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DONEこれにて完結。雌獅子は受け入れ、そして三人は何時までも幸せに暮らしましたとさ。
おしまい。
雌獅子は愛を抱く⑪「村雨さん、全治二ヶ月だって」
「腹に二発貰った割には早い気がするな、その辺詳しくないけど。一番詳しい本人が入院してるけど」
「それなりに出血してはいたが、銀行の手勢の到着が早かったからな。そもそもこの神がついていたのだから死ぬ事など無い」
「……」
声高に茶飲み話に興じる何時もの面々を前に、獅子神は溜息を吐いた。言うまでも無く彼等は獅子神に聞かせる為に此処獅子神邸でやっている。
娘が攫われ、そして取り戻してから一週間。
娘を庇い撃たれた村雨は、迅速に旧カラス銀行の関連病院に搬送されて緊急手術を受けたのだという。
その容体が気にならない訳では無かったが、獅子神にとって最優先は娘の事だ。目立つ怪我は無かったものの数時間に渡って拘束され泣き続けていた娘は脱水と衰弱があり、念の為数日入院した。
4599「腹に二発貰った割には早い気がするな、その辺詳しくないけど。一番詳しい本人が入院してるけど」
「それなりに出血してはいたが、銀行の手勢の到着が早かったからな。そもそもこの神がついていたのだから死ぬ事など無い」
「……」
声高に茶飲み話に興じる何時もの面々を前に、獅子神は溜息を吐いた。言うまでも無く彼等は獅子神に聞かせる為に此処獅子神邸でやっている。
娘が攫われ、そして取り戻してから一週間。
娘を庇い撃たれた村雨は、迅速に旧カラス銀行の関連病院に搬送されて緊急手術を受けたのだという。
その容体が気にならない訳では無かったが、獅子神にとって最優先は娘の事だ。目立つ怪我は無かったものの数時間に渡って拘束され泣き続けていた娘は脱水と衰弱があり、念の為数日入院した。
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DOODLEラストまであと一話…入稿締りまであと一日……(青色吐息)雌獅子は愛を抱く⑩ 車はふ頭の倉庫街の隅に停まった。
奥の方に見える活気がある辺りと違い、この一角の倉庫はすでに使われていないようだ。壁の色は褪せ屋根には穴が開き、付近に人気はない。
案の定宜しくない人種の溜まり場になっているようで、辺りには度数の強い酒の瓶や缶に煙草の吸殻や空き箱、使用済みの避妊具やそのパッケージ、それから意味ありげなアルミホイルの切れ端や中身が無い透明のビニール袋、使い古された注射器まで転がっている。
はてさて此処で一体何をしていたのやら、などとは考えなくても分かる残骸に顔を顰めた獅子神に、天堂は厳かに告げた。
「このような場所に出入りするなど、自ら咎人であると自白するも同然だ」
この治安の悪い一角で誰が何をしていようが獅子神の知った事では無いが、此処に娘が囚われているとなれば話は別である。
2951奥の方に見える活気がある辺りと違い、この一角の倉庫はすでに使われていないようだ。壁の色は褪せ屋根には穴が開き、付近に人気はない。
案の定宜しくない人種の溜まり場になっているようで、辺りには度数の強い酒の瓶や缶に煙草の吸殻や空き箱、使用済みの避妊具やそのパッケージ、それから意味ありげなアルミホイルの切れ端や中身が無い透明のビニール袋、使い古された注射器まで転がっている。
はてさて此処で一体何をしていたのやら、などとは考えなくても分かる残骸に顔を顰めた獅子神に、天堂は厳かに告げた。
「このような場所に出入りするなど、自ら咎人であると自白するも同然だ」
この治安の悪い一角で誰が何をしていようが獅子神の知った事では無いが、此処に娘が囚われているとなれば話は別である。
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DOODLE急転直下する話。雨降って地は固まるか。
雌獅子は愛を抱く⑧「礼二君さぁ……今度は何したの? 敬君ATフィールド全開じゃん」
非難がましい声を挙げた叶に、村雨は温度の無い視線を向ける。
