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    よーでる

    推敲に超時間かかるタチなので即興文でストレス解消してます。
    友人とやってる一次創作もここで載せることにしました。

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    よーでる

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    3話始める前に舞台になる場所のディテールを詰めておいたほうが書きやすいので備忘録兼ねての小話。
    あと国の成り立ちや世界の仕組み的に方角で地域呼ぶのが違和感あったのでその辺の設定も決めました。

    ##龍のうたった祭り歌
    #龍のうたった祭り歌
    festivalSongsSungByDragons

    公国の地域と薄闇を灯す町について コノラノス公国は五つの州から成ります。

     東、豊かな森で知られる霊菫発祥の地、灯花(クエリ)州。
     南、肥沃な農耕地から公国全土を潤す大河の湧き出る、狐川(ポタミ)州。
     北、熔けず壊れぬ霊鋼を採掘し鍛える山岳地帯、雪鼠(パゴス)州。
     西、無限の海を見つめる無限に広がる島、亀海(テロス)州。
     そして四つの州をまとめる中央、海に臨む白き都、白央(オラノス)州。

     公国に根付いた四つの龍脈を起点に州を制定し、龍脈の交わる緩衝地帯を中央と定義して、要所に神殿を建てています。
     町と呼べるくらい人口の多いところには神殿を建てる決まりです。ほらこの世界、人が増えると魔物が出やすいのが死活問題なので。

     さて、灯花州の南のほうに、スコタギという小さな町がありました。
     山から水が湧き出て町を潤す住みよい場所ではあるのですが、山の麓のほうを狐川州の大河が流れているものですから。ええ、大地を沃野にする実龍の恵みの川です。ですからみんな、麓のほうへ行って、スコタギはいまいち寂れてた町でした。

     とはいえ、山の恵みが豊かな土地であることに変わりはありません。大河を船で行けば大きな町にも行けますし。ええ、田舎というほどでは。神殿もありますよ、もちろん。決まりですからね。
     でも、それが却って良くなかったのでしょうか。特筆するほど良くもなく、悪くもなく。町はどこか膿んでおりました。
     鬱蒼としげる森。ぽつぽつと咲く霊菫。決して恵まれぬ土地ではなかったのに。それが却ってダメだったのでしょうか。スコタギは災いを招いてしまいました。

     その人は、薄闇から光を見上げて目を細めるような顔をしていました。白い服は霧のよう。ひっそりとスコタギを訪れたその人を、町の人はどこか大きな町に行く途中の通りすがりだと思いました。
     ええ、そんな目で見ていたものですから。諦めたふうに、卑屈な気持ちで、羨むように見てしまったものですから。目をつけられたのでしょうね。その人に。

    「こんにちは、住み良い町の方。少しお願いがあるのですが」

    「なんでしょう、旅の方。こんなケチな町に御用などと」

    「いえいえ、この町にしかないものがあります。どうかそれをお貸しいただきたい」

     耳に心地よい言葉、心からこちらを称賛しているとわかる顔。町の人はすっかりその人に魅入られました。
     その人に頼まれて、町の人は旅人の荷物を預かることになりました。ええ、ここは通りすがりの町ですから。ちょっと荷物を預けるにはちょうどいい場所だったんです。
     ちょくちょくと旅人が訪れるようになって、スコタギは賑わうようになりました。ええ、大きな町と比べられるほどじゃないですが。でも、泊まってみれば食事は美味しいし、住み良いし。良いところじゃないかと褒めてくれたんですよ。嬉しいじゃありませんか。

     ええ、みんな、本当はわかっていましたよ。わかっていたんです。わかっていましたとも。そこまで愚かじゃありません。
     スコタギは通りすがりの町。特筆して良くもなく悪くもなく。つまりは神殿の目の届きにくい、見落とされやすい場所。そんな町に預ける荷なんて、ねぇ。
     わかっていたけれど、ほんの少しのつもりだったんです。でも、でもね。ええ、わかっていませんでした。すぐにほんの少しじゃ済まなくなること。後戻りできなくなることも。

     神殿があるんじゃないのかって? ありますとも。神官はどうしてるんだって? 言っていませんでしたか?
     その人です。白い人。暗がりから日向を見つめるような人。町の人を唆して、薄暗い荷を預ける商売を始めさせたその人が、新しくスコタギに赴任してきた神官さまです。

     すべての神官が心正しく在れるわけじゃありません。精霊は心を縛りません。人を罰しもしません。ただ……いえ、これは今度にしましょう。
     それに、神官さまに悪意があったとは……ええ、人は善意で災いを招けるんです。神官さまは心から仰いました。

    「この町の薄闇を私にお貸しください。きっと皆さんに光を灯してご覧に入れましょう」

     ええ、ええ、光が、光が灯っています。眩しい。痛いくらいに。わたしたちを照らしています。わたしたちの罪を。
     ゆるしてください。いいえ、罰してください。裁きこそが救いなのです。知らなかったじゃ済まされない。ああ、どうか。
     知らなかったのです。荷の中身がなんなのかなんて。それが何をもたらすのか。わたしたちはこれっぽっちも知らなかった。ただ甘い蜜を啜って、暗がりに甘えていただけ。

     どうか罰してください。ここはスコタギ。罪を隠した薄闇の町。
     取り立てて良くもなかったけれど、悪くもなかったはずの、今はもう光に怯えることしかできない、罪人の町。
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    よーでる

    PROGRESS完!! うおおお、十数年間ずっと頭の中にあったのでスッキリしたぁ。
    こういうカイムとマナが見たかったなー!!という妄執でした。あとどうしてカイムの最期解釈。
    またちょっと推敲してぷらいべったーにでもまとめます。
    罪の終わり、贖いの果て(7) 自分を呼ぶ声に揺すられ、マナはいっとき、目を覚ました。ほんのいっとき。
     すぐにまた目を閉ざして、うずくまる。だが呼ぶ声は絶えてくれない。求める声が離れてくれない。

    (やめて。起こさないで。眠らせていて。誰なの? あなたは)

     呼び声は聞き覚えがある気がしたが、マナは思い出すのをやめた。思い出したくない。考えたくない。これ以上、何もかも。だって、カイムは死んだのだから。
     結局思考はそこに行き着き、マナは顔を覆った。心のなかで、幼子のように身を丸める。耳を覆う。思考を塞ぐ。考えたくない。思い出したくない。思い出したく、なかった。

     わからない。カイムがどうしてわたしを許してくれたのか。考えたくない。どうしてカイムがわたしに優しくしてくれたのか。知りたくない。わたしのしたことが、どれだけ彼を傷つけ、蝕んだのか。取り返しがつかない。償いようがない。だって、カイムは、死んでしまったのだから。
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