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    よーでる

    推敲に超時間かかるタチなので即興文でストレス解消してます。
    友人とやってる一次創作もここで載せることにしました。

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    よーでる

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    主人公3人目パート。今回も昔書いた文章を流用してます。

    ##龍のうたった祭り歌
    #龍のうたった祭り歌
    festivalSongsSungByDragons

    シリィ・カーニバル1話幕間「無茶ぶり公主と薄幸笛吹き」(やっぱり苦手ですね、ここ)

     だだっ広く白い広間に足を踏み入れて、ネリアは居心地の悪さを噛み殺した。緩く結った淡い金髪を揺らして、音もなく歩く。わざわざ心掛けずとも、毛足の長い絨毯が勝手に足音を殺してくれた。
     初めて足を踏み入れたときから、この聖堂が苦手だった。壁も天井も調度品も何もかもが白で統一され、頭上の窓すらヒビ硝子で細かく光を散らして白く染めている。
     白く、白く、白く、自分がこの場を汚すシミのように思えるほど白く、正直息が詰まる。スカートの裾を払って背筋を伸ばし、薄碧の目を前に向ける。
     光あふれる広間の中心に、一際輝く女がいた。

     南方の麦穂に喩えられる波打つ黄金の髪。西の海を閉じ込めたような深く青い瞳。北の白雪を思わせる肌。東の花弁のような瑞々しく赤い唇が蕩けるような微笑みを浮かべて、深みのある柔らかな声が広間に響く。

    「ネリア!」

    「お待たせしました、猊下」

     ほっと息を吐いて恭しく一礼すると、女はクチナシの花弁めいた袖を頬に触れさせて、切なげに声をこぼした。

    「ネリアったら。ユイナって呼んでって、いつもお願いしてるじゃない」

    「公私の別は付けたいタチですので。ユイシスティナ公主猊下」

     きっぱり告げると、公国中央神殿の主たる女は拗ねたふうに唇を尖らせた。ネリアより年上のはずだが、少女じみた仕草が嫌味なく可憐に見える。
     いつも思うが、生地は上等だが飾り気のない神官衣が、ユイナが纏うと豪奢なドレスのようだ。身につけている装身具は緑の宝石をあしらった額冠だけだが、それ以上は不要だと納得させられる。

    「それで、普段は閉鎖している聖堂に秘密裏に来させた用件は? いつものお忍びのお誘い護衛依頼じゃないんでしょう?」

    「ネリアとデートしたいのは山々なんだけど、今日は頼みがあって来てもらったの」

     柔らかな肢体から花の香りを弾ませて、ユイナが手を伸ばしてくる。逆らわず、ネリアはこめかみにユイナの指が触れるのを待った。ほのかな体温。驚くほど滑らかな指から、圧縮された情報が巫術によって伝わってくる。
     若草色の髪。緑がかった金色の瞳。人形じみて整った顔立ちの、十五歳くらいの少女。

    「その女の子を探してほしいの」

    「わかりました。捜索範囲は?」

    「世界中」

     沈黙は、瞬きより長く続いた。

    「あの、ユイナ? 公国がどれだけ広いか、ご存知ですよね?」

    「あら、公国だけじゃないわ。他国はもちろん地図から抹消された危険地帯から未踏地域まで、ありとあらゆる場所が捜索範囲よ?」

    「無茶言わないでください! どれだけ人手がいるとっ」

    「ああ、この件は議会にも神殿にも秘密にしてほしいから、人海戦術はダメ。協力をお願いするのは信頼できる人だけにしてね?」

    「え、これ左遷ですか?」

    「まあ」

     ネリアが思わず口にした疑問に、玲瓏とした声が悲しげな響きを帯びた。甘えているが、媚びてはいない、絶妙な響き。
     蝶のようにたおやかな指を豊潤な胸にそっと止まらせると、ユイナは青い瞳を可憐に潤ませて、上目遣いにネリアを見つめた。

    「わたしたち……お友達よね?」

    「絶縁したくなってきました」

    「ごめんなさい。ネリアしか頼れる人がいないのよ」

     謝罪しつつも折れないユイナに、ネリアも諦めた。全世界を隈なく探すのはさすがに無理だが、伝手を頼れば人探しはなんとかなる。

    「でも、そんなに機密の高い事案なんですか? 髪や目の色は変わってますが、海上連盟(ノストコール)の出身なら珍しくないですし」

    「ああ、その子は海上連盟の生まれではないわ。この額冠が公主の証なのは知ってるわよね?」

    「? ええ。初代公主アデラ様の遺した、龍王国の王冠ですよね? 宿していた力は既に精霊に返還されているそうですが」

     ユイナの額を飾る宝石は、木洩れ陽を浴びる湖を一滴写し取ったかのようだった。深みがあり、透き通って、内側から輝いているようにさえ見える。
     宝石を留める鎖は細やかな金細工で、儀式ならばともかく、普段の政務で王の威光を示すのに不足はないと思われたが。