とはいえ村雨にも、そのように非難めいた言葉を向けられる理由は分かっている。――原因の方には、とんと思い当たる節が無いのだが。
「ちょーっと気が緩んで来てる感じはあったんだけどねー」
自身の顔と同じ位の大きさの煎餅に果敢に齧りついている真経津も唸る。
視線の先には此方に背を向けている獅子神の後ろ姿。
少しばかり、獅子神も久しぶりのギャンブラー仲間達の存在に慣れ始めていたと思っていた矢先だ。
獅子神は突然再び強い警戒感と拒否感を示し始め――尚対象は村雨のみのようだ――娘に近寄らせまいとベビーシッターに預けて別室に退避させた。尚、先程その娘はベビーシッターと獅子神が雇う従業員の一人に連れられて公園に出掛けて行っている。
2215非難がましい声を挙げた叶に、村雨は温度の無い視線を向ける。
とはいえ村雨にも、そのように非難めいた言葉を向けられる理由は分かっている。――原因の方には、とんと思い当たる節が無いのだが。
「ちょーっと気が緩んで来てる感じはあったんだけどねー」
自身の顔と同じ位の大きさの煎餅に果敢に齧りついている真経津も唸る。
視線の先には此方に背を向けている獅子神の後ろ姿。
少しばかり、獅子神も久しぶりのギャンブラー仲間達の存在に慣れ始めていたと思っていた矢先だ。
獅子神は突然再び強い警戒感と拒否感を示し始め――尚対象は村雨のみのようだ――娘に近寄らせまいとベビーシッターに預けて別室に退避させた。尚、先程その娘はベビーシッターと獅子神が雇う従業員の一人に連れられて公園に出掛けて行っている。
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DOODLE前世に何の罪を犯したのか(今世も大概碌な事はしていない)ってくらい間が悪い男、☔。一歩進んだら三歩くらい下がる。
雌獅子は愛を抱く⑦ 目が覚める。
僅かに開いたカーテンの隙間から差し込む夕日に目を焼かれ、紅い空間の中で目を開いた。寝かしつけるだけのつもりが、幼子の体温に釣られて随分長く寝ていたらしい。
昼前の時点で来ていた客人達の事をちらりと思い出したが、流石に帰っているだろう。そもそも招いてもいない。勝手に来て勝手に帰っていく輩だ。
「……礼那」
娘はすやすやと眠っている。握り締めている小さな手の細い指を一本ずつ辿りながら反応を窺うが、何の反応もない。
これはきっと、今夜はもう眠ってくれないだろう。仕方が無い。夜中に元気になるであろう娘に一晩中付き合う覚悟を固めつつ、まだ夢の中にいる彼女を抱き上げて部屋を出た。今夜は寝ないにしても夕飯は食べさせなければ。
3113僅かに開いたカーテンの隙間から差し込む夕日に目を焼かれ、紅い空間の中で目を開いた。寝かしつけるだけのつもりが、幼子の体温に釣られて随分長く寝ていたらしい。
昼前の時点で来ていた客人達の事をちらりと思い出したが、流石に帰っているだろう。そもそも招いてもいない。勝手に来て勝手に帰っていく輩だ。
「……礼那」
娘はすやすやと眠っている。握り締めている小さな手の細い指を一本ずつ辿りながら反応を窺うが、何の反応もない。
これはきっと、今夜はもう眠ってくれないだろう。仕方が無い。夜中に元気になるであろう娘に一晩中付き合う覚悟を固めつつ、まだ夢の中にいる彼女を抱き上げて部屋を出た。今夜は寝ないにしても夕飯は食べさせなければ。
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DOODLEまっっっっっったく懐かれない☔とギャンブラーズと娘。☔はもとより他のギャンブラーにもあんまり懐いてほしくない(教育に悪いから)🦁♀は複雑。
雌獅子は愛を抱く⑥ ゆらゆらと左右に身体が揺らしながら、ピンク色の小さな唇をへの字に曲げた幼子は真剣な表情で一歩、二歩と足を進める。
まだ覚束無い足取りを周囲の大人達、特に幼子の世話も業務の一環として任されている園田は真剣に見守っていた。
何せ雇用主の大切な大切な宝物である一人娘だ。万が一にも転倒して怪我をさせるような事があってはいけない。
ソファーの縁に掴まりながら歩く幼子は、ゆっくりとそのままスライドしていく。途中にはソファーに座る招かれざる客人達の足があるのだが、進撃する幼子は止まらないので園田は内心冷や汗を掻く。
