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    初詣いちうり

    #イチウリ
    ichuri

    1/1玄関を開けると、キンと冷えきった今年初めての外の空気が頬を掠めていった。
    やっぱり、出たくないな。
    コートを羽織ってマフラーで口元を隠して、手袋もして、イヤーマフもつけたのに一歩を踏み出せずにいると、先に出ていた黒崎が朝の光の中、振り向いた。
    「ほら、石田。早く行こうぜ」
    新年の、朝だ。


    初詣に行こうと言ったのは黒崎だった。
    黒崎と会ってからはなんだかんだとお正月は初詣に行っている。いつもの友人たちと一緒のこともあったし、黒崎の家族と一緒のこともあった。ふたりで暮らしはじめて住む場所も環境も変わったとはいえ、身に付いた習慣はそうそう変わらないものだ。
    今年もきっと行くのだろう、と予定を入れていなかった僕は当たり前に頷いた。

    普段は静かな近くの神社は、まだ日が明けて時間が経っていないというのに参拝客で並んでいた。
    小さな神社で、ふたりで並んで歩くのが精いっぱいの幅の石の階段を上って鳥居をくぐれば大勢の人の頭の向こうに小さな本殿が見える。
    薄水色の空にカランカランと鈴の音が何度も響いていた。
    行列の一番後ろに並んで立ち止まると、ふと視線を感じる。見上げれば、タイミングを合わせたかのように頬にぺたりと黒崎の手が触れた。
    「な、なに」
    「つめてえ」
    目を細めた黒崎が、親指で僕の頬を撫でる。
    「当たり前だろう。……君は随分と暖かいな」
    慌ててそれを振り払うと、その手は追っては来なかった。代わりに目の前にずいっと差し出される。
    「つなぐ?」
    さっきまでダウンのポケットに突っ込まれていたからだろうか、手袋もしていないのに黒崎の手はやたらと暖かかった。それを思い出して、ほんの少し誘惑に負けそうになりながら首を振る。
    「……嫌だよ、人も多いのに」
    「でも寒そうじゃん」
    「君よりは暖かくしてきてるつもりだよ」
    「まーな」
    僕の格好を上から下まで見た黒崎が言う。大方、随分もこもこしているとでも思われているのだろう。
    「……ポケットに入れときなよ」
    手は差し出されたままで、そのままだと冷えていくのが目に見える。無理やりその手をダウンのポケットにしまってやると、黒崎は機嫌良さそうに笑った。
    その態度に逆に僕は、顔を顰める。
    「なんか今日……変じゃないか?」
    「……そーか?」
    「……テンション高いよね」
    「そんなことねーぞ」
    ちらりと僕を見た黒崎は、なんでもないことのように、正面を向いて白い息をはいた。
    その仕草が、図星だと伝えてくる。
    普段なら、いくら黒崎といえどもこんなに人が多い場所で触れてきたりはしないのだ。なのに今日はなんだか、その行動に躊躇すらなかった。それをテンションが高いと言う言葉で括ってしまっていいのかは分からなかったけれど、いつもと違うのは確かだ。
    そう思っていると、黒崎が続けた。
    「でもなんか、ヒゲの気持ちはちょっと分かったかも」
    「お父さん?」
    「あー、いや、でも違うな。アレとは」
    うーんと首を傾げながら、黒崎が話す。
    「……親父も死神だろ。なのに初詣は真剣に祈ってんだよ。大体くだらねーことばっかだけどな」
    「そういえばそうだったね」
    黒崎のお父さんは、家内安全の内容とは別に、おいしいものを食べたいから始まって誕生日に遊子ちゃんや夏梨ちゃんに何をもらいたいかまで声に出して願っていた。
    僕たちは、今ここで並んでいる人たちとは違って神様なんていないのだと知っているのに、だ。
    「でもあれはたぶん本気で神頼みしてたから、俺とは違うな。けど、そうじゃなくてもいいタイミングだよな、と思って」
     小さな神社だからか、並んでいるとはいえ案外早く順番は回ってくるようだ。
    黒崎がまっすぐ見ている本殿はもう目の前で、遠くに聞こえていた鈴の音も今はガラガラとうるさいくらいだ。
    イヤーマフ越しに聞こえる声を、聞き洩らさないようにする。
    「こういう願いがあるから叶えるぞーっていう決意表明?誓い?みたいなさ」
    「誓い?」
    「神様に祈るよりゃ現実的だろ?」
    「つまり、何か叶えたいことがあるってこと?」
    「そ」
    頷く黒崎の精悍な横顔は、確かに決意に満ちている。寒さのせいか、鼻の頭がちょっと赤くなっている。
    死神代行業に関わることなのか、勉強のことなのか僕には分からなかったけれどそんな風に思えることなら、叶うといいなと思った。
    都合の良いことに、今の僕には決意表明したくなるほどの願いはない。
    「じゃあ僕は、君の願いが叶いますようにとでも祈っておくよ」
    神様はいなくたって、その誓いの手伝いくらいはできるだろう。
    そう言うと、黒崎はぱちりと瞬きをした。
    「……俺の決意表明はさあ」
    言いながら、回ってきた順番に一歩前に進む。
    「ずっとお前と一緒にいられるようにする、ってことなんだけど」
    「え」
    「一緒に誓ってくれるってことでいいんだよな」
    今度は僕が、瞬きをする番だった。
    制止や疑問の言葉が浮かぶ前にさっきポケットにしまった手は、今度はしっかりと僕の手を掴んで紅白の鈴緒を一緒に握らせられる。
    「んじゃ、そゆことで」
    「ちょっと!」
    やっと出た声は、黒崎が鳴らしたガランガランという大きな鈴の音に消えていった。
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