もろきゅう
DONEテスカトリポカとケツァルコアトルとついでに主人公の話。長め。リフレインナックル その日のサモナーは少し空気が違っていた。
廊下を歩く様は堂々としており、今が授業中であることを忘れさせる気迫を放っていた。神宿学園の敷地を、さも当然と言わんばかりに出ていくその姿は、担任の教師をも唖然とさせた。
追いかけてくるのは学級委員長である。サモナーの肩に手を置いて制止すると、彼は困ったように問いかける。
「どうしたんだ、サモナー。何があった?」
要領を得ない質問だ。しかし無理もないだろう。訳がわかっていないのだから曖昧な問いにもなろうというものだ。
サモナーはゆっくりと本居シロウのほうへと振り向く。その目は見開かれていた。四白眼といえばそれに近い目付きで、じっくりとシロウを眺めている。そして、サモナーは笑った。にんまりとした笑みだった。
3828廊下を歩く様は堂々としており、今が授業中であることを忘れさせる気迫を放っていた。神宿学園の敷地を、さも当然と言わんばかりに出ていくその姿は、担任の教師をも唖然とさせた。
追いかけてくるのは学級委員長である。サモナーの肩に手を置いて制止すると、彼は困ったように問いかける。
「どうしたんだ、サモナー。何があった?」
要領を得ない質問だ。しかし無理もないだろう。訳がわかっていないのだから曖昧な問いにもなろうというものだ。
サモナーはゆっくりと本居シロウのほうへと振り向く。その目は見開かれていた。四白眼といえばそれに近い目付きで、じっくりとシロウを眺めている。そして、サモナーは笑った。にんまりとした笑みだった。
けものすけ
MOURNINGオニワカと主3君。これのラフを描いたのがもう2年前なんですって。線画が描きかけの状態で長時間放置されてたため絵柄が変わりすぎてて仕上げる気が起きなかったのでこれで許してください。
むつき
DONE両想い主シロシロウ視点
十七時三十八分 発車時刻三分前、急ぎ足で飛び込んだ車両にはまだいくらか空席があった。車両の中程に進むうち、二人掛けの座席が空いているのを見つける。
「座るかい?」
夕暮れ時にはまだ早い。明るく照らし出された窓際の席を、視線で示してみせる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
彼はそう言って、窓際にしずかに腰を下ろした。
上体を軽く揺さぶる振動と共に電車がホームを離れていく。そのタイミングで、大きなため息が聞こえた。
「本当に、お疲れさま」
心からの気持ちを込めて言葉をかける。ちらりとこっちを見た彼は、表情をほどくようにして苦笑いをこぼした。
「こっちへ来ると、いつもこうだよね」
六本木のギルドマスター、及びギルド内屈指の有力者たちに用があって、放課後を待ってから駅へ向かった。そうやって二人で赴いた先、彼は熱烈な、それはもう文字通り熱烈な歓待を受けた。惜しみなく繰り出される愛の台詞を受け止め、手を取られては跪(ひざまず)かれ。そうこうしているうちに彼らの従者たちも飛び出してきて、上を下への大騒ぎになっていく。ようやく開放されたのは、用事が済んでから随分経ってからのことだった。
2575「座るかい?」
夕暮れ時にはまだ早い。明るく照らし出された窓際の席を、視線で示してみせる。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
彼はそう言って、窓際にしずかに腰を下ろした。
上体を軽く揺さぶる振動と共に電車がホームを離れていく。そのタイミングで、大きなため息が聞こえた。
「本当に、お疲れさま」
心からの気持ちを込めて言葉をかける。ちらりとこっちを見た彼は、表情をほどくようにして苦笑いをこぼした。
「こっちへ来ると、いつもこうだよね」