モミジのような小さな手がくしゃり、とカソックの膝辺りを掴むのを慈悲深い微笑みを湛えて見つめる客人その①の天堂は、顔を上げた幼子に微笑んだ。片手を離した幼子は――園田の心配ポイントが増えた――、天堂に向かって指を突きつけて叫ぶ。
2625まだ覚束無い足取りを周囲の大人達、特に幼子の世話も業務の一環として任されている園田は真剣に見守っていた。
何せ雇用主の大切な大切な宝物である一人娘だ。万が一にも転倒して怪我をさせるような事があってはいけない。
ソファーの縁に掴まりながら歩く幼子は、ゆっくりとそのままスライドしていく。途中にはソファーに座る招かれざる客人達の足があるのだが、進撃する幼子は止まらないので園田は内心冷や汗を掻く。
モミジのような小さな手がくしゃり、とカソックの膝辺りを掴むのを慈悲深い微笑みを湛えて見つめる客人その①の天堂は、顔を上げた幼子に微笑んだ。片手を離した幼子は――園田の心配ポイントが増えた――、天堂に向かって指を突きつけて叫ぶ。
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DOODLE夜に熱を出した娘を医療センターに連れて行った獅子神と、応援で来ていて遭遇した村雨。塩られてる。雌獅子は愛を抱く⑤「ぁーん、えー……」
普段よりずっと弱々しい泣き声がリビングに響く。
ソファーに寝かせた娘は顔を真っ赤にしている。
時折苦しげにヒッ、ヒッ、としゃくり上げる様子を、心配に顔を顰めながら獅子神は従業員達と共に覗き込んでいた。
ピピピと小さな電子音が聞こえると、獅子神は娘の耳に入れていた体温計を外して表示を見、苦く呟く。
「……高いな」
三十八度六分。
夕方までは機嫌良く元気に過ごしていた娘は、夕食後のベビーシッターが退勤した辺りからぐったりし始めた。
水分も取りたがらず、弱々しく泣く姿に獅子神は判断を下す。
「夜間急病行って来る、お前達は上がれ」
「お供しますよ」
「いや、遅くなるだろうしいい」
時間は既に二十二時半に近い。
3153普段よりずっと弱々しい泣き声がリビングに響く。
ソファーに寝かせた娘は顔を真っ赤にしている。
時折苦しげにヒッ、ヒッ、としゃくり上げる様子を、心配に顔を顰めながら獅子神は従業員達と共に覗き込んでいた。
ピピピと小さな電子音が聞こえると、獅子神は娘の耳に入れていた体温計を外して表示を見、苦く呟く。
「……高いな」
三十八度六分。
夕方までは機嫌良く元気に過ごしていた娘は、夕食後のベビーシッターが退勤した辺りからぐったりし始めた。
水分も取りたがらず、弱々しく泣く姿に獅子神は判断を下す。
「夜間急病行って来る、お前達は上がれ」
「お供しますよ」
「いや、遅くなるだろうしいい」
時間は既に二十二時半に近い。
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DOODLEギャンブラー達の感想と、引っ張り出された(元)銀行。原因が判明しても彼女の意志は揺るがない。
雌獅子は愛を抱く④「いや~……あれは厄介だわ」
真経津宅のソファーに乱暴に腰を下ろした叶は、背もたれでぐいっと背筋を伸ばしつつ天井を見上げた。
此処に来る前、これから仕事だと言うから勤務先に置いてきた村雨は果たして使い物になるのだろうか、と普段の当人に訊ねたら指一本切り落とされても不思議では無い事をちらりと考える。
「……愛の反対は何だと思う」
「有名な奴だろ? 無関心」
「その通り」
向かい側に座った天堂は膝の上で手を組み、物憂げに溜息を吐いた。今日の感想はまさしくそれに尽きる。
掛かり切りになっていたカラス銀行の件に片が付き、打ち上げ気分で久しく会っていない獅子神の元を訪ねた。
それは懐かしい友人に会いたいからというだけではなく、銀行の策略の中で恋人の手を離さざるを得なかった村雨と獅子神とが再び共に歩けるようになれば、というお節介な下心もあったのだ。共通認識であったそれらは見事撃沈した。最早ヨリを戻すどころの話ではない、凄まじい勢いで事故っている。
