シリィ・カーニバル3話「薄闇の町と毒舌笛吹き」01 宿の窓から聞こえる川のせせらぎを聞き流しながら、カイは新聞に視線を落としていた。
長身で秀麗な面差しのカイが椅子に腰掛け紙面に視線を落とす様子は、外でやれば無数の耳目を集めただろう。それで集中が乱れるほどやわではないが、煩わしいものは煩わしい。
めぼしいニュースがないのを確認して新聞を畳む。書店で買い求めた書を手に、久々の静かな読書に没頭しようとしたカイは、騒々しい足音にすぐページを閉じた。
「たっだいまー!」「ただいま~」
元気よく帰ってきたレクトとランに眉をしかめる。出会ってほんの数日だというのに、兄妹のような馴染みようだった。
「はいコレ、お土産。お昼ご飯まだでしょ? カイが好きそうだなって思って買ってきたんだ」
「らんちたーいむっ」
ランの掛け声で独りでにテーブルクロスがかかり、机の上にふたりが買ってきた昼食が並べられる。
一応は礼を言って、カイは包みを開いた。白身魚を炙って野菜と共にパンに挟んだ惣菜は、癪なことに確かにカイの好みだった。淡白な魚の味に炙ったソースの味が香ばしく絡み、新鮮な野菜が魚の脂を程よく和らげ食感に彩りを添えている。
ランの案内で着いた薄夜(スコタギ)町は、大神殿のある市街から徒歩だと離れているが、川船に乗れば一両日で行ける。そのぶん旅人が泊まるより通り過ぎるほうが多く、さりとて寂れているというほどでもない、田舎と言うには半端で平凡な町だった。
だからこそ、ランやレクトが騒ぎを起こしてもさほど大事にはならないと判断して、この町で応援を待つことにしたのだが。
(遅い)
こういった面倒事に打ってつけの術師から、一向に返事が来ない。神殿非公認の巫術師だが腕は最上級だ。タイミング悪く他の仕事の最中だとしても、いつもならとっくに終わらせている頃合いだが……
「あ、カイ。宿に手紙来てたよ」
「それを先に言え」
食事を終えた手を拭い、レクトから封筒を受け取る。未開封であることを示す封蝋を切り開いて文面を確認し、カイは舌打ちして立ち上がった。
「神殿に行ってくる。ランと宿で待っていろ」
「ぇっ午後は川べりで釣りに混ぜてもらうつもりだったんだけど……いえなんでもないです」
睨みつけるとレクトは大人しく畏まったが、この態度が長続きしないのもいい加減わかっていた。誤魔化しているつもりがないのがタチが悪い。
「……夕方には宿に帰れ。いいか。絶対に、ランから目を離すなよ」
嘆息して、カイは譲歩した。レクトが目を輝かせて頷く。
「うんっ! あ、ランの面倒見てくれるっていう神官さまが来てくれたの?」
都合の良いレクトの解釈は否定せず、カイは忌々しげに答えた。
「いや。その代理だ」