六本木のギルドマスター、及びギルド内屈指の有力者たちに用があって、放課後を待ってから駅へ向かった。そうやって二人で赴いた先、彼は熱烈な、それはもう文字通り熱烈な歓待を受けた。惜しみなく繰り出される愛の台詞を受け止め、手を取られては跪(ひざまず)かれ。そうこうしているうちに彼らの従者たちも飛び出してきて、上を下への大騒ぎになっていく。ようやく開放されたのは、用事が済んでから随分経ってからのことだった。
もろきゅう
DONEテスカがポニーテールなだけの話。それは一時の 量の多い髪を結い上げてうなじを見せている姿に、サモナーは立ち止まった。
学園軍獄は、「学園」と名がつく通り、一応……本当に一応だが、教育機関としての役割も持っている。囚人や下士官たちは生徒の役割も兼ね、教官の教えに従っている。光景としてはシュールだろうが、誰も疑問を差し挟まなかった。
差し挟めなかったのかもしれないが。
練馬区にあるそこへ遊びに来たサモナーも、学園軍獄の授業風景はたまに見ていた。ジャイアントたちがランニングをする様や、ルチャドールたちが教科書を共有して覗き込んでいる様を、何度か目にしている。
今日だって、何でもない授業風景を眺めていた、はずだった。
体育とは名ばかりの、戦闘指導といったほうが正しいだろう授業で、バロールとテスカトリポカが並んで囚人たちの前に立っている、珍しい景色。
2308学園軍獄は、「学園」と名がつく通り、一応……本当に一応だが、教育機関としての役割も持っている。囚人や下士官たちは生徒の役割も兼ね、教官の教えに従っている。光景としてはシュールだろうが、誰も疑問を差し挟まなかった。
差し挟めなかったのかもしれないが。
練馬区にあるそこへ遊びに来たサモナーも、学園軍獄の授業風景はたまに見ていた。ジャイアントたちがランニングをする様や、ルチャドールたちが教科書を共有して覗き込んでいる様を、何度か目にしている。
今日だって、何でもない授業風景を眺めていた、はずだった。
体育とは名ばかりの、戦闘指導といったほうが正しいだろう授業で、バロールとテスカトリポカが並んで囚人たちの前に立っている、珍しい景色。
むつき
DONE頭痛でダウンしているクロードを見舞うサモナーくん +見守るスノウさん頭痛持ち 豪奢な装飾が施されたドアへと手を伸ばす。けれどノックするより先に、ドアは内側から開かれた。
「ようこそおいでくださいました」
囁くようにして歓迎の言葉をかけてくれたスノウさんは、自分の顔を見つめて目元を和らげてみせた。
地上一階、建物を入ってすぐのところでガルムに会った。こうして自分が執務室に辿り着くより先に、きっとガルムは忠犬らしくスノウに報告に行ったのだろう。それにこんな立派な施設なのだ。防犯カメラのひとつやふたつ、そしてそのモニターくらい、この執務室のどこかには据え付けてあるに違いない。
「クロードと約束してたわけじゃないんだけど。ちょうど近くに来る用事があったから、挨拶でもと思って」
言いながら、でも今日はクロードに会えないだろうと思った。いつものスノウさんなら、うやうやしい一礼と共にすぐに部屋の中へと案内してくれるはずだ。けれどいま自分の目の前に立っているスノウさんは場所を譲ってくれそうには見えなかった。険しい雰囲気というわけじゃない。あくまでも和やかに、そしてきっと何かクロードのための訳があって、彼はそこを塞いでいるんだろうと思った。
2007「ようこそおいでくださいました」
囁くようにして歓迎の言葉をかけてくれたスノウさんは、自分の顔を見つめて目元を和らげてみせた。
地上一階、建物を入ってすぐのところでガルムに会った。こうして自分が執務室に辿り着くより先に、きっとガルムは忠犬らしくスノウに報告に行ったのだろう。それにこんな立派な施設なのだ。防犯カメラのひとつやふたつ、そしてそのモニターくらい、この執務室のどこかには据え付けてあるに違いない。