7202真経津宅のソファーに乱暴に腰を下ろした叶は、背もたれでぐいっと背筋を伸ばしつつ天井を見上げた。
此処に来る前、これから仕事だと言うから勤務先に置いてきた村雨は果たして使い物になるのだろうか、と普段の当人に訊ねたら指一本切り落とされても不思議では無い事をちらりと考える。
「……愛の反対は何だと思う」
「有名な奴だろ? 無関心」
「その通り」
向かい側に座った天堂は膝の上で手を組み、物憂げに溜息を吐いた。今日の感想はまさしくそれに尽きる。
掛かり切りになっていたカラス銀行の件に片が付き、打ち上げ気分で久しく会っていない獅子神の元を訪ねた。
それは懐かしい友人に会いたいからというだけではなく、銀行の策略の中で恋人の手を離さざるを得なかった村雨と獅子神とが再び共に歩けるようになれば、というお節介な下心もあったのだ。共通認識であったそれらは見事撃沈した。最早ヨリを戻すどころの話ではない、凄まじい勢いで事故っている。
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DOODLE別れた後妊娠が発覚し、シングルで育てているにょたししの話の続き。雌獅子は堂々と我が子を護る。
雌獅子は愛を抱く③「久しぶり! 可愛い赤ちゃんだね獅子神さん、ところで誰の子?」
暫くの硬直の後、気を取り直したように真経津が言った。その言葉にさも何を分かり切った事を、とでも言うかのように獅子神は片眉を跳ね上げて見せる。
「オレの子だけど?」
「いやそういう事じゃなくて」
頭を掻きながら珍しく言葉を選んでいる様子の叶に、重ねて応える。
「オレの、子だけど?」
寧ろ他の何だというとばかりに圧を籠めれば、その程度で怯むようなタマでは無い筈の真経津と叶は声を揃えた。
「「アッハイ」」
「――村雨君、村雨君大丈夫か、しっかりしろ」
静かな後方では天堂が村雨の肩を揺さ振っている。
大きな眼鏡の向こうの目は閉ざされ、元々血色が良くない顔は今は完全に血の気が無い。睡眠不足だろうか、今すぐ自宅に帰って寝ていろと獅子神は思う。
2509暫くの硬直の後、気を取り直したように真経津が言った。その言葉にさも何を分かり切った事を、とでも言うかのように獅子神は片眉を跳ね上げて見せる。
「オレの子だけど?」
「いやそういう事じゃなくて」
頭を掻きながら珍しく言葉を選んでいる様子の叶に、重ねて応える。
「オレの、子だけど?」
寧ろ他の何だというとばかりに圧を籠めれば、その程度で怯むようなタマでは無い筈の真経津と叶は声を揃えた。
「「アッハイ」」
「――村雨君、村雨君大丈夫か、しっかりしろ」
静かな後方では天堂が村雨の肩を揺さ振っている。
大きな眼鏡の向こうの目は閉ざされ、元々血色が良くない顔は今は完全に血の気が無い。睡眠不足だろうか、今すぐ自宅に帰って寝ていろと獅子神は思う。
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DOODLE別れた後に妊娠発覚し、一人で産み育てる決意をしたにょたししの話の続き。無事出産後、一年三か月が経過。
思わぬニュースに驚いていた後、招かれざる来客が…。
雌獅子は愛を抱く② 平日、獅子神の昼時は忙しい。
株の売買立会、前場と後場の間の一時間で自分達と従業員の食事を作り、済ませなければならない。従業員にはその間別の仕事も頼みたいので、昼休みはその株式取引が無い一時間と後場の最初の一時間とで交代制で取らせている。今日は園田が後場に昼休みを取る番で、先程からベビースプーンと離乳食を両手に格闘していた。もう一人と出産後に雇い入れたベビーシッターは一足先に別室で休憩している。
『続いてのニュースです。市中銀行第三位のカラス銀行が経営破綻し――』
そんな慌ただしい昼の時間、ふと聞こえて来たニュースに少なからぬ驚きを持って獅子神は顔を上げた。
テレビの画面には横一直線に並べた机にはずらりと行員が並び深々と頭を下げている。数秒の後上げられた顔には、見覚えのあるものが幾つか混ざっていた。