    「実はコレ贋作(レプリカ)で、本物はアデラ様が公主を辞されて以来行方不明なのよ。歴代公主にしか伝わってないことだから、内緒ね?」

    「……ぇ?」

     聞いてはいけない機密事項を、さらっと暴露された気がする。
     凍りついたネリアに、ユイナが信頼を込めた温かな微笑みで言い添えてくる。

    「だから、その子のこと、お願いね?」

     先程は読み流した情報を精査する。若草色の髪。十五歳くらいの少女。緑の宝石を一粒あしらったネックレス。

    「ユイナ。辞表を提出したいのですが」

    「だぁめ」

     親友の甘やかな声音に、ネリアは自分がとんでもない面倒事を背負わされたと悟った。
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    よーでる

    PROGRESS完!! うおおお、十数年間ずっと頭の中にあったのでスッキリしたぁ。
    こういうカイムとマナが見たかったなー!!という妄執でした。あとどうしてカイムの最期解釈。
    またちょっと推敲してぷらいべったーにでもまとめます。
    罪の終わり、贖いの果て(7) 自分を呼ぶ声に揺すられ、マナはいっとき、目を覚ました。ほんのいっとき。
     すぐにまた目を閉ざして、うずくまる。だが呼ぶ声は絶えてくれない。求める声が離れてくれない。

    (やめて。起こさないで。眠らせていて。誰なの? あなたは)

     呼び声は聞き覚えがある気がしたが、マナは思い出すのをやめた。思い出したくない。考えたくない。これ以上、何もかも。だって、カイムは死んだのだから。
     結局思考はそこに行き着き、マナは顔を覆った。心のなかで、幼子のように身を丸める。耳を覆う。思考を塞ぐ。考えたくない。思い出したくない。思い出したく、なかった。

     わからない。カイムがどうしてわたしを許してくれたのか。考えたくない。どうしてカイムがわたしに優しくしてくれたのか。知りたくない。わたしのしたことが、どれだけ彼を傷つけ、蝕んだのか。取り返しがつかない。償いようがない。だって、カイムは、死んでしまったのだから。
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    よーでる

    DOODLEどんどん敬語が剥げてますが語りじゃなく講義だからということで……
    あと大まかな国の特徴語ったらひとまず単発ネタ書き散らす作業に入れるかなぁ。
    ぶっちゃけお話の途中で世界観説明しようとすると毎回語りすぎたりアドリブで知らん設定出たりするのでその事前発散が狙い……
    巫術と法術について 今の世界の魔法は大きく分けて2種類あります。1つは精霊に語りかけて世界を変えてもらう魔法。王族が使っていたのがコレだね。
     精霊……王祖の末裔じゃなくても、精霊の声を聞きその力を借りれる人は増えています。それが龍王国衰退の遠因になったわけだけど、今はいいか。
     この方法は【巫術】と呼ばれています。長所は知識がなくても複雑な事象が起こせること。細かい演算は精霊任せにできるからね。代表的なのが治癒。肉体の状態や傷病の症状を把握するに越したことはないけど、してなくても力尽くで「健康な状態に戻す」ことができます。
     欠点は精霊を感知する素養がないと使えないこと。だから使い手は少ない。それと精霊の許しが出ない事象は起こせない。代表的なのが殺傷。自衛や狩りは認められてるけど、一方的で大規模な殺戮は巫術でやろうとしてもキャンセルされるし、最悪精霊と交感する資格を剥奪されます。
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    よーでる

    DOODLE公主は本来プリンセスという意味ですが、祭り歌では公国の代表という意味の言葉になってます。アデラさんは武闘家系ギャルです。
    ほんとは東西南北それぞれの話するやるつもりだったけど西と南はちょっとド鬱なのでまたの機会にします。子どもに無配慮に聞かせたら怒られるやつ……
    一通りの世界観の説明が終わったので、明日からはこの世界観で単発話を量産する予定です。
    公国の興り(2)凍てず熔けぬ鋼の銀嶺 道行く花に光を灯しながら、アデラティア公子一行は海に臨む丘にたどり着きました。丘に咲く白い菫を見渡して、公子は軽やかに宣言します。

    「ここにわたしたちの都を作りましょう」

     こうして光る菫の咲き誇る白き都コノラノスは作られました。号は公国。龍王国最後の公子が興した国です。
     公子は精霊の声を聴く神官を集め、神殿を築きました。血ではなく徳と信仰で精霊に耳を澄ませ、精霊の祈りを叶え、世に平穏をもたらし人心を守る組織です。
     国の運営は神殿の信任を受けた議会が行います。アデラは神殿の代表たる公主を名乗り、花龍ペスタリスノの光る花【霊菫(たますみれ)】を国に広めました。

     霊菫は花龍の息吹。花の光が照らす場所に魔物は近寄らず、死者の魂は慰められ、地に還ります。公国が花の国と呼ばれる由縁です。
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