高校はどこかそわそわした雰囲気が漂っていた。
「あー、わり」
それは雨竜も例外ではなく、いつもより遅くなってしまった登校に、速足で下足室に入ると、途端にそんな声が耳に入ってきた。聞き慣れたその声に、思わず足を止める。室内に入ったといえど開けっ放しのドアからは冷たい風が入ってきていて、マフラーを口元まであげた。
「今年はそーいうのナシ」
「えっ」
声の主は、一護と啓吾だ。
なんとなく出ていくのが憚られてそっと様子を伺えば、どうやら啓吾が買ってきたチョコレートを一護に渡そうとしていたところだったらしい。コンビニでも売っている個包装になっているよくあるチョコだ。
「別にチョコいっこくらいいーだろ。他のやつにやれば」
4030「あー、わり」
それは雨竜も例外ではなく、いつもより遅くなってしまった登校に、速足で下足室に入ると、途端にそんな声が耳に入ってきた。聞き慣れたその声に、思わず足を止める。室内に入ったといえど開けっ放しのドアからは冷たい風が入ってきていて、マフラーを口元まであげた。
「今年はそーいうのナシ」
「えっ」
声の主は、一護と啓吾だ。
なんとなく出ていくのが憚られてそっと様子を伺えば、どうやら啓吾が買ってきたチョコレートを一護に渡そうとしていたところだったらしい。コンビニでも売っている個包装になっているよくあるチョコだ。
「別にチョコいっこくらいいーだろ。他のやつにやれば」
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DONE秋の日いちうり(同棲中)life「……あ」
それは、秋の夜の肌寒さに負けるように入ってしまったコンビニでのことだ。
―わり、ゼミが長引いてるから先帰っててくれ―
そんなメッセージが届いたのはつい先ほどのこと。そもそも取っている授業が違うのだから、一緒に帰る必要もないのだ。どうせ帰る場所は同じだし、今日は行きつけのスーパーが安い日なわけでもない。相変わらず律儀だな、と思いながら雨竜は「了解」と簡単に返事をして携帯をしまった。
ひとりで帰るのは久々で、まっすぐ帰るつもりだったのにアパートの近くにあるコンビニに、習慣のように入ってしまった。一護はいつも、このコンビニであれやこれやとお菓子を買うのだ。
雨竜にお菓子を買うつもりはなく、ただ入ってすぐに出るのもおかしな気がしたのでぐるりと回って見る。店内はすっかり秋限定の商品が並んでいる。
2147それは、秋の夜の肌寒さに負けるように入ってしまったコンビニでのことだ。
―わり、ゼミが長引いてるから先帰っててくれ―
そんなメッセージが届いたのはつい先ほどのこと。そもそも取っている授業が違うのだから、一緒に帰る必要もないのだ。どうせ帰る場所は同じだし、今日は行きつけのスーパーが安い日なわけでもない。相変わらず律儀だな、と思いながら雨竜は「了解」と簡単に返事をして携帯をしまった。
ひとりで帰るのは久々で、まっすぐ帰るつもりだったのにアパートの近くにあるコンビニに、習慣のように入ってしまった。一護はいつも、このコンビニであれやこれやとお菓子を買うのだ。
雨竜にお菓子を買うつもりはなく、ただ入ってすぐに出るのもおかしな気がしたのでぐるりと回って見る。店内はすっかり秋限定の商品が並んでいる。
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MOURNING冬コミ行けなかったSSFlutter 困ったことになった。
夜の繁華街の路地裏。
目の前の、やたら縫製の悪い、黒崎曰く「流行り」の服を着た大学生らしき三人を見て、僕はごくごく冷静にそんなことを考えた。
右の男はまるでキノコみたいな重めの黒髪だ。街中に結構いる髪型だから流行りなんだろう。
左の男は、上下ベージュの色合いの服だ。シルエットが悪くて、なんだか作業着みたいに見える。
中央の男のジャージの袖口の糸はほつれている。きちんと処理をしていないからこんな風に糸が出てきてしまうのだ。気になってしまって直したい。提案したらさせてくれるだろうか。
「いーじゃん。ちょっとその辺のお店入るだけだって」