2829株の売買立会、前場と後場の間の一時間で自分達と従業員の食事を作り、済ませなければならない。従業員にはその間別の仕事も頼みたいので、昼休みはその株式取引が無い一時間と後場の最初の一時間とで交代制で取らせている。今日は園田が後場に昼休みを取る番で、先程からベビースプーンと離乳食を両手に格闘していた。もう一人と出産後に雇い入れたベビーシッターは一足先に別室で休憩している。
『続いてのニュースです。市中銀行第三位のカラス銀行が経営破綻し――』
そんな慌ただしい昼の時間、ふと聞こえて来たニュースに少なからぬ驚きを持って獅子神は顔を上げた。
テレビの画面には横一直線に並べた机にはずらりと行員が並び深々と頭を下げている。数秒の後上げられた顔には、見覚えのあるものが幾つか混ざっていた。
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DOODLE一方的に別れを告げられた後に妊娠が判明したにょたししが一人で産み育てる決意を固める話。尚その頃…。
雌獅子は愛を抱く『このお電話はお繋ぎする事が出来ませ――』
何度か聞いたメッセージを最後まで聞かずに通話を打ち切る。
「……はぁ」
深々溜息を吐いて、これ以上は無駄だとスマートフォンをサイドテーブルの上に置いた。そのすぐ近くにはこの家には不釣り合いな、ファンシーなキャラクターが表紙を飾る手帳が一冊。
おめでたですねと全くめでたくない事を病院で宣告されたのは、獅子神が恋人「だった」村雨に別れを告げられて二週間後の事だった。
その時の獅子神は生まれて初めての恋が終わった痛みから食欲不振が続き、けれど幾ら何でもこんなには続かないだろうと訝しんで病院を受診してみれば、内科から産科に回されて容赦のない宣告だ。
何とか顔を強張らせないように笑顔を作ったつもりだが上手く行っていただろうか、と獅子神は明後日の方向の心配をする。
1631何度か聞いたメッセージを最後まで聞かずに通話を打ち切る。
「……はぁ」
深々溜息を吐いて、これ以上は無駄だとスマートフォンをサイドテーブルの上に置いた。そのすぐ近くにはこの家には不釣り合いな、ファンシーなキャラクターが表紙を飾る手帳が一冊。
おめでたですねと全くめでたくない事を病院で宣告されたのは、獅子神が恋人「だった」村雨に別れを告げられて二週間後の事だった。
その時の獅子神は生まれて初めての恋が終わった痛みから食欲不振が続き、けれど幾ら何でもこんなには続かないだろうと訝しんで病院を受診してみれば、内科から産科に回されて容赦のない宣告だ。
何とか顔を強張らせないように笑顔を作ったつもりだが上手く行っていただろうか、と獅子神は明後日の方向の心配をする。
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DOODLE俳優パロのさめにょたししの続き。言質を取られてはい決着。
いちおう此処で完結です。
この後週末に村雨の実家に連れていかれて顔合わせ、次のデートでブライダルフェア、三回目のデートで結婚式でリアルタイムアタックも完了する。
午前零時を過ぎても② けっこん。血痕……いや、結婚??
目の前の男と結婚という単語がいまいち結びつかない。そういった事とは完全に縁遠い雰囲気だ。
妙な事を口走った男には血痕の方がよほどしっくり来るが余りにも文脈的に不自然、というよりも完全に意味不明で破綻する。結婚の方でもある意味十分破綻しているが。
いや結婚、結婚である。目の前の男は何と言ったか。交際を前提に結婚を。こうさい。けっこん。獅子神と。獅子神と????
「……、……、……はぁ!?」
嬉しいでも悲しいでも無く、良いでも悪いでも無く。獅子神の口から突いて出たのは心の底からの驚愕だ。
誓って――誰にかは知らないが――獅子神と村雨はそんな関係では無い。同じ作品に出演した共演者というだけだ。
4862目の前の男と結婚という単語がいまいち結びつかない。そういった事とは完全に縁遠い雰囲気だ。
妙な事を口走った男には血痕の方がよほどしっくり来るが余りにも文脈的に不自然、というよりも完全に意味不明で破綻する。結婚の方でもある意味十分破綻しているが。
いや結婚、結婚である。目の前の男は何と言ったか。交際を前提に結婚を。こうさい。けっこん。獅子神と。獅子神と????