「クロードと約束してたわけじゃないんだけど。ちょうど近くに来る用事があったから、挨拶でもと思って」
言いながら、でも今日はクロードに会えないだろうと思った。いつものスノウさんなら、うやうやしい一礼と共にすぐに部屋の中へと案内してくれるはずだ。けれどいま自分の目の前に立っているスノウさんは場所を譲ってくれそうには見えなかった。険しい雰囲気というわけじゃない。あくまでも和やかに、そしてきっと何かクロードのための訳があって、彼はそこを塞いでいるんだろうと思った。
むつき
DONE放課後の甘酸っぱ両想い主シロ図書室にて「起立、礼」
淡々とした声による号令のもと、揃って一礼をする。途端に活気づくクラスメイトたちの間を通り、シロウの席へ向かった。
「シロウ。図書室に行くんだろ?」
その机の上には、ハードカバーの分厚い小説が何冊も積み上げられている。この数日でシロウがそれらをすっかり読み切ってしまったことを知っていた。
「俺もついていってもいい?」
「ああ、もちろんだ」
シロウはめがねを押し上げつつ、にこやかに頷いてくれた。
廊下をわたり、階段をのぼり、シロウについて入った図書室はひどく静かだった。耳に届くのは、これぞという一冊を求めて棚と棚の間をひっそりと歩く音、本のページがしずかにめくられる音ばかりだ。時折誰かが咳払いをしたり、友人同士で来ているらしい誰かがひそひそと言葉を交わしたりするのが聞こえてくる。
2025淡々とした声による号令のもと、揃って一礼をする。途端に活気づくクラスメイトたちの間を通り、シロウの席へ向かった。
「シロウ。図書室に行くんだろ?」
その机の上には、ハードカバーの分厚い小説が何冊も積み上げられている。この数日でシロウがそれらをすっかり読み切ってしまったことを知っていた。
「俺もついていってもいい?」
「ああ、もちろんだ」
シロウはめがねを押し上げつつ、にこやかに頷いてくれた。
廊下をわたり、階段をのぼり、シロウについて入った図書室はひどく静かだった。耳に届くのは、これぞという一冊を求めて棚と棚の間をひっそりと歩く音、本のページがしずかにめくられる音ばかりだ。時折誰かが咳払いをしたり、友人同士で来ているらしい誰かがひそひそと言葉を交わしたりするのが聞こえてくる。
むつき
DONE丑年新年イベントストーリーのシンノウ先生と問題児くん。サモナー→→(←)シンノウ先生くらいのイメージ。お酌 朱塗りの椀や漆塗りの小皿はどれも下ろしたばかりとみえて、見事な艶を帯びている。何しろ改装したての旅館なのだ。建物に合わせ、新しく買い求められたのであろうことは察しがついた。器のそれぞれには贅と粋を凝らした料理がこまごまと盛られ、いかにも華やかな正月の風情を醸し出している。
本来なら貴重な休日を堪能できる年末年始になるはずだったが、こんな贅沢な食事で饗されるのなら休日出勤も悪くはない。そんな膳を見下ろしているシンノウの目の前に、ふと影がさした。顔を上げる。そこには酒気漂う宴会場には似つかわしくない、学生服姿の少年が立っていた。
「おや、問題児くんじゃないか」
ギュウマオウに集められたアルバイトのメンバーたちの中には、彼を含め高校生が数人交じっていることはシンノウも知っていた。未成年たちは未成年たちだけで夕飯を済ませ、もう部屋に引き取って休んでいるか、広い大浴場を堪能しているはずだ。この大広間での宴会には酒も出すから、大人たちしか入れないようにしたと、ギュウマオウは言っていたというのに。
2093本来なら貴重な休日を堪能できる年末年始になるはずだったが、こんな贅沢な食事で饗されるのなら休日出勤も悪くはない。そんな膳を見下ろしているシンノウの目の前に、ふと影がさした。顔を上げる。そこには酒気漂う宴会場には似つかわしくない、学生服姿の少年が立っていた。
「おや、問題児くんじゃないか」
