四者四様「今日、僕誕生日なんですよね」
「は?」
「ほう」
「…?」
お手本のような三者三様の反応を返す三人に、思わず燐童は悪戯が成功した子供のように屈託なく笑みを浮かべる。
現在受けている依頼は事前調査まで済み、あとはクライアントから指定された実行日を待つのみとなった。つまるところ、暇を持て余しているのだ。普段ならば四者四様、それぞれ外で過ごすことも多いのだが、何故か今日に限って広くもないアジトに大の大人四人が揃い踏みしていた。揃っているからといって何かをする訳でもなく、一人はソファに寝転がり、一人は窓際で煙草を吸い、一人は乳白色の液体の入った瓶を煽り、一人は膝を抱えてソファに座り、タブレットを操作しながら前述の言葉を吐いた。この男が吐いた言葉により、視線を一所に集めることに成功した。
「そんなに驚くことですか?」
「だってお前、ンな個人情報自分から言うのらしくねぇだろ」
「僕は皆さんの誕生日も知ってますけどね」
「貴方はそうでしょうとも。駒として使うに足るかどうか、私たちが自分で知る以上のことを知っているでしょうから」
「……そうなのか?」
一人に注がれる言葉たちにしては統率もなく、まるで聖徳太子のようだなと燐童は肩を竦めて両手を肩ほどでひらつかせてお得意のポーズをとる。誕生日と言って、誰一人祝福の言葉を告げないのはあまりにも「らしい」とも思った。
誕生日。おそらくここに居る四人とも、そんなものに拘りはなく、いい思い出なんてない。いや、一人は20歳の誕生日に限ってはあるらしいが。生まれてから今日に至るまで、明日さえどうなるか分からない状況で生き抜いてきたからだ。いつ足を踏み外したのか、誰のせいか、誰のためか。四者四様、生き抜いた理由も違い、交わるはずもなかった未来を紡いで同じ方向へと向かうよう整えたのは、間違いなく今日が誕生日だと呟いた男だった。
「つうか、何?祝って欲しいのか?」
「おや、いいですね。誕生日パーティーと言えばケーキですね!何個買いますか?」
「…ケーキは一人一個なのか?あのでかいやつが?」
「え、いや、あの?」
ほんの少し昔へ思いを馳せていただけで、思わぬ方向へ話が向かっていた。誕生日の主役たる本人を差し置いて、いや、主役であるからこそ差し置かれるのが真っ当であるが、トントン拍子に話が進んでいく。暇を持て余した大人たちの行動力は、普段からそれくらい協力してくれないかなと些かお門違いな文句さえ湧き出てるほどであった。
「…やれやれ、共同資金からは出しませんからね!」
四者四様、違う過去を歩んでき男たちは、同じ方向を向いて未来を歩んでいく。未来とはいえ明るいものではないのは確かだが、たまには普通の人と同じように、明るい日常があっても良いはずだ。仲間の誕生日に騒ぎ、ケーキの種類をどうするだの、ケーキを食べるだけでいいのかと。非日常に生きるからこそ、日常がこんなにも愛おしいのだと。