ジャージが袖口も気にせず、へらりと笑った。
5021夜の繁華街の路地裏。
目の前の、やたら縫製の悪い、黒崎曰く「流行り」の服を着た大学生らしき三人を見て、僕はごくごく冷静にそんなことを考えた。
右の男はまるでキノコみたいな重めの黒髪だ。街中に結構いる髪型だから流行りなんだろう。
左の男は、上下ベージュの色合いの服だ。シルエットが悪くて、なんだか作業着みたいに見える。
中央の男のジャージの袖口の糸はほつれている。きちんと処理をしていないからこんな風に糸が出てきてしまうのだ。気になってしまって直したい。提案したらさせてくれるだろうか。
「いーじゃん。ちょっとその辺のお店入るだけだって」
ジャージが袖口も気にせず、へらりと笑った。
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MOURNING令嬢石田くんその2夜でもないのに、目の前が真っ暗になったようだった。長い廊下にずらりと等間隔に並ぶ扉は、全て何の部屋か知っているはずなのに迷路に見える。
今あったことは果たして真実なのだろうか。
思考がストップしている。脳がそれ以上考えてはいけないと警報を出している。
ずるりと真っ白な壁に背中を預ける。そうやって、何かが過ぎ去るのを待とうとしたがブーツを履いた足の内側から身体が冷えていく一方だった。そのまま、どのくらいの時が過ぎただろうか。目の前をひらひらと動くものに気づいて、一護はようやく顔をあげた。
「おーい、生きてるかー」
視界に、暑苦しい顔と分厚い手が映って顔を顰める。
一護の騎士団の制服の上からマントを羽織った軽装とは違い、全身が鋼の鎧で覆われている。
3111今あったことは果たして真実なのだろうか。
思考がストップしている。脳がそれ以上考えてはいけないと警報を出している。
ずるりと真っ白な壁に背中を預ける。そうやって、何かが過ぎ去るのを待とうとしたがブーツを履いた足の内側から身体が冷えていく一方だった。そのまま、どのくらいの時が過ぎただろうか。目の前をひらひらと動くものに気づいて、一護はようやく顔をあげた。
「おーい、生きてるかー」
視界に、暑苦しい顔と分厚い手が映って顔を顰める。
一護の騎士団の制服の上からマントを羽織った軽装とは違い、全身が鋼の鎧で覆われている。
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MOURNING令嬢石田くんプロローグ「結婚が決まったんだ」
春のはじまりの風が、大きな白い格子の窓から吹き込んでいた。その窓を背に、お気に入りの本をぱたりと閉じたこの部屋の主は、まるで世間話をするかのように告げた。
「……え?」
窓の外の若葉がさわさわと揺れる。午前の太陽の光が、優しい木漏れ日となって部屋の中を満たした。
なのに、突然極夜が訪れたように目の前が暗くなるのを感じて、黒崎一護は一歩も動けなくなった。
「五月にはこの家を出ることになると思う」
淡々と話す姿には結婚の歓びも、悲哀も感じられない。街に出かけるだけのような雰囲気だった。
「……相手は、誰ですか?」
喉がはりついて、声が掠れる。周りに誰もいない時は敬語ではなくて良いという約束だった。十年間そういう風にやってきて初めて、一護は誰もいないのに丁寧に尋ねた。
1041春のはじまりの風が、大きな白い格子の窓から吹き込んでいた。その窓を背に、お気に入りの本をぱたりと閉じたこの部屋の主は、まるで世間話をするかのように告げた。
「……え?」
窓の外の若葉がさわさわと揺れる。午前の太陽の光が、優しい木漏れ日となって部屋の中を満たした。
なのに、突然極夜が訪れたように目の前が暗くなるのを感じて、黒崎一護は一歩も動けなくなった。
「五月にはこの家を出ることになると思う」
淡々と話す姿には結婚の歓びも、悲哀も感じられない。街に出かけるだけのような雰囲気だった。
「……相手は、誰ですか?」
喉がはりついて、声が掠れる。周りに誰もいない時は敬語ではなくて良いという約束だった。十年間そういう風にやってきて初めて、一護は誰もいないのに丁寧に尋ねた。