「……、……、……はぁ!?」
嬉しいでも悲しいでも無く、良いでも悪いでも無く。獅子神の口から突いて出たのは心の底からの驚愕だ。
誓って――誰にかは知らないが――獅子神と村雨はそんな関係では無い。同じ作品に出演した共演者というだけだ。
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DOODLE俳優村雨×俳優にょたしし。書きたい所だけ。性に纏わる全般に苦手意識があるにょたししにベッドシーンについて演技指導(実地)した世界線の二人。
もしくは俳優村雨礼二による結婚RTA。
午前零時を過ぎても① 厚いドアの隙間に身体を滑り込ませて外に出て後ろ手に閉めてしまえば、中の喧騒はもう殆ど届かない。
ふう、と体温と酒気の混ざった溜息を吐き出した獅子神はドアの前を離れ、普段は食前食後のアルコールを楽しむためのカウンター席の椅子を引き、座る。
今日この一軒家の人気レストランはとある映画の製作委員会による貸し切りになっていて、獅子神が此処で勝手をしても他の客の邪魔になる恐れはない。
限られた人々だけを招いたプレミアム試写会と舞台挨拶を終えた後の打ち上げは、皆羽目を外しているようだ。出演していない筈の親しい俳優の姿もちらほら見えていたのは何故だろう。
主演女優――正しくはW主演の片割れである獅子神の元には製作スタッフや関係者などが次から次へと押し寄せた。彼等を労い愛想よく答えるのも仕事の内、折角の料理も殆ど手を付けることが出来ず勧められたアルコールだけが胃の中に重なっていった。
3776ふう、と体温と酒気の混ざった溜息を吐き出した獅子神はドアの前を離れ、普段は食前食後のアルコールを楽しむためのカウンター席の椅子を引き、座る。
今日この一軒家の人気レストランはとある映画の製作委員会による貸し切りになっていて、獅子神が此処で勝手をしても他の客の邪魔になる恐れはない。
限られた人々だけを招いたプレミアム試写会と舞台挨拶を終えた後の打ち上げは、皆羽目を外しているようだ。出演していない筈の親しい俳優の姿もちらほら見えていたのは何故だろう。
主演女優――正しくはW主演の片割れである獅子神の元には製作スタッフや関係者などが次から次へと押し寄せた。彼等を労い愛想よく答えるのも仕事の内、折角の料理も殆ど手を付けることが出来ず勧められたアルコールだけが胃の中に重なっていった。
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DOODLEにょたししがモブレに反撃して相手が死んだ話の続き。ゴミはゴミ箱へ、当然のお片付けです。
Dust To Dust -Ⅱ「診せろ」
村雨の言葉に獅子神は顔を強張らせ、再び俯いた。
毛布の下の身体に残された跡は、恋人に見せるには余りにもおぞましい痕跡だ。
勿論それを晒した事により村雨に何らかの心変わりが生じる事などありえないし、その事は獅子神も良く分かっている。
それでも心情としては見せたくない、が先に立つ。村雨は今、誰よりも見せたくない相手だった。
他の相手ならば容赦無く邪魔な布を剥ぎ取り診察するか、診せる気がないなら帰れと蹴り出す村雨も流石に今の獅子神相手には何方も出来ない。
無表情の下で途方に暮れれば、獅子神にぴったりと毛布越しに密着し獅子神の背を撫でていた真経津が察して柔らかく促す。
「獅子神さん、村雨さんに診てもらおう? ね?」
4843村雨の言葉に獅子神は顔を強張らせ、再び俯いた。
毛布の下の身体に残された跡は、恋人に見せるには余りにもおぞましい痕跡だ。
勿論それを晒した事により村雨に何らかの心変わりが生じる事などありえないし、その事は獅子神も良く分かっている。
それでも心情としては見せたくない、が先に立つ。村雨は今、誰よりも見せたくない相手だった。
他の相手ならば容赦無く邪魔な布を剥ぎ取り診察するか、診せる気がないなら帰れと蹴り出す村雨も流石に今の獅子神相手には何方も出来ない。
無表情の下で途方に暮れれば、獅子神にぴったりと毛布越しに密着し獅子神の背を撫でていた真経津が察して柔らかく促す。