ギュウマオウに集められたアルバイトのメンバーたちの中には、彼を含め高校生が数人交じっていることはシンノウも知っていた。未成年たちは未成年たちだけで夕飯を済ませ、もう部屋に引き取って休んでいるか、広い大浴場を堪能しているはずだ。この大広間での宴会には酒も出すから、大人たちしか入れないようにしたと、ギュウマオウは言っていたというのに。
もろきゅう
DONEシロウとテスカトリポカの思い通りになってくれないサモナーの話。残念ながら「お待たせ、サモナー」
冷えた風が吹く街中。学校指定のコートと、そのコートに合わせて選んだのだろうマフラーを着用して、学級委員長がやって来るのが見えた。
今度の学力テストのために参考書を買いたい、というサモナーのリクエストに応えようと、有力候補を調べ上げてメモしたものを手に、やや緊張の面持ちだ。
「シロウ、手袋は?」
ニット帽を被り、手袋をつけているサモナーが問いかける。
本居シロウはそこで緊張を解いた。やや苦笑して返す。
「マフラーを巻いて安心してしまった。手袋もしてくればよかったな」
「じゃあ、自分の手袋を半分あげるよ」
右手の手袋を外し、シロウの右手にはめる。シロウの左手とサモナーの右手が肌寒く晒されることになったが、サモナーは構わない様子だった。
1807冷えた風が吹く街中。学校指定のコートと、そのコートに合わせて選んだのだろうマフラーを着用して、学級委員長がやって来るのが見えた。
今度の学力テストのために参考書を買いたい、というサモナーのリクエストに応えようと、有力候補を調べ上げてメモしたものを手に、やや緊張の面持ちだ。
「シロウ、手袋は?」
ニット帽を被り、手袋をつけているサモナーが問いかける。
本居シロウはそこで緊張を解いた。やや苦笑して返す。
「マフラーを巻いて安心してしまった。手袋もしてくればよかったな」
「じゃあ、自分の手袋を半分あげるよ」
右手の手袋を外し、シロウの右手にはめる。シロウの左手とサモナーの右手が肌寒く晒されることになったが、サモナーは構わない様子だった。
もろきゅう
DONE主とテスカがダラダラするだけの話。また朝日を拝んでしまった 金曜日。それは平日の終わり。
金曜日。それは学業からの解放。
ストレスを抱えて平日を過ごしていた高校生たちが、解き放たれる日だ。
サモナーもまた、学業のストレスを溜め込みながら金曜日を終えた。
配布された課題は、寮に戻る前、シロウと共に図書室で済ませた。
学校内ではそれなりに規則を守り、予習復習とまではいかないが、そこそこ勉学に勤しんで授業に臨んでいた。
廊下は走らない。いや、時々走った。
ただ、高伏ケンゴのように授業中に寝ることはなく、訳あって補習を受ける必要があった日は逃げなかった。
そこそこ真面目だと、サモナーは自身を顧みて思う。
しかし、そんな平日は終わった。
サモナーは今、自由の身となった。
3076金曜日。それは学業からの解放。
ストレスを抱えて平日を過ごしていた高校生たちが、解き放たれる日だ。
サモナーもまた、学業のストレスを溜め込みながら金曜日を終えた。
配布された課題は、寮に戻る前、シロウと共に図書室で済ませた。
学校内ではそれなりに規則を守り、予習復習とまではいかないが、そこそこ勉学に勤しんで授業に臨んでいた。
廊下は走らない。いや、時々走った。
ただ、高伏ケンゴのように授業中に寝ることはなく、訳あって補習を受ける必要があった日は逃げなかった。
そこそこ真面目だと、サモナーは自身を顧みて思う。
しかし、そんな平日は終わった。
サモナーは今、自由の身となった。
もろきゅう
DONEオニワカと彼岸花の話。赤い魔法を昼下がりに 踏切の隅に赤いものがチラチラと揺れているのを見かけて、列車が轟音で走り抜けていくのを横目にそれを眺めた。
風圧で大きく揺れる彼岸花が、オニワカの視界で踊っていた。
縁起でもない花だ。
第一印象はそうだった。
