二年参り 二人きりで過ごす初めて大晦日の夜、年越し蕎麦も食べ終えあとはゆっくり日が変わるのを待つだけかと暁人は思っていたが、KKの「二年参りでも行くか」という一言で状況が変わった。二人の住むアパートの近くには有名ではないがそこそこの規模の神社がある。年の終わりと新年の挨拶をするのは確かに悪くない。だってあの夜(そして正確に言えば祓い屋を生業とする今も)、二人は幾多の神社に確かに『世話になった』のだから。
何より、KKと二人で『初めてのことをする』のはなんだって心が躍る。二十も年嵩の師であり相棒であり恋人である相手は「そういうとこがガキなんだ」と揶揄うだろうかと思いつつも、口の端があがるのが止められない。しょうがないだろう。大事な人と過ごす年末は、どうあったって幸せなのだから。
「もう行く?」
「そうだな、今から準備して歩いていけばちょうどいいか」
「わかった」
言って身を翻すと、部屋にコートとマフラーと手袋を取りに行く。手袋は少し寒がりな暁人のために今年のクリスマスにKKがくれたちょっと高級なもので最近のお気に入りだ。
「あんま慌てんなって」
転ぶぞ、という声かけにやっぱり子供扱いされてる気がするが、はしゃいでるのは事実なので反論も出来ない。それでも後ろからかけられたその声音は呆れたものではなく、どこか柔らかく弾んでるようにも聞こえるので、KKも楽しみにしてくれてるといいと思う。
マフラーを軽く巻いてからコートを身につけ、なるべく冷たい風が入り込まないように整えた。その姿でリビングに戻れば相棒もすでに身支度を終えたようで黒いコートを身にまとっているが、その下には暁人が先日贈ったばかりの白のハイネックニットが見える。黒と悩んだが思った通りこちらもよく似合っていると、己が見立てに間違いはなかったとちょっぴり鼻が高い。
あまりに見つめたからか、気配に聡いKKがこちらを向いてニヤリと笑った。
「そんなに見つめられたら穴があいちまいそうだ」
見とれてたのか? という意地の悪い問いに「KKうるさい」と言えばそれは愉快そうに笑うものだからなお腹が立つ。惚れた方が負けとはこういうことを言うのかと思いつつも、諦め半分で側によって上から下までもう一度男を見る。悔しいがかっこいい、自分にはない年を重ねたからこそ出る男らしさだ。
「……その服」
「ん?」
「着てくれたんだなって思って」
「せっかくだからな。あったかくて、悪くねえ」
続いて「オマエも……」と続けられた言葉にKKの視線を追えば、それは暁人が手にしている手袋にあって。
「使ってくれてるんだな」
「あ、うん。薄手なのにあったかくて、助かってる。ありがと」
「おう」
横たわる沈黙が、気まずくはないけど少し甘酸っぱい。お互いに目を見交わし、ぷっと噴き出したのは同時だった。こういうところはやはり自分達は似たもの同士なのかもしれない。
「――よし、行くか」
「うん」
二人並んで歩いていく。
今年も、来年も、出来ればずっと、この命が続く限り幾年月と。
片割れのぬくもりが愛おしい。幸せだな、とこぼれる想いに暁人は一人笑む。
神様。また一年、この人と良き毎日を過ごせますように。