「獅子神さん、村雨さんに診てもらおう? ね?」
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DOODLE昼休みクオリティ。モブレされそうになって反撃したらやりすぎて相手を死なせちゃったにょたししとありゃーやっちゃったねーどこで始末しよっかなーなクインテットというちょっと地獄な妄想。
続かない。
Dust To Dust『もしもし、村雨先生の携帯番号で間違い無いでしょうか。……はい、園田です。実は、獅子神さんの事で緊急のご連絡が……』
*
しとしとと雨が降る暗闇の中、高級住宅街の一角を車が疾走していた。時刻は既に深夜に差し掛かっている。
恨みがましい同僚達の視線を振り切って退勤しハンドルを握った村雨は、ガレージに愛車を止めて運転席から乱雑な動作で降り立った。
不機嫌に細めた目で見つめる先はこのガレージの所有者である獅子神の家。窓二つから光が漏れている。
今日も今日とて日勤からの残業に入っていた村雨の元に来た一本の電話。
ギャンブラー仲間であり、恋人でもある獅子神が雇用する従業員からのそれは、村雨を絶句させるに相応しい内容だった。
2850*
しとしとと雨が降る暗闇の中、高級住宅街の一角を車が疾走していた。時刻は既に深夜に差し掛かっている。
恨みがましい同僚達の視線を振り切って退勤しハンドルを握った村雨は、ガレージに愛車を止めて運転席から乱雑な動作で降り立った。
不機嫌に細めた目で見つめる先はこのガレージの所有者である獅子神の家。窓二つから光が漏れている。
今日も今日とて日勤からの残業に入っていた村雨の元に来た一本の電話。
ギャンブラー仲間であり、恋人でもある獅子神が雇用する従業員からのそれは、村雨を絶句させるに相応しい内容だった。
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DOODLEカラス銀行創立記念謝恩パーティーに、村雨のエスコートで登場したにょたしし。宇佐美の個人的な感情はクインテット(ーにょたしし)にはバレバレ。
牽制と嫌がらせで宇佐美の死体蹴りに余念がない村雨先生はライバルは蹴落としたいらしい。
全三話の予定でしたがもう一話続きます。
シークレット・ラヴァーズ③「富岡様ご夫妻、正面玄関にお着きです」
「了解、お迎えに上がります」
「河上様がB会場からご退出なさいました。A会場に向かわれます」
「分かりました、エレベータ前でお待ちしております」
カラス銀行創立記念謝恩パーティー当日。特別イベント開始時間が逼ると、次から次へと上顧客であるVIP達が到着し出迎えの為に特五の行員達が足早に行き交っていた。
場所は何時もの如くクロウホテル、観客を入れるゲームも行われる広い吹き抜けのバンケットホールが特別業務部四課・五課合同主催の特別イベントの会場だ。
此処は行内では通称A会場と呼ばれている。普通課が主催している一般的な式典やパーティーなどを行っている一階の大ホールはB会場と呼ばれており、カラス銀行として何方に力を入れているかは呼び方一つでも良く分かる。
4487「了解、お迎えに上がります」
「河上様がB会場からご退出なさいました。A会場に向かわれます」
「分かりました、エレベータ前でお待ちしております」
カラス銀行創立記念謝恩パーティー当日。特別イベント開始時間が逼ると、次から次へと上顧客であるVIP達が到着し出迎えの為に特五の行員達が足早に行き交っていた。
場所は何時もの如くクロウホテル、観客を入れるゲームも行われる広い吹き抜けのバンケットホールが特別業務部四課・五課合同主催の特別イベントの会場だ。
此処は行内では通称A会場と呼ばれている。普通課が主催している一般的な式典やパーティーなどを行っている一階の大ホールはB会場と呼ばれており、カラス銀行として何方に力を入れているかは呼び方一つでも良く分かる。
imori_JB
DOODLE仲良いしいな先輩と花ちゃんに夢見てる。あの二人同い年だし同期だったりしないかな。特四女子から見た村雨とにょたしし。にょたししが途中から、村雨は最後にちょろっとでる。ディスってるのは仕様です。