別名を死人花、捨子花と言って、彼岸花の気味の悪さを物語っているようだ。
特に、捨子花。
元の世界から一人、東京へと流れ着いてしまった赤子としては、眉をひそめたくなる名称だ。……まあ、花ごときに心乱れてやる義理もないが。
踏切の遮断器が上がる。
オニワカは歩き出さない。
揺れる彼岸花を見つめていた。
彼岸花にも花言葉はある。花なのだから当然だ。
誰が決めたかは知らないが、「あきらめ」だの「悲しい思い出」だのと、辛気臭い文言が並んでいるのを、鼻で笑った覚えがある。
1452風圧で大きく揺れる彼岸花が、オニワカの視界で踊っていた。
縁起でもない花だ。
第一印象はそうだった。
別名を死人花、捨子花と言って、彼岸花の気味の悪さを物語っているようだ。
特に、捨子花。
元の世界から一人、東京へと流れ着いてしまった赤子としては、眉をひそめたくなる名称だ。……まあ、花ごときに心乱れてやる義理もないが。
踏切の遮断器が上がる。
オニワカは歩き出さない。
揺れる彼岸花を見つめていた。
彼岸花にも花言葉はある。花なのだから当然だ。
誰が決めたかは知らないが、「あきらめ」だの「悲しい思い出」だのと、辛気臭い文言が並んでいるのを、鼻で笑った覚えがある。
もろきゅう
DONE注意散漫なサモナーと補う忍者の話いまそかり 忍者は種をかじる。
サモナーが手渡してきたATKの小種を、ためらいがちに奥歯で噛んでいた。
我らが主は、戦闘慣れしていないらしい。
忍者がそう結論付けたのは、今までのアプリバトルを控えメンバーとして散々観察してのことだ。
何度も敵を打ち漏らしては、参謀であるシロウの範囲攻撃で沈めてもらい、何度も不意打ちされては、振り返る余裕もないのか硬直し、アカオニのチャージスラストに助けられている。
リーダーとして、いささか頼りないと言わざるを得ない。
高校生なのだから仕方ないとはいえ、場数に比べて成長の度合が遅い。
今だって、我らがリーダーは直進するばかりで、脇に意識を向けていないのだ。
ああ、ほら、死角から敵が飛び出してきて……
1559サモナーが手渡してきたATKの小種を、ためらいがちに奥歯で噛んでいた。
我らが主は、戦闘慣れしていないらしい。
忍者がそう結論付けたのは、今までのアプリバトルを控えメンバーとして散々観察してのことだ。
何度も敵を打ち漏らしては、参謀であるシロウの範囲攻撃で沈めてもらい、何度も不意打ちされては、振り返る余裕もないのか硬直し、アカオニのチャージスラストに助けられている。
リーダーとして、いささか頼りないと言わざるを得ない。
高校生なのだから仕方ないとはいえ、場数に比べて成長の度合が遅い。
今だって、我らがリーダーは直進するばかりで、脇に意識を向けていないのだ。
ああ、ほら、死角から敵が飛び出してきて……
もろきゅう
DONE主人公とオニワカがバスタブに詰まる話。バスタブに詰めて ガタガタと揺れる窓。
ゴロゴロと唸る雨雲。
ザンザンと叩きつける雨。
セーフハウスの一つであるアパートの一室で、サモナーは一人、台風の対策をしていた。雨戸を閉め切り、非常食を蓄え、ある者を喚び出す。
「我が声に応じ、参じたまえ、オニワカ」
召喚紋が浮かび上がり、光となってあたりに漏れ出す。少しだけ強い輝きのあとに姿を表したのは、目を見開いて周囲を見回している、ずぶ濡れの忠臣だった。
拳には血が滲んでいる。おそらく生きるための何らかをしてきたのだろう。
サモナーは雨粒を滴らせるオニワカに笑いかけると、言った。
「有事の際は遠慮なく呼んでいいって言われてたから、呼んじゃったよ」
「何だよ主様。誰かから命でも狙われてんのか?」
1769ゴロゴロと唸る雨雲。
ザンザンと叩きつける雨。
セーフハウスの一つであるアパートの一室で、サモナーは一人、台風の対策をしていた。雨戸を閉め切り、非常食を蓄え、ある者を喚び出す。
