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    よーでる

    推敲に超時間かかるタチなので即興文でストレス解消してます。
    友人とやってる一次創作もここで載せることにしました。

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    よーでる

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    呪文考えるの好きなんですが、カイは無詠唱が基本なのでピンチに追い込まないと詠唱してくれないのが悩みです。だからピンチにさせました。

    ##龍のうたった祭り歌
    #龍のうたった祭り歌
    festivalSongsSungByDragons

    シリィ・カーニバル第2話04「なんで僕ばっかりぃぃいいいい!!?」

     押し流されていくレクトの悲鳴を聞き流しながら、展開した術式を起動する。
     青白く輝く幾何学模様が宙を奔り、杯を貫こうとして、逆巻く泥の波に阻まれた。

    (ッ!? この深度の術を防いだ? 魔物が?)

     魔物は精霊法則に反しているため、霊的に極めて脆い。石ころ一つ動かせぬそよ風でも、それが巫術や法術で起こしたものなら、魔物には業火に等しいはずだ。ましてカイの術は一瞬で魔物を蒸発させる密度で練り上げている。

     杯から起き上がった影は、雨風に晒された絵画に似ていた。ぼやけて滲んで、男か女かもわからないが、人の輪郭をしている。
     魔物は往々にして人体からかけ離れた形になる。人格が揮発した強い未練の塊に、理性などないからだ。人の形に近い魔物を生み出せるのは、生前から霊力に馴染み、それを自在に操っていた魂。

    (龍王国の神官か、騎士? 神殿が討伐隊を組むレベルだぞ)

     舌打ちして四方八方から伸びてくる泥の手を青く輝く突風で消し去る。核である推定神官の魔物は動かないが、その防御を貫く術式を編みながら絶え間ない攻撃を防ぐのはカイにしても容易ではない。

    「『定義する――掌は雲――雲に嵐――吹きすさぶは雨粒――雨粒に雷――波を渡り、海底を打つ――』」

     普段は肉声での詠唱など意識を込める程度でしかやらないが、霊力で直接術式を編み上げる思考詠唱は迎撃で手一杯になっている。
     錆びついた発音が乱れないよう注意しながら、泥の波が途切れた一瞬に、突風に見立てた指を突き出す。

    「『鳴り響け』」

     一点に集中させた力が、泥の手に触れた途端、青い波紋となって聖堂を満たした。広がる光は淡かったが、すべての防御を蹴散らすには十分だった。
     手早く霊力を編み上げ、放つ。無言で、一瞬で、強力な術を放てるのがカイの強みだ。泥を根こそぎ消された影が新たな濁流を用意するより早く、カイの放った稲妻が杯に届く。
     寸前で、跳躍したレクトにぶつかって掻き消された。

    「レクト、お前……」

     痛みに叫ぶこともなく、汚泥に着地したレクトの表情は静かなものだった。琥珀色の目は茫洋として、半開きの口はいつも以上に間抜けで、普段の騒がしいまでの意志が感じられない。
     レクトがカイに向かって手を伸ばしてくる。泥の手たちと、同じように。

    (操られてる……いや、死霊の念に当てられて、魔物と同調したのか!)

     物理耐性が高いからといって遠慮なく囮にしすぎた。反省しつつ矢継ぎ早に稲妻を放つが、レクトは怯むこともなく正気に戻ることもなく距離を詰めてくる。動きは鈍い、が。

    「くそっ」

     掴みかかってきたレクトを躱して距離を取り、復活した他の泥を薙ぎ払う。レクトの動きは単調で、今のところ普段の理不尽な速さはない。だが、防御できない攻撃が一手増えただけでも厄介だった。
     回避に動かないといけないせいで、肉声の詠唱をする余裕がない。泥の手が尽きる気配はなく、徐々に息が上がってきたのを自覚して、カイは歯ぎしりした。
     レクトが邪魔で、横から伸びた泥の手を消し損ねた。返す手で焼き払ったが、壁際へ追い詰められ、カイはレクトの琥珀の目を睨みつけた。

    「タリナイ」

     レクトが声を発した。いつもの底抜けに陽気な声とは違う、声帯を引き絞るような、ひび割れたうめき声。

    「贄ガ、タリナイ。私ダケデハ、聖下ニ託サレタ民ヲ守レナイ」

    「そうか」

     同情はするが、それだけだ。霊力を引き絞り、意識を集中させる。泥の手をすり抜け、邪魔なレクトを掻い潜り、杯に立つ影を貫く軌道を演算する。
     レクトが腕を突き出しながら、すり足で寄ってくる。演算はまだ終わっていない。後少し……精査する時間はない。
     的中していることを祈って、カイはレクトを指差した。青い炎が螺旋を描いてレクトの脇をすり抜ける。
     そのまま杯に向かって炎が伸びて――