シークレット・ラヴァーズ②「そうそう、聞いてよ花ちゃん~」
カラス銀行本店の最寄り駅前にある百貨店。
セール初日の土曜日がオフに当たり、意気揚々とやって来たカラス銀行特別業務部四課宇佐美班の女王様こと羽柴しいなは連れと共に心行くまでショッピングを楽しみ、そして今小休止の為に百貨店内のカフェに来ていた。あくまで小休止だ、この後まだまだ見たいものはある。
次に回るフロアとルートについて頭の中で算段しつつ、冷たいアイスカフェオレを一気に半分吸い込んでから今日の連れに話を向けた。アイスティーの氷をストローで突いていた連れは顔を上げる。
「何だよしいな」
同じく特別業務部四課、片伯部班の加賀花火。同い年の為入行時期も近く――当初配属された課は全く異なっていたが――、特四自体女性行員が少ない部署とあって、顔を合わせれば立ち話くらいはする仲だ。互いに男社会といっていい特別業務部四課になどいれば愚痴の一つや二つ、三つや四つ出て来るものなのだ。
5241カラス銀行本店の最寄り駅前にある百貨店。
セール初日の土曜日がオフに当たり、意気揚々とやって来たカラス銀行特別業務部四課宇佐美班の女王様こと羽柴しいなは連れと共に心行くまでショッピングを楽しみ、そして今小休止の為に百貨店内のカフェに来ていた。あくまで小休止だ、この後まだまだ見たいものはある。
次に回るフロアとルートについて頭の中で算段しつつ、冷たいアイスカフェオレを一気に半分吸い込んでから今日の連れに話を向けた。アイスティーの氷をストローで突いていた連れは顔を上げる。
「何だよしいな」
同じく特別業務部四課、片伯部班の加賀花火。同い年の為入行時期も近く――当初配属された課は全く異なっていたが――、特四自体女性行員が少ない部署とあって、顔を合わせれば立ち話くらいはする仲だ。互いに男社会といっていい特別業務部四課になどいれば愚痴の一つや二つ、三つや四つ出て来るものなのだ。
imori_JB
DOODLE村雨とにょたししが付き合ってることを知らなかった宇佐美班の面々に、真経津邸に入り浸るせいで自然と知った御手洗がうっかり暴露した話。村雨もにょたししも出てこない。あとほんのり宇佐美→にょたしし。
しいな先輩が滅茶苦茶に村雨をディスりますが仕様です。
シークレット・ラヴァーズ①「以上が当行の創立記念謝恩パーティーの概要になります。何か質問は?」
カラス銀行特別業務部四課、宇佐美班。主任の宇佐美から三週間後に控えるパーティーの概要について説明されていた班員達は手元の書類から顔を上げ、それぞれ顔を見合わせる。
毎年年に一度行われているパーティーであるからして既に数回経験している面々にとっては特段今更疑問を持つような内容では無い。
しかし今回が初めてである御手洗にとっては疑問しかないイベントだ。
「あの……何ですか、この……」
「ギャンブル体験イベント?」
「はい」
普通課が主催するイベントとは異なり特別課が主催するイベントは勿論ギャンブルに関した物だ。
創立記念謝恩パーティーの中でも特別業務部4課と5課が合同で主催する4リンク以上に所属しているギャンブラー達を招き、彼らを相手にVIP達がギャンブルを楽しむという企画はその中のメインイベントとして位置づけられている。
4190カラス銀行特別業務部四課、宇佐美班。主任の宇佐美から三週間後に控えるパーティーの概要について説明されていた班員達は手元の書類から顔を上げ、それぞれ顔を見合わせる。
毎年年に一度行われているパーティーであるからして既に数回経験している面々にとっては特段今更疑問を持つような内容では無い。
しかし今回が初めてである御手洗にとっては疑問しかないイベントだ。
「あの……何ですか、この……」
「ギャンブル体験イベント?」
「はい」
普通課が主催するイベントとは異なり特別課が主催するイベントは勿論ギャンブルに関した物だ。
創立記念謝恩パーティーの中でも特別業務部4課と5課が合同で主催する4リンク以上に所属しているギャンブラー達を招き、彼らを相手にVIP達がギャンブルを楽しむという企画はその中のメインイベントとして位置づけられている。