「我が声に応じ、参じたまえ、オニワカ」
召喚紋が浮かび上がり、光となってあたりに漏れ出す。少しだけ強い輝きのあとに姿を表したのは、目を見開いて周囲を見回している、ずぶ濡れの忠臣だった。
拳には血が滲んでいる。おそらく生きるための何らかをしてきたのだろう。
サモナーは雨粒を滴らせるオニワカに笑いかけると、言った。
「有事の際は遠慮なく呼んでいいって言われてたから、呼んじゃったよ」
「何だよ主様。誰かから命でも狙われてんのか?」
もろきゅう
DONEツァトグァ大好きの会、会員。ひとつまみの信仰 その日は忙しかった。
部屋の掃除に、ギルドの予算会議、新しいメンバー数人の情報の把握、アプリバトルによるポータルの死守、食材や生活雑貨の買い出し。
特に予算会議は白熱した。先月余った額と合わせて、六三〇〇コイン。これを何に使うかで高校生たちのディベート合戦が幕を開けた。
貯めておくべきだと手堅い意見を出す者もいれば、たまには皆で外食でもと言い出す者もおり、ギルドマスターの意見はと周囲が視線を向ける中、サモナーは困ったように笑っていた。
「六三〇〇コインなら、我がデイトレードして、少ぉしだけ増やしてあげられるのであーる」
気だるそうな声が議論を遮り、サモナーたちをポカンとさせた。
Tシャツをまくり上げ、ボリボリと腹を掻きながら言うのはツァトグァだ。
2244部屋の掃除に、ギルドの予算会議、新しいメンバー数人の情報の把握、アプリバトルによるポータルの死守、食材や生活雑貨の買い出し。
特に予算会議は白熱した。先月余った額と合わせて、六三〇〇コイン。これを何に使うかで高校生たちのディベート合戦が幕を開けた。
貯めておくべきだと手堅い意見を出す者もいれば、たまには皆で外食でもと言い出す者もおり、ギルドマスターの意見はと周囲が視線を向ける中、サモナーは困ったように笑っていた。
「六三〇〇コインなら、我がデイトレードして、少ぉしだけ増やしてあげられるのであーる」
気だるそうな声が議論を遮り、サモナーたちをポカンとさせた。
Tシャツをまくり上げ、ボリボリと腹を掻きながら言うのはツァトグァだ。
もろきゅう
TRAINING主人公がテスカトリポカと湿っぽい勝負をする話。昨日今日あすあさって 夏。
太陽が張り切って、人を焼いて煮て殺す夏。
東京はコンクリートジャングルである。
ビル風という名の熱風が吹き荒れ、地面からの輻射熱は容赦なく足を焼き、日陰にいようとも湿度がひと息つくことを許してくれない。
慣れたふうに学生服を着込んで登校するシロウを、まるで化け物を見るかのように眺めれば、視線に気がついた彼が穏やかに笑って、「ほら、タイが曲がっているよ」と、涼感のためにわざと曲げたネクタイをきっちり締めてくれた。
そんな怪物が観測される季節である。
さて、猛暑を通り越して酷暑と言っても過言ではない東京の夏において、観測される怪物は一人だけではない。
練馬からわざわざやって来た、自称・柄にもなくハイテンションなジャガーの獣人は、上機嫌で直射日光と輻射熱を全身に浴びていた。
3013太陽が張り切って、人を焼いて煮て殺す夏。
東京はコンクリートジャングルである。
ビル風という名の熱風が吹き荒れ、地面からの輻射熱は容赦なく足を焼き、日陰にいようとも湿度がひと息つくことを許してくれない。
慣れたふうに学生服を着込んで登校するシロウを、まるで化け物を見るかのように眺めれば、視線に気がついた彼が穏やかに笑って、「ほら、タイが曲がっているよ」と、涼感のためにわざと曲げたネクタイをきっちり締めてくれた。
そんな怪物が観測される季節である。
さて、猛暑を通り越して酷暑と言っても過言ではない東京の夏において、観測される怪物は一人だけではない。
練馬からわざわざやって来た、自称・柄にもなくハイテンションなジャガーの獣人は、上機嫌で直射日光と輻射熱を全身に浴びていた。