    『祈りを捧げます――どうか、雨を、川を、いずれ雲となり、天へと至る、地を駆ける嵐を、ここに』

     声が聞こえた。肉声ではなく、思念の声。この場を支配する死霊が紡ぐ祈りが。
     その声は当然、精霊には届かない。だが、魂に染みつくまで訓練された力は、自力で望んだどおりの事象を起こした。
     杯の影から放たれた濁流が、嵐となって炎を飲み込む。ちっぽけな炎はそれでも濁流を八割は消し飛ばしたが、残る二割がカイの脚を飲み込んだ。激痛が走る。
     魔除けを刺繍された布地を貫いて、魔物の泥が皮膚に染み込んでくる。痛みに耐えて術を練ろうとするが、レクトがすぐそばまで来ている。間に合わない。

    「じゃ~~~んぷっ」

     覚悟を決めて殴りかかろうとした瞬間、脳天気なランの声が、カイを天井際まで跳ね飛ばした。
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    Replies from the creator

    よーでる

    PROGRESS完!! うおおお、十数年間ずっと頭の中にあったのでスッキリしたぁ。
    こういうカイムとマナが見たかったなー!!という妄執でした。あとどうしてカイムの最期解釈。
    またちょっと推敲してぷらいべったーにでもまとめます。
    罪の終わり、贖いの果て(7) 自分を呼ぶ声に揺すられ、マナはいっとき、目を覚ました。ほんのいっとき。
     すぐにまた目を閉ざして、うずくまる。だが呼ぶ声は絶えてくれない。求める声が離れてくれない。

    (やめて。起こさないで。眠らせていて。誰なの? あなたは)

     呼び声は聞き覚えがある気がしたが、マナは思い出すのをやめた。思い出したくない。考えたくない。これ以上、何もかも。だって、カイムは死んだのだから。
     結局思考はそこに行き着き、マナは顔を覆った。心のなかで、幼子のように身を丸める。耳を覆う。思考を塞ぐ。考えたくない。思い出したくない。思い出したく、なかった。

     わからない。カイムがどうしてわたしを許してくれたのか。考えたくない。どうしてカイムがわたしに優しくしてくれたのか。知りたくない。わたしのしたことが、どれだけ彼を傷つけ、蝕んだのか。取り返しがつかない。償いようがない。だって、カイムは、死んでしまったのだから。
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    よーでる

    DOODLEどんどん敬語が剥げてますが語りじゃなく講義だからということで……
    あと大まかな国の特徴語ったらひとまず単発ネタ書き散らす作業に入れるかなぁ。
    ぶっちゃけお話の途中で世界観説明しようとすると毎回語りすぎたりアドリブで知らん設定出たりするのでその事前発散が狙い……
    巫術と法術について 今の世界の魔法は大きく分けて2種類あります。1つは精霊に語りかけて世界を変えてもらう魔法。王族が使っていたのがコレだね。
     精霊……王祖の末裔じゃなくても、精霊の声を聞きその力を借りれる人は増えています。それが龍王国衰退の遠因になったわけだけど、今はいいか。
     この方法は【巫術】と呼ばれています。長所は知識がなくても複雑な事象が起こせること。細かい演算は精霊任せにできるからね。代表的なのが治癒。肉体の状態や傷病の症状を把握するに越したことはないけど、してなくても力尽くで「健康な状態に戻す」ことができます。
     欠点は精霊を感知する素養がないと使えないこと。だから使い手は少ない。それと精霊の許しが出ない事象は起こせない。代表的なのが殺傷。自衛や狩りは認められてるけど、一方的で大規模な殺戮は巫術でやろうとしてもキャンセルされるし、最悪精霊と交感する資格を剥奪されます。
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    よーでる

    DOODLE公主は本来プリンセスという意味ですが、祭り歌では公国の代表という意味の言葉になってます。アデラさんは武闘家系ギャルです。
    ほんとは東西南北それぞれの話するやるつもりだったけど西と南はちょっとド鬱なのでまたの機会にします。子どもに無配慮に聞かせたら怒られるやつ……
    一通りの世界観の説明が終わったので、明日からはこの世界観で単発話を量産する予定です。
    公国の興り(2)凍てず熔けぬ鋼の銀嶺 道行く花に光を灯しながら、アデラティア公子一行は海に臨む丘にたどり着きました。丘に咲く白い菫を見渡して、公子は軽やかに宣言します。

    「ここにわたしたちの都を作りましょう」

     こうして光る菫の咲き誇る白き都コノラノスは作られました。号は公国。龍王国最後の公子が興した国です。
     公子は精霊の声を聴く神官を集め、神殿を築きました。血ではなく徳と信仰で精霊に耳を澄ませ、精霊の祈りを叶え、世に平穏をもたらし人心を守る組織です。
     国の運営は神殿の信任を受けた議会が行います。アデラは神殿の代表たる公主を名乗り、花龍ペスタリスノの光る花【霊菫(たますみれ)】を国に広めました。

     霊菫は花龍の息吹。花の光が照らす場所に魔物は近寄らず、死者の魂は慰められ、地に還ります。公国が花の国と呼ばれる由縁です。
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