「シナタツぅ!」
怒号のようなそれに思わず肩を揺らし、後ろを振り向けば、かつて見た事のある金髪が大股で近づいてくるではないか。
大きな身体ががばりと抱きしめてぎゅうぎゅと締め付けてくる。そのままグルグルと回されて情けない悲鳴をあげながら真っ白なコートを辛うじて掴んで耐えた。まるでコーヒーカップに乗っているかのような回転から解放された、と思いきやその大きな身体に見合った大きな手でわしわしと頭を撫でてくる。犬か何かだと思っている可能性が出てきた。撫でれば大抵の機嫌は取れると、そう思っているのだろう。
「久しぶりやな!元気にしとったか?」
そう言って笑う男――郷田龍司は頭一つ分下にある品田のへにゃりと困ったように下がった眉を見て、さらに笑うのであった。
「なんや?わしのこと忘れたんか?」
「わ、忘れないよ!忘れられないでしょ」
元々ボサボサだった髪の毛を申し訳程度に手櫛を入れつつそう言えば、やはり嬉しそうに笑うのだ。ご機嫌だなぁというのが品田の感想で、事実ご機嫌なのだろう。
「でもあの…郷田、さん…?その、よく俺だって分かったね」
初めて会った時の勢いはどこへやら。郷田を見上げる品田は少し気まずそうに両手をうじうじとさせてぼそりと零した。
郷田はそんな品田を下から上へと舐めまわすように見る。よれよれの革ジャンに、履き潰した靴。くたくたのジーパンは少しばかり色が薄くなっていた。
「お前は前から変わっとらんみたいやな」
「えっ?うーん…ちょっと、変わったかな…」
「ほぉん?どこらへんが?」
「どこらへんって言われても……その、なんだろう……」
言い淀んでいる品田の頭を撫でてやった。わしわしと力強いものではなく、優しく梳いてやるような力加減で。ぱちくりとビックリしたようにこちらを仰ぎ見る品田に、どこかしてやったりな、そんな気持ちになった郷田はそのままふにゅりと品田の頬を引っ張った。面白いほどに伸びる品田の頬に笑って、もにゅもにゅと揉み続ける。
「はにしゅるんれしゅか」
「あ?なんやて?なに言うとんのか分からんわ」
くすくすと意地悪に笑う郷田は愛おしい者を見るような瞳で品田を見つめる。やめてそんな目で俺を見ないで――品田は思わず出そうになった声を飲み込んだ。どうせ、彼も時が過ぎれば"品田辰雄"のことなど忘れてしまうのだから。